恋も地位も失った令嬢ですが、転移した森で出会った獣人に胃袋を掴まれました

タマ マコト

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13話「『利用されていた』事実と、黒豹の怒り」

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 焚き火の炎が、ぱちぱちと乾いた音を立てていた。

 夕刻の森は、昼よりも音がよく響く。
 鳥の声は減り、代わりに遠くの風と、木々が擦れ合うざわめきが大きくなる。

 その真ん中で、王都と森という、あまりにも違う空気がぶつかり合っていた。

「ルシア」

 デュルクが、少しだけ距離を詰めた。

 鎧の金具が、きぃ、と微かに鳴る。
 青いマントの裾が、焚き火の風で揺れた。

「君が戻れば、大公家も救われる」

 その言葉は、やけに滑らかだった。

「……救われる?」

 反射的に問い返している自分がいた。

「今、王都では、アルセイド大公家への批判が強まっている。
 “令嬢一人守れない家が、王国の柱を名乗るのか”と。
 王宮にも、貴族たちから圧力が来ている」

 淡々とした説明。
 でも、その中に“焦り”が混ざっているのが分かる。

「君がいないと、家はずっと攻撃され続ける。
 大公家の名誉も、父君の立場も、これから先ずっと傷つきっぱなしだ。
 ――君が戻れば、それが一気に覆る」

(出た)

 胸の奥が、冷静にその言葉を分類する。

 “君が戻れば”。
 “家が救われる”。
 “父の立場”。

 私に向けているようでいて、実際には全部“家と王宮の都合”の話だ。

 でも、かつての私だったら――。

(これだけで、戻ってたかもしれない)

 頭を下げて、「ご迷惑をおかけしました」と言って、大人しく馬車に乗り込んでいたかもしれない。

 私がいないことで家に迷惑がかかっている。
 父が批判されている。
 王宮の空気が乱れている。

 その事実だけで、自分を責め尽くして。

「……私が戻れば、全部丸く収まる、ってことですか」

 口の中に、苦い味が広がる。

「そうじゃない」

 デュルクは首を振った。

「君自身のためでもある。
 この森で、どんな暮らしをしていたかは知らない。
 だが、ここにいる限り、君はずっと“行方不明の令嬢”のままだ」

「“行方不明”」

「王都の記録上はな」

 彼の声は変わらず冷静だった。

「だが、君が戻れば、“一時的な事故”として処理できる。
 君は改めて大公家の娘として、その立場を取り戻せる」

 ――“立場”。

 それが、彼の口から出てくると、妙に重く響いた。

 私は、しばらく黙ってデュルクの顔を見ていた。

 昔は、その横顔が好きだった。
 いつも先を見ていて、冷静で、周りより一歩先のことを考えていると思っていた。

 でも今は、そこに貼り付いている“王宮のマスク”が、はっきり見える。

 言葉の一つひとつが、計算されている。
 私の「責任感」をくすぐるように、綿密に選ばれている。

 家。
 名誉。
 立場。
 批判。
 救済。

 全部、“私が弱いところ”だ。

 森に来る前なら、その通りに心が動いていた。

 でも——今の私は、違う場所も知ってしまった。

 焚き火を囲みながら、焦げたスープを笑い合った夜。
 火の起こし方を何十回も失敗して、指を擦りむいた日。
 リュナに保存食を教わって、初めて「うまくできた」と褒められた夕暮れ。

 そして——
 「飯が楽しみになった」と、ぽつりと言った黒豹の背中。

 その全部が、私の中に根を張っている。

「……私がいないと、アルセイドは批判され続けるんですね」

 ゆっくりと口を開く。

「父が、責められる。
 大公家の名誉が傷つく。
 王宮の人たちは、“失踪した娘を何とか回収しろ”って言う」

「そうだ」

 デュルクははっきり頷いた。

「……君は、大公家の令嬢だから」

「でも」

 その言葉を遮るように、続けた。

「じゃあ、私は?」

「え?」

「私は、また“駒”として戻るの?」

 自分でも驚くくらい、静かな声だった。

 怒鳴りたいわけじゃない。
 泣きたいわけでもない。

 ただ、本当のことを知りたいだけ。

「大公家の令嬢として。
 “問題を片付けるための存在”として。
 “王宮と大公家の橋渡しになる便利なピース”として。
 それを、またやれって言うんですか?」

 デュルクの喉が、ぴくりと動いた。

 焚き火の火が、ぱちっと弾ける。
 騎士たちの視線が、遠巻きにこちらを窺っているのが分かる。

「……違う。君は“駒”なんかじゃ——」

「じゃあ、聞かせてください」

 遮る声が少し強くなった。

「デュルク様は、今、ここに立っている“私”を見ていますか?
 それとも、“アルセイドの令嬢”を見ていますか?」

 数秒間、完全な沈黙が落ちた。

 デュルクの表情に、一瞬だけ迷いが走る。
 視線が揺れ、言葉を探すように唇が動いた。

 そして——

「……君には、大公家の名も教養もある」

 彼は、選ぶべきでない言葉を選んでしまった。

「王宮としては、それを使わない手はないだろう?」

 “名”と“教養”。

 それが、彼の口から出た瞬間、胸の奥で何かが冷たく砕けた。

(ああ)

 はっきり分かってしまった。

 私のことを“ルシア”として見ていないわけじゃない。
 きっと、彼なりに心配もしているし、罪悪感もある。

 それでも——

(“使えるもの”として見ている)

 それが、彼の本音だ。

 大公家の名。
 教養。
 宮廷で磨いてきた礼儀と笑顔と立ち振る舞い。

 それらを「使わない手はない」と言ってしまえるくらいには、彼は“王宮”の人間なんだ。

 焚き火の匂いの向こうから、別の匂いが漂ってきた。

 湿った土。
 野生の毛皮。
 焦げた木。

 ——獣人の匂い。

 振り返るまでもなく、誰かが木陰に立っているのが分かった。

 黒い耳。
 黒い尾。
 黄金色の瞳。

 さっきの言葉を、きっと全部聞いてしまった。

 カリオンの視線が、デュルクに向けられている。

 その瞳は、いつもの無関心な光ではなかった。

 深い、底冷えのする怒りが、静かに燃えている。

(やば……)

 背筋が冷える。

 カリオンは、基本的に何事にも淡々としている。
 人間の世界のゴタゴタなんて、本当はどうでもいいと思っているはずだ。

 でも、“食べ物”と“仲間”に関することだけは違う。

 そして今——
 “森で一緒に飯を食ってきた女”が、“使える駒”扱いされている。

 それを聞いて、怒らないはずがない。

「……つまり」

 カリオンは、一歩、木陰から出てきた。

 鎧の音が止まる。
 騎士たちの手が、反射的に剣の柄に伸びる。

 黒い耳が、わずかに後ろに倒れている。
 尻尾は低く、しかし緊張で膨らんでいた。

「お前ら人間は、“名”とか“教養”とかいうものを、
 “使える道具”って呼ぶのか」

 低く、抑えた声。

 デュルクがわずかに目を細める。

「……君は」

「黒豹の獣人、カリオン」

 名乗るつもりなんてなかったのに、口が勝手に言った。

 私の方が先に言っていた。

「この森で、私を助けてくれた人。
 火の起こし方も、料理の仕方も、生き方も教えてくれた人です」

 口に出した瞬間、自分で少し震えた。
 自分の中でのカリオンの位置が、はっきりしたみたいで。

 デュルクの表情が、ほんのわずかに強張る。

「……獣人、か」

 その単語には、警戒と敵意と、好奇心が混ざっていた。

 カリオンは、そんな視線を一切気にしていないようだった。

 ただ、歩く。
 私の前に一歩出て、半分だけ庇うような位置に立つ。

「お前」

 不意に、こちらを見下ろした。

「さっきの話、聞いたか」

「……聞いた」

 喉がひりつく。

 “使わない手はない”。
 その言葉の棘が、まだ胸の中に残っている。

「お前の“名”と“教養”とやらを、“使う手がある”んだとよ。
 戻れば、また“都合よく切り分けられたお前”を使うつもりらしい」

「カリオン」

 止めようとした。
 でも、止まらなかった。

 カリオンの黄金色の瞳は、デュルクに向けた瞬間、さらに鋭くなっていた。

「お前」

 呼び方に一切の敬意はない。

「この女が森で何をしてきたか、想像もしてないんだな」

「……何を、とは?」

「火を起こして。薪を担いで。手を切って。焦げたスープをすすって。
 うまい飯を作るために、何度も味を外して、舌を馬鹿にされながら、それでも挑戦して」

「誰が馬鹿にした」

「俺だ」

 こっちはこっちで、いつもの調子で返してくる。

「そうやって、こいつは“飾りじゃない自分”を手に入れようとしてた。
 それを聞いたうえで、“名と教養が使える”って言葉が出るなら……」

 一拍置いて。

「俺は、かなりお前が気に入らねえ」

 静かな怒り。
 怒鳴りもしないし、威嚇の唸り声も出さない。

 けれど、体の周りにまとわりつく空気だけが、目に見えるほど冷たくなっていく。

 騎士たちが、完全に武器に手をかけた。
 何人かは魔術の詠唱に入ろうとしている。

 デュルクが片手を上げて、それを制した。

「下がれ」

 短く命じる。

 彼は、カリオンをじっと見た。

「……俺の言い方が悪かったと認めよう」

「言い方?」

 カリオンの耳が、ぴくりと動く。

「本音を誤魔化す言葉はいくつもある。
 だが、“使わない手はない”というのは、たしかに“駒として見ている”と言われても仕方がない言い方だった」

 認めた。
 意外なほどあっさりと。

「俺は王宮の人間だ。
 王家の下にいる限り、人を“役目”や“立場”で見ることを完全にやめることはできない」

 その言葉は、言い訳でもあり、告白でもある。

「だが、それは“ルシアに感情がない”という意味じゃない」

「ふうん」

 カリオンは、あからさまに興味なさそうな声を出した。

「お前が何を思っていようが、お前の中で“俺の女”が“使える駒”と並列に扱われている時点で、俺には十分だ」

「お前の女?」

「カリオン」

 思わず素っ頓狂な声が出た。

「誰がいつ“そう”なったのよ!」

「違うのか」

「違わない……けど……今その言い方する!?」

 顔が一気に熱くなる。

 デュルクの視線が、一瞬だけ私に向いた。
 その目の奥で、何かがきしむ音がした気がした。

 沈黙。
 焚き火の火が、やけに大きく揺れる。

 それ以上何か言えば、本当に刃が抜かれるかもしれない。
 そういう危うさが場を満たしていた。

 だから、私は深く息を吸い込んだ。

「もう、やめて」

 声が震えないように、必死で抑える。

「今ここで争っても、何もいいことにならない」

 カリオンの方を見て、目で訴える。
 デュルクの方にも向き直って、言葉を選んだ。

「デュルク様」

「……ああ」

「“私がどうするか”の答えは、今ここでは出せません」

 はっきりと言った。

「大公家のことも、王宮のことも、父のことも。
 そして、森での暮らしも。
 どれも、簡単に天秤にかけられるものじゃないから」

「だが——」

「戻るべきかどうか、ちゃんと考えます」

 胸が痛い。

「でも、その前に。
 “私が利用されていた”事実から、目を逸らさないようにします」

 “名”や“教養”を、“使えるから使う”。
 その考え方に、自分も乗っかっていた。

 “飾りでも、誰かの役に立てるならいい”って自分に言い聞かせていた。

 それが、どれだけ自分をすり減らしていたか。
 今なら、はっきり分かる。

「……そうか」

 デュルクは、苦い顔をして頷いた。

「時間を置くのが、今は正しいのかもしれないな」

 彼の声も、どこか疲れていた。

 エリセは、そのやりとりを少し離れたところから眺めていた。
 口元にうっすらと笑みを浮かべながらも、その瞳は鋭い。

(“利用されていた”って、自分で言うのね)

 そんな声が聞こえてきそうだった。

 *

 その夜。

 森は、王都の軍の焚き火の光から少し離れた場所で、いつも通り暗かった。

 カリオンの住処。
 洞窟の中には、いつもの焚き火がある。
 鍋の中では、今日も何かが静かに煮えていた。

 でも、空気はいつもと違った。

「……で」

 カリオンが、焚き火を見つめたまま口を開いた。

「戻るつもりなのか」

 真正面から来た。

 私は、膝の上で組んだ指をぎゅっと握った。

 焚き火の光が、指の関節を赤く染める。

「もしかしたら」

 やっと出た声は、自分でも頼りなかった。

「私は、戻るべきなのかもしれない」

 言った瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。

 カリオンの耳が、ぴくりと動く。

「“べき”ね」

「家のことも。
 父のことも。
 王宮のことも。
 全部放り出して、ここで楽しく生きてます、なんて——」

「誰も言ってない」

 カリオンの声が、少しだけ低くなる。

「“楽しく生きてる”って自分で思ったなら、それはそれでいいことだろうが」

「でも」

 焚き火の火が、視界の中で揺れる。

「私がいなくなったことで、誰かが責められてる。
 私が逃げたことで、誰かの立場が危うくなってる。
 その事実を知ってしまって、それでもここにいるのは——」

「逃げか」

 短く言い捨てられる。

 照り返しのような言葉だった。

 彼が“逃げることを恥じていない”のは知っている。
 でも、今のそれは、私の中の言葉をそのまま反復しただけだ。

「逃げてばかりいたくないって言ったのは、お前だ」

「うん」

「森に来てから、“逃げずに向き合いたい”って言ったのも、お前だ」

「うん……」

「だったら、“戻るべきだから戻る”って考え方も、結局は“逃げ”じゃねえのか」

 焚き火の火が、パン、と小さく弾けた。

 その音に合わせるみたいに、胸の中で何かが跳ねる。

「どういう意味」

「“大公家のため”“王宮のため”“父のため”——」

 カリオンは指で折りながら、言葉を並べる。

「それを全部並べて、“だから戻るべき”って言えば、“自分”で考えなくて済む。
 “責任”って言葉に丸ごと押しつけて、自分の心を見なくて済む」

「そんなつもりじゃ——」

「ないのは分かってる」

 ぴしゃりと遮られる。

「分かってるから、余計に腹が立つ」

 その一言に、息が止まりそうになった。

 腹が立つ。

 それは、彼があまり口にしない感情だ。

 カリオンは、焚き火を挟んで向かい合う位置に座り直した。

 黄金色の瞳が、炎越しにこちらを射抜く。

「お前はこの森で、やっと“自分の飯を、自分で作る味”を覚えた。
 火の熱さも、包丁の重さも、薪の湿り気も、全部自分の手で確かめてきた」

「……うん」

「それを、“名誉のため”“体裁のため”“責任のため”って言葉で、
 簡単に上書きしてほしくない」

 声が、少しだけ震えていた。

 歯を食いしばっているのが分かる。

「お前の決めることだ」

 ぽつりと、言う。

「お前がどこにいるかは、お前が決めるべきだ。
 戻るにしても、残るにしても、最後に選ぶのはお前だ」

「……」

「俺はそこに口を出す権利なんかない。
 黒豹の獣人に、“人間の女の行き先”を決める資格なんかない」

 拳を握る音が、ぎゅっと聞こえた気がした。

「だから——」

 言葉を区切る。

「“戻るな”って言えないことが、腹が立つ」

 やっと、出てきた本音だった。

 胸の奥が、じん、と痛くなる。

「……言っていいのに」

 思わず漏らしていた。

「“戻るな”って言ってくれたら、私、きっとそれを理由にして、ここにいるって言えるのに」

「だからだ」

 カリオンの声が少し強くなる。

「それを言った瞬間、お前はまた“誰かの言葉”のせいにする。
 “カリオンが戻るなって言ったから”って。
 “黒豹のせいで戻れなかった”って」

「そんな——」

「今はそう思ってなくても、いつかそうなる。
 人間の世界は、そうやって責任を押しつけ合う場所なんだろ」

 彼の中にある“人間への不信”が、静かに顔を出す。

 ここに来るまでの間に、獣人たちが人間に何をされたか。
 私はまだ全部を知らない。
 でも、その一端は聞いた。

 城を建てようとした貴族たち。
 森を削ろうとした人間たち。
 「共に生きる」と言いながら、最後には支配しようとした奴ら。

 カリオンの怒りは、その記憶も全部背負っている。

「……ごめん」

 気づいたら、そう言っていた。

「私、たぶん、まだちゃんと“自分で選ぶ”ってことが怖いんだと思う」

 大公家の娘として。
 王宮の駒として。
 誰かの期待に応えることばかり考えてきた。

 自分の心を優先したことなんて、ほとんどなかった。

「“戻るべき”って言葉の方が、ずっと楽だから」

「楽じゃねえよ」

 カリオンは即答した。

「戻ったら戻ったで、お前はまた“正しさ”の中で息を止める。
 森に残ったら残ったで、“捨ててきたもの”の重さに押しつぶされる。
 どっちも楽じゃねえ」

「……じゃあ、どうしたらいいの」

 情けない声が出た。

「私は、どこにいたらいいの」

 焚き火の光が、涙で滲む。

 カリオンは、しばらく黙っていた。

 炎の揺れが、黄金色の瞳の奥を照らす。

「知らねえよ」

 やっと絞り出した声は、驚くほど正直だった。

「俺は、お前の父親でも王でも神でもねえ。
 “ここにいろ”“あっちに行け”って指図する役目じゃない」

「でも——」

「一つだけ言えるのは」

 言葉が重ねられた。

「どこにいても、“お前が自分で選んだ場所”なら、俺は納得する。
 “誰かの都合に押し流されて決めた場所”なら、どっちでも腹が立つ」

 胸の奥が、きゅっと締め付けられる。

 優しさと不器用さと怒りが、全部ごちゃ混ぜになった言葉。

「……カリオンは」

 震える声で問いかけた。

「私に、どこにいてほしいの?」

 焚き火の音だけがしばらく続いた。

 カリオンは、ゆっくりと目を伏せる。

 歯を食いしばる音が、かすかに聞こえた。

 やがて——

「言ったら、俺の負けだろ」

 ぽつりと落ちた。

「お前に“責任を押しつけない”って決めたから、敢えて言わない」

 その言い方が、妙に悔しそうで。
 私の胸の奥に、じわりと熱いものが広がっていく。

 心と心が、少しだけすれ違ったようになる。

 “戻るべき”と思う私と、
 “戻るな”と言えないカリオン。

 どちらも、相手を縛りたくなくて、逆に互いの心に爪を立てている。

 焚き火の炎が、もう一段低くなる。

 森の外では、王家の旗が夜風にはためいているはずだ。

 古い世界の影と、新しい世界の匂い。
 その狭間で、私たちは黙り込んだまま、ただ火を見つめていた。
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