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★第30話★ 内緒話 下
しおりを挟む一方、ステラからの手紙を受け取った父コルピア侯爵は、邸宅には戻らず『業務繁多』を理由に執務室の仮眠室で寝泊まりする日々を送っていた。
大神殿からの呼び出しを避けるためである。
そしてラレーヌの《身体強化》魔法の発動も理由の一つだった。
執事長からの報告によると、母マルカもマエスト公爵家に行ったきりで、コルピア侯爵邸ではラレーヌが好きなように振る舞っているという。
使用人達もおびえ、邸宅や貴重品にかなりの破損が出ているとのことだ。
着替えなどを持ってくる執事長には、『ラレーヌには逆らわぬよう、今は好きにさせておくように。できれば無理のない範囲で証拠をとっておけ。屋敷の修理費用もだ』と命じていた。
ラレーヌの実父は騎士団で活躍した伯爵で、母マルカが一方的に恋焦がれ、マエスト公爵家の威光をかさに結婚していた。
前夫は離婚後すぐに幼馴染と再婚している。
どちらに気持ちがあったのかは明白で、マルカはプライドを深く傷つけられた。
さらにコルピア侯爵と相思相愛で結婚し幸せな結婚生活を送っていた妹グレースに嫉妬するようになった、と今では理解していた。
『《身体強化》とは厄介な。水魔法で対抗する手段を考えておかなければ』
ただし自分の魔力は通常レベルだ。どこまで対応できるか、不安はあった。
そんな時に、国王から呼び出しを受ける。
指定された場所は謁見の間ではなく執務室で、内々の話と思われた。
指定された時間通りに行くと、国王だけでなく、長い銀髪と鬚の老人がソファーに座っていた。瞳が緑と赤の金銀妖瞳だ。
神官服も最上位のもので威厳があり、この人物は大神官だろうと推測する。
勧めらるまま着席すると国王は大神官を紹介したあと、すぐに話を切り出した。
「そなたの娘ステラ嬢だが、ラルゴ辺境伯と結婚し辺境伯夫人となったそうだな」
「はい、私もつい先日の手紙で知り、驚いたばかりでございます。
お恥ずかしい限りですが、後妻と義理の娘は私がステラに目を掛けると、証拠を残さずに虐待するため、距離を取らざるを得ませんでした。
すまないことをしたと思っております」
「なるほど。継子いじめか。よくある話だ。
そなたに来てもらったのは他でもない。ラルゴ辺境伯への使者となってほしいのだ。
このような書状が送られてきてな」
侯爵はクラヴィが送った書状に目を通す。
父親としては拍手喝采で、後押ししてやりたい内容だが、国王に仕える家臣としては難題だった。
「国王陛下。大神官様。娘を王都に召喚する理由を教えていただけますか?
『“聖具”も奏でられない、他者への《治癒》もできない“底辺聖女”と呼ばれ、「二度と王都には戻れない」とされる左遷人事でラルゴ神殿に赴任した。ラルゴに骨を埋める所存だ』と、私宛ての手紙にはございました。
娘ステラに生前贈与のつもりで託した財産も、ラルゴの銀行に移されています。
娘に何があったのでしょう?」
ステラからの手紙で大まかに知ってはいるが、二人がどう返事をするかで、今後のステラの扱いがわかるというものだ。
「ラルゴ神殿への異動は、不正を働いていた神殿長が、元“首席聖女”ピアにそそのかされ勝手に行ったものだ。
私は知らず、ステラの魔力の《萌芽》を感じ取り、問いただしたところ判明した。
お父上であるコルピア侯爵殿には、預かった娘御を粗略に扱ったとお思いであろう。
誠に申し訳なく思う」
「実際は粗略どころか、何度も殺されかけているようですが?
それで力の《萌芽》を感じ、大神殿に連れ戻し、どうされたいのでしょうか」
「それは……」
「娘は辞職しもはや聖女ではない。神殿の使者では連れ戻す権利はない。
そこでステラの父親で国王陛下の臣下である私を、使者に立てればよい、とお見受けしました。
そこまでしてステラを帰還させたい理由をお聞かせください」
「………………」
大神官が口を閉ざし沈黙が支配する。それを破ったのは国王だった。
「コルピア侯爵。ステラ嬢、現ラルゴ辺境伯夫人だが、非常に高い確率で大聖女殿となる人材なのだそうだ」
「国王陛下?!神殿の外では極秘事項でございます!」
「よいではないか。なった場合は嫌でも知ることだ。多少前後しても構うまい。
大神官殿がされていらっしゃる“護国の祈り”を引き継いでほしいのだ。
前代の大聖女殿の急逝を受け、大神官殿お一人で行ってきたがもう限界に近づいているそうだ。
“護国の祈り”が途絶えればどうなるか、そなたも知らない訳ではあるまい?
故にラルゴに赴き、辺境伯夫妻を王都へ連れてきてほしい」
「…………その前に、この三つの条件を解決しないと、ラルゴ辺境伯は動かないと思われます。
ラルゴは半独立国家です。さらにこの強気な文面。
大神官様が《萌芽》を感じられたなら、すでに娘はラルゴ領で“護国の祈り”をしており、ラルゴは安全圏にあるのではないでしょうか?」
「ふむ、そういう可能性もあるか……」
「しかし《萌芽》以降はステラの力は感じ取れぬのだ」
「大神官様が感じ取れないまでに、娘の力が《覚醒》していればいかがでしょうか?」
「?!?!」
「私も王立学園の魔法科で多少は学んだ身でございます。
在学時の実践訓練では、明らかに魔力が上の者は、発動までにその力を感じ取らせないようにしておりました。
“護国の祈り”の場合は違うかもしれませんが、私が伝え聞くだけでも、代々の大聖女様はさまざまな魔力を有していらっしゃいました。
大神官様のほうがよくご存知なのではないでしょうか」
「……確かに、その可能性は、ある」
「つまり辺境伯夫人はすでに大聖女殿並みの能力を有していると、いうことか?」
「ということもあり得る。この文面からは特に感じ取れる、ということでございます」
「ふむ。わかった。この三つの条件を受け入れよう」
「国王陛下?!本気でございますか?」
「ああ。大神官殿。ついでにこのところ鼻に付くヤツらも一掃したいのだ。
過去の栄光を振りかざし、実際の政務の役に立たないどころか害毒な者は、この国にとって魔物よりタチが悪い。
私が一筆書けば、さすがのラルゴ辺境伯も逆らえまい。
国王を信じられぬということで、謀反の意がありと言われても仕方ないこととなる。
さすがに出てこよう」
「かしこまりました。具体的には?」
三人でその段取りを決めたあと、国王は最後にコルピア侯爵に命令する。
「そなたの息子、モルデンだったか。その子をこの王城に連れてくるよう、領地に早馬を出せ。
念のため身の安全を確保しておこう。安心してラルゴに行くがよい」
コルピア侯爵は、『二重の意味で人質だ』と悟る。
自分と、そしてステラに対してだ。しかし王命だ。逆らいようもなかった。
「息子にまでご配慮くださり、誠にありがとうございます。
では勅書を拝受し準備が出来次第、出立させていただきます。
段取り通り進めていただくよう、よろしくお願いいたします」
コルピア侯爵は最後に念押しし、執務室を後にした。
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