泣き虫王女、異世界で推し騎士に拾われて人生チート化しました

タマ マコト

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第8話:ノアの過去

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夜のメルヴァは、音を小さな箱にしまって歩く。
市場の喧噪は蓋を閉められ、路地に残ったのは水の匂いとすれ違う外套の擦過音、遠い鐘の余韻だけ。
外縁の宿営地では焚き火が静脈のように赤く散らばり、人々はそれぞれの眠りへ沈んでいく準備をしている。

私たちは宿の裏庭に出て、塀の上で風に鳴る小さな鈴の音を聞いていた。
ノアはいつものように壁に背を預け、私は井戸の縁に腰をおろす。
昼の照合盤の結果――哭星の雫、導の針――が胸の内で何度も反響して、まだ静かに収まってくれない。

「冷えるな」
ノアが短く言い、外套を私の肩に掛ける。布が触れたところから、安心という名の温度が広がる。

「ねえ、ノア」
「ん」
「あなたの“いずれ話す”って、今、聞かせてほしい」
私の声は、思っていたよりも落ち着いていた。怖さはあるけれど、聞きたい。聞いた後で泣くかもしれない。泣いても、前を向ける気がした。

ノアは少しの間、夜の匂いを嗅ぐように目を細め、それから頷いた。
「ここでいい」
「うん」

沈黙が合図になった。
ノアは言葉を選ばない。選ぶのは、順番だけだ。

「俺は、生まれていない」
最初の一言が、井戸の縁に落ちた水滴みたいに底へ消える。
「“作られた”が正しい。ヴァレンティア計画――古い戦時設計の末端。主目的は“人を守る盾の最適化”。その結果が、人工騎士だ」
「人工……」
舌の上で転がした言葉は、鉄と花蜜を同時に含んでいる。人工でありながら、いま目の前の彼は、火を怖がるティグに毛布をかけるような手つきで生きている。

「感情は、邪魔とされた。判断を濁す、と。だから最初から薄い。薄いどころか、封じられている。俺の核には、“守る”以外の命令がほとんどない」
ノアは自分の胸を指で軽く叩く。鎧越しに小さな金属音が鳴る。
「主君を守れ。戦場においては民を優先しろ。主君の命が滅ぶときは、周辺に被害が広がらぬよう処置しろ。――それが、俺の“心”の台本だ」

「主君、って」
「抽象化された主語だ。契約で変わる。昔は王、今は……迷子」
「迷子」
「拾うのは、俺の役目だから」
それは、彼がずっと言っている言葉。私の前にも、誰かが、ここを通ったのだ。

「封印は、普段は眠っている。だが、条件が揃うと起きる。危険――“世界が壊れる兆し”と、俺が判断したときだ」
「封印が起きたら、どうなるの」
「すべてが数字になる。呼吸の速さ、武器の軌道、敵味方の熱源、道の角度、逃げ道の幅。最適なルート以外が消える。……人の顔の意味が、薄くなる」

彼はそれを、感傷ではなく事実として言った。
焚き火が一つ、風に鳴って火の粉を上げる。夜気がそれを攫い、星の手前で消す。

「初めて戦場に出た夜を覚えている。泣いている子どもがいて、俺はその声を“位置情報”として処理した。方向、距離、障害物。――泣き止ませる方法は、声帯の振動原因を断つこと、という結論が出た」
喉がきゅ、と収縮する。
ノアは続けた。
「その時、偶然が一つ割り込んだ。砂糖の匂いだ。焦げたパンの、端の匂い。俺の足元に転がった欠片を、子どもが見て、泣くのを止めた。砂糖の匂いの記憶が、封印の隙間に挟まって残った。――だから、甘いものが好きだ。俺は、甘さで“守った”ことがある」

喉の奥が熱くなる。泣きたくなる。
でも、まだ泣かない。彼が持ち出した、最初の“自分の話”。最後まで、ちゃんと受け取りたい。

「それから長い時間、俺は最適化を続けた。眠りは浅く、夢は削られ、感情は薄い幕で包まれた。俺が揺れると、守りが揺らぐからだ。……揺れてはいけないものとして、作られた」
灰色の瞳が、夜の中で淡く光る。
「だが、壊れずにいることと、揺れないことは違う。昨夜、塔でお前が“導の針”を見たとき、俺の中の封印は、わずかに軋んだ。――理由は分かっている。お前が、自分で選ぼうとしたからだ」

胸の中心で、心臓が強く叩いた。
選ぶこと。導かれること。押される手と、握り返す手。
私は井戸の縁から立ち上がり、彼の前に一歩踏み出す。

「ノア。あなたは、感情を捨てたんじゃない。捨て“させられた”んだと思う」
言い切ると、声が震えた。
「それでも、あなたが甘いものを好きになった話を、私はぜったい忘れない。あなたが拾ってくれた子どもの泣き声を、“位置情報”じゃなくて“生きてる証拠”に書き換えるの、私に手伝わせて」

ノアは、即答しない。
代わりに少しだけ、視線を地面へ落とした。砂粒が光る。夜の湿りが、石の目に染み込む。

「俺は、お前にとって危険だ」
低い。慎重な音。
「封印が起きれば、最適化はお前をも対象化する。“世界を壊す兆し”の中心にお前がいる、と判断したとき、俺はお前を“処理対象”に変える」
昼間、照合室で見た無機の光が、私の肩に冷たい影を落とす。
心臓が縮む。泣きたくなる。
でも、まだ泣かない。

「だから、離れろと言う?」
「言えたら、言う」
「言えないの?」
「今は言えない」

彼の声が、微かに壊れた。
壊れるというのは、音ではなく、秩序の波だ。いつも一定だった彼の呼吸の節が、一拍だけ乱れた。
私は一歩近づき、彼の胸甲に指を置く。冷たい。
それでも、内側に確かにいる彼へ届くように、ゆっくりと言う。

「わたし、泣き虫だよ。泣くのが恥ずかしくないって、あなたが教えてくれた。――だから、今は泣かない。今は、言う」

息を吸う。止める。吐く。
言葉にするための、最短で最強の呼吸。

「それでも、私はあなたに守られたい」

夜が、ひとつ膨らんで、しずんだ。
塀の鈴が、風に合わせて一度鳴る。

ノアの瞳が、ほんのわずかに見開かれる。
私の声は続いていた。止まらない。止めない。

「“主君を守れ”が、あなたの命令なら、わたしは“守られる人間の定義”を書き換える。主君って、王や契約者だけじゃない。――“ただいま”って言う人。“おかえり”って返す人。火を粗末にしない人。水に礼を言う人。泣いても前を向く人。あなたの隣で“適切”って笑う人」
言いながら、泣きそうになる。
でも、まだ泣かない。
「その定義に、わたしは入る。入れて。お願いじゃなくて、宣言。あなたが最適化を始めても、その定義の枠だけは、わたしが泣いて広げる」

ノアはしばらく、何も言わなかった。
沈黙は長いけれど、冷たくはない。火のそばで鉄を冷ましているみたいな沈黙。
やがて、彼は静かに首を振った。

「……俺は、命令しか知らない存在だ」
「命令を選ぶことは、知らない?」
「知らない」
「じゃあ、練習しよう」
「練習」
「うん。最初の命令は、わたしから。――帰ってきて。封印が起きても、帰ってきて。あなたの足で」

ノアの喉が、ひとつ上下する。
彼は視線を逸らさず、短く言った。
「努力する」
「努力、好き」
「できるかは分からない」
「分からないことを努力するの、もっと好き」

そのとき、路地の奥で、かすかな軋み。
ノアの肩が反射的にわずかに動き、私の前へ半歩出る。
次の瞬間、屋根の縁から二つの影が落ちてきた。黒い外套、袖口に銀糸の針の徽章――教団。
「哭星の雫、照合の記録が出た。おとなしく同行を」
乾いた声が夜の湿りを割いた。
ノアの手はまだ剣の柄に触れていない。だが、空気の密度が変わる。
封印の気配――かすかな軋みが、彼の内側で音を立てる。
胸が凍る。
私はノアの背に触れ、低く囁く。

「泣いていい?」
「今は、泣くな」
「分かった」

一歩、前へ。
私は教団の男たちに向かって、はっきりと言った。
「“ただいま”って言う人は、今ここにいる。――だから、“おかえり”を言う場所へは、行かない」
男の眉がわずかに動き、袖の内側で何かが光る。
その瞬間、ノアの世界が切り替わった。
音が薄くなる。彼の輪郭が、刃の角度に寄る。

「来る」
短い予告。
次の瞬間、男たちの動きは切り刻まれて遅くなった。
そのスローモーションの中に、私は彼の“最適化された”姿を見る。
踏み込み、肘、手首、返す刃。
最短で、最少で、最適。
そして――人の顔の意味が薄い、氷の戦い。

私は息を止めない。
泣かない。
守るために、立っている。

外套の裾が裂け、鈍い音が二つ。
男たちは地に膝をつき、呻き声を上げる。致命ではない。握られた刃は袖を断ち、徽章を落としていた。
ノアは一歩も追わず、ただ、私の前に戻る。
教団の男たちは互いに目配せし、撤退の合図だけを残して闇へ溶けた。
鈴がかすかに鳴る。風が、遅れて通り過ぎる。

「……封印、起きた?」
「際まで。お前の声で戻った」
「“ただいま”の練習、効いた?」
「効いた」

短いやりとりが、とんでもない重さで胸に落ちる。
私はそこで、やっと息を長く吐いた。
喉の奥が熱くなり、視界の端が滲む。
泣いて、いい。今は――泣いて、いい。

「ノア」
「なんだ」
「今、泣く」
「泣け」

目を閉じる。
涙が、頬を温かく流れる。
それは弱さではない。さっき見た刃の軌道と同じくらい、正確で必要な動作。
ノアが近づき、外套ごと私を抱き寄せる。
鎧の冷たさと、人の温度。
耳のすぐそばで、彼の心音が短く、しかし確かに鳴る。

「……それでも、私はあなたに守られたい」
もう一度、言う。
さっきよりも小さな声で、でも、さっきより深く届く言い方で。
ノアは答えない。代わりに、抱く力を少しだけ強くする。
それで十分だ。
答えは、言葉だけじゃない。

泣き終えたら笑う。
笑ったら、次の一歩を出す。
涙と笑顔のあいだで、約束をもう一本、結ぶ。

「帰ってきて」
「帰る」
「ただいま、って言って」
「ただいま」
「おかえり」

塀の鈴が、もう一度、夜にやさしく鳴った。
人工の騎士と、泣き虫の姫。
“命令しか知らない存在”と、“泣くことを覚え直した人間”。
私たちはその夜、同じ布の端を握って、眠りの浅瀬に並んで浮かぶ練習をした。
封印はいつか深く起きる。その未来を、私は恐れる。
それでも、今は、恐れ方を選べる。
涙は鍵。笑いも鍵。
そして、鍵穴は、たしかにここにある。
彼の胸の内側と、私の胸の内側――二つの心核が、同じ速度で、静かに灯っていた。

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