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第34話「黒幕の断罪と、“田舎娘を選んだ国”」
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王都の空は、薄い灰色だった。
曇っているわけじゃない。
ただ、街全体が吐き出す息――不安と怒りと噂の熱が、空の色を少しだけ濁らせている。
広場には人が集まっていた。
回収作戦の掲示。
王太子セージの声明。
それでも残った疑い。
「本当に偽薬なのか」
「本物はどれだ」
「田舎娘が来てから騒ぎが大きくなっただけじゃないか」
言葉の矢が、目に見えないまま飛び交っている。
その中心へ――ミントたちは歩いていった。
セージを先頭に。
サフランが横に立ち。
ホップが後ろで書類を抱え。
護衛が周囲を固める。
そしてミントは、その一歩後ろを歩いた。
足が重い。
でも、逃げたくない。
なぜなら、この騒ぎの中心にいるのが自分だからだ。
自分の名前が、誰かを傷つける武器になってしまったからだ。
広場の中央には、黒い外套の男が立っていた。
ナツメグ。
まるで最初から“舞台はここ”だと知っていたみたいに、落ち着き払った顔。
その周りには、見慣れない役人や商会の人間が散っている。
誰もが少しだけ距離を取っているのに、彼だけが中心に立っている。
影が濃い。
ミントは、無意識に喉を鳴らした。
ナツメグが、セージを見て微笑む。
「殿下。わざわざお越しとは」
その声は丁寧で、礼儀正しくて――だからこそ不気味だった。
セージは真正面から言った。
「偽薬事件の黒幕を、この場で断つ」
ざわめきが広がる。
「黒幕?」
「誰が?」
「……あの男が?」
ナツメグは肩をすくめた。
「断つ、ですか。
しかし殿下、あなたはまだ若い」
言い方が優しい。
優しいから、毒が深い。
「国の影を見たことがない」
その言葉が落ちた瞬間、ミントの背中に冷たいものが走った。
ナツメグは、ゆっくり視線をミントへ移した。
獲物を測る目。
「田舎娘」
またその呼び方。
ミントの胸が跳ねる。
ナツメグは薄く笑った。
「君は面白いね。
王太子の命を救い、王家の保証を得た。
それでもまだ、君は“田舎娘”のままだ」
ミントは、唇を噛んだ。
「……何が言いたいんですか」
ナツメグの笑みが深くなる。
「クローブ殿下の名を、覚えているか」
広場の空気が一段冷える。
クローブ。
第二王太子。
毒殺未遂事件の加害者。
そして、修道院へ送られた男。
ミントは、胸の奥が痛くなる。
ナツメグは続けた。
「王太子の影はいつも、誰かの犠牲の上に成り立っている」
その声が、妙に通る。
「クローブ殿下は“犠牲”だった。
兄に比べられ、踏まれ、歪み、罪を背負って消えた。
そして今度は君だ。田舎娘」
広場の人々が、ざわざわする。
“犠牲”という言葉に、人は弱い。
自分の罪を他人のせいにできるから。
同情という形で、怒りを正当化できるから。
ナツメグの声が、さらに甘くなる。
「君を捕らえれば、丸く収まる」
ミントの背筋が凍る。
――来た。
ナツメグの策略。
“ミントが原因”という物語を作る。
民衆にそれを飲ませる。
そして、捕らえることで“秩序の回復”を演出する。
「王都に混乱をもたらした者を処罰する。
そうすれば民は安心する。
殿下も、王家も、宮廷薬師団も、体面を保てる」
ざわめきが、うねりに変わる。
「確かに……」
「捕まえれば終わる?」
「でも、王太子殿下が保証すると言ったじゃないか」
「保証したからこそ、今こんな騒ぎなんだろ?」
言葉が割れる。
裂け目が広がる。
ミントは、息が苦しくなった。
(私が原因にされる)
(また、声を潰される)
あの日の記憶が蘇りかける。
雨。
門前。
「田舎娘」という嘲笑。
でも――。
ミントは、前に出た。
足が震えるのに、前に出た。
サフランが止めようとする気配を、ミントは小さく首を振って制した。
「私は」
声が震える。
でも、言う。
「私は、誰かを犠牲にするために薬を作っていません」
ナツメグが微笑む。
「綺麗事だね」
「綺麗事でいい」
ミントは、睨み返した。
「だからこそ、もう誰も犠牲にしないように薬を作ってるんです」
言い切った瞬間、胸の奥が熱くなった。
怒り。
悲しみ。
それでも守りたいもの。
ナツメグは、薄く息を吐く。
「君はまだ分かっていない。
国は、犠牲の上で動く」
「違う」
ミントは即答した。
「国が犠牲で動くなら、私はその犠牲を減らすために薬を作る。
それが薬師です」
広場が静まる。
ほんの一瞬。
その一瞬を割ったのは――別の声だった。
「ミントの薬で、俺は生きてる!」
声の主は、兵士だった。
鎧の一部を身につけ、肩に古い傷跡。
ミントが村で治療した兵士の一人だ。
「俺だけじゃない!
こいつも! あいつも!
ミントの薬で治った!」
次々に声が上がる。
「うちの子、咳で眠れなかったのが、ミントの薬で治った!」
「腰痛で畑に出られなかったのに、あの店でまた動けるようになった!」
「王都の薬じゃ治らなかったのに!」
「“田舎娘”だからこそ、ちゃんと話を聞いてくれたんだ!」
広場の端から、人が出てくる。
村から来ていた客。
宿場町の商人。
治療を受けた庶民。
そして、回復したばかりの人。
証言が重なる。
波みたいに、空気が押し返される。
ナツメグの顔から、薄い余裕が少しだけ剥がれた。
(流れが変わる)
ミントは、その瞬間を肌で感じた。
“民衆は噂に踊る”――ナツメグはそう言った。
でも民衆は、噂だけで生きていない。
自分が救われた体の記憶は、噂より強い。
セージが一歩前に出る。
声は静かで、でも広場の隅まで届いた。
「聞いたか、ナツメグ」
ナツメグが笑い返そうとする。
だが、セージは止めない。
「君は“ここでミントを捕らえれば丸く収まる”と言った」
セージの目が、真っ直ぐに光る。
「だが、この国は」
一拍。
「田舎娘を切り捨てて丸く収まる国ではない」
広場が、息を呑む。
セージは、ホップが抱えていた書類を受け取った。
「これが証拠だ」
紙束が、光を反射する。
「不正会計。
裏取引。
偽薬製造の指示書。
そして、最大ロット搬入の予定」
ナツメグの目が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「捏造だ」
反射的に言う。
しかし、ホップが低く言った。
「捏造なら、君の署名がなぜここにある」
ナツメグの口が、一瞬止まる。
セージが続ける。
「王の名のもとに命ずる」
その言葉が、刃になる。
「ナツメグを、逮捕する」
護衛が動く。
ナツメグは一歩下がりかけたが、すぐに足が止まる。
逃げない。
逃げられない。
ここで逃げれば、黒幕だと認めるようなものだから。
ナツメグは、最後の悪あがきのように笑った。
「殿下。あなたは、甘い」
笑みは薄いのに、毒は濃い。
「夜哭百合事件の後処理が甘かったから、私がここにいる。
あなたたちはいつもそうだ。
罪を都合よく薄めて、見ないふりをしてきた」
その言葉に、広場がざわつく。
セージの目が、ほんの少しだけ痛む。
否定できない部分があるからだ。
ホップが眉を寄せる。
サフランが歯を食いしばる。
ミントも、胸の奥が痛い。
(確かに)
(クローブ殿下の事件も)
(“終わったこと”として片付けたかった空気があった)
ナツメグの言葉は卑怯だ。
でも、刺さる。
だからこそ、セージはそこで目を逸らさなかった。
「……その通りだ」
セージは、はっきり言った。
広場が静まる。
「王家も、貴族も、宮廷薬師団も」
セージの声は揺れない。
「罪を都合よく薄めてきた。
そのツケが、今ここに来た」
ナツメグの笑みが一瞬止まる。
セージは続ける。
「だからこそ、今ここで正す」
そして、ミントを見た。
「ミントは“被害者”ではない」
ミントの胸が跳ねる。
「ミントは、変化をもたらすきっかけだ」
その言葉が、王都の空気に落ちる。
“田舎娘”という言葉が、違う意味へ変わっていく感覚があった。
田舎娘だから弱い、じゃない。
田舎娘だからこそ、国を変えられる。
ミントの目の奥が熱くなる。
泣きそうになるのを必死で堪えた。
ナツメグは、唇を歪めた。
「……夢を見ている」
「夢を見るのが王家の仕事だ」
セージは言い切った。
「夢を現実にするために、責任を取るのが、王家の仕事だ」
護衛がナツメグの腕を掴む。
ナツメグは抵抗しない。
ただ、最後にミントを見て笑った。
「君がどれだけ足掻いても」
声が低い。
「この国は簡単には変わらない」
ミントは、睨み返した。
「変わらないなら、変わるまでやるだけです」
ナツメグの笑みが、ほんの一瞬だけ薄くなった。
そして彼は連行されていく。
広場のざわめきが、少しずつ形を変える。
怒りではなく、安堵。
疑いではなく、納得。
偽薬事件は、終息へ向かう。
◇
夕方、広場が解散した後。
王城の廊下を歩きながら、ミントはまだ胸の奥が震えていた。
サフランが隣を歩く。
いつもより言葉が少ない。
ホップは遠くで指示を出し続け、セージは次の会議へ向かっている。
勝った。
黒幕は捕まった。
偽薬は止まる。
それでも――心の問題は残る。
“田舎娘”という言葉の傷。
サフランとの距離。
リリーの立ち位置。
貴族の檻。
そして、自分がどこまで欲張っていいのかという問い。
王都の光は、眩しい。
でも光がある場所ほど、影は濃い。
ミントは、その影の温度をまだ指先に残したまま、ゆっくりと歩いた。
終わりは近い。
けれど、全部が終わったわけじゃない。
――この物語は、まだ心の中で続いている。
曇っているわけじゃない。
ただ、街全体が吐き出す息――不安と怒りと噂の熱が、空の色を少しだけ濁らせている。
広場には人が集まっていた。
回収作戦の掲示。
王太子セージの声明。
それでも残った疑い。
「本当に偽薬なのか」
「本物はどれだ」
「田舎娘が来てから騒ぎが大きくなっただけじゃないか」
言葉の矢が、目に見えないまま飛び交っている。
その中心へ――ミントたちは歩いていった。
セージを先頭に。
サフランが横に立ち。
ホップが後ろで書類を抱え。
護衛が周囲を固める。
そしてミントは、その一歩後ろを歩いた。
足が重い。
でも、逃げたくない。
なぜなら、この騒ぎの中心にいるのが自分だからだ。
自分の名前が、誰かを傷つける武器になってしまったからだ。
広場の中央には、黒い外套の男が立っていた。
ナツメグ。
まるで最初から“舞台はここ”だと知っていたみたいに、落ち着き払った顔。
その周りには、見慣れない役人や商会の人間が散っている。
誰もが少しだけ距離を取っているのに、彼だけが中心に立っている。
影が濃い。
ミントは、無意識に喉を鳴らした。
ナツメグが、セージを見て微笑む。
「殿下。わざわざお越しとは」
その声は丁寧で、礼儀正しくて――だからこそ不気味だった。
セージは真正面から言った。
「偽薬事件の黒幕を、この場で断つ」
ざわめきが広がる。
「黒幕?」
「誰が?」
「……あの男が?」
ナツメグは肩をすくめた。
「断つ、ですか。
しかし殿下、あなたはまだ若い」
言い方が優しい。
優しいから、毒が深い。
「国の影を見たことがない」
その言葉が落ちた瞬間、ミントの背中に冷たいものが走った。
ナツメグは、ゆっくり視線をミントへ移した。
獲物を測る目。
「田舎娘」
またその呼び方。
ミントの胸が跳ねる。
ナツメグは薄く笑った。
「君は面白いね。
王太子の命を救い、王家の保証を得た。
それでもまだ、君は“田舎娘”のままだ」
ミントは、唇を噛んだ。
「……何が言いたいんですか」
ナツメグの笑みが深くなる。
「クローブ殿下の名を、覚えているか」
広場の空気が一段冷える。
クローブ。
第二王太子。
毒殺未遂事件の加害者。
そして、修道院へ送られた男。
ミントは、胸の奥が痛くなる。
ナツメグは続けた。
「王太子の影はいつも、誰かの犠牲の上に成り立っている」
その声が、妙に通る。
「クローブ殿下は“犠牲”だった。
兄に比べられ、踏まれ、歪み、罪を背負って消えた。
そして今度は君だ。田舎娘」
広場の人々が、ざわざわする。
“犠牲”という言葉に、人は弱い。
自分の罪を他人のせいにできるから。
同情という形で、怒りを正当化できるから。
ナツメグの声が、さらに甘くなる。
「君を捕らえれば、丸く収まる」
ミントの背筋が凍る。
――来た。
ナツメグの策略。
“ミントが原因”という物語を作る。
民衆にそれを飲ませる。
そして、捕らえることで“秩序の回復”を演出する。
「王都に混乱をもたらした者を処罰する。
そうすれば民は安心する。
殿下も、王家も、宮廷薬師団も、体面を保てる」
ざわめきが、うねりに変わる。
「確かに……」
「捕まえれば終わる?」
「でも、王太子殿下が保証すると言ったじゃないか」
「保証したからこそ、今こんな騒ぎなんだろ?」
言葉が割れる。
裂け目が広がる。
ミントは、息が苦しくなった。
(私が原因にされる)
(また、声を潰される)
あの日の記憶が蘇りかける。
雨。
門前。
「田舎娘」という嘲笑。
でも――。
ミントは、前に出た。
足が震えるのに、前に出た。
サフランが止めようとする気配を、ミントは小さく首を振って制した。
「私は」
声が震える。
でも、言う。
「私は、誰かを犠牲にするために薬を作っていません」
ナツメグが微笑む。
「綺麗事だね」
「綺麗事でいい」
ミントは、睨み返した。
「だからこそ、もう誰も犠牲にしないように薬を作ってるんです」
言い切った瞬間、胸の奥が熱くなった。
怒り。
悲しみ。
それでも守りたいもの。
ナツメグは、薄く息を吐く。
「君はまだ分かっていない。
国は、犠牲の上で動く」
「違う」
ミントは即答した。
「国が犠牲で動くなら、私はその犠牲を減らすために薬を作る。
それが薬師です」
広場が静まる。
ほんの一瞬。
その一瞬を割ったのは――別の声だった。
「ミントの薬で、俺は生きてる!」
声の主は、兵士だった。
鎧の一部を身につけ、肩に古い傷跡。
ミントが村で治療した兵士の一人だ。
「俺だけじゃない!
こいつも! あいつも!
ミントの薬で治った!」
次々に声が上がる。
「うちの子、咳で眠れなかったのが、ミントの薬で治った!」
「腰痛で畑に出られなかったのに、あの店でまた動けるようになった!」
「王都の薬じゃ治らなかったのに!」
「“田舎娘”だからこそ、ちゃんと話を聞いてくれたんだ!」
広場の端から、人が出てくる。
村から来ていた客。
宿場町の商人。
治療を受けた庶民。
そして、回復したばかりの人。
証言が重なる。
波みたいに、空気が押し返される。
ナツメグの顔から、薄い余裕が少しだけ剥がれた。
(流れが変わる)
ミントは、その瞬間を肌で感じた。
“民衆は噂に踊る”――ナツメグはそう言った。
でも民衆は、噂だけで生きていない。
自分が救われた体の記憶は、噂より強い。
セージが一歩前に出る。
声は静かで、でも広場の隅まで届いた。
「聞いたか、ナツメグ」
ナツメグが笑い返そうとする。
だが、セージは止めない。
「君は“ここでミントを捕らえれば丸く収まる”と言った」
セージの目が、真っ直ぐに光る。
「だが、この国は」
一拍。
「田舎娘を切り捨てて丸く収まる国ではない」
広場が、息を呑む。
セージは、ホップが抱えていた書類を受け取った。
「これが証拠だ」
紙束が、光を反射する。
「不正会計。
裏取引。
偽薬製造の指示書。
そして、最大ロット搬入の予定」
ナツメグの目が、ほんの一瞬だけ揺れた。
「捏造だ」
反射的に言う。
しかし、ホップが低く言った。
「捏造なら、君の署名がなぜここにある」
ナツメグの口が、一瞬止まる。
セージが続ける。
「王の名のもとに命ずる」
その言葉が、刃になる。
「ナツメグを、逮捕する」
護衛が動く。
ナツメグは一歩下がりかけたが、すぐに足が止まる。
逃げない。
逃げられない。
ここで逃げれば、黒幕だと認めるようなものだから。
ナツメグは、最後の悪あがきのように笑った。
「殿下。あなたは、甘い」
笑みは薄いのに、毒は濃い。
「夜哭百合事件の後処理が甘かったから、私がここにいる。
あなたたちはいつもそうだ。
罪を都合よく薄めて、見ないふりをしてきた」
その言葉に、広場がざわつく。
セージの目が、ほんの少しだけ痛む。
否定できない部分があるからだ。
ホップが眉を寄せる。
サフランが歯を食いしばる。
ミントも、胸の奥が痛い。
(確かに)
(クローブ殿下の事件も)
(“終わったこと”として片付けたかった空気があった)
ナツメグの言葉は卑怯だ。
でも、刺さる。
だからこそ、セージはそこで目を逸らさなかった。
「……その通りだ」
セージは、はっきり言った。
広場が静まる。
「王家も、貴族も、宮廷薬師団も」
セージの声は揺れない。
「罪を都合よく薄めてきた。
そのツケが、今ここに来た」
ナツメグの笑みが一瞬止まる。
セージは続ける。
「だからこそ、今ここで正す」
そして、ミントを見た。
「ミントは“被害者”ではない」
ミントの胸が跳ねる。
「ミントは、変化をもたらすきっかけだ」
その言葉が、王都の空気に落ちる。
“田舎娘”という言葉が、違う意味へ変わっていく感覚があった。
田舎娘だから弱い、じゃない。
田舎娘だからこそ、国を変えられる。
ミントの目の奥が熱くなる。
泣きそうになるのを必死で堪えた。
ナツメグは、唇を歪めた。
「……夢を見ている」
「夢を見るのが王家の仕事だ」
セージは言い切った。
「夢を現実にするために、責任を取るのが、王家の仕事だ」
護衛がナツメグの腕を掴む。
ナツメグは抵抗しない。
ただ、最後にミントを見て笑った。
「君がどれだけ足掻いても」
声が低い。
「この国は簡単には変わらない」
ミントは、睨み返した。
「変わらないなら、変わるまでやるだけです」
ナツメグの笑みが、ほんの一瞬だけ薄くなった。
そして彼は連行されていく。
広場のざわめきが、少しずつ形を変える。
怒りではなく、安堵。
疑いではなく、納得。
偽薬事件は、終息へ向かう。
◇
夕方、広場が解散した後。
王城の廊下を歩きながら、ミントはまだ胸の奥が震えていた。
サフランが隣を歩く。
いつもより言葉が少ない。
ホップは遠くで指示を出し続け、セージは次の会議へ向かっている。
勝った。
黒幕は捕まった。
偽薬は止まる。
それでも――心の問題は残る。
“田舎娘”という言葉の傷。
サフランとの距離。
リリーの立ち位置。
貴族の檻。
そして、自分がどこまで欲張っていいのかという問い。
王都の光は、眩しい。
でも光がある場所ほど、影は濃い。
ミントは、その影の温度をまだ指先に残したまま、ゆっくりと歩いた。
終わりは近い。
けれど、全部が終わったわけじゃない。
――この物語は、まだ心の中で続いている。
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