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<フリーター籠城編> ~神紙の使い手 エル姫登場~
第五十話:フリーター、帰城する
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ダゴダネル城は焼け落ちた。
その二日後。
ジーグフリードが疲れ果てた様子で姿を見せる。
「領主リューキ殿。ダゴダネルの逃亡兵はあらかた討ち取りましたが、ブブナは取り逃がしてしまいました。申し訳ございません」
ゴブリン・ロードのジーグフリードが首を垂れる。
志願して淫魔ブブナを追撃したものの、身柄の捕捉に失敗。
甘んじて罰を受けるのだという。
愚直で武骨な態度が好ましい。
いかにも武人だ。
「ジーグフリード、なぜ謝る? お前ははるばるダゴダネル城まで救援に来てくれた。俺の命に従い、住民を火災から救出してくれた。追撃戦も大戦果といっていい。むしろ褒美をねだってくれないと俺の方が困るくらいだ」
「そんな……もったいないお言葉です」
「ブブナを取り逃がしたのは残念だが、また機会は来る。そのときは頼むぞ」
「はっ! お任せください」
再度、ジーグフリードが頭を下げる。
うむ。宣言したからには、功労者への褒美を考えないといけないな。
ボブゴブリンのビタ・ダゴダネルも姿をあらわす。
ジーグフリードの潔さを見たせいか、ビタも意を決したように頭を下げる。
「リューキ殿。大口を叩いておきながら……面目ない」
傲岸不遜なはずのビタも、相当打ちひしがれた様子。
空元気も出せないようだ。
「ビタ殿、頭を上げてください。俺はダゴダネル家の新しい当主ビタ殿と交渉を行いたい。時間を頂けないだろうか? お疲れであれば、後日にしますが?」
「な!? 疲れてなんかいねえ! いますぐにでも話ができる!」
「ならば、戦争の終結に向けて話し合いをしましょう。まずは……」
俺はビタ・ダゴダネルと丸一日かけて話しあう。
禍根が残るような過酷な要求はしない。
もっとも、どんな条件で決着しても文句を言うやつはいる。
言いたい奴には言わせておけ。
少なくとも、俺は最良と考える選択をしたまでだ。
そう。長い目で見て最善と思える協定を結んだのだ。
<ワーグナー・ダゴダネル 停戦協定>
1.ワーグナー家とダゴダネル家(以下、「両家」)は即時停戦する。
2.両家は友好を深め、早期に平和協定を結ぶ。
3.両家は軍事協定の締結に向けて協議をはじめる。
4.ワーグナー家は、ダゴダネル家に賠償金を要求しない。
5.ダゴダネル家は、ダゴダネル城跡地及び近隣一帯をワーグナー家に割譲する。
なお、割譲する領地内の住民及びその財産も含む。
ただし、ワーグナーの支配を望まない者には領外退去を認める。
6.ダゴダネル家は西方都市ボゾフを新首都と定める。
1の「即時停戦」は説明不要だろう。
ダゴダネルに戦意は残っていない。
むしろ報復を恐れているよう。
形だけかもしれないが、俺は安心感を与えたかっただけだ。
2の「平和協定」も説明はいいだろう。
ワーグナーとダゴダネルは十分戦った。
ここらで矛をおさめないと、キリがない。
これも形だけかもしれないが、領主としての意思表示。
3の「軍事協定」は、実はジーグフリードのアイデア。
いままでゴブリン族はホブゴブリンに奴隷のように扱われていた。
不幸な関係は今回の戦勝でいちおう解決された。
だからといって、逆にゴブリン族がホブゴブリンを隷属させることが可能かというと……それはそれで難しい話。
であれば、対応な関係を構築してはどうかとジーグフリードが思いついた。
ハードルは高いだが、なかなか面白い試み。
いずれにしろ、淫魔ブブナを共通の敵とするのは間違いない。
両種族がいきなり仲良くなれなくても、手をつなぐ努力をしても悪くはない。
4の「賠償金なし」は、新生ダゴダネル家に支払い能力がなく、賠償金の要求自体が無理だからだ。
首都だったダゴダネルの街の大半は焼失した。
そのうえ、奴隷のように扱っていたゴブリン族を解放した。
ダゴダネル家の経済状態は破たんしたも同然。
言い換えれば、無理な賠償金要求は、再度の戦争勃発に繋がると判断したのだ。
むしろ、5の「領地割譲」が賠償金代わり。
ローグ山周辺の痩せた土地に比べて、旧ダゴダネル城近辺は土地が肥えている。
当然、作物の収穫は大いに期待できる。
俺はこの地を発展させて、ワーグナーを飛躍させたいと考えた。
もちろん、ホブゴブリンに奴隷扱いされていたゴブリン族は自由の身だ。
残るも去るも好きにさせるが、ほとんどのゴブリン族は残ってくれるだろう。
逆に、街に住んでいたボブゴブリンは去ると思う。
俺も無理に引き留めるつもりはない。
ちなみに街の名前は「ダゴダネル」から「ホプラン」に変更した。
「再生」を意味する言葉らしい。
これから生まれ変わる街の名前として、悪くないと思う。
俺とビタはそんな条件で大筋合意した。
正直、ビタやジーグフリードの態度を見る限り、俺は甘いのかもしれない。
けど、この先もずっと戦を続けるよりはマシだと思う。
◇◇◇
ビタ・ダゴダネルが退席する。
入れ替わるように、女騎士エリカ・ヤンセンが近づいてくる。
「我が領主。ローン返済の期日が近づいていると思いますが、お忘れではないですよね?」
「ん? そういえばそうか。ブブナとの戦に時間を取られすぎたな。えと、計算では……あと二日?」
「なんてこと!? 戦の後始末はジーグフリード殿と私で行います。リューキ殿は急いでワーグナー城にお戻りください!」
「そ、そうだな。じゃあ、ヴァスケル。ワーグナー城までひとっ飛びしてくれ!」
「なんだい!? あたいはワーグナー城にとんぼ返りしなきゃいけないのかい!」
「とんぼ返り? 姿が見えないと思ったら、ヴァスケルはワーグナー城に行ってたんだ。すまん、疲れてるとこ悪いけど……」
「領主リューキ殿。街から焼け出された避難民から陳情がありました。食料を分けてほしいとのことです」
「ジーグフリード。俺は急用を思い出した。避難民の世話はすべてお前に任せるから……」
「リューキよ。ワーグナー城に行くのか?」
「そうだ。悪いけど、エルはここで待ってて……」
「わらわも行くのじゃ! 従妹のジーナに会いたいのじゃ!!」
「はあ!? ジーナの従妹だって!? リューキ! どういうことだい?」
「ヴァスケルには言ってなかったか? エルメンルート・ホラント姫の祖父は、実は先々代のワーグナー領主のランベルト・ワーグナー卿で……」
「なんだって!? 姫さんには悪いけど、こんなのっぺりした顔がワーグナーの血縁なわけないだろ?」
「なんてことを言うのじゃ! わらわはジーナ・ワーグナーそっくりじゃぞ! 領主リューキと女騎士エリカも公認なのじゃ!」
「領主リューキ殿! 私は……」「リューキ。あたい……」「我が領主、私は……」「リューキ! わらわは……」
ふっ、俺もすっかり人気者だな。
身体がいくつあっても足りない。
てか、ローンの支払いが最優先です。
ほかのことは、みんなで手分けして片付けようじゃないか。
「ジーグフリード! お前には避難民の救済と焼失した城や街の整理を任せる。あと、ビタ・ダゴダネルが何か頼みごとをしてきたら聞いてやれ!」
「領主リューキ殿、承知致しました! 必ずやご期待に応えます」
「女騎士エリカ・ヤンセン! ジーグフリードが判断に迷ったら相談に乗ってやれ! お前の決断を俺は尊重する。いや、俺が戻るまでの間、お前に全権を委任をする。任せたぞ!」
「我が領主……過分なお言葉です。このエリカ・ヤンセン、身は離れていても、心はいつも傍におります」
「ヴァスケル! 俺を乗せてワーグナー城まで飛べ! 急ぐぞ!」
「まったく……守護龍使いの荒い領主だねえ」
「なんだ、不満でもあるのか?」
「行くよ! 飛べばいいんだろ、飛べば!!」
「エル、お前は……」
「わらわもワーグナー城まで連れて行って欲しいのじゃ! 従妹のジーナに会いたい。それに、ブブナの話が本当なら、わらわは皇帝に生命を狙われておるのじゃ! こんなとこ、いたくないのじゃ!!」
「わかった。俺と一緒にワーグナー城まで来い!」
「嬉しいのじゃ! 感謝するのじゃ!」
居並ぶ面々に、ひと通り指示をする。
てか、ジーグフリードの負担が大きいのにあらためて気づく。
デキる男には仕事が集まるものだ。
うん、君ならやれる!
俺が戻ってくるまで、頑張ってくれたまえ!
本営テントから外に出る。
遠巻きに俺たちを眺めるゴブリンたちのなかに、よく知る顔を見つける。
ミイロ、ムイロ、メイロ、モイロの四人。
白磁の塔でブブナ相手に共に戦った仲間。
平均的なゴブリン族とくらべて小柄で、俺と背格好が似ている。
誰がなんと言おうと、顔は似てないけどな!
その四人が、おずおずと俺のそばにやって来る。
役目を終えた彼らは、オーデル村に帰る前に挨拶に来てくれたようだ。
「ミイロ、ムイロ、メイロ、モイロ……お前たちにはどれだけ感謝しても足りないくらいだ! 落ち着いたらワーグナー城に遊びに来てくれ。ハラいっぱいメシを食わせてやるよ」
「我が領主。おで、楽しかっただ。また、一緒に旅をしたいだあ!」
「はは……ミイロ、次はもうちょっとノンビリした旅がいいな。いつか、お前の宿屋に泊めてもらいに行くよ! 母ちゃんや息子のミヒャエルによろしくな!」
俺はミイロと握手をする。
旅人を迎える宿屋の亭主らしい、温かい手だった。
「おで、我が領主のおかげで命拾いしただ。この恩は一生忘れねえだあ」
「ムイロ、なにを言うんだ! 助けてもらったのはこっちの方さ。また今度、ド派手な狼煙玉をあげて見せてくれ! てか、夜に見たいな!」
火煙師ムイロが照れたような笑顔を浮かべる。
握手したあとの手は、少し火薬の臭いがした。
物騒なはずの香りが、今日の俺は嫌ではなかった。
「我が領主。おで、あんま役に立たんかったけど、おでのこと忘れねでくでだあ」
「メイロ、そんなことない! お前が黄金弾を作ってくれなかったら、俺たち全員、あの世行きだったさ。大ケガをしたムイロを助け出してくれたのもお前だし、ある意味お前がMVPだ!」
「えもべーぴー?」
「いや、M・V・Pだ。要するに、メイロは大活躍したってことさ!」
「そっかあ! おで、えもべろぴんがあ! おで、すごいんだあ!」
鉱夫のメイロが、にかりと笑う。
戦で失ったのか、前歯が三本欠けていた。
ともすれば間抜けな感じのメイロの笑顔が、不思議と輝いて見えた。
「我が領主。おで、いつか我が領主みだいな領主になるだあ。そんで、おでもキッスの相手を探すだあ!」
「……領主になるのはともかく、モイロならキスする相手は見つかるさ。モイロほどの弓の名手はそうそういない。俺の護衛になって貰いたいくらいさ」
「我が領主の護衛か……それもいいだ。ちと、考えるだあ!」
フリーターにして、弓の名手のモイロが真面目な顔をする。
最初の頃の自信なさげな態度はすっかり消えている。
そうとも! モイロはやればできる男なんだ!
「ミイロ、ムイロ、メイロ、モイロ。みんな、また会おう!」
「「「「我が領主も達者でなあ」」」」
これにて、エリカ様の五人の下僕たちは解散する。
てか、すぐに再会しそうだけどね。
さあ、急いでワーグナー城に帰ろう。
その二日後。
ジーグフリードが疲れ果てた様子で姿を見せる。
「領主リューキ殿。ダゴダネルの逃亡兵はあらかた討ち取りましたが、ブブナは取り逃がしてしまいました。申し訳ございません」
ゴブリン・ロードのジーグフリードが首を垂れる。
志願して淫魔ブブナを追撃したものの、身柄の捕捉に失敗。
甘んじて罰を受けるのだという。
愚直で武骨な態度が好ましい。
いかにも武人だ。
「ジーグフリード、なぜ謝る? お前ははるばるダゴダネル城まで救援に来てくれた。俺の命に従い、住民を火災から救出してくれた。追撃戦も大戦果といっていい。むしろ褒美をねだってくれないと俺の方が困るくらいだ」
「そんな……もったいないお言葉です」
「ブブナを取り逃がしたのは残念だが、また機会は来る。そのときは頼むぞ」
「はっ! お任せください」
再度、ジーグフリードが頭を下げる。
うむ。宣言したからには、功労者への褒美を考えないといけないな。
ボブゴブリンのビタ・ダゴダネルも姿をあらわす。
ジーグフリードの潔さを見たせいか、ビタも意を決したように頭を下げる。
「リューキ殿。大口を叩いておきながら……面目ない」
傲岸不遜なはずのビタも、相当打ちひしがれた様子。
空元気も出せないようだ。
「ビタ殿、頭を上げてください。俺はダゴダネル家の新しい当主ビタ殿と交渉を行いたい。時間を頂けないだろうか? お疲れであれば、後日にしますが?」
「な!? 疲れてなんかいねえ! いますぐにでも話ができる!」
「ならば、戦争の終結に向けて話し合いをしましょう。まずは……」
俺はビタ・ダゴダネルと丸一日かけて話しあう。
禍根が残るような過酷な要求はしない。
もっとも、どんな条件で決着しても文句を言うやつはいる。
言いたい奴には言わせておけ。
少なくとも、俺は最良と考える選択をしたまでだ。
そう。長い目で見て最善と思える協定を結んだのだ。
<ワーグナー・ダゴダネル 停戦協定>
1.ワーグナー家とダゴダネル家(以下、「両家」)は即時停戦する。
2.両家は友好を深め、早期に平和協定を結ぶ。
3.両家は軍事協定の締結に向けて協議をはじめる。
4.ワーグナー家は、ダゴダネル家に賠償金を要求しない。
5.ダゴダネル家は、ダゴダネル城跡地及び近隣一帯をワーグナー家に割譲する。
なお、割譲する領地内の住民及びその財産も含む。
ただし、ワーグナーの支配を望まない者には領外退去を認める。
6.ダゴダネル家は西方都市ボゾフを新首都と定める。
1の「即時停戦」は説明不要だろう。
ダゴダネルに戦意は残っていない。
むしろ報復を恐れているよう。
形だけかもしれないが、俺は安心感を与えたかっただけだ。
2の「平和協定」も説明はいいだろう。
ワーグナーとダゴダネルは十分戦った。
ここらで矛をおさめないと、キリがない。
これも形だけかもしれないが、領主としての意思表示。
3の「軍事協定」は、実はジーグフリードのアイデア。
いままでゴブリン族はホブゴブリンに奴隷のように扱われていた。
不幸な関係は今回の戦勝でいちおう解決された。
だからといって、逆にゴブリン族がホブゴブリンを隷属させることが可能かというと……それはそれで難しい話。
であれば、対応な関係を構築してはどうかとジーグフリードが思いついた。
ハードルは高いだが、なかなか面白い試み。
いずれにしろ、淫魔ブブナを共通の敵とするのは間違いない。
両種族がいきなり仲良くなれなくても、手をつなぐ努力をしても悪くはない。
4の「賠償金なし」は、新生ダゴダネル家に支払い能力がなく、賠償金の要求自体が無理だからだ。
首都だったダゴダネルの街の大半は焼失した。
そのうえ、奴隷のように扱っていたゴブリン族を解放した。
ダゴダネル家の経済状態は破たんしたも同然。
言い換えれば、無理な賠償金要求は、再度の戦争勃発に繋がると判断したのだ。
むしろ、5の「領地割譲」が賠償金代わり。
ローグ山周辺の痩せた土地に比べて、旧ダゴダネル城近辺は土地が肥えている。
当然、作物の収穫は大いに期待できる。
俺はこの地を発展させて、ワーグナーを飛躍させたいと考えた。
もちろん、ホブゴブリンに奴隷扱いされていたゴブリン族は自由の身だ。
残るも去るも好きにさせるが、ほとんどのゴブリン族は残ってくれるだろう。
逆に、街に住んでいたボブゴブリンは去ると思う。
俺も無理に引き留めるつもりはない。
ちなみに街の名前は「ダゴダネル」から「ホプラン」に変更した。
「再生」を意味する言葉らしい。
これから生まれ変わる街の名前として、悪くないと思う。
俺とビタはそんな条件で大筋合意した。
正直、ビタやジーグフリードの態度を見る限り、俺は甘いのかもしれない。
けど、この先もずっと戦を続けるよりはマシだと思う。
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入れ替わるように、女騎士エリカ・ヤンセンが近づいてくる。
「我が領主。ローン返済の期日が近づいていると思いますが、お忘れではないですよね?」
「ん? そういえばそうか。ブブナとの戦に時間を取られすぎたな。えと、計算では……あと二日?」
「なんてこと!? 戦の後始末はジーグフリード殿と私で行います。リューキ殿は急いでワーグナー城にお戻りください!」
「そ、そうだな。じゃあ、ヴァスケル。ワーグナー城までひとっ飛びしてくれ!」
「なんだい!? あたいはワーグナー城にとんぼ返りしなきゃいけないのかい!」
「とんぼ返り? 姿が見えないと思ったら、ヴァスケルはワーグナー城に行ってたんだ。すまん、疲れてるとこ悪いけど……」
「領主リューキ殿。街から焼け出された避難民から陳情がありました。食料を分けてほしいとのことです」
「ジーグフリード。俺は急用を思い出した。避難民の世話はすべてお前に任せるから……」
「リューキよ。ワーグナー城に行くのか?」
「そうだ。悪いけど、エルはここで待ってて……」
「わらわも行くのじゃ! 従妹のジーナに会いたいのじゃ!!」
「はあ!? ジーナの従妹だって!? リューキ! どういうことだい?」
「ヴァスケルには言ってなかったか? エルメンルート・ホラント姫の祖父は、実は先々代のワーグナー領主のランベルト・ワーグナー卿で……」
「なんだって!? 姫さんには悪いけど、こんなのっぺりした顔がワーグナーの血縁なわけないだろ?」
「なんてことを言うのじゃ! わらわはジーナ・ワーグナーそっくりじゃぞ! 領主リューキと女騎士エリカも公認なのじゃ!」
「領主リューキ殿! 私は……」「リューキ。あたい……」「我が領主、私は……」「リューキ! わらわは……」
ふっ、俺もすっかり人気者だな。
身体がいくつあっても足りない。
てか、ローンの支払いが最優先です。
ほかのことは、みんなで手分けして片付けようじゃないか。
「ジーグフリード! お前には避難民の救済と焼失した城や街の整理を任せる。あと、ビタ・ダゴダネルが何か頼みごとをしてきたら聞いてやれ!」
「領主リューキ殿、承知致しました! 必ずやご期待に応えます」
「女騎士エリカ・ヤンセン! ジーグフリードが判断に迷ったら相談に乗ってやれ! お前の決断を俺は尊重する。いや、俺が戻るまでの間、お前に全権を委任をする。任せたぞ!」
「我が領主……過分なお言葉です。このエリカ・ヤンセン、身は離れていても、心はいつも傍におります」
「ヴァスケル! 俺を乗せてワーグナー城まで飛べ! 急ぐぞ!」
「まったく……守護龍使いの荒い領主だねえ」
「なんだ、不満でもあるのか?」
「行くよ! 飛べばいいんだろ、飛べば!!」
「エル、お前は……」
「わらわもワーグナー城まで連れて行って欲しいのじゃ! 従妹のジーナに会いたい。それに、ブブナの話が本当なら、わらわは皇帝に生命を狙われておるのじゃ! こんなとこ、いたくないのじゃ!!」
「わかった。俺と一緒にワーグナー城まで来い!」
「嬉しいのじゃ! 感謝するのじゃ!」
居並ぶ面々に、ひと通り指示をする。
てか、ジーグフリードの負担が大きいのにあらためて気づく。
デキる男には仕事が集まるものだ。
うん、君ならやれる!
俺が戻ってくるまで、頑張ってくれたまえ!
本営テントから外に出る。
遠巻きに俺たちを眺めるゴブリンたちのなかに、よく知る顔を見つける。
ミイロ、ムイロ、メイロ、モイロの四人。
白磁の塔でブブナ相手に共に戦った仲間。
平均的なゴブリン族とくらべて小柄で、俺と背格好が似ている。
誰がなんと言おうと、顔は似てないけどな!
その四人が、おずおずと俺のそばにやって来る。
役目を終えた彼らは、オーデル村に帰る前に挨拶に来てくれたようだ。
「ミイロ、ムイロ、メイロ、モイロ……お前たちにはどれだけ感謝しても足りないくらいだ! 落ち着いたらワーグナー城に遊びに来てくれ。ハラいっぱいメシを食わせてやるよ」
「我が領主。おで、楽しかっただ。また、一緒に旅をしたいだあ!」
「はは……ミイロ、次はもうちょっとノンビリした旅がいいな。いつか、お前の宿屋に泊めてもらいに行くよ! 母ちゃんや息子のミヒャエルによろしくな!」
俺はミイロと握手をする。
旅人を迎える宿屋の亭主らしい、温かい手だった。
「おで、我が領主のおかげで命拾いしただ。この恩は一生忘れねえだあ」
「ムイロ、なにを言うんだ! 助けてもらったのはこっちの方さ。また今度、ド派手な狼煙玉をあげて見せてくれ! てか、夜に見たいな!」
火煙師ムイロが照れたような笑顔を浮かべる。
握手したあとの手は、少し火薬の臭いがした。
物騒なはずの香りが、今日の俺は嫌ではなかった。
「我が領主。おで、あんま役に立たんかったけど、おでのこと忘れねでくでだあ」
「メイロ、そんなことない! お前が黄金弾を作ってくれなかったら、俺たち全員、あの世行きだったさ。大ケガをしたムイロを助け出してくれたのもお前だし、ある意味お前がMVPだ!」
「えもべーぴー?」
「いや、M・V・Pだ。要するに、メイロは大活躍したってことさ!」
「そっかあ! おで、えもべろぴんがあ! おで、すごいんだあ!」
鉱夫のメイロが、にかりと笑う。
戦で失ったのか、前歯が三本欠けていた。
ともすれば間抜けな感じのメイロの笑顔が、不思議と輝いて見えた。
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「……領主になるのはともかく、モイロならキスする相手は見つかるさ。モイロほどの弓の名手はそうそういない。俺の護衛になって貰いたいくらいさ」
「我が領主の護衛か……それもいいだ。ちと、考えるだあ!」
フリーターにして、弓の名手のモイロが真面目な顔をする。
最初の頃の自信なさげな態度はすっかり消えている。
そうとも! モイロはやればできる男なんだ!
「ミイロ、ムイロ、メイロ、モイロ。みんな、また会おう!」
「「「「我が領主も達者でなあ」」」」
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さあ、急いでワーグナー城に帰ろう。
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シマセイ
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実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
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