フリーター、城を買う。 〜格安物件をローンで買ったら異世界のお城でした。ちくしょう!〜

きら幸運

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<フリーター探索編> ~ジーナはどこへ消えた?~

第六十八話:フリーター、ドキドキする

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 あねさんヴァスケルを居室に残し、俺はワーグナー城の大広間に戻る。

 帝国財務局の役人との面会には、エル姫とグスタフ隊長にも同席してもらう。

 結局、ジーナは姿を見せなかった。
 まったく、アイツは自由すぎるヤツだな!

 役人はゾルゲという名前のヒト族の老人。
 歩くのも難儀なんぎそうな肥満体。
 他人ひとを小ばかにするような目つきから尊大な印象を受ける。
 実際、ゾルゲは横柄おうへいな男で、随行するふたりの下僕しもべも同類のようだ。

 俺がワーグナーの新しい領主ロードだと名乗っても、ゾルゲはろくに挨拶すら返さない。
 別にペコペコして欲しいわけではないが、俺はいちおう領主ロード
 エル姫やグスタフ隊長のみならず、警護のオーク兵も周りにいる。
 客人とはいえ、もう少し丁寧に応対してくれても良いと思う。

「おぬしがワーグナーの新しい領主ロードか? 凡庸ぼんような顔つきだな。身体からだの造りも貧弱そのもの。およそ領主ロードらしく見えぬな」
「……用件は金貨の件だと思ってましたが、俺を値踏ねぶみしに来たんですか?」

「なに!? ふざけたことを申すな!」

 ゾルゲが顔を真っ赤にさせながらいきどおる。

 ネチネチと言われたことをそのまんま返しただけなのに理不尽極まりない。

 言い返した俺も大人気おとなげないけどね。

「まあ良いわ。おぬしの言うとおり、ワシが知りたいのは2929417-213の金貨のだ。ひと月前に金貨保護コインプロテクションの魔導信号が途絶えた。新米しんまい領主ロードといえど、おぬしも知っているであろう? 帝国通貨の金貨を無断で破損したら死罪になることを」

 ゾルゲがサディスティックな笑みを浮かべる。

 うん、絶対に仲良くなれない相手だな。

「なにかの間違いじゃないですか?」
「とぼけるつもりか? だったら2929417-213の金貨を見せてみろ!」

「仕方ないですね。おーい、守護龍ドラゴンヴァスケル! 帝国財務局のゾルゲさんに金貨をもらえ」
「な!? ドラゴンだと?」

 俺の合図を皮切りに、ズズっ、ズズズっと重いモノが引きずられる音が大広間に響きはじめる。

 ゾルゲたちの背後。
 大広間の入り口付近から、巨大なドラゴンがゆっくりと近づいてくる。
 
 迫り来る脅威に恐れをなしたのか、ゾルゲは「うひいっ」と悲鳴をあげる。
 ただし、それ以上は声が続かない。

「ヴァスケル! ゾルゲさんは金貨をご所望しょもうだ。うろこ隙間すきまにはさまった金貨を取ってもらうといい」
「ワ、ワシ、ワシは、その……」
 
 おろおろするゾルゲの目の前に守護龍ドラゴンヴァスケルが身体からだを横たえる。

 古龍エイシェントドラゴンを間近で見た老人は身動きできない。
 
「どうしました? 背中のうろこ隙間すきまに金貨が引っかかっているのが見えますよね? さあ、ご自分で金貨を拾って確認してください」
「いや、その、まさかドラゴンが出てくるなんて……」

 大蛇ににらまれたウシがえるのようにゾルゲは動かない。
 ふたりの下僕しもべも主人を助けようとしない。

 ふむ、それではシモベ失格だな!

 やれやれ仕方ないなって感じで、俺はヴァスケルの背中によじ登る。
 うろこ隙間すきまに手を突っ込み、金貨を拾い上げようとする。

 俺が指を動かすたび、守護龍ドラゴンヴァスケルの巨体がビクッビクッと震える。
 たぶんくすぐったいのだろう。

 帝国財務局の役人ゾルゲは、ヴァスケルの巨体が揺れるたびに「フヒッフヒッ」と情けない声をあげる。
 間違いなくビビっているのだろう。

「はい、お探しの金貨です。どうぞ好きなだけ調べてください」

 気を取り直したゾルゲが、奪い取るよう金貨をつかむ。

 帝国財務局の老役人はルーペを取り出し、金貨をじっくりと観察する。

 
 十分後、ゾルゲは残念そうな顔をして金貨を返してきた。

「……間違いない。2929417-213の金貨だ」
「もうよろしいですか? 他に用がなければ、俺たちはヤルことがあるのでお引き取りを……」

「くっ、いい気になるなよ! 反逆領主リベリオン・ロードのワーグナーめ! 今回は生命いのち拾いしたようだが、賠償金ローンの支払いがとどこおれば、おぬしらなんぞは……」 

 守護龍ドラゴンヴァスケルのたくましい腕がにゅっと伸びる。
 ゾルゲの肥満体をつかみ、怒りに燃える目の高さまで持ち上げる。

 憎まれ口を叩いていたゾルゲは言葉にならない悲鳴をあげる。

「あひぇー、あひぃいえーーー!」
「ヴァスケル! ゾルゲさんを運んでくれるのかい? けど、どうやら自分の足で歩いて帰りたいみたいだよ……また別のお役人様に来られても迷惑だ。このまま帰してやれ」

 守護龍ドラゴンヴァスケルは数瞬だけ逡巡しゅんじゅんする様子を見せだが、結局、老役人ゾルゲを床に下ろした。
 
 ゾルゲたち三人の客人は転がるようにして大広間から出ていく。
 別れの挨拶はない。

 最初から最後まで礼儀がなっていない爺さんたちだった。
 てか、動きは鈍臭どんくさかったけど逃げ足だけは速いな。

 守護龍ドラゴンヴァスケルの身体からだが白光する。
 擬人ヒト化した堕天使だてんしモードのあねさんヴァスケルが姿を見せる。

 つやっぽい格好のあねさんは、モジモジしながらバツが悪そうな顔をする。

「リューキ、ごめんよー。あたい、ついカッとなっちゃってさ」
「気にするな。ゾルゲの態度には俺もハラが立ってたから、むしろスッキリしたよ。ありがとうと言いたいくらいさ。それに、ローンさえキチンと払い続ければ帝国財務局だってそう無茶は言わないだろう。大丈夫だよ」
 
 城のローンの支払先は帝国財務局。
 つまりワーグナー城の抵当権はプロイゼン帝国皇帝が所有している。

 ジーナ・ワーグナーの父、ギルガルド・ワーグナー公爵は皇帝の跡目あとめ争いに敗れたマクシミリアン皇嗣こうしの後見人だった。

 ギルガルド卿は、マクシミリアンの弟カールハインツが仕掛けた皇位簒奪こういさんだついくさ生命いのちを落とした。

 戦後いくさのあと、ワーグナー家は領土の大半を召し上げられた。
 莫大ばくだいな賠償金も課せられた。

 その支払期間、百十余年。

 唯一残ったワーグナー城も賠償金の支払が滞れば取り上げられてしまう協定を締結させられた。

 以来、百年余り。
 ワーグナー家の当主としてジーナは賠償金を払い続けた。

 賠償金の支払期間は残り十年。

 いまでは俺がワーグナー城の所有者だ。
 
「……重圧に耐えられなくなったジーナが城の所有権を手放したのには驚いたけどさ、新しい領主ロードがリューキで良かったよ。あたい、ホンキでそう思ってるのさ」
「俺も最初はどうなるかと思ったけどな……てか、もし俺以外の人間界のヤツが領主ロードになってたら、いまごろワーグナーはどうなってただろうな?」

「はあ!? リューキ以外のヤツが領主ロードとしてヤッていけたと思うかい? ムリに決まってるだろ! そんなヤツはさっさとおっんで、ジーナが領主ロードに返り咲いてたさ!」

 実にあっけらかんとした発言。

 てか、俺だって何度おっにかけたことか……

 やはり人間界と魔界では常識の境界線が異なるようだ。

「ま、いいか。タラレバの話なんかしても仕方ない。じゃあ、みんなに土産みやげをあげるよ。エルが希望した書物類は重いから黒檀こくたんの塔で渡すとして、ジーナのスイーツは……」
「ジーナは神器しんきの書物に夢中なのじゃ! 土産みやげ黒檀こくたんの塔で渡せば良いのじゃ!」

「じゃあそうするよ」
「わかったのじゃ! ジーナに伝えに行ってくるのじゃ!」

 俺の返事を待たずにエル姫が大広間を出ていく。

 妙に慌ただしい気がするが、まあいいや。

「グスタフ隊長にはこれだ。コンビーフの缶詰だ。先月渡したとき気に入ったみたいだから箱ごと渡すよ。ひとり占めしないで部下にも分けてやってくれよな」
「コンビーフ!? また会えるとは! おお、神よ! 感謝いたします! 生きててよかった……」

 グスタフ隊長が生き別れた家族と再会したかのように段ボール箱を抱きしめる。
 その目には光るモノがあった。涙だ。
 口のはしにも光るモノがあった。ヨダレだ。

 いやまあ……グスタフ隊長は感動屋さんの食いしん坊ってことでいいか。

「リューキ。ちょっといいかい? いまのうちにヤッておきたいことがあるんだよね……」

 あねさんヴァスケルが声をかけてくる。

 ちょっとうるんだ熱っぽい視線に、俺はクラっときてしまう。


……むむむっ、そんな目で見つめられちゃうと照れるな。震えちゃうぞハート、燃え尽きちゃうほどヒート。ん? どこかで聞いたようなフレーズだな。えろうすんません。はい、大好きなんです。うりぃいいい。ネタはイイとして。ヴァスケルは俺とふたりきりでナニをするというのだ? ナニってアレか? アレなのか? ついにその時が来たのか? その時、歴史が動いちゃうのか? おっと、またネタになっちゃったね。ほんとうにスンマセン。さすがにこの辺りにしておこう。おこられちゃうからね。ねえ、先にシャワーを浴びていい? 俺の居室には浴室もあるからさ。湯船なんかは俺ひとりで入るには大きすぎるくらいさ。なんなら一緒にどうだ? いや、まだちょっと早いか。いやいやでもでも……


「じゃあ、あんたの部屋に行こうじゃないか!」

 あねさんヴァスケルが優しく言う。
 まるで俺の妄想劇場をのぞいていたかのような流れだ。

 俺はヴァスケルに手を引かれて居室に向かう。

 なんというか……イイ年して、俺はドキドキしてしまった。はは。
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