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19 ではこれで
しおりを挟む今日も今日とてバイト中、バックヤードに戻った私に、1コ下の西内さんがすすすっと寄ってきた。
半年くらい前に入ってきた子なんだけど、苦手とまではいかないけど、例えば同じクラスだったとしても、間違いなく別グループで、ほとんど喋らなかっただろうなって感じる子だ。
なんと言うか、距離感や空気感が私と合わない。
「本原さん、今さっき、すっごいイケメン集団入ったんですよぉ」
「へぇ~」
「12番部屋です。12番は私行ってもいいですかぁ?」
「もちろん、どうぞどうぞ」
別に私に許可取らなくても、12番コールが入ったときに、真っ先に応答すればいいだけなのに、なんで私に言うんだろう。みんなに言うならわかるけど、なぜかこういう時いつも私にだけ言ってくる。
言いやすい私に言って、その会話を聞いてる周りに察してもらおうとかそういう話なのかな。
私はそそくさとバックヤードを出て、見回りに行くことにした。
『12番ドリンク上がり――』
『はい、西内12番行きまぁす』
さっそくインカムに連絡が流れ、西内さんが食い気味に応答している。
『12番、本原さん呼ばれてる』
12番スルーだね~と、気を抜いていたところに名前を呼ばれ、体がビクッとした。
誰だよ、12番。今日、友達が来るとか聞いてないし、イケメン集団の知り合いとかいないんだけどと、イラッと来たところでハッとする。
心当たりあったわ。西内さんに目つけられたし面倒くさいな。
西内さんの前で呼び出されなかったのは良かった。一瞬すごい視線が飛んでくるんだよね。これみんなにもしてるのかな? そんなこと怖くてみんなに訊けない。
『本原さん?』
「……了解。12番、本原行きます」
1回だけで済むから、それで許してもらおう。
ドリンクを受け取り12番部屋――部屋名トリフェーンに向かう。
「お、来た来た~、お久しぶり若葉ちゃーん」
あー、ビンゴですね。
「本原さん助かったよ~、旺佑ってば調子が悪いなりに絶好調でさー。本当大助かり。今度お礼するね」
瀬古さんは相変わらずの軽さで、今日もスーツの梶さんは、言っていることが意味不明すぎる。良いのか悪いのかどっちなんだ。お礼ってこの前の「ガツンと言ってやってくれ」のこと? 訳わからないお礼なんて貰えません。
私は目が合った四ッ橋先生に会釈した。相変わらずのイケメンぶりだけど、やっぱり喋らなきゃ平気だった。
「若葉ちゃん、旺佑が駄目なら俺と付き合わない? 俺も一応医者なんだよーん、形成外科医ー。年は27。若葉ちゃんはいくつなの?」
瀬古さんはもう少し若く見えたので意外だ。ちなみに一番年上に見えるのが梶さん。スーツだからかもしれない。
「ナンパはすみません、ご遠慮ください」
「くぅ~っ、さすが若葉ちゃん、いけずぅ~」
すでに酔っているんだろうかこの人は。まぁ時間は深夜だし、ここが数軒目でもおかしくない。
「も、本原さん」
ぐぅ……っ。耳ぞわぞわするぅ~~~っ。
たぶん、気を使って小さい声にしてくれたんだろうけど、ちっちゃい声でも凶悪だ……っ。なんという破壊力抜群のイケボなの。
イケボに備えて覚悟していたのに、一気に心拍数が上がって顔が熱くなる。
それを見てだか四ッ橋先生もじわじわと顔を紅潮させた。
お互いそれに気付かないふりをして向き合う。
「これを。
先日は本当にすみませんでした」
ずいっと両手で、まるで名刺を差し出してる新入社員みたいに出されたのは、お見舞いと書かれたのし袋。ご丁寧にきちんと四ッ橋旺佑と書いてある。毛筆です。真面目さんなんですね。
私はトレイを置き、両手でしっかりと受け取った。真面目な四ッ橋先生に合わせて中を確認しようとして、裏書に五千円也と書いてあるのに気付いてやめた。
「確かに頂きました。こちらこそご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした。ではこれでなかったことに」
深々とお辞儀して、カフェエプロンのポケットにしまう。
よし、これで私の平穏は保たれる。
でもまたダスグリを聴けるようになるには、しばらく時間が必要そう。だって今はまだ、フラッシュバックくるでしょこれ……。
今この時を無駄にしないために、いっそ好きなもの断ちのおまじないでもするべきかしら。すっごい効き目ありそう。
でも何をお願いすればいいか、パッと思い浮かばないな。
一番の願いは、”精神安定剤が早く使えるようになりますように”だけど、そのダスグリを断つことで願掛けするわけで……。
私は「それでは失礼いたします」と立ち去ろうとして、そうだと思いつき足を止める。
「あの、瀬古? さん?」
瀬古さんはちょっとびっくりしてから、すぐにふにゃっと軽薄がちな笑顔を浮かべた。
「名前を疑問形にしてくるあたりさすが若葉ちゃん。なになに~?」
なんなんだ、この人も意味がわからない。もう会うこともないだろうし、深く考えたら負けな気がする。
「私は拒否りますけど、別にこの店、従業員の私事にまでうるさくないので」
暗に、ナンパご自由にどうぞ、と一応フォローを入れておく。西内さんのためにと言うか、私のために。
バックヤードに戻ったら、西内さんが私に凸って来ること請け合いなので、自分への火の粉を払いたいんです。
「ふうん? そうなんだ? じゃあ遠慮なく」
はぁ、とあいまいな返事を返して退室した。
自己責任でお願いします。
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