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33 愛しい人へ捧ぐ
しおりを挟む自分の口で伝えたくてって言われても。
読み上げだって自分の言葉でしょうよ。
そう言いたいのに、治まらないぞわぞわと、イルミネーション、ついでにハザードランプの中でもわかる、真っ赤な四ッ橋さんの顔に何も言い出せない。
「若葉さんに完全に断られてから、ようやく自分の気持ちに気づいたんです。
あの、カラオケの時は、曖昧なことしか言えなかったけれど、今は違――若葉さん!?」
膝ががくがくして、へたり込みそうになったところをまた支えられた。と言うか、抱きしめられている!?
いやぁー! もう許して、お願いーっ!
「な! 慣れてから! 生声は慣れてからでお願いします! 少しずつ! そういう約束だったはずです!」
自分で立って言うならまだしも、支えられながら叫ぶとか情けなさすぎる。
さらにぎゅううっと抱きしめられて魂まで抜けそう。
そうか、口から魂抜けるときってこういう気持ちなのか。
やがて四ッ橋さんはそっと私を放すと、へにょっと笑った。精悍イケメンが、ちょっと情けない感じの可愛め顔になった。
あー、こういうのが母性をくすぐるってやつなんですね。イケメンすごいわ。
四ッ橋さんが鬼気迫る様子でスマホをいじっているのをいいことに、ついまじまじとその顔を見る。
『すみません。
でも、慣れていかなくちゃいけないですから、普段は読み上げ機能を使いますが、デートの最後、離れる時は喋ります』
で! ででででーと!
ま、間違いってはないんだろうけど、デートって!
「若葉さん、今夜……」
四ッ橋さんが口ごもる。
今夜? 今夜なんですか。順当ならお礼か。それかストーカー行為の謝罪か。
何を言われても耐えられるように構えていると、フッと四ッ橋さんは少しだけ寂しそうに微笑んだ。
だから、そういう呼吸が一際エモいのーーーっ!
「今日はありがとうございます。連絡しますので、読み上げアプリの調整をしておいてくださいね。
……おやすみなさい」
私は真っ赤になりながらもコクコクと頷き、小さかったけどおやすみなさいと返した。
四ッ橋さんは、私がお店のマンションに入るまで、その場から見ていてくれた。
その日は大人しく家路につくことにした。
なんと言ってもクリスマスイブ、お店やカラオケはどこもいっぱいで入れないだろうし、全体が浮かれているのでやたらナンパも多い。
話も、着替えている間や駅までの道のりでできてしまうくらいのものだ。あの場には30分くらいしかいなかった上、春希と離れていたのは15分程度だったのだから。
軽くつまめるものをコンビニで買って帰った。
お母さんとお父さんは二人でどっかでディナー、弟は自分が男側幹事の合コンだ。かわいそう。ってかあいつ、彼女いないんだ、そっかー。部活バカだもんな、なんか安心した。しかも幹事。
せっかくのメイクだけど、きちんと落としてお風呂に入る。
ネイルもすごくキレイに仕上げてもらってある。
お店で写真撮ってもらって逆に良かったな。記念になったもの。
自分のスマホでも撮ってもらったものを見てみる。写真だとますます自分じゃないみたいだ。
こんなに綺麗にしてもらって、キラキラするパーティー会場へ行って、本当にシンデレラにでもしてもらったみたいだ――と考えて、ボンッと頭に血が上る。
うちに誰もいないのをいいことに、バンバンと水面を叩いてもだえた。
わーわーわー!!
なによ、シンデレラって!
私そんなに乙女チックじゃなかったでしょう!
え、男? 彼氏? 面倒臭い。とか、言えちゃうタイプだったでしょう!?
私の彼氏いない歴=年齢を知る人には、強がりにしか見えなくて痛々しいのばれてるけど!
はふぅとやっと落ち着いて、でも……と思い直す。
本当に、夢みたいだった。
すっごく恥ずかしかったけど、自分がすごい、宝物になったみたいな気分にさせられた。
私は同じだけその気持ちを返せるんだろうか。
そりゃあ、あの声は人類の宝だけれども! 崇め讃えるならばできるけれども!
っていやいやいやいや! ちょっと待とう、私!
別に付き合うとかそういう話じゃないから!
向こうだって私の人となりってやつを見極める権利があってですね、私にもその義務があってですね、つまり、茹っちゃうからお風呂出よう!
冷静になって考えよう!
浮かれるな私、落ち着け私、私が好きなのはdas Glueck Herzのdaiであって四ッ橋さんじゃないんだから。
ま、まぁ、声は好きですけど……。
ゆっくりスキンケアして、ゆっくり読み上げ機能の設定をした。
試しに流してみて、ちゃんと聞こえたのですぐ消す。
こ、これはまずいかも……。
男パイさんの声で、四ッ橋さんの顔が思い浮かぶようになっちゃったかもしれない。
声は男声に設定なので、もう気軽にパイさんを呼び出して頼めなくなったかも。
暇つぶしと言うか気晴らしと言うかに、ブラウザでパイさんを検索してみる。
パイさんの面白い回答集なるものを見つけて、スクロールしていく。
彼氏はいますかの質問にフフッとなって、彼女はいますかの質問にビクッとしたそのとき、ヴヴヴッとスマホが震え、バナーに通知が表示された。
こんな深夜に何件も。
「え、なに?」
時刻は0時ちょうど。
バナーをスワイプして広げると、メールが2件、SNSから1件、動画アプリから1件の通知が来ていた。
内容は全部一緒で、『das Glueck Herzの新しい動画がアップされました』。
ファンクラブやSNSのフォロー、動画サイトのお気に入り登録をしているので、新しい動画がアップされるとこれだけの通知になる。ちなみにファンクラブも無料なので、気軽に布教できて嬉しい。
「本当に? この前のリリースから一月も経ってないのに?」
開けば確かに知らないタイトルで、説明欄は普段なら、作詞作曲編曲者及び、メンバー以外の演奏者やCD、PV制作に携わった人たちなどのクレジットしかないのに、今回のクレジットの一番上には――
『愛しい人へ捧ぐ』
と、あった。
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