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4 そんな人いません!
しおりを挟む先生は容赦なくグイグイ抉ってくる。問題がないか真摯に診てくれているんだろうけれども辛い。痛い。耐え難い。
私は涙目どころか落涙が止まらない。だってマジ痛すぎる!
「気になる影とかはないみたいですね。最後触診します」
触……診? ゆ、指まで入れるの!?
もう嫌だ、許してほしい。
痛さと羞恥に小刻みに震える私を差し置いて、また「はい深呼吸ー」とかそのイケボでのんきに言わないでほしい。
そっちは何人もの患者を診てきて慣れてるんだろうけどさぁっ。
完璧な八つ当たりで、心の罵声が止まらない。
「ふうっ、くっ、うぅっ……んあっ」
なにこれなにこれなにこれ!
カメラと全然違う!!
勝手に自分の中が先生の指を食い締めて、形が伝わってきて恥ずかしい。指の関節がぽこっとした感触を与えてきて、とにかくわけわかんないけど恥ずかしい!
「肘掛け離さなくていいけどお腹に力入れないでー、深呼吸――はい、回転します、少し我慢してくださいねー」
――"離さな"い 君と一緒なら――
――"深呼吸"をしてみる――
――"我慢"なんてしなくていい――
いろんな曲が次々に入れ替わり立ち替わり頭に響く。もうダメだったら。お願いだから、しゃべらないで。
なんかもう、本当にダメなんです。
無意識に息を止めていて、いよいよ苦しくなってふっと息を吐いた瞬間、体に入っていた力も緩まり、それを見計らったかのように先生の指がクルリと周囲を探った。
「気になる起伏等なし――、押されて痛い所とかはありますか?」
「ぐうっ、ひぐっ、はっ、あぐっ、なっ、ないっ、ですっ! あがっ」
声を我慢したいのに出てしまい、それを無理やり抑えようとするもんだから、変な声になってしまう。痛みと違和感の反射で体がビクビクする。手で口を押えたいけど、両手はがっちり肘掛けを握りしめていて離せない。
「大丈夫そうですね」
――"大丈夫" 僕が君の 全てを――
「ふぅっ、ンッ」
指を抜かれるとき、ゾクッと何かが尾てい骨のあたりにうごめいて、体がヒクつき小さな声が漏れた。
先生がしゃべってる途中だったから、聞こえてないよね? どこか鼻にかかったような声が恥ずかしすぎる!
いや、もうどうなってんの私の体。おかしいでしょ!
先生のゴム手袋を外すパチンパチンという音が、内診室に響いてまた泣けた。
なんなんだよ、このイケボがぁっ!
恥ずかしさを怒りに無理やり変えて、精神の安寧を図る。
拭ってもいまいち拭い切れない潤滑油だかおりものだかが心を抉ってくる。
「うっ、うっ、ぐすっ……」
「本原さん、よく頑張りましたね。そこのペーパーと水道使ってくださいね。トラッシュ缶は足で開けられますから」
「は、はい"~」
看護師さんの優しい声がする。
「ゆっくりでいいですよ。――旺佑先生の方が優しいと思いますから……。頑張ってくださいね」
鼻を鳴らす私を不憫にでも思ったのか、看護師さんが声を潜めて言ってくる。
「そうなんですか?」
「はい。院長はたまに、診察慣れした患者さんでも息を詰める時とかありますから。院長の診察が雑と言うわけではなくて、診察が速いだけなんですが」
「そ、そうですか……」
そうなのか、あれで優しい内診なのか。
確かに中で早く動かされたら痛みが倍増しそうだ。同性の方が遠慮がないと考えれば、そういうのもわかる気がする。
ううう、思い出し痛と言うかまた想像痛が……っ。
グシグシしてても仕方ないので、のろのろに踏ん切りをつけてテキパキ支度する。
鏡でチェックしたら目と鼻の頭が赤かった。アイラインと眉はウォータープルーフ使ってるから大丈夫だったけど、日焼け止めとファンデは塗り直さなきゃ落ちてる。
診察室の前の待合椅子に座ってすぐ、中へと呼ばれた。
「本原さん、お疲れさまでした。
問題はなさそうですね。痛み止めか、ピルかどちらにしますか?」
あんなに毎月痛いのに問題ないのか。いえ、あっても困るけどさ。じゃあこの痛さはやっぱり体質なのね……。
「ピル飲んだら痛みはなくなるんですか?」
「その冊子の3ページ、ピルの有用――」
「なるほど、わかりました。ピルにします」
速読バンザイ! このイケボで解説されたらたまんないよ。これで体質の改善も可能性があるなら、鎮痛剤よりピルお試ししてみるよ。
ピルおすすめ講義からは逃れられたけど、ピルの飲み方やら注意事項やらによるイケボの聴講からは逃れられなかった。
あーもーやだぁっ。耳が侵されるぅっ。
「最後に性交についてなのですが――」
「そんな人いません!」
うあ!!
思わず口をついて出た。
ぶわわ~っと顔が熱くなって、全身まで熱い。絶対真っ赤だ。やだぁ~……。
「えっと……はい、あの、ほぼ妊娠の心配がないからと言っても感染症のリスクがあるので、性交時はコンドームをきちんと使用してください。
基礎体温表を渡しますので、明日の朝から始めて、次の診察時に持ってきてください。
今日はここまでです。次回1月後――かどうかは次の月経次第ですね。ピルを飲み始めたら次の予約を電話で取ってください。お疲れさまでした」
「はい、ありがとうございました……」
先生の耳が赤かった。私は逃げるようにと言うか、実際逃げた。
バッと立ち上がりバッと頭を下げて診察室を出た。
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