フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

文字の大きさ
59 / 90
<フリーター帰省編②> ~消えた金貨を探せ~

第五十七話:フリーター、空を飛ぶ

しおりを挟む
 タナカ商会の倉庫の裏にまわる。

 日当たりの悪い倉庫裏は、赤サビまみれのトラックや半壊した物置やらの特大ゴミの集積所。高い塀にも囲まれて、いかにも人が来なさそう。

 あねさんヴァスケルは、誰もいないのを確認し、身体からだをボワっと白光させる。
 スーツ姿のOL(注意:白シャツのボタンはふたつ外れている)から、黒い翼を持つ堕天使だてんしモードへの変化チェンジだ。

「ふうっ、人間界の格好は窮屈きゅうくつだねえ。あたいはこっちの方が全然楽チンだよ!」

 布地が少ない、胸元が大きく開いた白いドレス姿でヴァスケルが言う。
 褐色のふたつの山は、いまにも服からこぼれ落ちそう。

 うーむ、とっても危険デンジャラス
 ヴァスケルが落ち着く姿は、俺にとっては心が乱れてしょうがない格好さ。

「準備はいいかい? あたいにしっかりつかまりな!」
「はい……よろしくお願いします」

 背徳的な姿のあねさんヴァスケルに、真正面からおそるおそる抱きつく。

 ふおお……柔らかい!
 けどダメだ! こんな快楽を覚えたら人間おかしくなる!

 ちょっとだけ理性が働いた俺は、思わず腕の力をゆるめてしまう。

「なんだい!? そんなんじゃあ、空から落っこっちまうよ!」

 ヴァスケルが自らの腕に力を込める。
 グイッと押し付けられる豊満な肉体。
 俺はふたつの山に挟まれた深い渓谷で身動きが取れなくなる。
 到底とうてい、自力では脱出できそうにない。

 俺、遭難そうなんしちゃったのかな?
 ええ、そうなんですよ。

 ヴァスケルは俺の脳内ひとりごとに反応しない。
 当たり前だな。はは。

◇◇◇

 フィリピンに向かう空の旅は、堕天使だてんしモードの龍飛行ドラゴン・フライ
 
 強烈なGを受けて、俺はヴァスケルのグラマラスボディに一層強く密着する。

 うひょー!
 ここは天国ですかー? 
 肉体に溺れるってこういうことですかー?
 いやいや違うよねーと軽い妄想にふけりながら、天高く昇って行く。

 俺たちは高度数百メートルどころか、数千メートル上空まで一気に到達する。
 雲は遥か下方に見える。

 あまりにも急激に飛び上がったせいで、俺は本当に天国に近づいてしまう。

「パ○ラッシュ。寒いよ、もう疲れたよ……」
「あん!? リューキはなにを言ってんだい? あたいはヴァスケルだよ、パト〇ッシュってのはどこの女だい?」
 
 堕天使だてんしモードのヴァスケルが、俺の妄言と会話する。
 いにしえの火龍といえども定番ネタにはうといようだ。

「ヴァスケル……耳がキーンとしてるし、息苦しいし、身体が凍りそうだよ」
「おや、リューキは人間界の格好のままだったねえ。一旦降りるから着替えな」
「え、着替えるの?」
「はあ!? いまさらなに言ってんだい! ジーナが用意した旅の衣装があるだろ? あれに着替えれば寒さも息苦しさもマシになるさ」

 なんと! ジーナが用意してくれた衣装はそんな性能があったのか!
 そういえば神器しんきを研究しているエル姫は、ジーナのマントを褒めていたな。
 女騎士ナイトエリカも、ジーナの衣装に様々な工夫が凝らされていると言っていた。
 むむ、これは失態。
 俺は早速着替えることにする。

◇◇◇

 堕天使だてんしモードのヴァスケルが着陸したのは、箱根あたりの山の中。
 角ばった黒岩がゴツゴツとする岩山の頂上だ。


……箱根の山なのに、駅伝ランナーはいないんだね。どこかにいるかもしれないけど、こんな切り立った岩場だからいないのかな? 山登りの神様だって、もう少しなだらかなところで練習しているだろうね。この近くにいるとしたらクライマーか? クライマーってスゴイよね! こんな垂直な崖を登っちゃうなんてさ! 俺なんか……


「リューキ! 早く着替えな!」

 ヴァスケルにかされる。

 えろうすんません。
 低体温低酸素状態で天国という名の新たな異世界に旅立ちそうになったんで、頭の体操をしていたんですよ。
 そう、妄想モードの試運転です。
 どうやら俺の頭は大丈夫そうです。
 着替えも終わりましたし、そろそろ行きましょうか。
 リスタートです。リフライです。
 
 ゆったりサイズの茶色のマントで全身をくるんだ俺は、ぷりんぷりんな堕天使だてんしモードのヴァスケルにしがみつく。
 柔らかいとか、いい匂いとか、考えないようにする。

煩悩ぼんのう退散たいさん!』

 心の中で呪文のように唱えると、本当によこしまな心が小さくなっていく気がした。

 マジか!?
 これって賢者モード発動か?
 もしかして魔法とかスキルとか使えるのかな?

 俺は早速マントを【鑑定】してみた。


 名前:ジーナがくれたマント
 色 :茶色
 サイズ:けっこう大きい
 値段:プライスレス
 性能:エッチな気持ちがおさまる気がする


 違う! これは【鑑定】じゃない。単なる感想だ!
 防御+10とか、火耐性【小】とか分かるかと期待したのに。
 くっ、残念だ。

 俺の心の中で繰り広げられた高揚と落胆に関係なく、堕天使だてんしモードの龍飛行ドラゴン・フライが再開される。

 高度が上がると寒さは増すが、ちょっとヒンヤリする程度におさまる。
 息苦しさもほとんど感じないし、パトラッ〇ュも出てこなかった。

 うむ、賢者にはなれなかったが、ジーナの衣装が高性能なのは理解した。
 これはまさしくドラゴン・ライダーの必須アイテムだな。
 まあ、俺はヴァスケルと抱きあう格好でぶら下がってるだけで、ドラゴン乗ってライドいるわけじゃないけどさ。あはは。

 ヴァスケルの肩越しに天を仰ぐ。
 都会では見られない澄んだ青空に幻想的な印象を受ける。
 真昼の白い月はいつもより近く感じる。
 手を伸ばせば届きそう。
 本気でお月様をつかめると考えたわけではないけど、俺は右手を上に向かって突き出してみた。

 キィーーーーイィーーーーン!!

 デッカイ物体が真上を通り過ぎて行く。
 危ないじゃないか!
 いやいや、すっかり忘れていましたよ。
 人間界の空にはドラゴンはいないけど飛行機は飛んでいましたね。

「はん!? 人間界には生意気な鳥がいるもんだねえ。あたいにビビらずに向かってくるなんてさ! リューキ、あの白い鳥にドラゴン・ブレスをお見舞いしていいかい?」
「いや、見逃してやれ。ヴァスケルの方が強いのは、俺がよーく分かってるから」
「あんたがそう言うなら、やめとくよ」 

 堕天使だてんしモードのヴァスケルは素直に言うことを聞いてくれた。
 てか、気に入らないからってポンポン飛行機を落とされてはかなわない。
 あとで、よーく言って聞かせないとね。
 
 見ると、眼下に広がるのは陸地から海に変わっていた。
 俺は思わず「キレイだなあ!」と、子どものように素朴な感想を述べてしまう。
 見渡す限りの大海原。
 海上にポツンポツンと散らばる細長い棒は漁船やタンカーか。
 海の男たちよ、今日もお仕事ご苦労様です。

「まったく、リューキは呑気のんきだねえ。あたいはあんたのために、風の結界まで張って頑張ってるのにさ!」
「ん? 風の結界ってなんだ?」
「あん!? なんて言えばいいのかねえ。あたいの身体からだの周りに空気の膜を作って……あー、説明がメンドくさいねえ! つまり、こういうことさ!」

 ヴァスケルが手を離す。
 唐突にはじまる領主ロードモードの俺飛行フリーター・フライ
 そう。俺はひとりで大空を舞っていた。

 鳥だ! 飛行機だ! いや、俺だ!

 違う。そういう話じゃない。
 俺は単に落ちているだけだ。

 俺の背中に翼は生えてない。
 翼がないと飛ぶことはできない。
 ねえ、ヴァスケルさん。知っていますよね?
 俺には翼はないんですよ!
 
「あばばばばばばぁああーーー!?」
 
 自分の叫び声が風に持っていかれて聞こえない。
 風圧で目も開けられない。

 なるほど、風の結界っていうのはそういう意味か!
 
 ヴァスケルの言わんとしたことをなんとなく理解した俺だったが、残された時間は少なかった……

 こうして俺は太平洋の藻屑もくずと消えてしまったとさ。
 おしまい。

 ではない!!
 
 自由落下フリー・フォールはバッドエンドを迎えることはなかった。
 もちろん、俺を受け止めてくれたのはヴァスケルだ。
 
「ヴァ、ヴァ、ヴァスケル……俺……死ぬかと……」

 ヴァスケルにお姫様抱っこされた俺は涙目になる。
 鼻水くらい垂らしていたかもしれない。
 けど、情けないとか格好悪いとか考える余裕はなかった。
 本能的に感じ取った死の恐怖。
 俺は無我夢中でヴァスケルの身体からだにしがみついてしまった。

「リューキ、ごめんよ! こんなに怖がるとは思わなかったんだよー!」

 歯の根が合わない。
 震えが止まらない。 

 錯乱状態の俺は、つい口走ってしまう。

「もう、二度と俺を離さないで!!」

 いやいや、どこの乙女のセリフだよ。
 
 滑稽な口説き文句のような言葉にヴァスケルは顔を赤らめてしまう。
 頬にあてて、モジモジしながら俺を見つめる。
 
 そう。
 ヴァスケルが手を離したせいで、俺はふたたび自由落下フリー・フォールをはじめた。

「ヴァスケーーールゥーーー!!」

 俺は叫ぶ。
 助けを求める声は風に流されてしまう。自分でもよく聞こえない。
 うむ、風の結界ってのが大事なのが再確認できた。
 いや、やりたくてやったわけじゃないけどさ。

 でもまあ、さすがヴァスケルはエイシェント・ドラゴンの末裔だね。
 なんでもできる。スバラしいよ。
 とりあえずもう一回俺を助けてくれるかな?

 ヴァスケルが慌てて飛んでくる。
 あっさりと俺に追いつく。
 にこやかな顔で俺をお姫様抱っこしてくれる。
 考えようによっては、俺がヴァスケルに乗ってるってことだ。
 けど、これでドラゴン・ライダーを名乗るのは格好悪いとちょっとだけ思った。 
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...