フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター帰省編①> ~ジーナのバイトとスイーツと~

第八話:ジーナさん、バイトする

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抹茶まっちゃチョコもち、こだわり卵の生どら焼き、安納芋あんのういものひとくち羊羹ようかん……』
 
 元の世界に戻ってきた俺は、女騎士ナイトエリカに手渡されたお菓子リストを見直す。
 彼女の好みが和スイーツなのに気づいた。

「コンビニで新作の和スイーツを見かけたら、お土産に買っていくかな。クールなエリカが喜ぶ顔を見てみたい」
「リューキさま、なにかおっしゃいましたー?」
「い、いや、なんでもない」

 俺の横では、ジーナ・ワーグナーが鼻歌を歌いながら街を歩いている。
 ジーナにばれないよう、俺はお菓子リストをリュックにしまう。
 半月ぶりに元の世界に里帰りした俺は、彼女と同じくらいうわついていたようだ。

「リューキさまっ! あそこ! 新しいお店がオープンしてます!」
「『パミマ』か。最近この街にも進出してきたコンビニチェーンだ。スイーツが充実してるって話だよ」
「そうなんですか! 寄っていきましょー!」
「ダメだ! ローンの支払いが先だ。さっさといくぞ!」

 ジーナは俺のあとを渋々ついて来る。
 目を離すと姿をくらましそうで怖い。
 彼女の身体からだにGPSでも取り付けたいくらいだ。
  
 朝九時の開店と同時に不動産屋に入る。
 出迎えてくれたのは、前にも会ったことのある、いかにもベテランぽい感じのお姉さんだった。

「いらっしゃいませ! あら? お客さまは確か……ドラゴンさん?」

 お姉さんは俺の顔は覚えていたが、名前を正確には思い出せなかった。

 てか、忘れるならきれいさっぱり忘れてほしい。
 微妙な感じに記憶されても困る。

「不動産屋さん、違いますわ! リューキさまは『ドラゴン・ライダー』です!」
「思い出した! 『りゅう』に『る』と書いて『竜騎りゅうき』さん。ファンタジックで素敵な名前の方ね」

 とってつけたように素敵と言われても嬉しくない。
 それでもジーナは、お姉さんの褒め言葉を我が事のように喜んだ。
 なにが嬉しいのか、俺には理解できない。

「今日はどんなご用ですか? 売買契約を交わされたおふたりが一緒ということは、もしかして契約を取り消されるのですか?」
「違います!! リューキさまはローンの支払いにきたんです。これから十年間毎月支払いにきますので、よろしくお願い致します!」

 ジーナ・ワーグナーが売買契約取り消しを強く否定する。
 ついでに、十年間ずっとやってくると断言する。
 ジーナの場合、ローンの支払いより、この世界に遊びにきたいだけだろうが。

 ベテラン店員のお姉さんは、何事もなかったかのように話を進める。

「失礼しました。お支払いは、一万……Gゴールドですね」
「そうですけど、ここで払っても大丈夫なんですか?」
「ええ、どうぞ」

 俺は収納袋から金貨一万枚を取り出す。
 突如出現した金貨の山を見ても、不動産屋のお姉さんの顔色は変わらない。
 お姉さんは黙々と金貨の山を台車で運び、金庫にしまう。

 マジか? 大量の金貨を見ても平気なのか?

「こう見えても弊社は世界中に支社があります。どんな通貨でも取り扱います」
「金貨ですよ? Gゴールドですよ? そんな通貨単位、聞いたことありますか?」
「ありません。ですが、契約書通りなので問題ないです」

 不動産屋のお姉さんが言い切る。
 すべてにおいてプロフェッショナルな態度。
 頼もしくすらある。

「支払い、おわったー。リューキさま。わたしはバイトにいきますね!」

 もうここに用はないとばかりに、ジーナが言う。
 彼女の腰は半分以上浮いている。

「バイト先まで送るよ。どこだ?」
「駅裏の短期バイト斡旋所です。ティッシュやチラシを受取って駅前で配りまくります。夜まで働けばバイト代をもらえます。それで、お菓子を買いまくりです!」

 駅裏にある短期バイト専門の斡旋所。
 俺は利用したことはないが、話だけは聞いたことがある。
 それにしても、ジーナは現役の領主ロードの頃からバイトをしてたのか。
 身分を隠して庶民の苦労を知るという美談、なわけないか。
 物欲を満たすための労働。
 ちゃんと働くだけマシか。

 十分ほど歩き、目的地に着く。
 ピンクな広告に混ざった、ティッシュ配りの求人募集票を見つける。

「あったー。ふむふむ、お昼から夜八時まで働いて一万円。これにします。リューキさまも一緒にどうですか?」
「いや、俺はいい。急に半月も姿を消しちゃったから、色々とやることがあるんだ。遅くとも夜九時には迎えに来るから、駅前のベンチで待っててくれ」
「わっかりましたー。またあとでー!」

 ジーナが意気揚々とバイト斡旋所の受付に向かう。
 俺は不安な気持ちで見送る。

 ジーナをひとりにして大丈夫だろうか? 
 まあ、バイトは手慣れたもんらしいし、駅前なら人目も多いから問題は起きないだろう……たぶん。
 ただ、相手はジーナだ。
 なにをするか分からん。
 なにかあったら女騎士ナイトエリカに俺が殺される。
 せっかく仲良くなりかけてるのに……

 いやいや、俺はエリカに下心を持っているわけではない。
 ただ単に、無事平穏な生活を送りたいだけだ!

「ジーナ! 約束だぞ! ベンチから絶対に動くなよ!」
「わっかりましたー!」

 返事は素直で元気も良い。
 あとは実践じっせんが伴うことを祈ろう。

◇◇◇
 
 駅前のキャッシュコーナー。
 ATMで通帳残高を確認する。
 俺は異世界に半月あまりいた。
 そのかん、日本円は使っていない。
 先月の給料は手つかず。
 間違いなく、俺史上最高の預金残高を更新しているはずだ。

 『残高:二万三千二十円』

 思わず記帳を繰り返すが、空振りに終わる。

 ホワッツなに? いや、ホワイなぜ

 通帳の金額は俺の記憶にある残高と変わっていない。
 馬鹿な! 
 クビになったとはいえ、先月は丸々働いた。
 十万ちょっとは入ったはずだ!

 通帳履歴に引き落とされた形跡はない。
 ネットカフェ住まいの俺は、電気代ガス代水道代を払わない。
 国営放送のN〇Kにえんはなく、スマホはとっくの昔に解約された。

 そう、原因ははっきりしている。
 そもそも入金されていないのだ。

 とりあえず全額引き下ろす。
 銀行を出て、俺は走る。
 元の職場に向かって全力疾走。 
 半月前まで働いていたのは赤字続きの三流電機メーカーの工場。
 いくらブラックな会社だからといって、給料未払いはひどすぎる。

 工場の門は閉まっていた。
 門だけでなく、正真正銘の完全閉鎖。
 そう、倒産だ。
 クビになったのは俺ひとりではなかった。
 失職クビ仲間は増えたが、うれしくもなんともない。 

 門に張られた張り紙を読む。
 倒産したのはこの会社だけではない。
 親会社を含め、系列会社も軒並みつぶれている。
 俺に親身にしてくれた人事課の竹本さんはどうなったやら? 
 他人の心配をする余裕はないが、ふと頭髪の薄い竹本のオッサンを思い出す。

 張り紙には、管財人やら弁護士やらの連絡先が書いてある。
 俺には関係なさそう。
 十万ちょっとの未払い給与のために手間と時間がどれだけかかるか分からない。
 悔しいが泣き寝入りだ。

 途方に暮れて、とぼとぼ歩く。
 駅前を通ると、ジーナがティッシュを配っていた。
 俺の姿を見て、嬉しそうに手をふる。
 ついでにティッシュをひとつくれる。
 俺は乾いた声で、ありがとうと言う。

 無意識のうち、寝泊まりしていたネットカフェに着く。
 そういえば、着替えやら何やらを置きっぱなしにしていたのを思い出す。

 ネットカフェの店長さんに声をかける。 
 置いて行った荷物はほとんど盗られたと聞かされる。
 俺が勤めていた会社が倒産したあと、ネットカフェで盗難騒ぎがあったという。
 畜生ちくしょう! 
 かろうじて残っていたのは俺の着替えだけ。
 まあ、転売しようもないからね。
 おかげで俺の全財産は、いま着ている服と背中のリュックと着替えの入ったビニール袋だけになってしまった。

 シンプル・イズ・ベストとは、いつでもモノが手に入るヒトが言う戯言ざれごとと思う。
 俺にはそんな名言は、これっぽっちも正しいとは思えない。

 店長さんがネットカフェの無料券をくれる。
 せめてものびだという。
 ネットカフェに寝泊まりすることは当分なさそうと思いつつも、貧乏症の俺はとりあえず受け取る。
 ひと休みしたらという好意に甘え、空いている区画スペースでひと寝入りする。
 目覚ましタイマーは三十分でセット。

「雨でびしょびしょだあ!」とグチる客の声に目覚める。
 時計を見ると夜の十時過ぎだった。
 マジか! 
 よく見ると目覚ましタイマーは壊れていた。
 俺は住み慣れた居心地良い場所で熟睡してしまったようだ。
 荷物をかき集め、ネットカフェを出る。
 土砂降りの中、駅に向かって走る。

 駅の構内にジーナはいない。
 見える範囲にスーツ姿の小柄な金髪さんは存在しない。
 雨の中、駅前を探して回る。
 ベンチのひとつ、寂しげにともる電灯の下。
 横から傘を差し出すオッサンを従え、ジーナがベンチに座っていた。

「遅いですよー。待ちくたびれましたーっ、クショイ!」
 
 ジーナ・ワーグナーがフラフラと立ち上がる。
 春とはいえ、長い間雨に打たれて、身体からだはすっかり冷え切っているようだ。  

「ジーナ! なんでここにいる? ずぶぬれじゃないか!」
「だってー、ベンチで待つって約束したもーんっ、クショイ!!」

 自分のクシャミの勢いに負けたかのように、ジーナが後ろ向きに倒れる。
 俺はあわててジーナを抱える。

「だから言わんこっちゃない。風邪をひいちゃったじゃないか。君はジーナちゃんの彼氏かい? 狭くて汚いけど、私のアパートはこの近くだ。とりあえずそこに移動しよう」

 ジーナに傘をさしてくれていたオッサンがお節介を焼く。
 正直ありがたい。
 見知らぬ親切なオッサンの好意に甘えようと思い、俺はお礼を言おうとする。

「あれ? 竹本さん?」
「きみは、辰巳たつみ君じゃないか! 行方不明だと聞いてたのに……いや、いまはジーナちゃんだ。辰巳君、彼女を急いで運びなさい!」

 ジーナに親切にしてくれていたオッサンは、人事課にいた竹本さんだった。
 どうやって竹本さんがジーナと知り合ったかは分からないが、まずは彼女を何とかしなきゃと思った。
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