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逆カプと、紫の春
しおりを挟む天上天下唯我独尊。
私はこの世の何よりも尊い。だから、私の思い通りでなくては世間は回らない。
だって、パパもママも私の欲しい物はなんでも買ってくれるし、幼稚園の時にやった劇で私がお姫様役がしたいと言えばその通りになったし、小学生の時だって給食のデザートはみんな私にプレゼントしてくれた。中学生の時なんか、席替えで「あの席が良いな~」と呟いただけで、みんなその席を譲ってくれたもの。
私はきっと神様に愛されし存在で、この先も私が思ったことがこの世の全てになる。
最近、BLというものにハマった私だけれどカップリングだって左右は私の思いのままに!!
……とそう思っていたんだけど。
「はぁ?」
私が望んでいたものと左右逆の方が人気で王道カプだった。
いや、なんでだよ。
「唯花ちゃん」
亜生。私の幼なじみ、というか幼稚園時代から今に至る高校までの腐れ縁。友人というより私のお抱え召使いみたいなポジション?
小さい頃から私の後ろをついて回ってヘラヘラ笑っていてお人好しだけど、人見知りで気の弱い女の子。私が一緒にいてあげないとぼっちになってしまうから、彼女は私の言うことに対しては常にイエスマン。
「……え?」
そう思っていたはずなのに、私は亜生の持っていたスマホの画面がチラッと見えて絶句した。
そこに映っているのは逆カプじゃないか……え?亜生って逆カプだったの?敵じゃん。私、左右固定なんだけど。
「どうしたの?唯花ちゃん?」
亜生は不思議そうな顔をして私を見るけど、私の目線が自分のスマホにいっていることに気づくと、ハッとした顔になって急いでスマホを閉じた。
「……亜生のバカ」
私は気づけばそう言って、その場から走り出していた。
その日以来、亜生とは全くコミュケーションを取っていない。
だけど、亜生はどうしているのか気になって、休み時間にこっそり亜生のクラスの教室を少し覗いてみる。
私が隣にいなくても亜生は別に楽しそうだった。ニコニコしながらクラスメイトと話している。
その事実に私の心は、廊下の窓から見える真冬の空のように冷たい空気が通った。
逆カプの方が人気。
亜生は私がいなくても平気。
私がいなくたって世界は回るのかもしれない。
確信めいたそれは私の頭から離れなくて、もうダメになってしまいそうだった。
耐えきれなくなった私は体調不良だと偽って学校を早退した。
早退した私はブラブラと昼の街を歩いていた。
冬の冷たい風が私の体を攫うように吹く。
明日の気候は暖かくなると天気予報で言っていたけど、絶対嘘だ。
そうして歩いているうちに、ふといつも同人誌を買っている店が目についた。
こういう心が壊れそうな時は好きな物に癒されるべきだと聞いたことがある。私は今までストレスとは無縁の生活を送ってきたからよく分からないけど、なんかネットで誰かがそう言っていた。
うん、そうだ。私も推しカプに癒されにでも行こう。
私はその足を店へと向けていた。
推しカプの同人誌はほとんど無かった。その代わりと言わんばかりに逆カプの同人誌がどっさりと置いてあった。
それらを見ていると、嫌でも亜生と話さなくなったあの日を思い出す。
確かあの事件が起こる前は、亜生も私の推しカプが好きだと言っていた。そして、左右固定だとも言っていた。結局、全部嘘だったけれど。
亜生は逆カプ派。
目の前にあるのは亜生が好きなもの。
……。
亜生が好きだと言う逆カプはどんなものなんだろう。
私は無意識に同人誌の一つを手にしていた。
少しだけ、気になる。亜生の好きなものが。
地雷だとかそういうのは忘れて、私は手にした同人誌の会計を済ませると、店の外に置いてあるベンチへと腰掛けてその本を開いた。
読んだ感想は「やっぱり無理」だった。
うーん、このキャラが受けなのって、やっぱりどうかしてる。どっからどう見ても攻めになるべきだって。
でも、不思議と強い嫌悪感は無かった。それどころか、少しだけ胸が温かくなる。
これが、亜生の好きなものなんだ。
そう思えば、私はむしろこの逆カプでさえも愛おしく感じた。
「愛おしい」
亜生が逆カプが好きだと分かっただけで、なんでこんな感情が芽生えるのだろうか。
もしかしたら、私は亜生のことが好きだったのかもしれない。
思えば、共働きの両親に甘やかされ、いつも周りを振り回して困らせるワガママで孤独な私の傍にいてくれたのは、亜生だった。
私以外の人と話している亜生を見た時に感じたあの寂しさはきっと亜生のことが好きだったから。
まさか、逆カプを読んでこの気持ちに気づくとは夢にも思わなかったが、あんなに憎らしく思っていた逆カプが、今ではキラキラと輝いて見える。
恋をすれば世界が変わって見えると聞いたことがあったけど、こんな感覚なのかもしれない。
私は早足で帰路へついた。
「……亜生」
「唯花ちゃん……」
次の日、私は亜生の元に行った。
今は放課後で、教室には誰もいない。
あんなことがあったからか、亜生はどこか緊張した面持ちだった。
私の気持ちをちゃんと言わなくては。
「その……お、お前のこと……し、幸せにしてやるから……俺と一生解けない恋の連立方程式考えないか……?」
「え、えぇ?」
亜生は目を瞬かせて私を見ていた。
なんだ、その反応は。
わざわざ昨日買った逆カプの同人誌に載っていたセリフを言ってみたってのに。
「え、唯花ちゃん……大丈夫?頭打ったんじゃないの」
「はぁ!?なによ、その反応!!」
想像と全く違うことを言われ、私はつい大声を出してしまった。しかし、亜生はそんな私を見てクスクスと笑いはじめた。
「なぁに、どうしたの?」
亜生はそう言って、いつも私を安心させてくれる笑みを浮かべる。あんなことがあっても、笑ってくれるのか。
亜生の優しさに触れ、泣きそうになる心を抑えて声を出す。
「……同人誌」
「ん?」
「逆カプだけど、亜生の好きなカップリングの同人誌買ってみたの。やっぱり解釈違いだけど、亜生が好きなものだって思うと、なんかまだマシっていうか……」
「え?」
「……さっきのは買った同人誌に載ってたセリフ。ほら、そこの界隈では有名な絵描きさんが描いたやつ」
「もしかして、この前あったイベントの新刊だったかな……え、でもなんで急に?」
亜生の言葉に私の体は固まる。
とうとうその質問が来た。
もう、後には引けない。
「亜生が好きだから……!!寒いノリだとか思うかもだけど、亜生が好きなものなら、逆カプだろうが亜生と同じくらい愛おしいって意味を伝えたくて」
その場の勢いで今の気持ちを伝える。
どうしてだろう、今までの私だったら一つ返事で良い結果になると自信満々だっただろうに、亜生から返ってくる言葉が怖くて仕方ない。
しかし、当の本人である亜生は黙ったままだった。その表情は特に不快な様子でもなく、何かを考えているような表情をしていた。
「亜生……?」
「俺も……お前のこと愛してるから。お前のフェルマーの最終定理みたいな心に証明してやる」
「ん?」
急に理解不能な言葉を亜生は言い出す。
しかし、亜生の顔はニヤニヤしていて、その表情がさらに私の頭を混乱させる。
「ふふ、なにその顔」
「……え?」
「このセリフね、唯花ちゃんの推しカプの同人誌にあるセリフ。唯花ちゃんお気に入りの絵描きさんが出したやつ」
そういえばお気に入りの同人誌にそんなセリフがあったような気がする。
「あのね、確かに私は本当は唯花ちゃんとは逆カプだし、本来だったら左右固定なの。でもね、それでも嘘をついていたのは、唯花ちゃんのことが好きだったから。唯花ちゃんの好きなものだったら、私も好き。それが例え逆カプでもね」
花のようにそう微笑む亜生に、私は抱きつく。
「ごめんね、逆だったのに嘘ついて。あの日からずっと謝ろうと思っていたんだけど、怖くてなかなか言い出せなくて……でも、唯花ちゃんが怒っていなくて、また私に話しかけてくれて安心した」
「ううん、私の方こそごめん。苦しかったよね」
「唯花ちゃんが人のこと気遣うの珍しいね。どうしたの?」
「んーなんでだろうね!」
クスリと笑う亜生が愛おしくて、私もつられて笑う。
紫草の花がそこにあるだけで武蔵野の草も愛おしく思えるように、亜生が好きだからという理由だけで地雷だった逆カプも愛おしく思える。
恋ってまるで魔法のようだ。寒かった冬のような心が春のようにあたたかい。
そういえば、明日から気候が春のように暖かくなると天気予報で言っていた気がする。
やっぱり私がいなきゃ世間は回らないんだ。
きっと、明日は紫色をした春が来るんだろう。
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