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第4話 「ザルヴェルへの連れ去り」
しおりを挟む王都の夜は、こんなにも冷たかっただろうか。
石畳に雨が叩きつけられる音を背中に受けながら、レイアは半ば引きずられるようにして王都の外れへと連れて行かれていた。
レオンの外套に包まれているとはいえ、足元はまだぐしゃぐしゃだ。
さっきまで橋の下でうずくまっていたせいで、体力も心も底をついている。
けれど、彼の歩みには迷いがない。
前を行く背中は高く、広く、雨粒なんてまるごと断ち切るように真っ直ぐ進んでいた。
「……どこに、行くんですか」
ようやく絞り出した声は、雨に薄く溶けていく。
「城門の外」
レオンは振り返らない。
「さすがに人間の城のど真ん中で、獣人の王が長居してたら問題になるだろ」
「……それは、まあ、そうですね」
自分で聞いておいてなんだけど、返事もふわふわしていた。
(私、今、何してるんだろ)
王都から追放された夜に、隣国の王と一緒に歩いている。
数時間前まで、こんな展開を誰が予想できただろう。
王宮の白い壁が視界から完全に消えたころ、レオンがふっと足を止めた。
街道の脇に、一台の馬車が停まっている。
黒を基調にした堅牢な造りで、地味なのに妙な存在感があった。
車体には、どこか獣の紋章じみた模様が刻まれている。
その周囲には、二つの影。
一人は、がっしりした体躯の男。
短く刈った黒い髪、片耳に傷。
厚手の革鎧の上からマントを羽織り、大剣を背負って突っ立っている。
黒い狼の耳と尾。
明らかにレオンと同じ黒狼族だ。
もう一人は、しなやかな線を描く女。
淡い金色の髪を高い位置でまとめ、紅い瞳が暗がりでもよく映える。
細身のローブの裾が揺れるたび、腰の二本の短剣がかすかに鳴る。
頭には狐のような三角の耳。
長くふさふさした尾が、優雅に左右へと揺れていた。
その二人は、レオンの姿に気づくなり姿勢を正した。
「おかえりなさいませ、陛下」
狐獣人の女が、一歩前に出て恭しく頭を下げる。
声は低くもなく高くもなく、よく練られた楽器みたいに耳に心地よかった。
「遅くなった」
レオンは短く返し、それからレイアのほうを顎で示す。
「予定外の拾い物付きだ」
「拾い物って言いましたよね今」
反射でツッコんでしまう。
その小さな声に、二人の視線が一斉にこちらへ向く。
黒狼族の男――レイアの脳内で勝手に「でか狼」と名前が付けられた――は、露骨に眉をひそめた。
「……その女、ですかい」
低い、砂利を踏むみたいな声。
その視線は、レイアの足元から頭のてっぺんまで、ざっくりと値踏みするように滑っていく。
泥だらけの裾。
濡れた髪。
剣を抱えたままの、半分凍えた女。
見た目の印象は、我ながら最悪だ。
「見たところ、人間の……それも聖騎士の剣だ。
連れて歩くにしちゃあ、危なすぎるんじゃ?」
「ガレス」
レオンがその名を呼ぶ。
黒狼族の男――ガレスは、少しだけ肩をすくめた。
「一応、確認でさあ。
陛下が拾ってきた人間に、俺らが殺されでもしたら、笑い話にもならねえ」
「殺されませんよ!?」
思わず素で叫ぶ。
ガレスの視線がさらに鋭くなる。
「……あんた、さっきからツッコミのキレだけはいいな」
「褒めてます? 貶してます?」
「半々だ」
ガレスが唇の端をわずかに歪めたところで、狐耳の女が一歩前に出た。
「陛下。こちらの方は?」
紅い瞳が、レイアを真っ直ぐにとらえる。
その目は好奇心に輝いているのに、不思議と失礼な感じはしない。
「元聖騎士だ」
レオンはあっさりと言い放つ。
「アルストリア唯一の女聖騎士。
――“元”だけどな。さっき追放された」
「……タイムリーすぎません?」
レイアが小声でツッコむと、狐耳の女はくすっと笑った。
「追放されたばかりの聖騎士を拾って帰ってくるなんて。
相変わらずですね、レオン陛下」
軽い口調。
でも、そこには確かな信頼の色があった。
レオンは腕を組み、軽く顎を上げる。
「ちょうど人手が欲しかった。
うちの国、優秀な剣が不足しててさ」
「“不足してる”って言われる俺らの立場は?」
ガレスが露骨に不満そうな顔をする。
「お前は“優秀な剣”というより、“暴れまわる大剣”だからな」
「人聞きが悪いですねぇ」
口ではそう言いながらも、ガレスはどこか楽しそうだ。
狐耳の女が、レイアに向き直る。
「私はリリス。ザルヴェル王国の参謀役をしています。
……ようこそ、とはまだ言えませんけど、これからよろしく」
「え、あ、はい。レイアです。
元聖騎士の、レイア・グレイと申します」
慌てて背筋を伸ばして名乗ると、リリスは満足そうに頷いた。
「固いわね。でも、嫌いじゃないわ」
「は、はあ……」
褒められているのかどうか判断が追いつかない。
そこへ、ガレスがレオンへ一歩近づき、声を潜めた。
でも、レイアにも微妙に聞こえてしまう距離だ。
「で、陛下。本気でその女、連れて帰るおつもりで?」
「その“女”って言い方やめません?」
反射でまたツッコんだが、二人とも無視した。
地味に傷つく。
「信用できるんですかい。
聖騎士ってことは、この国の王太子に忠誠を誓ってた身でしょう」
「“元”だって言ったろ」
レオンはあっさりと肩をすくめる。
「王太子は、その忠誠をゴミのように捨てた。
だったら今、あいつのために命を賭ける理由なんてない」
言い切る声音に、妙な説得力があった。
ガレスは口を噤み、しばしレイアとレオンを見比べる。
「……それでも」
低く、慎重に言葉を選ぶような声。
「俺は陛下の身が第一です。
どこの誰だかわからねえ女を城に連れ込むのは、賛成しかねる」
「ガレス。あんまり“女”って連呼しないの」
リリスが横から口を挟む。
「レイア殿、普通に名前あるじゃない」
「おっと、こりゃ失礼」
ガレスは頭をかきながら、改めてレイアを見る。
「で、そのレイア殿とやらを、陛下はどこまで信用したんで?」
レオンの返事は、驚くほどあっさりしていた。
「俺が気に入った。それで充分だ」
その一言で、空気が変わる。
リリスは「ああ、やっぱり」とでも言いたげに苦笑し、ガレスは呆れたように天を仰いだ。
「出た、陛下の“気に入った”」
「それが一番厄介なのよねぇ……」
二人のぼやきが、ほぼ同時に重なる。
「え、どういう意味ですか」
レイアが思わず聞き返すと、リリスが指を一本立てて説明した。
「レオン陛下の“気に入った”はね、
一度そう言った相手は基本的に、何があっても手放さないって意味よ」
「……重いですね?」
「自覚は?」
「ない」
レオンはきっぱり答える。
即答すぎて怖い。
「それでこれまで何人振り回してきたか、数えたらきっと楽しいわね」
「お前もその一人だろ、リリス」
「光栄ですこと、陛下」
さらっと返しながらも、リリスの尾はふわふわと機嫌よさげに揺れていた。
ガレスはため息をひとつついてから、レイアを指さす。
「……まあいい。陛下がそう言うなら、俺は従いますよ。
ただしレイア殿、変な動きしたら、即座に首の骨を折るんで」
「脅し方が物騒すぎません!?」
「脅しじゃない、“忠告”だ」
笑っていない笑顔。
でも、その目に殺意はなかった。
レイアは肩をすくめる。
「変な動き、するつもりないんで。
首の骨、大事にします」
「よろしい」
ガレスが満足そうに頷いたところで、レオンがぱん、と手を叩く。
「じゃあ――出るぞ」
彼は馬車の扉を開け、レイアのほうを見る。
「乗れ」
「……あの」
扉の向こうには、柔らかそうなソファと、揺れを軽減するための魔術陣が刻まれているのが見えた。
明らかに上等な造りだ。
庶民出身のレイアには、ちょっと眩しい。
「本当に、いいんですか。
私なんか乗せたら、汚れますよ?」
「その“私なんか”って言い方やめろ」
レオンの眉がぴくりと動く。
「いや、でも――」
「あのな」
レオンはわざとらしくため息をついた。
「靴についた泥は洗えば落ちる。
だが、拾えるタイミング逃した才能は二度と戻らねえ」
「今、さらっとハードル上げました?」
「俺の前で“私なんか”って自分を下げるなら、相応の反論はするって話だ」
言葉こそぶっきらぼうだけど、その奥にあるのは苛立ちではなく、「お前をそんなふうに扱いたくない」という感情だと、なんとなくわかる。
(……厄介な王様に拾われたかも)
でも、不思議と嫌じゃなかった。
レイアは小さく息を吸い込み、覚悟を決めて馬車へ足を踏み入れる。
ふわっと、柔らかい香りが鼻をくすぐった。
革張りの座席、揺れを吸収するためのクッション。
アルストリアの王宮の馬車より、ずっと居心地がよさそうだ。
レオ ンも続いて乗り込み、対面の席に腰を下ろす。
扉が閉まる音がして、外の雨音が少し遠のいた。
代わりに、木枠が軋む小さな音と、馬の鼻息が聞こえる。
「陛下、出発してよろしいですか」
外からリリスの声。
「ああ」
レオンが短く返事をすると同時に、馬車がゆっくりと動き出した。
レイアは、無意識に窓の外へ視線を向ける。
暗闇の中、王都の灯りが少しずつ後ろへ流れていく。
遠くに見える城壁の輪郭。
門のあたりには、かつて自分が立っていたであろう番兵たちの影が揺れていた。
そのすべてが、すごい速度で「過去」になっていく。
(ああ、本当に……行くんだ)
王都から離れるたび、自分がこの国から切り離されていくのを肌で感じる。
魔物から守るために何度も走った街道。
徹夜明けに見た朝焼け。
仲間と肩を並べて歩いた帰り道。
そこから、完全に「無関係」になっていく。
胸の奥が、きゅっと掴まれたみたいに痛い。
「……レイア」
不意に名前を呼ばれ、レイアははっと顔を上げた。
レオンは窓の外を見たまま、腕を組んで座っている。
馬車の揺れに合わせて、黒い耳がわずかに揺れた。
「さっきからずっと、顔が死んでる」
「死んでません」
「死にかけだな」
「元気じゃないだけです」
「その言い方だと、余計心配になるんだが」
軽い掛け合いが、一瞬だけ空気を和らげる。
でも、すぐに沈黙が落ちた。
馬車のきしみと、車輪がぬかるんだ地面を踏みしめる音だけが続いていく。
耐えきれなくなったのは、レイアの方だった。
「……本当に、得しませんよ」
ぽつりと呟く。
レオンがわずかに視線を寄こしたのが、気配でわかる。
「何が」
「私なんか拾っても。
国から追い出された元聖騎士です。
人間の国から見たら、“役立たずの失敗作”ですよ」
自分で言ってて、胃が痛くなった。
でも、事実だ。
「今までの肩書きも、功績も、全部“なかったこと”にされました。
王都の人たちも、私を避けてました。
そんなのを拾って、隣国の王様が得すること、あります?」
問いというより、ほとんど「やめた方がいいですよ」の念押しだ。
レオンは、少しの間黙っていた。
窓の外に流れる景色に視線を向けたまま、指先で膝をとんとんと叩く。
やがて、低い声が落ちた。
「損得で拾ったんじゃない」
予想していた答えと、少し違った。
「……じゃあ、何で」
「お前、死にたそうな目をしてた」
あまりにもストレートで、レイアは息を飲む。
喉の奥が、じりっと焼けるみたいに熱くなる。
「橋の下で座ってたときもそうだし、今もそうだ。
“このまま流されて消えてもいい”って顔してる」
「っ……そんなつもり」
「なかったって言うつもりだろ?」
先回りされて、言葉が詰まる。
レオンはゆっくりと腕を解き、片肘を窓枠についた。
横顔だけが、かろうじてレイアの視界に入る。
「死ぬ勇気はねえ。
でも、生きる場所もない。
だから、とりあえず流されるだけ流されて、どこかで勝手に沈んでくれたら楽だな――」
「やめてください」
思わず遮った。
心のど真ん中を言い当てられて、息が詰まりそうになる。
そんなふうに自分を説明されたくなかった。
でも、否定もできない。
「気に障ったか」
「……図星だから、です」
レイアは自分の両手をぎゅっと握った。
「認めたくなかったけど。
あのまま橋の下にいたら、そのうち本当にどうでもよくなってたかもしれません」
死にたくないくせに、死んでもいいと思ってしまう矛盾。
その中間で、心だけが削られていく感覚。
「でも、今は乗ってる」
レオンは淡々と言う。
「橋の下じゃなくて、俺の馬車に」
「それは――」
「それだけで、十分得してる」
「……え?」
意味がわからなかった。
レオンは続ける。
「死にそうな奴を放っといて、勝手に沈んでいくのを眺めてるより、
拾っておいて“どう変わるか”眺めてる方が、よっぽど面白い」
「理由、そこですか」
「悪いか」
「悪いとは言ってませんけど!」
今度こそ、変な笑いがこみ上げてきた。
(この人、本当に王様?)
損得じゃなくて、面白いかどうか。
人の生き死にすら、その観点で語ってしまう危うさ。
でも――そこに打算じみたものは感じない。
むしろ、変に正直だ。
「あと」
レオンは、ふと表情をわずかに和らげる。
「――俺は、目の前で死にそうな奴を見て見ぬふりができるほど、器用じゃない」
静かな告白だった。
レイアは、彼の横顔を見つめる。
獣人族の王。
人間の国では“恐ろしい黒狼”と語られる存在。
その口から出た言葉が、やけに普通で、やけに人間臭い。
「人間にも獣にも、俺の首を狙う奴はいくらでもいる。
俺は“見捨てること”にも慣れてると思ってた」
レオンは窓の外の闇を見据えたまま、ゆっくりと続ける。
「でも――あの橋の下のお前を見たとき、“見捨てたら寝つきが悪そうだな”って思った」
「理由、そこですか(二回目)」
「大事だぞ、寝つき」
「そういう話でしたっけ……?」
力のないツッコミのつもりだったのに、レオンは真面目に頷いた。
「王にとって睡眠は重要だ。寝不足は判断力を鈍らせる」
「急に正論……」
ついていけない。
ついていけないけど、変に納得してしまいそうになる自分もいる。
「だから、損得じゃない」
レオンは短くまとめるように言う。
「俺は俺の都合で、お前を拾った。
お前はお前の都合で、俺についてきた。
それで十分だろ」
シンプルすぎる理屈。
でも、複雑にこじれたレイアの今までの人生の中で、一番わかりやすい条件だった。
騎士には忠誠を求められた。
功績には血と汗が必要だった。
何かを得るたびに、何かを差し出さなければならなかった。
今は――ただ、「ついていく」と決めただけ。
それを責める者も、試す者もいない。
(不安じゃない、と言えば嘘になるけど)
見知らぬ国。
獣人族の王。
文化も常識も違う場所。
怖くないと言ったら、それは強がりだ。
でも、橋の下で独り震えていたときよりは、ずっとマシだと思えた。
外套の中で、レイアはそっと胸に手を当てる。
追放された夜の痛みは、まだ刺さる。
王宮の扉が閉まる音が、耳の奥にこびりついて離れない。
でも、その痛みと同じくらい強く――隣に座る黒狼の王の横顔が、焼き付いていく。
「……一つだけ、言っておきます」
レイアはゆっくりと口を開いた。
「私は、“感謝しろ”って言われて動くの、苦手です」
「ほう」
「“拾ってやったんだから言うこと聞け”とか、
“生かしてやってるんだから従え”とか言われると、多分、反射で殴ります」
「物騒だな」
「前の職場で、そういうの散々見てきたんで。
だったら、素直に“使えるから使う”って言ってもらった方が、ずっと気楽です」
レイアは真っ直ぐレオンを見る。
「だから――
陛下が、私を“どう使うか”決めてください。
役立たずだと思ったら、そのときは遠慮なく捨ててくれて構いません」
胸を張ったつもりだったのに、声がかすかに震えた。
自分でもわかるくらい、不器用な覚悟の示し方。
レオンはしばらく黙っていた。
その沈黙は、責めるための間ではなく、何かを測るための間だった。
やがて、彼はふっと息を吐く。
「バカだな」
「え」
「一度拾ったもんを、都合悪くなったからって捨てるくらいなら、最初から拾わねえよ」
当たり前みたいに言われて、レイアは言葉を失う。
「俺はわりと欲張りでね。
気に入ったもんは、手をかけて、磨いて、ちゃんと自分のものにする方が好きだ」
「……物扱いが板についてますね」
「褒め言葉として受け取っとく」
レオンは口元だけで笑う。
「いいか、レイア。
お前が自分をどう評価してようが関係ない。
お前を“使える”かどうか決めるのは――」
「陛下、ですよね」
「そういうことだ」
その言い方には、妙な安心感があった。
自分で自分を下げ続ける日々は、もう終わりにしたい。
誰かに評価を委ねるのも怖い。
でも、それ以外のやり方を知らない。
だから、今はひとまず、この黒狼の王に預けてみよう――そう思えた。
馬車はゆっくりと坂道を登り始める。
王都の灯りが、完全に遠ざかっていく。
代わりに、闇の中にぽつぽつと、別の灯りが見えてきた。
野営地の焚き火か。
はたまた、街道沿いの小さな集落か。
どちらにせよ、それはレイアの知らない世界の光だ。
「ちなみに」
レオンが、何気ない口調で続ける。
「ザルヴェルまでの道のり、わりと長い」
「え、どれくらいですか」
「……寝て起きて、文句言って、飯食って、また文句言って、もう一回寝て起きるくらい」
「それ、時間の単位として機能してません」
「じゃあこう言い換えよう」
レオンはわずかに目を細める。
「お前が“死にたそうな目じゃない顔”を覚えるには、十分な時間だ」
その言葉に、レイアは思わず笑ってしまった。
「……そんな顔、覚えさせるつもりなんですね」
「俺の馬車に乗った奴には、そのくらいしてもらわねえとな」
「ハードル高っ」
「王様特典ってやつだ」
それが本気なのか冗談なのか、判別がつかない。
でも、どちらにしても――悪くない。
胸の中で渦を巻いていた不安は、まだ完全には消えない。
追放された痛みも、傷口のように生々しいままだ。
それでも、さっきまで橋の下で見ていた「真っ黒な未来」よりは、ずっとマシだと思える何かが、馬車の中にはあった。
レイアは外套をぎゅっと握りしめ、深く息を吸う。
(行こう)
どこに辿り着くかなんて、今はまだわからない。
でも、ただ沈むだけの夜からは、もう抜け出した。
ザルヴェルへ。
黒狼の国へ。
捨てられた剣を、もう一度抜けと言ってくれるかもしれない場所へ。
馬車の揺れに身を任せながら、レイアはそっと目を閉じた。
暗闇の向こうで待つ新しい朝を、初めてほんの少しだけ――楽しみだと思いながら。
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