フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター隠密行編> ~ 女騎士エリカ 大剣を振るう~

第二十八話:フリーター、恋路の邪魔をされる?

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女騎士ナイトエリカ・ヤンセン。捕虜のビタを解放してやってくれ」
我が領主マイ・ロード。承知しました」

 エリカが大剣を抜く。
 簀巻すまき状態で横たわるビタ・ダゴダネルに近づき、ぶんと大剣を振るう。

 身を束縛そくばくしていた縄が解かれ、捕虜のビタは自由となる。
 でっぷりとした巨体には傷ひとつない。
 女騎士ナイトエリカの剣技をあらためて目の当たりにし、ビタ本人ばかりか、脇で見ていたゴブリン・ロードのジーグフリードも息をのむ。

「……礼は言わねえぜ」
「そんなもん、はなから期待してない。だが、もしお前がまたゴブリン族に悪さをしたら……」
「ワーグナーの領主ロードよ、そっちは俺様を信用してもらうしかない……じゃあな」

 くるりと向きをかえ、ビタ・ダゴダネルが駆け出す。
 身長が三メートル近い巨漢の大鬼ホブゴブリンは草原を抜け、森の中に消えていく。

 これからどこへ向かうかを、俺はあえて尋ねなかった。

我が領主マイ・ロード。本当にこれで良かったのでしょうか?」
女騎士ナイトエリカ。なにが正解かなんて、あとにならないと分からないよ……ていうか、エリカに我が領主マイ・ロードって呼ばれるのは久しぶりだな。なんだかくすぐったいよ」
「え? そうですか?」
「エリカ様と下僕しもべのマイロの関係が板についてきたせいかな? でも、そろそろ元の関係にもどりましょうかね! エリカ様!」
「違います! こっちの方が仮の姿です……マイロ」

 ワーグナーの外交団の正使、エリカ・ヤンセンが反論する。
 おさない子どもがするようにふくらませたほほがピンク色に染まる。
 実に愛らしい。
 クールな女騎士ナイト面影おもかげはどこへ行ったのやら。

 ふむ、最近のエリカは程良ほどよくくだけた感じだ。
 顔をあわせるたびに笑顔を見せてもくれる。
 ええ、とても良い傾向ですね。
 エリカ様と下僕しもべのマイロの身分違いの恋は、順調に進展しています。
 マイロはそんなことを軽く妄想した。

「そういえばエリカ様の乗馬は天馬ペガサスなんですね! 俺も一度乗せてください」
「あの子の……シルヴァーナの気分次第です」
「シルヴァーナ? それが天馬ペガサスの名前ですか。ところで、天馬ペガサスはどこで見つけたんですか?」
守護龍ドラゴンヴァスケル様がとらえた獲物のなかにまぎれてたんです。幸い怪我もなく失神してただけなので、すぐ元気になりました。というより、私が偶然通りかからなければ、危うくゴブリンたちに食べられるとこでしたが」

 おう、なんてった。
 ゴブリンは天馬ペガサスも食べようとしたのか?
 食欲旺盛にしても限度があるだろう。
 天馬ペガサスは食用にしてはいけない生き物だと思うな。

 ジーグフリードと別れ、俺はエリカのあとをついて歩く。
 五分もたたないうちに、天馬ペガサスシルヴァーナの姿が草原の中に見えてくる。

 俺の下僕しもべ仲間、本職は宿屋の亭主のミイロが天馬ペガサスの世話をしている。

 白く美しい毛並みをブラッシングされ、シルヴァーナは気持ち良さそう。

「マイロさん。もう、話は終わっただか?」
「終わったよ。なあ、ミイロ。俺も天馬ペガサスさわらせてくれよ」
「マイロさんは馬の世話をしたことあるが? 蹴飛けとばされんよう気いつけなよ」

 ミイロが俺に注意をうながす。
 もっともな忠告だ。
 そういえば、俺も昔、乗馬クラブでバイトをしたことがある。
 いちど、気性の荒いサラブレットに蹴飛ばされかけた。
 ただ、そういうヤンチャな馬は誰に対しても乱暴だった。 
 その点、シルヴァーナはエリカに従順だし、世話をするミイロにもちょっかいを出さない。
 たぶん大丈夫だろう。

「よーし、よしよし……」

 TVで見たム〇ゴロウさんのように声をかけながら、俺はシルヴァーナに近づく。
 俺のなかのイメージと異なり、天馬ペガサスに翼は生えていない。
 どうやって空を飛ぶかなんて理屈は考えない。
 翼がないほうが乗りやすそうなのでむしろ好都合。
 こう見えても俺は乗り物酔いしやすい性質たちなのだ。

「おお、お前はなんと美しい天馬ペガサスなんだ! 俺を背中に乗せてくれないか?」

 俺はシルヴァーナに熱く語りかける。
 天馬ペガサスは嫌がる素振りを見せない。
 いや、単に無視されただけか。

 赤兎馬せきとばと出会った呂布りょふのごとく、松風まつかぜを見つけた前田まえだ慶次郎けいじろうのように、俺は大興奮した。

 怒るかな? 
 いいよな? 乗って良いよな?

 心のなかでつぶやく。

 俺はシルヴァーナの背中に手をかけ、思い切って飛び乗ろうとした。

 ガブリっ!

 うん、ダメでした。
 てか、いてえよ。

 俺の右腕はひじまでシルヴァーナに噛みつかれた。 
 天馬ペガサスは草食なのか、腕をごっくんされなかったのがせめてもの救いだ。
 それでも、メチャメチャ痛い。

「こらこら、シルヴァーナちゃん。イタズラしたらダメですよっ」

 エリカが天馬ペガサスを叱る。
 ただし、幼児おさなごを形ばかりにたしなめるような、ダメダメな叱り方だった。

 あのー、エリカさん? 
 領主ロードを守護する女騎士ナイトの役目はどうなりましたか?

「リュー……マイロ。残念ですが、この子は私しか乗せたくないみたいです!」
 
 エリカがシルヴァーナの背中を優しくなでながら言う。
 むうっ……残念だが、あきらめよう。

 シルヴァーナは目を細め、主人であるエリカの顔に鼻面はなづらを寄せて、スリスリとこすり付ける。
 エリカは嫌がるそぶりを見せない。
 むしろ喜んでいる。

 愛馬とたわむれる女騎士ナイトの姿に、俺の心はざわつく。


……なんだろう、このせつない気持ち。すごく胸が苦しい。いや待て、どこに問題がある? キレイな女の子が動物をかわいがっているだけじゃないか。ほのぼのした気持ちになりこそすれ、嫉妬ジェラシーを感じるなどおかしな話。俺はどんだけっちぇえ男なんだ。くっ、俺ってやつは……違う!? そうじゃない! 俺の直感は正しい。あれを見ろ! 天馬ペガサスシルヴァーナの勝ちほこるような目を! 俺を見下しさげす眼差まなざしを! 「ふん、キサマはそこで指でもくわえて見てな」的な態度を! いや、そう受け取るのは被害妄想すぎるか? いやいや、そんなことはない。シルヴァーナはエリカ様の美しい顔をめはじめたではないか。エリカ様は「きゃっきゃっ、もう、くすぐったいわね」なんて言いながらはしゃぐが、シルヴァーナの目は笑ってない。天馬ペガサスの真黒い目は俺を凝視ぎょうししている。「どうだ、うらやましいか? 俺たちはこんなにも仲良しなんだぜ」と、その目が語っている。畜生ガッデム! おっと、久々に出たな。しかもこんな状況シチュエーションかよ。余計よけいに腹が立つ。くそっ! 俺だってまだめたことないのに。違う! それでは変態だ。そうとも、いい年した大人おとな人前ひとまえで女の子の顔をめません。ふっ、天馬ペガサスなんていっても、しょせんケダモノだな。俺はちっともうらやましくない! ほ、本当だよ。まったく、天馬ペガサスはどこまで調子に乗るのやら……


「もうっ、シルヴァーナちゃんたら! 甘えん坊なんだから!」

 女騎士ナイトエリカが天馬ペガサスから身体からだを離す。
 満面笑みのまま、大剣を抜く。
 続いて、シュッと空気を裂く音が聞こえた。
 俺には太刀筋がまったく見えなかった。

 シルヴァーナに視線を戻す。
 一瞬、違う白馬がいるのかと思った。
 適度に乱れてワイルド系だったたてがみは短く刈りそろえられ、野球少年の頭のようになっていた。

「やっぱり! ますます格好かっこ良くなったわ」

 大剣をさやに収めながら、エリカが胸を張る。
 俺にはエリカの美的センスが分からない。
 主人の剣技に驚いたのか、シルヴァーナは硬直していた。

 まあ、無理もないだろう。

「エリカさま! たてがみは切っちゃなんねえです! 天馬ペガサスちゅうもんたでがみの見事さを競うんだでな」
「そうなの!? ごめんなさい。私、実は馬を飼ったことなくて、何も知らないの……」
「ま、いいだあ。天馬ペガサスは怒ってねえ。次から気いつければいいだ」

 天馬ペガサスの世話係のミイロがエリカに意見する。
 エリカは素直に反省する。

 なるほど。
 エリカは女騎士ナイトだけど、馬を持つのははじめてだったんだ。
 じゃあ、仕方ないね。
 いずれにしても、涙目の天馬ペガサスシルヴァーナはこれでエリカに絶対服従さ。
 うんうん、なんだか急に親近感がわいてきた。
 まあ、そういうことで、ここはひとつ俺を背中に乗せてくれないかな……

 ガブリっ!

 うん、ダメでした。
 てか、すっげえいてえよ。

 俺の左腕は肘までシルヴァーナに噛みつかれた。
 さっきは右腕だったから、左右バランス良いね。
 いや、だからといって嬉しくもなんともないけどさ。
  
「シルヴァーナちゃん? さっきも注意しましたけど、ひとを噛んだらダメです」

 エリカが天馬ペガサスを叱る。
 最初に叱ったときより少しだけ強い口調。
 野生のカンか。
 主人が天使から戦士に変貌へんぼうしつつあることに気づいたようだ。
 シルヴァーナはあわてて俺を解放する。

「マイロ。ごめんなさい、私の天馬ペガサスはまだヒトに慣れてなくて」
「エリカ様。気にしないでください。なんとなく、シルヴァーナの気持ちがわかりましたから」

 俺の言葉に、エリカはきょとんとする。
 彼女の気持ちを置き去りにしたまま、俺は天馬ペガサスに目を向ける。
 天馬ペガサスも俺を見返してくる。エリカが俺に優しいのが気に入らないようだ。
 漫画やアニメなら、俺とシルヴァーナの間でバチバチっと火花が飛んだだろう。
 
 そう。こいつシルヴァーナは俺の恋路のお邪魔虫になりそうだ。
 まったく想定外の伏兵があらわれたものだ。

 天馬ペガサスシルヴァーナにしてみれば、女騎士ナイトエリカ・ヤンセンは生命いのちの恩人。
 ゴブリンに食われかけたところを救ってくれた救世主。
 しかも、エリカはなかなかの美人さんだ。
 だからシルヴァーナもれちまったんだろうな。
 うんうん、その気持ち、わかるよ。
 俺の勝手なイメージだけど、天馬ペガサスってキレイなお姉さんに弱そうだしね。
 なんだ、俺と一緒じゃん。
 助けてくれたのがオッサンだったら、ここまで懐かなかっただろうな。
 なんだ、やっぱ俺と同じじゃん。

 さてさて、ここにきてヤキモチ焼きの天馬ペガサスが登場した。
 まったく。頼りになりそうだが、面倒めんどくさそうな相手がやってきたものだ。
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