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第3話 黒の森の入り口
しおりを挟む関所の朝は、鈍い灰色から始まった。
濃い雲が空を低く押さえつけ、風見鶏は一晩中鳴き疲れた喉を休めている。私――ルビー・カルネリアンは宿の窓を開け、湿った空気を胸に入れた。冷たい匂い。土、水、古い木の皮、そして――焦げの気配。遠くないどこかで、誰かが火を扱っている匂い。
食堂で薄いスープを胃に流し込み、固いパンを齧る。食べ物が喉を通る限り、私はまだ“生きる側”にいる。
御者は関所で別れた。ここから先は道が荒れる、王都からの委任状もここまで、とのことだった。彼は何度も帽子をとって会釈し、私の手から報酬を受け取ると、目を合わせぬまま馬車を返していった。
私は荷を背負い直す。麻袋は軽い。着替え、包帯、火打石、短い刃物、祖母の書付。胸元の紅玉が、掌越しに硬く冷たい。
関所の柵をくぐると、道は薄暗い帯になっていた。木々が両側から身を乗り出し、枝で空を編む。鳥は鳴かない。風が葉を撫でる音だけが、耳の奥で小さく絡み合う。
黒曜の森――王国の地図に“空白”として塗られる場所。誰も正確な輪郭を描けない、季節と記憶が歪む領域。
一歩、踏み込む。靴底が柔らかい泥に沈む。体重を預けると、ぬるりと足首が吸い込まれ、冷たさが骨へと這い上がってきた。
息を吸う。空気に棘がある。肺の内側を細い針でなぞられるみたいに、ちくちくと痛い。
平気。まだ平気。
私は歩く。歩くたび、世界の色が少しずつ濃くなる。緑は黒の手前で止まり、灰は銀に寄り、土の褐色は湿りを増す。足跡の後ろで、泥がゆっくり閉じる。戻る道を飲み込み、私の存在を曖昧にしていく。
やがて、森の匂いに別の層が重なった。鉄の匂い。血。小動物がやられたのか、それとも――。
かすかな唸り声が、右の茂みから滲み出る。低い、喉の奥を擦る音。続いて、葉が弾ける。
私は反射的に止まる。足の筋肉が硬直する。背筋を伝う汗が、冷たく細い。
見える。暗さに慣れてきた目が、茂みの中の二つの光点を捉える。黄色。獣の目。
剥き出しの歯が濡れ、唾液の糸が垂れる。狼?――違う。肩が不自然に盛り上がり、皮膚が樹皮みたいに裂けている。牙の根本に小さな棘。森の毒を食べて変じた、境界の獣。
「下がって」
自分に言う。足が従う前に、獣が跳んだ。
世界が一瞬だけ速くなり、次の瞬間には遅くなる。私は横に跳ね、泥に足をとられて膝をつく。爪が空を掻き、私の頬に冷たい風が当たる。
立て、立て、立ちなさい。
祖母の声が耳の奥で鳴る。私は腰の短刃を引き抜き、構えもへったくれもなく正面に突き出す。
獣がもう一度低く唸り、こちらを測る。距離。筋肉の流れ。呼吸の間隔。
そして――飛ぶ。
刃が肉に当たる感触は、思っていたより柔らかい。ぬるい。腕に重み。瞬間、獣が全体で私を叩き、視界が反転する。背中が地面に叩きつけられ、息が抜けた。
頬に泥。舌に鉄。肺が火傷したみたいに熱い。
獣の鼻息が顔にかかる。近い。近すぎる。
手の中の刃が抜ける。血が跳ね、頬に点々と冷たい斑点を描く。
――その時だ。
空気が、鋭い金属の軋みで裂けた。
耳のすぐ脇を、何かが切り裂く。風ではなく、刃の走る音。
獣の咆哮が、途中で折れた。
腹の上の重みがふっと消え、私は本能で横に転がる。遅れて、黒い影が地面に沈んでいく音が聞こえた。
「起きろ」
低い声。砂利の上に落ちる鋼のように乾いた響き。
視界に、長い影が差す。
私は肘で身を起こし、顔を上げた。
男が立っていた。
黒。最初の印象は、それだけだった。
黒い外套。濡れた鴉の羽みたいに光を吸う革の鎧。刃渡りの長い剣。腕、肩、喉もとが無駄なく締まり、顔の骨格は削り出したように硬い。
そして――目。
漆黒の瞳。光を受け止めず、映さず、ただ世界を貫く黒。見られるというより、測られる。体温、呼吸、心拍、足場、逃げ道、すべてをまとめて一挙に斬断される感覚。
「生きたいなら、立て」
男はもう一度言い、私の足元に落ちた獣を無造作に蹴った。
獣は首の根元から斜めに割れていた。さっきの音は、これだ。
私はよろめきながら立ち上がる。膝が笑う。泥が裾を重くする。
「……助けたの?」
「通りすがりに障害を片付けただけだ」
声は冷たいが、怒ってはいない。むしろ、常温。
私は呼吸を整える。肺に針が残っている。
「ありがとう、って言うべきね」
「言葉は要らない。――動けるか?」
「動ける」
「なら、動け」
彼は短く言うと踵を返し、森の奥へ歩き出す。足音が驚くほど静かだ。土も葉も、彼の下では音を立てるのを遠慮しているみたい。
「ちょっと待って。あなたは誰?」
「通りすがりの傭兵」
「名前」
「要るのか?」
「呼ぶのに困るでしょう」
男は一瞬だけ肩越しに私を見る。その視線に、わずかな光が生まれた。
「――オブシディアン」
石の名。黒曜石。
私は口の中で繰り返し、味を確かめる。「オブシディアン」
「お前は?」
「ルビー」
男の眉が、ほんの少しだけ上がる。「石が喋った」
「人間の名前よ」
「そうか。じゃあ、ルビー」
彼はまた歩き出す。
森の奥から、風が入れ替わる気配がした。匂いが変わる。湿り、苔、淡い腐臭、混じって――火の匂い。
オブシディアンは鼻でそれを嗅ぎ分け、わずかに顎を上げた。「この先、獣が多い。道はない。戻るならここだ」
「戻らない」
「死ぬかもしれない」
「死なない」
返事は自分でも驚くほど速かった。迷いの層が剥がれて、芯だけで話している感じ。
オブシディアンはわずかに口角を動かした。笑い、というには短い。
「なら、ついて来い。足を止めるな。息の音を殺せ。枝を踏むな。目でなく耳で見ろ」
「わかった。――でも」
「何だ」
「さっき、どうやって斬ったの?」
「斬れるように斬った」
「……教える気はないのね」
「生き延びたら、少しは」
私は頷き、彼の背中を追った。
歩幅は大きくないのに、進む速度が速い。足の置きどころが巧い。滑る根、沈む泥、折れる枝、彼はそれらを事前に知っているかのように避ける。その背中を追いながら、私は自分の呼吸を数えた。四歩で吸い、六歩で吐く。心拍が早すぎると、森がこちらへ近づいてくる。間合いを一定に保つ。
「何で一人で森に入った」
唐突に、オブシディアンが訊いた。
「追放されたの」
「王都から?」
「昨日」
「婚約破棄か」
足音も、声も、揺れない。どうしてわかるのか、と聞くのは野暮だ。私のドレスの裾、爪の手入れ、靴の質、歩き方、全てが物語っている。
「王太子と聖女。噂は森まで届く」
「じゃあ話は早いわね」
「早いが、軽くはならない」
「軽くしてほしいとも思ってない」
「なら、良い」
短い会話が途切れ、葉擦れの音だけが戻る。
少し開けた場所に出ると、地面に古い焚火の跡があった。炭が白く、灰が風に撫でられて形を変える。
オブシディアンが屈み、灰の端を指で崩す。
「三日前。獣を焼いた匂いが残ってる。――こっちだ」
私が灰を見下ろすと、胸の紅玉がじんわり温かくなった。火は呼び合う。石も、火を覚えている。
「あなた、森の人?」
「いいや。王都の外の整った道より、こっちのほうが口に合うだけ」
「口に合う、ね」
「噛みごたえがある」
私は思わず笑ってしまう。自嘲にも似た短い笑い。笑い声が低木に触れ、すぐに吸い込まれる。森は音を飲む。
「笑ってる余裕があるか」
「余裕じゃない。確認よ。まだ私の喉は音を出せる、って」
「なら、無駄に出すな」
「はいはい」
彼は振り返らないが、少しだけ肩の線が緩む。
しばらく進むと、足場が滑りやすくなった。苔むした岩が散らばり、小川が道を横切る。水は透明なのに、底が見えない。透明は時々、深さを隠す。
オブシディアンが先に渡り、手を差し出す。
「掴め」
私は一瞬、迷う。誰かに手を引かれるのは久しぶりだ。宮廷の舞踏でも、誰かの手は礼儀であり、政治であり、求愛のふりをした配分でしかなかった。
彼の手は、それらのどれでもない。ただ、手だ。硬く、温かく、現実を引き上げるための重さ。
私はその手を掴む。骨と腱の形が掌に触れ、引かれる。足が濡れ、裾が水を吸い、冷たさが膝に上がる。岸に足を乗せると、彼はすぐ手を離した。
「ありがとう」
「礼は川に言え。俺がいなくても流れてる」
「性格悪い?」
「事実だ」
「じゃあ、事実に礼を言う。助かった」
彼は答えず、再び歩き出す。
森は深くなる。樹々の幹は太く、根は地表を走り、ところどころに古い刻印が彫られている。人のものとも、獣のものともつかない印。
足元で、羽音が跳ねた。見下ろすと、黒い蛾が羽を広げている。羽の模様は目に似て、こちらを見返す。
「縁起の悪い虫」
「ここでは全部が悪い。だから、同じ」
「慰め?」
「現状報告」
少し開けた窪地に、倒木が一本。苔に覆われ、白い茸が半環状に並ぶ。オブシディアンはそこに腰を下ろし、水袋を投げた。
「飲め。腹は?」
「まだ平気」
「嘘だな」
「貴族は嘘が得意」
「森は嘘に厳しい」
私は水を一口飲む。喉がすぐに喜ぶ。胃が手を伸ばしてくる。「もっと」と催促する。
「――で、ルビー。何しに森へ」
「生きるため」
「普通は、森の外で生きる」
「私の外は、もう外じゃなくなった」
「例えば?」
「名前を剥がされた場所、とか。息をするたび、誰かが“ため”を求める空気、とか」
「お前自身の“ため”は、どこにある」
火箸で炭を突かれるみたいな問いだった。
私は少しだけ考え、言葉を選ぶ。「……見たいの。崩れる瞬間を。王都の美しさが割れて、内側が露わになるところを」
「復讐か」
「違うなら、良かった?」
「違わなくていい。復讐は燃料になる。問題は、燃やす炉があるかどうかだ」
「炉?」
「心臓。折れない骨。迷わない足。――それと、手元の刃」
彼は自分の剣を膝に置き、指先で刃の背を弾く。澄んだ音が、森の膜に小さく波紋を作る。
「お前の刃は何だ」
胸元の紅玉が、言葉より先に答えるみたいに、熱を帯びる。
私はペンダントを握った。「これ。まだただの石だけど」
「石は火を覚える」
「祖母も言ってた」
「なら、火を見せろ」
彼は倒木から立ち上がり、周囲を一瞥した。「日が落ちる。森の入り口とはいえ、夜は別物になる。今夜は俺の野営地まで行く。走れるか」
「走るのは得意」
「嘘だ」
「踊るのは得意。似てるでしょう?」
「……半分正解だ。ついて来い。息を合わせろ。三、二、今」
彼の合図と同時に、私たちは走り出した。
根の上を蹴り、枝の下を潜り、低い茂みを跳ぶ。オブシディアンの背は、動く標識だ。彼の肩の傾きで次の方向が読める。彼の呼吸の間で、こちらの息を合わせる。
森が近い。目の前に迫る。顔に葉が当たり、匂いが変わり、地面が柔らかさを増す。
右から風が押す。獣の匂い。彼が手を挙げる。私は体を沈め、茂みの影に滑り込む。
数呼吸の後、灰色の毛並みが視界を切った。巨大な猪。目は赤。鼻面が湿り、地面の匂いを探る。
オブシディアンは動かない。石像。私は彼の影に身を埋め、心臓に指を当てる。打つ音が指先に跳ね返る。静かに。静かに。
猪が鼻を鳴らし、別の方向へ行く。
彼は指を二本立て、東の方角を指した。私は頷き、再び足を動かす。
走りながら、ふと、思った。
――私、笑ってる。
頬の内側が熱く、目の奥が冴えている。怖いのに、楽しい。楽しいのに、悔しい。悔しいのに、嬉しい。感情が絡み合い、ほどけず、でも、絡まったまま前に進む。
王都での足取りは、誰かの拍手のためのものだった。今は違う。足音は私のために鳴っている。土が私の体重を受け止めて、返してくる。この単純さが、こんなにも甘いとは。
やがて、黒が少しだけ薄まる場所に出た。大木が輪のように立ち、その中央に窪んだ地面。焚火の跡、革袋、干し肉、折り畳まれた布。
「ここが入口の縁だ。森の喉元。これより先は、飲み込むつもりで来い」
「飲み込まれない自信は?」
「喉仏を殴れば吐き出す」
「喩えが物騒」
「物騒で足りる場所だ」
彼は慣れた手つきで火を起こす。火打石の音が乾き、火花が麻に移り、息で育ち、細枝がパチパチと嬉しそうに鳴る。
私は火の近くに座り、靴を脱いだ。足指が自由を思い出し、こっそりと喜ぶ。
「さっきの獣、あなたが来なかったら私は死んでた」
「そうだ」
「あっさり」
「事実だ」
「……それでも、助けた」
「目の前で腐る死体は面倒だ」
「それだけ?」
「それと――」
オブシディアンは火越しに私を見る。黒い瞳の奥で、小さな光が二つ、火を写す。
「お前は、まだ燃える顔をしてる」
「燃える顔?」
「燃えるやつは、勝手に歩く。勝手に転ぶ。勝手に起きる。勝手に強くなる。放っておけば勝手に死ぬ。たまに起こしてやれば、勝手に助かる。――効率が良い」
「褒めてる?」
「使える、って言ってる」
「人でなし」
「人だ。だが、森で“いい人”は死ぬ」
私は吹き出した。
火が少し跳ね、火の粉が宙に浮かぶ。小さな星。すぐに消える。
ポーチから祖母の書付を取り出し、膝の上で広げる。オブシディアンが興味なさげに横目で見る。
「読めるのか」
「言葉は読める。意味は、これから」
「火を扱うなら、手の皮を厚くしろ。理屈より先に」
「やってみる」
私は火に掌をかざす。熱がじんわりと皮膚を舐め、血管が温まる。胸の紅玉がそれに呼応するみたいに、針の先ほどの熱を返す。体の中の何かが、ゆっくりと眼を開ける。
火に話しかけるみたいに、息を吐く。
炎が一拍、揺れた。
オブシディアンが顎を僅かに動かす。「今のは、お前がやった」
「偶然じゃない?」
「偶然も回数を重ねれば技だ」
「……あなた、先生?」
「いいや。傭兵」
「傭兵は、人に教えない?」
「教える。金をもらえば」
「高そう」
「命よりは安い」
「じゃあ、命で払う」
「前払いは受け取らない」
火が彼の言葉でまた小さく揺れ、私の笑いがそれに重なる。
森の外での笑いは飾りだった。ここでの笑いは、息だ。息が続く限り、私はここにいられる。
夜が降りてくる。頭上の枝の隙間から、うんと遠いところに星が一つ、針の穴みたいに光る。
オブシディアンは周囲に罠を仕掛け、鈴を張り、剣を手の届くところに置く。
「寝ろ。二刻は俺が見張る」
「あなたは?」
「眠気は森より遅い」
「それ、死ぬ前の人が言うやつ」
「死に慣れてる」
「縁起でもない」
「生きることに慣れるよりは良い」
私は外套を肩にかけ、横になる。地面は硬く、冷たいが、火の近くは許せる温度だ。
目を閉じると、森の音が一斉に立ち上がる。遠くで何かが鳴き、近くで土が寝返り、木が息をする。
火のはぜる音に合わせて、胸の紅玉が脈を打つ。
まぶたの裏に、王都の塔がちらりと浮かぶ。あの尖塔が、火で柔らかくなるところを想像する。鐘が熱で割れ、音が金属の悲鳴に変わる。美しい。恐ろしい。正しい。不正。全部が同じ皿に乗り、火が下から皿ごと舐める。
「ルビー」
半分眠りかけたところで、オブシディアンの声が落ちた。
「何」
「復讐は、終わりがない。終わりを自分で決めることだ」
「あなたが決めた終わりは?」
「俺は“生き延びたら終わり”にした」
「簡単ね」
「難しい簡単が、一番長生きする」
「……私の終わりは、“彼らの幸福が崩れた時”」
「崩れない場合は?」
「崩れるわ」
「強気だ」
「確信よ」
火が静かに笑ったみたいに、赤を寄せてくる。
私は目を閉じ、火と石と自分の脈を重ねる。
世界が暗く、深く、少しだけ温かくなって、そこに黒い瞳が浮かぶ。オブシディアン。彼の瞳は夜そのもので、夜が私を飲み込む前に、境界に杭を打っておく。
眠る。浅い眠り。短い夢。祖母の手。王都の塔。乞食の少年の赤い目。殿下の香。聖女の白い指。火。火。火。
――鈴が鳴った。
小さな、金属の震え。私は目を開け、息を殺す。
オブシディアンは既に立っていた。影が剣を持ち上げ、火が彼の輪郭を薄く縁取る。
風下から、湿った布の匂い。獣ではない。人。
暗闇の中に、背の低い二つの影が浮かぶ。
子ども――ではない。背骨の角度、膝の運び方、音の消し方。森のやり方を少し知っている盗人の動き。
「道に迷った?」
私が低く言うと、影がびくりと止まる。
オブシディアンの声が、もっと低く落ちる。「言い訳より先に足音を出したな。初心者だ。逃げる」
影は弾かれたように飛び、森に消える。
オブシディアンは追わない。
「追わないの?」
「追うより、今夜ここへ戻るかどうかを考えさせたほうが良い」
「戻る?」
「火と鈴を見ただろう。初心者は、“すぐ行ける危険”に弱い」
「あなた、先生でしょ」
「傭兵だ」
私は肩の力を抜き、火にもう一度背を預ける。
「ねぇ、オブシディアン」
「何だ」
「あなたに会えて、運が良かったのか、悪かったのか、まだ判断できない」
「どっちでも死ぬときは死ぬ。生きるときは生きる」
「救われる言葉じゃないわ」
「救いを探すなら、森は逆方向だ」
「じゃあ、鍛える」
「それがいい」
火が小さく頷いた。
私は再び横たわる。
眠りの縁で、胸の紅玉がぽう、と小さく灯るのを感じた。
黒曜の森の入り口。
ここは世界と私の境界線。
追い出された先に、入り口があるのは、出来すぎた話だと思う。けれど、物語は時々、都合よくできている。都合が悪いのはいつだって人間の側。
なら、取り戻す。
都合のいい偶然を、必然にしてやる。
火で。手で。足で。呼吸で。
私は紅い石。砕けても、色は残る。
色が残る限り、私は――燃える。
明日から、本当に。
ここで、始める。
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