捨てられた宝石の逆襲~あなたの幸福を、ルビーの炎で焼き尽くす~

タマ マコト

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第4話 傭兵の焚火

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 朝は刃物の匂いがした。
 黒曜の森の夜露が刃のように草先で固まり、歩けば脛を撫でていく。私は靴紐を結び直し、冷たい空気を肺に押し込んだ。火の煤がまだ喉に残っている。

「起きたか」

 焚火の灰を棒で崩しながら、オブシディアンが言う。声は相変わらず、石の下を流れる水みたいに低い。

「おはよう」

「挨拶は森に要らない。代わりに確認しろ。足、手、腹、目、耳。動くか」

「……動く」

「じゃあ、動け」

 彼は小さな革袋を投げてよこした。受け止めると、硬い感触が掌に並ぶ。火打石と麻苧、焦げた茸の粉、油の染みた布。

「火の一式だ。五分で火種、十分で調理火。雨でもやれ」

「雨でも?」

「雨は多い。言い訳も多い。どっちも不要だ」

「はいはい、先生」

「傭兵だ」

 私は膝をつき、湿った落ち葉をどける。地面に指で小さな円を描き、その中央に麻苧をほぐして鳥の巣のように丸める。細枝をテントの骨組みみたいに立て、隙間を空気が通るように組む。
 火打石を鉄片で打つ。白い火花が、朝の薄闇にしゅっと散る。二度、三度。麻の毛先がほんのわずかに焦げ色に変わる。息を細く吹きかける。
 橙が芽吹く。弱い赤子みたいな炎。私は両手で風よけを作り、焦らず、でも怠けず、呼吸だけでそれを育てる。細枝がぱちりと小さく笑い、炎がひとつ階段を上る。

「悪くない」

「もっと褒めてもいいのよ?」

「十回続いたら考える」

「ケチ」

「火はケチなほうが長生きする」

 細枝が燃え始めたところで、私は枝の太さを段階的に上げていく。鉛筆、親指、手首。炎はそれに合わせて声を変える。
 オブシディアンは火を横目に、周囲の地面を見渡しながら言う。

「次。毒の見分け方。森は似せてくる。食べられるものに毒を、毒に蜜を。匂い、傷、色、虫の痕、切ったときの汁――全部、観察だ」

 彼は地面から茸を二種類摘み上げる。片方は白く、傘の縁がほんのり波打っている。もう片方は灰色で、茎がやけに細い。

「どっちが死ぬ?」

「質問の仕方が怖い」

「森は優しくない」

 私は近づいて、顔を寄せる。白いほうは粉っぽい匂い。灰色は湿った鉄みたいな匂い。
 爪で傘の裏をそっと掬う。白いほうは薄く剥がれて、舌に苦さの記憶を連れてくる。灰色のほうは、刃の感触がやけによく伝わる。硬い膜が指先に返ってくる。

「――灰色が毒?」

「両方だ」

「は?」

「白は煮て干せば平気。灰色は乾かして粉にして矢に塗る。用途を間違えると死ぬ。森は“正解”じゃなく“選択”だ」

「覚え方は?」

「覚えるな。試せ。少しだけ舐めて、舌が痺れたら吐け」

「死にそう」

「死にそうなことは、小さいうちにやれ」

「ブラックな研修ね」

「森はブラックだ」

 彼は次に、蔓を指さす。緑の中に一本だけ赤い筋を通す蔓。
「これ、見ろ。切る。汁の色を見ろ」

 私は刃で蔓を少し切り、滲む汁を指で捻る。乳白。指先に少し粘り。
「触るな。皮膚から入る。水で洗え」

 私は慌てて水袋の口を開け、指を擦る。冷たい水が皮に沁み、わずかに痒みが走る。
「これ、何に使うの」

「大人の足を一日止める。敵に追われたら、進路に塗る」

「ひどい」

「生きるとは、誰かの足を止めることだ」

「時々、あなたの言葉は優しくない」

「優しさはあとで火にくべろ。今は情報だ」

 私は息を吐き、肩の力を抜く。
 オブシディアンは短く頷き、剣を鞘から半寸抜いた。陽の少ない森の朝でも、刃は暗い光を返す。

「剣。構えろ」

「剣は――舞踏会のしか」

「踊るな。立て」

 彼は私の背に回り、肩と肘と手首の位置を矯正する。指が骨の位置を探り、筋肉の流れをなぞる。
「足。前後。幅は肩。踵は浮かすな。腰を切る。目で殴るな。腰で殴れ。握るな。掴め」

「握ると掴むは違うの?」

「握るは、力を入れて閉じる。掴むは、必要な分だけ保持する。剣は握ると逃げる。掴めば働く」

「哲学的」

「物理だ」

 私は刃を前に出す。重さが手首に落ち、肩が固まる。
 オブシディアンが私の肩甲骨を指で押す。「力、抜け」

「抜いたら落ちる」

「落とすのは剣じゃない、敵の命だ」

「名言っぽい」

「格言だ」

 構えを維持しながら、私は呼吸を数える。三拍で吸って、五拍で吐く。心拍と足の裏と、刃の重心がひとつの円にまとまる瞬間が来る。
「今だ。突け」

 私は一歩踏み込み、倒木に突きを入れる。刃先が古い木目に刺さり、腕に鈍い反発が走る。
「浅い。腰が遅い。目が先走ってる。目は獲物を見るためじゃない。距離を見るためだ」

「言うのは簡単」

「やるのも簡単だ。数だ」

「数?」

「百、千、万。紙と同じ。折るほど固くなる」

 午前の森に、私の突きの音が一定の間隔で打ち込まれていく。汗が背中を走り、掌が滑り、呼吸が荒れ、膝が悲鳴を上げ、脳が静かになる。
 意識が余計な音を落とし始める。昔のピアノの練習を思い出す。指の皮が硬くなって、鍵盤に血をつけた日。あのとき私は確かに“令嬢”という枠の中で、音という名の刃物を磨いていた。今はただ、刃が刃。

「休め」

 オブシディアンが手を上げる。私は剣を下ろし、膝に手をついて息を整えた。
 彼は落ち葉を一枚拾い、親指の腹で撫でる。片側だけに艶が出る。「見る練習をしろ。森は嘘をつく。嘘を剥がすには、量だ」

「全部、“量だ”ね」

「お前は昨日まで、『誰かに見られるための量』を積んでたはずだ。今日は『自分が生きるための量』を積め」

 言葉が、胸骨の裏に刺さって抜けない。
 私は笑う代わりに頷いた。言い訳を挟む余地はない。言い訳は、火の息を奪う湿気だ。

 昼は静かに過ぎた。水の音、遠くの羽音、木の軋み。オブシディアンは必要最低限しか話さない。代わりに、見せる。
 獣道の見分け方。折れた枝の高さと角度から獣の大きさを読む方法。糞の乾き具合で時間を測るやり方。罠の仕掛け方――輪の作り、結び目の位置、匂いの消し方。
 私は手を動かし、失敗し、指先を少し切り、血の匂いを覚える。自分の血の匂いは、思っていたよりも甘い。

「血は呼ぶ」

「獣を?」

「それも。お前自身の過去も」

「過去は、呼ばれても来ない」

「来る。別の形で」

「あなた、占い師?」

「傭兵だ」

 午後、雲が厚くなり、森の天井がさらに低くなる。湿度が上がり、肌に薄い膜が貼りつく。気温が落ち、火が恋しくなる時間帯。
 オブシディアンが立ち止まり、手で合図する。
 私は足を止める。彼の視線の先、朽ちた切り株の陰に、黒い塊があった。
「――熊?」

「半分。森に喰われて戻ってきたやつだ」

 骨が外に押し出され、皮は樹皮のように割れ、目は白く濁っている。鼻は空洞で、そこから甘い腐臭が漂う。
 熊は遅れて私たちに気づき、音を立てずに頭を上げた。
「走らない。目を外すな。背を見せるな」
 オブシディアンの声に合わせ、私は剣を構え直す。
 熊が一歩、二歩。地面が沈む。
 オブシディアンは石を拾い、熊の鼻先へ放った。石はぬめった皮膚に当たり、鈍い音がした。
 熊が顔をしかめる。その瞬間、彼は私の肩を叩いた。「今。二歩、左。木の裏。息を止めろ」

 私は左へ滑る。木の大きな幹が視界を切り、熊の体が一瞬、私から視線を外す。
 オブシディアンが低く囁く。「鼻。次に膝。倒れたら喉」
 熊が前脚を打ち下ろす。地が跳ねる。
 オブシディアンの影が、私の視界を走った。剣が斜めに閃き、熊の鼻梁を裂く。血と黒い液が混じったものが飛び、甘い臭気がさらに濃くなる。
 熊が吠える。
 私の足が先に動いた。二歩。腰を切る。突き。
 刃先が膝の内側のやわらかいところに食い込み、骨に当たり、腕に電気のような痺れを返す。
 熊が体勢を崩す。
「今だ、喉!」

 私は踏み込む。足が泥に滑り、体が前に倒れかける。
 その瞬間、オブシディアンの掌が私の脇腹を支え、重心が戻る。
 刃を上から下へ。喉の膜が切れ、熱いものが噴き、私の頬と唇を濡らす。
 熊の体が震え、重さが地面に落ちた。
 呼吸が戻るまで、世界が音を失っていた。
 耳鳴りの向こうから、オブシディアンの声が届く。「吐け」

 私は木の根本に手をつき、胃からいらないものを吐き出した。苦さ、酸っぱさ、悔しさ、怖さ、そして、奇妙な、甘い達成感。
 額に手が触れた。オブシディアンの掌。温度は一定だ。
「初めてで死なないのは、運が良い」

「運じゃない」

「なら?」

「教え方が良い」

 彼は鼻で笑い、肩をすくめた。「褒めても何も出ない」

「命が出た」

「出てる最中だ。立て」

 私は立ち、袖で顔を拭った。袖が鉄の匂いを吸う。
 オブシディアンは熊の腹を剣で裂き、内臓を確かめる。
「食えるところと、捨てるところ。選べ。手を汚せ」

 私は膝をつき、手を伸ばす。ぬるい。重い。滑る。
 指先が震える。震えは止めない。震えごと、握る。掴む。
 胃袋、肝、心臓。
「心臓、持て。重さを覚えろ」

 私はそれを両手で受け取り、しばらく黙って見つめた。固い筋が走り、表面は艶めいて、内側からまだわずかに熱を押し出している。
 これが“命の重さ”、という言葉は陳腐すぎる。だけど、実際、重かった。言葉より。
 私は心臓を布に包み、荷に入れた。「……食べるの?」

「火で炙って少し。残りは干す。森では、余白も食料だ」

「余白?」

「腹の隙間、時間の隙間、怖さの隙間」

「うまいこと言ったと思ってる?」

「思ってない」

「思ってる顔」

「思ってない」

 やり取りの端が少しだけ丸くなって、私はそこで初めて、笑いを声に出した。声が森の膜に当たり、跳ね返って、小さく自分の耳に返ってくる。孤独のリバーブ。嫌いじゃない。

 夕暮れ、私たちは少し開けた場所に戻り、焚火を起こした。朝よりも手際は良い。火は驚かない。息だけでついてくる。
 熊の肉を薄く削ぎ、串に刺し、火にかざす。脂が落ち、火が喜ぶ。小さな炎が肉を舐め、表面がきつね色に変わる。
 オブシディアンが塩を掌に落とし、指でつまんで肉に振る。
「食え」

 噛む。
 硬い。噛み応え。筋の反発。滲む脂。鉄の匂い。
 舌に残るのは、今日の走りと、今日の突きと、今日の吐き気。
 私はもう一口噛み、喉に落とす。胃が火を受け取り、体の中心に小さな炉ができる。

「……美味しい、とは違うけど」

「生きる味だ」

「生きる味、覚えられるかな」

「覚えるまで食え」

「あなた、育児もできそう」

「傭兵だ」

「便利な肩書ね」

「便利に使うな」

 火が静かに揺れ、影が私たちの顔を交互に照らす。
 オブシディアンは剣の刃を布で拭き、鞘に収め、代わりに短い棒を取り出した。先に布が巻いてあり、油が染みている。

「夜の火。焚火だけじゃ目立つ。これは目印用。敵に見せて、味方に見せない火だ」

「どうやって?」

「高さ、時間、回数。合図を決める。二回なら東。三回なら危険。四回なら逃げろ。――こういう取り決めは、仲間がいなくても作っておけ」

「誰と共有するの?」

「未来のお前」

「……なるほど」

「森はお前の明日への手紙を燃やす。燃え残りを読め」

「詩人なの?」

「傭兵だ」

 私は串の先で火を突き、火の粉が宙に散るのを目で追う。火の粉はすぐ消える。短い命。けれど、明るさは本物だ。
 胸の紅玉が、焚火の赤を飲んで、内側からゆっくり返す。
 オブシディアンがその光に一瞬だけ視線を落とす。
「それ、火を呼ぶ」

「聞こえる?」

「匂う」

「困る?」

「扱えれば武器。扱えなければ的」

「――扱う」

「なら、約束しろ。火に人の形を見ない。火に人の声を聞かない。火に祈らない。火は道具だ。お前が道具になるな」

 言葉が焚火に落ち、火がそれを食べる。
 私は頷く。「約束する」

「いい子だ」

「今のは褒めた?」

「褒めた」

「やっとね」

「褒めるのは燃費が悪い」

「でも、燃える」

「なら、少しだけだ」

 夜が深まり、森の輪郭が黒の濃淡だけになる。焚火の光が私の瞳に面を作り、そこに微かな青が混ざる。
 私は自分の呼吸を火と合わせ、火の鼓動を胸と合わせる。
 “令嬢”の殻は、火で柔らかくなっていく。礼儀の骨組み、微笑の鋲、完璧という名の鎧。熱で少しずつ形を失い、赤い粘土になって、掌の上で再び練られる。
 オブシディアンの声が、その粘土に指を入れ、形を作る。
 正解じゃない。選択。
 赦しじゃない。約束。
 優しさじゃない。情報。
 ――生きる術。

「ルビー」

「なに」

「今日、死んでもおかしくなかった」

「でも、生きてる」

「それを明日もやれ。明後日も。十日後も。百日後も」

「その先は?」

「その先は、お前が決めろ」

「決める。――崩れる瞬間を見るまで」

「なら、まだ先だ。寝ろ。明日は走る。刃は今日より重く、森は今日より深い」

「了解」

 私は外套に体を包み、焚火の明滅を瞼の裏で受け取る。
 火の赤は、血の赤と重なり、紅玉の赤と混ざる。
 遠くでフクロウが鳴き、近くで小さな虫が翅を擦る。
 夜の匂いが喉に降り、私の中の炉に油を一滴、落としていく。

 ――“令嬢”は火で焼き鈍され、“獣”がゆっくり息をし始めた。
 牙はまだ生えていない。爪も短い。
 でも、瞳は。
 焚火の火に照らされたそれは、たしかに、燃え始めていた。

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