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3 なにがなんだか
しおりを挟む椅子には紙が敷いてあって、冷やっとはしなかったけど落ち着かない。看護師さんが腰にバスタオルを掛けてくれたけど、これがすぐ無意味に……ううう。
こ、このアーム部分に足を掛けるんだよね。先生ってやっぱりあの先生だよね。うー、往生際が悪い私。
「お待たせしました。人違い防止の為にお名前フルネームでお願いします」
「本原若葉です……」
「はい。それではここに足を掛けて下さいね」
うええええ、アーム高い~。腿を持ち上げて膝を乗せると。
「あぁ、踵でお願いします。腰はしっかり背もたれに付けて」
かっ! かかと?!
言われたら仕方がないけどもっ。
そろそろと踵を乗せると、股を開いただけ状態だったのが、カエル状態にハードルが高くなった。
いや~~~ッッ! もう帰りたい~~~ッッ! ホントムリィ~~~ッッ!!
「椅子が寝て高くなります」
ギィヤアアアアア~~~ッッ!
なんの拷問?! ねえっ、何の拷問なのこれっ?!
掛けられたバスタオルが意味をなさなくなったのを直感する。
椅子が動いたと同時に、お尻の下の座面部分がなくなったっぽい? 無駄に至れり尽くせり! いや、診察するにあたっては無駄機能なんかじゃないんだろうけども!
「リラックスしてくださいね、椅子に全体重預けて。
では流します」
流します?! なにを?! 電流?!
――お湯かあッッ!
チョロチョロと微妙な湯量と絶妙な温度で気持ち悪い! まるで漏らしたみたいでいやぁ!
もうだめ、精神力が保たない。ゼロどころかマイナスに振り切っている。まだまだ序盤も序盤だというのに。
「ではカメラ入れますね。本当はこれを入れて、中を見させてもらいたいんですが、止めておきますから」
カシャンと軽い金属音を響かせて、銀のトレイから持ち上げられたのは、ハサミの持ち手にクチバシが付いたような器具。先生はキュッキュと持ち手を握ってみせると、クチバシがカパカパと開閉した。
血の気が引いた私の口もパカパカと開閉し、恐怖と驚きのあまりに声も出ない。だってそれ絶対拷問器具。やばい、想像痛くる、貧血になる、今立ったら倒れるやつ。
クチバシがトレイに置かれ、続いてブチュッと水音がした。
緊張と恐怖で凝り固まった首を無理やり持ち上げ、もう一度そちらを見れば、先生が器具カートに、美容院でよく見るチューブ、もしくはお好み屋さんでよく見るソースやマヨが入っているチューブを置いた。
ニチャニチャと先生の手元から粘度の高い水音がする。
まさか、それは!? 潤滑油的なもの――?
「はい、入ります、体の力抜いてー」
やばい、もう、見なければよかった。だけど見ないと余計こわいじゃんか、あ~~~見えない聞こえないー。
私は貝。深海の奥底に眠る貝。何も聞こえない、何も感じない、何もこわくない――
「ふぐぉっっ」
ムリィィィッッ!!
ビクンッと体が大きく跳ねた。ザリッとお尻――と言うかもう腰の下で紙がこすれる。色気のない悲鳴は断じて私じゃないんだ! 仕方ないんだ! すでに混乱を極める。
「はい、大丈夫ですよ、深呼吸してー。動かないでくださいー」
「ぐ! ふ……っく……」
その声にビリビリっと電気が体を駆け抜けていった。
足の付け根に手を置かれ、ぐいと開かれる。
――"大丈夫"――
――"深呼吸"――
daiのソロパートの歌詞と同じ単語に、否が応でも意識させられてしまう。
ヤバイ。ヘッドホンをつけて、ドキドキキュンキュン悶えながら聴くなんてしなければよかった。条件反射みたいに緊張のドキドキがキュンキュンに変わっていきそう。
「力抜いてねー」
「ぐッッ! クッ――ハッ、ぐぅッッ」
始めの入り口だけ、ぽんっと抵抗はあったけれど、あとはタンポンよりも抵抗なく、ゆっくりヌルヌルと入ってくる。
痛くはないけれど違和感が凄まじく気持ち悪い。
ツンと奥に行き止まって、またもや鼻から変な息が漏れる。
「モニター見れますか? これが子宮で――ちょっと動かしますよ」
「いぎぎぎぎぎ!」
うそ! 痛い痛い! めっちゃ痛い!!
「今まで内蔵系で大病したことありますか? 盲腸とか腹膜炎とか」
「な、ないっです……うくぅっ」
「そうですか。ではこれで何も問題なければ、痛みに敏感な体質なのかもしれませんね。すみませんが、我慢してください。こっちが卵巣です」
あぁあれね、歯医者さんで痛みを訴えて手を上げても、気休めの言葉だけでスルーされるのと同じやつね!
先生は片手はカメラを私に突っ込んだまま、もう片手でパソコンを操作している。角度が悪いのか奥に押し当てて動かされる。
痛い痛い痛い! 生理痛で動けないときばりに痛い!!
逆に考えるんだ。これは診察。いくら痛くたって体が傷つくことなんてない。
痛すぎて訳がわからなくなって、また自分の変なクセが出た。
つまり、これは痛くない。気持ちいいんだ! と思い込む作戦だ。
生理痛が重いとき、私は土下座して毛布をかぶり、イヤフォンをつけてダスグリを流しながら「痛くない痛くない、これは気持ちいい気持ちいい」と呪文を唱えてやり過ごす。
暑いときはエアコン温度を下げてまでやる。
だってこれが一番マシ。暗示療法だ。
ぶつぶつと口の中でつぶやき続ける。たぶん目の焦点も合っていない。
「二回りほど小さいですね。膣も浅い。それでは詳しく診ていきますね――」
その言葉に現実に引き戻される。
「えっ! 小さいってどういうことですか、赤ちゃんできますか、大丈夫ですか」
特に子供好きではないし、今後恋人ができるかどうかすらもわからないけど、選択肢は狭めたくないので聞いておかなくちゃ!
「強いて言えば胎児が小さめの可能性があるかもしれないけど、胎児の発育には関係ない。機能は詳しく診ていかないとわからない。
浅さは――そうですね、性交痛があるかもしれない。痛みの知覚は個人差が大きいけれど、物理的に――」
「現時点で特に問題なければいいです!」
はい、わかりました! 小さいところに大きいもの入れたら痛いってことですね。もういいです、一生バージンも悪くないと思う。daiの声だけで生きていける!
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