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第1話 静かな娘、ローザ・アーデルハイト
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朝、窓の外で雀がやかましく鳴いていた。
王都の中心にあるアーデルハイト邸は、白い壁と大理石の柱で飾られた大きすぎる家だ。
けれど、ローザが自室の扉を開けると、廊下の空気はひんやりしていて、人の気配が薄い。
大階段の下の方では、侍女たちの小声の笑いが反響している。
彼女は耳に入ってくるものをなるべく流す癖があった。そうしないと、心がざわざわして落ち着かなくなるからだ。
薄い灰色のドレスにエプロンを結び、彼女は温室へ向かった。
屋敷の一番奥、石壁に沿うように作られた細長い温室。
朝露で曇ったガラスの向こう、土の匂いが息を吸うたびに胸の奥に落ちてくる。
指先に土を乗せ、昨日移した苗の様子をのぞき込む。
小さな葉の先に透明な雫が乗っているのを見つけて、ふっと口元がゆるんだ。
「おはよう。よくがんばったね」
ローザは、芽に話しかけるみたいに囁く。
答えが返ってくることはない。
けれど、葉の震えひとつにも機嫌の色があるように思えて、毎朝それを確かめる時間が、彼女の一日の中でいちばん静かで、やさしかった。
「お嬢様、もう朝食のお時間です」
後ろで控えていたエミリアが呼びかけた。
彼女は幼いころからローザに付いている侍女で、同い年。
家族の中で、真正面から彼女の目を見て話してくれる数少ない人間だった。
「すぐ行くわ」
ローザは手についた土を拭って立ち上がる。
温室の扉を開けると、冷たい朝の空気が肌を刺した。
彼女は肩をすくめ、薄いショールを身体に巻き付ける。
屋敷の中は広いのに、灯りや人の声のある場所は限られている。
赴く先がはっきりしている人だけが、はっきりした足音を持つのだと、いつからか悟った。
食堂は長いテーブルがまっすぐに伸び、壁に沿って家系図の入った金の枠が並んでいる。
もう何度見ても、そこに自分の名があることを不思議に感じる。
アーデルハイト家三女、ローザ。紙の上では重厚な響きだが、実体は空気のように軽い。
席に着くなり、父の侍従長が無表情で皿を置いた。
パン、スープ、よく煮込まれた豆。簡素だが、文句のつけようはない。
父はいつものように新聞を広げ、母も同じ角度の微笑を顔に貼り付けている。
長女マリアンヌは休日だというのに社交用のドレスを身にまとい、テーブルに肘をついた。
次女セシリアは本に目を落とし、頁をめくるたびに指先の魔力が微かに揺れる。
「おはようございます」
ローザが声を出すと、一瞬だけ父の新聞が少し下がり、すぐに元の位置に戻った。
母は「おはよう」と言い、マリアンヌはちらりと視線だけを向けた。
「そのエプロン、また汚れているわよ。温室?」
「はい。新しく植えたルピナスが—」
「朝から泥の話はやめて。パンがまずくなる」
マリアンヌは唇の端を上げ、葡萄を爪先で弾くように口へ運んだ。
セシリアは本から顔を上げず、代わりにスプーンでスープを二度かき混ぜてから飲んだ。彼女の癖だ。
「……ごめんなさい」
ローザはそれ以上何も言わず、パンを小さくちぎって口に運ぶ。
パンは少し乾いていて、噛むたびに音がした。
その音が食堂の壁に跳ね返る。
隣から「地味で役立たず」という言葉が、笑いと一緒に追いかけてきた気がして、舌の上のパンが一瞬、石みたいに重くなる。
「そういえば」
父が新聞の一段を指先で叩いた。紙の擦れる音がした。
「王都で奇妙な噂が出回っている」
「噂?」と母。
「辺境の竜が、花嫁を求めている—そんな馬鹿げた話だ」
マリアンヌがくすくすと笑う。
「あら、ロマンチック。竜が花嫁だなんて」
「魔術学会では真剣に議論されてますよ。古文書に似た記述が—」
セシリアがわずかに顔を上げかけたが、父が手を上げて遮った。
「くだらん。だが一つだけ確かなのは、王都じゅうが話題にしているということだ。貴族たちは新しい酒の肴が欲しくて仕方ないからな」
そのとき、ローザは何も言えなかった。
竜、花嫁、辺境。響きの強い言葉がパチパチと火花を散らし、彼女の胸に落ちてきた。
彼女はスプーンを皿に置き、小さく息を整える。
心がざわめくときは、呼吸を数える。昔、エミリアに教わったやり方だ。
吸って、ひとつ。吐いて、ふたつ。
食事が終わると、家族はそれぞれの場所へ割れていった。
父は書斎、母は来客の支度、マリアンヌは鏡台へ、セシリアは魔術の師のもとへ。
ローザはそっと席を立ち、誰の袖も引かず、誰の目にも触れず、温室へ戻ろうとした。
廊下の角を曲がる手前で、声が追いかけてくる。
「ローザ」
振り返ると、マリアンヌがいた。
陽の当たる窓辺で、眩しさを味方にするような笑みを浮かべている。
ドレスのレースが、羽のようにふわりと揺れた。
「あなたさえいなければ、という話じゃないのよ。誰かは余るもの。家族ってそういう配置でできているの」
ローザは言葉を探した。
「……そうね」
「ええ、そう。だから、あなたが温室にいるのはとても良い選択。泥は泥のいる場所に」
マリアンヌは香水の香りを残し、踵を軽く鳴らして去っていった。
ローザは胸の中にぽつりと穴が開いたような感覚を抱え、歩き出した。
泥は泥の場所に。温室の扉を押す指が、少しだけ強くなった。
昼の温室は朝より熱がこもっている。
葉の影が重なり合い、ガラスに映る自分の輪郭がぼやけて見える。
ローザは腰を下ろし、苗床の脇で膝を抱えた。
土の表面をなでると、ひんやりしていて、安心する。
「お嬢様」
エミリアが水差しを抱えて入ってきた。頬に少し泥がついている。
彼女は手早く鉢に水を足し、ローザの前にしゃがんだ。
「さっきの、聞こえてました」
「気にしていないわ」
「気にしてください。人の言葉は刺さります。抜かないと、腫れてしまうから」
ローザは笑った。
「エミリアは医者みたいね」
「温室のお医者。植物とお嬢様専門です」
二人は笑い合う。笑いは短く、けれど確かだった。
エミリアはふいに懐から小さな紙袋を取り出した。掌に乗るほどの袋だ。
口を開くと、色とりどりの小さな種が光に反射した。
「市場で珍しいのを見つけました。銀色の花が咲くって、店の人は言ってました。嘘かもしれませんけど」
「銀色?」
「はい。夜にだけひらく銀花。旅人が道に迷わないように、光るんですって」
ローザは目を丸くし、種を一粒つまんだ。
指先に微かな冷たさが走った気がした。
「きれい。……ここに植えようか」
「はい。王都じゅうが竜だ花嫁だって騒いでますけど、うちはうちの花を騒がせましょう」
エミリアは小さな穴を作り、二人で丁寧に種を埋めた。
土をかぶせ、そっと掌を重ねる。
ローザは目を閉じる。
祈りというには照れくさい、けれど願いに近いものを心の中でかたちにする。
どうか、咲いて。どうか、ここに色が宿るように。
午後、屋敷には客人が訪れた。
母の来客は香りの層で屋敷中を満たす。
甘い花、柑橘、革張りの椅子、甘やかな笑声。
ローザは人に見えない道を通るみたいに廊下を歩き、客人の視線から身を避ける術を知っていた。
けれど、その日だけは、避け損ねた。
「あら、三女のお嬢様」
ローザが正面から名前を呼ばれることは滅多にない。
立ち止まると、扇子で口元を隠した夫人が目を細めた。母の友人だ。
背後に連なる侍女たちが、目だけで笑っている。
「温室の、ね」
「は、はい。ローザと申します」
「まあ。お手は土で荒れたりしないの? 女の手は名刺みたいなものよ」
「手袋をしています」
「そう。お手入れ、頑張ってね。いつか、誰かに触れる日が来るかもしれないから」
笑いが扇の影でふくらんだ。
ローザは軽く会釈して通り過ぎた。
心の中に、さきほど植えた銀の種のことを思い浮かべる。
いつか、誰かに触れる日。誰か、なんて誰だろう。
彼女は自分の掌を見た。土の紋様が薄く残っている。
これを嫌う人がいるのは知っている。
けれど、この紋様が、彼女にとって唯一の名刺のようにも思えた。
夕方になると、父の書斎の扉が開き、侍従長がローザを呼んだ。
低い声だったが、呼ばれたのは彼女一人だとすぐわかった。
心臓が一度、強く鳴った。
「失礼いたします」
父は大きな机の向こう、背もたれの高い椅子に腰掛け、窓から差し込む斜陽に額を照らしていた。
部屋は紙とインクと皮表紙の匂いで満ちている。
父は視線を上げず、机の上の書簡に印を押していく。
「座れ」
ローザは背筋を伸ばして椅子に腰掛けた。
手を膝に重ね、押さえる。手のひらが少し湿っていた。
「お前はいつも温室にいるな」
「はい」
「花に何の価値がある」
問いではなく、断定の調子だった。
ローザは答えを探す。価値。価値とは何か。
お金か、名誉か、役に立つかどうかか。
「人の心を楽にします」
「ふん」
父は鼻で笑い、紙を重ねた。
「明日、家族で晩餐をする。いつもの形式だ。遅れるな」
「……はい」
「それだけだ。下がっていい」
部屋を出ると、廊下は思ったより暗かった。
陽の角度が変わり、影の線が長く伸びている。
晩餐。家族全員の前。
胸のどこかで嫌な予感がひっそりと膨らむ。
理由も形もまだない。ただ、膨らむ。
夜、温室にもう一度足を運んだ。
空は群青で、遠くで犬が吠えた。
ガラスの向こうで、夕方に植えたばかりの区画に膝をつく。
静まり返った土の鼓動に耳を澄ますように、身を屈める。
エミリアがランプを持って入ってきた。
「晩餐、ですって?」
「ええ。明日」
「お嬢様の顔、少しこわばってます」
「そうね。……ねえ、エミリア。もし、世界のどこかに、竜が花嫁を探している場所が本当にあったら、どう思う?」
エミリアはランプの火を指で覆い、少し明かりを落とした。
「竜は、伝説だと思ってます。でも伝説が生まれるには、もとになる出来事があるはずです」
「花嫁を探す竜」
「ひとりでいるのが辛い誰か、という意味かもしれません」
沈黙が降りた。
ローザは指の腹で土を押した。冷たさが爪の間に入る。
彼女は目を閉じた。
ひとりでいるのが辛い誰か。
胸の奥に、言葉の形のない痛みが広がる。
自分のことを思ったのか、誰か別の存在を思ったのか、はっきりしない。
ただ、胸がぎゅっと強くなる。
「明日が怖いわ」
「大丈夫です。怖いのは、知らないからです。知れば、怖くなくなります」
エミリアの声は静かで、温度があった。
ローザは小さく頷いた。
「知れば、ね」
「それに」
エミリアは笑って、膝をついた。
「銀の花、きっと芽が出ます。夜にひらくなら、夜のあいだに息を吸ってるはず」
二人は並んで土を見つめた。
何も起きない。
けれど、何も起きない時間は、時々とても大事だ。
胸の早鐘が少しずつ落ち着いていく。
温室のガラスに、部屋の灯りがぼんやりと揺れて映った。
自室に戻ると、机の上に古い本が開かれていた。
セシリアの本だろうか。誰かが置いていったのかもしれない。
「古き契約と竜」という章に挟まれた栞。
ローザは手に取り、ページをめくった。古い紙の匂い。
文字は難しく、ところどころ読めない。
けれど、ひとつの段落だけが目に引っかかった。
〈竜は約束を重んじ、人は忘却を重んじる〉
ローザは栞を戻し、本をそっと閉じた。
忘却。彼女はよく忘れられる側だった。
使用人に名前を訊かれることがある。
舞踏会で、紹介の順番が飛ばされたことがある。
忘れられる痛みは、刺される痛みとは違って、いつまでも鈍く残る。
窓を開けると、夜風が入ってきた。遠くに王都の灯りが見える。
あの灯りの下で、竜の花嫁の話が酒場で笑いにされているのかもしれない。
笑い声はきっと軽い。
けれど、その軽さの反対側で、重たいものが誰かの胸に落ちているのだとしたら—
彼女は掌を握った。そこに、土の感触が確かにあった。
ベッドに横たわっても、なかなか眠れなかった。
目を閉じると、温室の土の面が瞼の裏に広がる。
そこに、銀の点がひとつ、ふたつ、灯る想像をする。
灯りは線になり、花の形になる。
花弁は薄く光り、風に揺れる。
誰かがその光を目印に歩いてくる。迷わないように、こちらへ、こちらへ。
そうしているうちに、眠りが波のようにやってきた。
波は彼女をさらい、静かな場所へ連れていった。
夢の中で、ローザは温室の扉を開けた。外は霧。
白い霧の向こうに、何か大きな影があった。
怖い。けれど、怖いだけではない。引かれる。
胸の真ん中から糸が伸びて、影に結ばれている。
影は、ゆっくりとこちらへ近づいた。
霧が薄くなり、輪郭が現れる。
銀。瞳。
冷たいはずの色なのに、そこに熱がある。
息が詰まる。
名前を呼ばれた気がして、彼女は振り向いた。
誰もいない。
振り返ると、影はもう目の前にいた。
指先が、触れる寸前で止まる。
霧が、彼の呼吸で揺れた。
目が覚めたのは、夜明けの直前だった。
空はまだ暗く、鳥も鳴かない。
胸が早く動いている。
夢の輪郭が、はっきりしたまま残っていた。
彼女は起き上がり、裸足で床を踏んだ。冷たさが足裏から上がってくる。
ローブを羽織り、静かに扉を開ける。
温室へ向かう廊下は、夜の間に冷えて、音を吸っている。
足音が小さく、息の音が大きい。
扉の前で一度だけ深呼吸をして、取っ手を回した。
湿った空気。匂い。土。
ガラス越しの夜明け前の光が、薄くものの輪郭を塗っていく。
昨日、銀の種を埋めた場所に歩み寄る。
膝をつく。暗がりに目が慣れるのを待つ。
何度か瞬きすると、土の表面に、とても小さな、細い線が立っているのが見えた。
最初は気のせいだと思った。
指で土を少し払う。やっぱり、ある。
薄い、ほんの少しだけ色を帯びた芽。
銀というにはあまりにか細いけれど、確かに光を持っている。
「……咲くの?」
自分の声が小さく響いた。
そのとき、背後で衣擦れの音がした。
振り返ると、エミリアがランプを掲げていた。
彼女の目が、夜目みたいに大きく見える。
「起きちゃいました?」
「眠れなくて」
「私もです」
二人で芽を見下ろす。
風もないのに、芽は微かに震え、そこだけ世界が違う速度で動いているみたいだった。
ランプの火がわずかにゆらいで、芽の先に光の点が生まれる。
ほんの一瞬、銀だった。
「見ました?」
「見た」
エミリアが小さく息を吐いた。
「ね、咲きます。きっと」
東の空が白んでいく。
夜がほどけ、世界の輪郭が戻る。
ローザは立ち上がった。
胸の中の不安は消えていない。
明日の晩餐のことを考えると、お腹のあたりが冷たくなる。
でも、温室の土が確かに温かい。芽が確かにそこにある。
見失わなければ、きっと立っていられる。
扉に手をかけたとき、屋敷の方から鐘が鳴った。朝を告げる鐘。
彼女は振り返り、もう一度だけ芽を見た。
芽はじっとしていた。じっとして、しかし前に向かっている。
ローザは頷いた。
「行こう。今日を、ちゃんと知るために」
彼女は温室を後にし、朝の光の中へ歩き出した。
晩餐の席が彼女に何を告げるのか、まだ知らない。
でも、知らないから怖い。知れば、少しは違う。
そうエミリアが言った。だから、行くのだ。
彼女は背筋を伸ばし、ため息を一度だけ飲み込んで、長い廊下を進んだ。
屋敷は、眠りから覚める巨大な獣みたいに、ゆっくりと目を開けつつあった。
彼女の一歩ごとに、床が微かに鳴る。
鳴るたびに、彼女は生きていると確認できた。
そして、その音は、遠いどこか—霧の向こうで、何かの心臓にも届いていた。
銀の瞳が、同じ朝を見ていた。
どちらもまだ、相手の名を知らない。
けれど、互いのほうへ、確かに歩き始めていた。
王都の中心にあるアーデルハイト邸は、白い壁と大理石の柱で飾られた大きすぎる家だ。
けれど、ローザが自室の扉を開けると、廊下の空気はひんやりしていて、人の気配が薄い。
大階段の下の方では、侍女たちの小声の笑いが反響している。
彼女は耳に入ってくるものをなるべく流す癖があった。そうしないと、心がざわざわして落ち着かなくなるからだ。
薄い灰色のドレスにエプロンを結び、彼女は温室へ向かった。
屋敷の一番奥、石壁に沿うように作られた細長い温室。
朝露で曇ったガラスの向こう、土の匂いが息を吸うたびに胸の奥に落ちてくる。
指先に土を乗せ、昨日移した苗の様子をのぞき込む。
小さな葉の先に透明な雫が乗っているのを見つけて、ふっと口元がゆるんだ。
「おはよう。よくがんばったね」
ローザは、芽に話しかけるみたいに囁く。
答えが返ってくることはない。
けれど、葉の震えひとつにも機嫌の色があるように思えて、毎朝それを確かめる時間が、彼女の一日の中でいちばん静かで、やさしかった。
「お嬢様、もう朝食のお時間です」
後ろで控えていたエミリアが呼びかけた。
彼女は幼いころからローザに付いている侍女で、同い年。
家族の中で、真正面から彼女の目を見て話してくれる数少ない人間だった。
「すぐ行くわ」
ローザは手についた土を拭って立ち上がる。
温室の扉を開けると、冷たい朝の空気が肌を刺した。
彼女は肩をすくめ、薄いショールを身体に巻き付ける。
屋敷の中は広いのに、灯りや人の声のある場所は限られている。
赴く先がはっきりしている人だけが、はっきりした足音を持つのだと、いつからか悟った。
食堂は長いテーブルがまっすぐに伸び、壁に沿って家系図の入った金の枠が並んでいる。
もう何度見ても、そこに自分の名があることを不思議に感じる。
アーデルハイト家三女、ローザ。紙の上では重厚な響きだが、実体は空気のように軽い。
席に着くなり、父の侍従長が無表情で皿を置いた。
パン、スープ、よく煮込まれた豆。簡素だが、文句のつけようはない。
父はいつものように新聞を広げ、母も同じ角度の微笑を顔に貼り付けている。
長女マリアンヌは休日だというのに社交用のドレスを身にまとい、テーブルに肘をついた。
次女セシリアは本に目を落とし、頁をめくるたびに指先の魔力が微かに揺れる。
「おはようございます」
ローザが声を出すと、一瞬だけ父の新聞が少し下がり、すぐに元の位置に戻った。
母は「おはよう」と言い、マリアンヌはちらりと視線だけを向けた。
「そのエプロン、また汚れているわよ。温室?」
「はい。新しく植えたルピナスが—」
「朝から泥の話はやめて。パンがまずくなる」
マリアンヌは唇の端を上げ、葡萄を爪先で弾くように口へ運んだ。
セシリアは本から顔を上げず、代わりにスプーンでスープを二度かき混ぜてから飲んだ。彼女の癖だ。
「……ごめんなさい」
ローザはそれ以上何も言わず、パンを小さくちぎって口に運ぶ。
パンは少し乾いていて、噛むたびに音がした。
その音が食堂の壁に跳ね返る。
隣から「地味で役立たず」という言葉が、笑いと一緒に追いかけてきた気がして、舌の上のパンが一瞬、石みたいに重くなる。
「そういえば」
父が新聞の一段を指先で叩いた。紙の擦れる音がした。
「王都で奇妙な噂が出回っている」
「噂?」と母。
「辺境の竜が、花嫁を求めている—そんな馬鹿げた話だ」
マリアンヌがくすくすと笑う。
「あら、ロマンチック。竜が花嫁だなんて」
「魔術学会では真剣に議論されてますよ。古文書に似た記述が—」
セシリアがわずかに顔を上げかけたが、父が手を上げて遮った。
「くだらん。だが一つだけ確かなのは、王都じゅうが話題にしているということだ。貴族たちは新しい酒の肴が欲しくて仕方ないからな」
そのとき、ローザは何も言えなかった。
竜、花嫁、辺境。響きの強い言葉がパチパチと火花を散らし、彼女の胸に落ちてきた。
彼女はスプーンを皿に置き、小さく息を整える。
心がざわめくときは、呼吸を数える。昔、エミリアに教わったやり方だ。
吸って、ひとつ。吐いて、ふたつ。
食事が終わると、家族はそれぞれの場所へ割れていった。
父は書斎、母は来客の支度、マリアンヌは鏡台へ、セシリアは魔術の師のもとへ。
ローザはそっと席を立ち、誰の袖も引かず、誰の目にも触れず、温室へ戻ろうとした。
廊下の角を曲がる手前で、声が追いかけてくる。
「ローザ」
振り返ると、マリアンヌがいた。
陽の当たる窓辺で、眩しさを味方にするような笑みを浮かべている。
ドレスのレースが、羽のようにふわりと揺れた。
「あなたさえいなければ、という話じゃないのよ。誰かは余るもの。家族ってそういう配置でできているの」
ローザは言葉を探した。
「……そうね」
「ええ、そう。だから、あなたが温室にいるのはとても良い選択。泥は泥のいる場所に」
マリアンヌは香水の香りを残し、踵を軽く鳴らして去っていった。
ローザは胸の中にぽつりと穴が開いたような感覚を抱え、歩き出した。
泥は泥の場所に。温室の扉を押す指が、少しだけ強くなった。
昼の温室は朝より熱がこもっている。
葉の影が重なり合い、ガラスに映る自分の輪郭がぼやけて見える。
ローザは腰を下ろし、苗床の脇で膝を抱えた。
土の表面をなでると、ひんやりしていて、安心する。
「お嬢様」
エミリアが水差しを抱えて入ってきた。頬に少し泥がついている。
彼女は手早く鉢に水を足し、ローザの前にしゃがんだ。
「さっきの、聞こえてました」
「気にしていないわ」
「気にしてください。人の言葉は刺さります。抜かないと、腫れてしまうから」
ローザは笑った。
「エミリアは医者みたいね」
「温室のお医者。植物とお嬢様専門です」
二人は笑い合う。笑いは短く、けれど確かだった。
エミリアはふいに懐から小さな紙袋を取り出した。掌に乗るほどの袋だ。
口を開くと、色とりどりの小さな種が光に反射した。
「市場で珍しいのを見つけました。銀色の花が咲くって、店の人は言ってました。嘘かもしれませんけど」
「銀色?」
「はい。夜にだけひらく銀花。旅人が道に迷わないように、光るんですって」
ローザは目を丸くし、種を一粒つまんだ。
指先に微かな冷たさが走った気がした。
「きれい。……ここに植えようか」
「はい。王都じゅうが竜だ花嫁だって騒いでますけど、うちはうちの花を騒がせましょう」
エミリアは小さな穴を作り、二人で丁寧に種を埋めた。
土をかぶせ、そっと掌を重ねる。
ローザは目を閉じる。
祈りというには照れくさい、けれど願いに近いものを心の中でかたちにする。
どうか、咲いて。どうか、ここに色が宿るように。
午後、屋敷には客人が訪れた。
母の来客は香りの層で屋敷中を満たす。
甘い花、柑橘、革張りの椅子、甘やかな笑声。
ローザは人に見えない道を通るみたいに廊下を歩き、客人の視線から身を避ける術を知っていた。
けれど、その日だけは、避け損ねた。
「あら、三女のお嬢様」
ローザが正面から名前を呼ばれることは滅多にない。
立ち止まると、扇子で口元を隠した夫人が目を細めた。母の友人だ。
背後に連なる侍女たちが、目だけで笑っている。
「温室の、ね」
「は、はい。ローザと申します」
「まあ。お手は土で荒れたりしないの? 女の手は名刺みたいなものよ」
「手袋をしています」
「そう。お手入れ、頑張ってね。いつか、誰かに触れる日が来るかもしれないから」
笑いが扇の影でふくらんだ。
ローザは軽く会釈して通り過ぎた。
心の中に、さきほど植えた銀の種のことを思い浮かべる。
いつか、誰かに触れる日。誰か、なんて誰だろう。
彼女は自分の掌を見た。土の紋様が薄く残っている。
これを嫌う人がいるのは知っている。
けれど、この紋様が、彼女にとって唯一の名刺のようにも思えた。
夕方になると、父の書斎の扉が開き、侍従長がローザを呼んだ。
低い声だったが、呼ばれたのは彼女一人だとすぐわかった。
心臓が一度、強く鳴った。
「失礼いたします」
父は大きな机の向こう、背もたれの高い椅子に腰掛け、窓から差し込む斜陽に額を照らしていた。
部屋は紙とインクと皮表紙の匂いで満ちている。
父は視線を上げず、机の上の書簡に印を押していく。
「座れ」
ローザは背筋を伸ばして椅子に腰掛けた。
手を膝に重ね、押さえる。手のひらが少し湿っていた。
「お前はいつも温室にいるな」
「はい」
「花に何の価値がある」
問いではなく、断定の調子だった。
ローザは答えを探す。価値。価値とは何か。
お金か、名誉か、役に立つかどうかか。
「人の心を楽にします」
「ふん」
父は鼻で笑い、紙を重ねた。
「明日、家族で晩餐をする。いつもの形式だ。遅れるな」
「……はい」
「それだけだ。下がっていい」
部屋を出ると、廊下は思ったより暗かった。
陽の角度が変わり、影の線が長く伸びている。
晩餐。家族全員の前。
胸のどこかで嫌な予感がひっそりと膨らむ。
理由も形もまだない。ただ、膨らむ。
夜、温室にもう一度足を運んだ。
空は群青で、遠くで犬が吠えた。
ガラスの向こうで、夕方に植えたばかりの区画に膝をつく。
静まり返った土の鼓動に耳を澄ますように、身を屈める。
エミリアがランプを持って入ってきた。
「晩餐、ですって?」
「ええ。明日」
「お嬢様の顔、少しこわばってます」
「そうね。……ねえ、エミリア。もし、世界のどこかに、竜が花嫁を探している場所が本当にあったら、どう思う?」
エミリアはランプの火を指で覆い、少し明かりを落とした。
「竜は、伝説だと思ってます。でも伝説が生まれるには、もとになる出来事があるはずです」
「花嫁を探す竜」
「ひとりでいるのが辛い誰か、という意味かもしれません」
沈黙が降りた。
ローザは指の腹で土を押した。冷たさが爪の間に入る。
彼女は目を閉じた。
ひとりでいるのが辛い誰か。
胸の奥に、言葉の形のない痛みが広がる。
自分のことを思ったのか、誰か別の存在を思ったのか、はっきりしない。
ただ、胸がぎゅっと強くなる。
「明日が怖いわ」
「大丈夫です。怖いのは、知らないからです。知れば、怖くなくなります」
エミリアの声は静かで、温度があった。
ローザは小さく頷いた。
「知れば、ね」
「それに」
エミリアは笑って、膝をついた。
「銀の花、きっと芽が出ます。夜にひらくなら、夜のあいだに息を吸ってるはず」
二人は並んで土を見つめた。
何も起きない。
けれど、何も起きない時間は、時々とても大事だ。
胸の早鐘が少しずつ落ち着いていく。
温室のガラスに、部屋の灯りがぼんやりと揺れて映った。
自室に戻ると、机の上に古い本が開かれていた。
セシリアの本だろうか。誰かが置いていったのかもしれない。
「古き契約と竜」という章に挟まれた栞。
ローザは手に取り、ページをめくった。古い紙の匂い。
文字は難しく、ところどころ読めない。
けれど、ひとつの段落だけが目に引っかかった。
〈竜は約束を重んじ、人は忘却を重んじる〉
ローザは栞を戻し、本をそっと閉じた。
忘却。彼女はよく忘れられる側だった。
使用人に名前を訊かれることがある。
舞踏会で、紹介の順番が飛ばされたことがある。
忘れられる痛みは、刺される痛みとは違って、いつまでも鈍く残る。
窓を開けると、夜風が入ってきた。遠くに王都の灯りが見える。
あの灯りの下で、竜の花嫁の話が酒場で笑いにされているのかもしれない。
笑い声はきっと軽い。
けれど、その軽さの反対側で、重たいものが誰かの胸に落ちているのだとしたら—
彼女は掌を握った。そこに、土の感触が確かにあった。
ベッドに横たわっても、なかなか眠れなかった。
目を閉じると、温室の土の面が瞼の裏に広がる。
そこに、銀の点がひとつ、ふたつ、灯る想像をする。
灯りは線になり、花の形になる。
花弁は薄く光り、風に揺れる。
誰かがその光を目印に歩いてくる。迷わないように、こちらへ、こちらへ。
そうしているうちに、眠りが波のようにやってきた。
波は彼女をさらい、静かな場所へ連れていった。
夢の中で、ローザは温室の扉を開けた。外は霧。
白い霧の向こうに、何か大きな影があった。
怖い。けれど、怖いだけではない。引かれる。
胸の真ん中から糸が伸びて、影に結ばれている。
影は、ゆっくりとこちらへ近づいた。
霧が薄くなり、輪郭が現れる。
銀。瞳。
冷たいはずの色なのに、そこに熱がある。
息が詰まる。
名前を呼ばれた気がして、彼女は振り向いた。
誰もいない。
振り返ると、影はもう目の前にいた。
指先が、触れる寸前で止まる。
霧が、彼の呼吸で揺れた。
目が覚めたのは、夜明けの直前だった。
空はまだ暗く、鳥も鳴かない。
胸が早く動いている。
夢の輪郭が、はっきりしたまま残っていた。
彼女は起き上がり、裸足で床を踏んだ。冷たさが足裏から上がってくる。
ローブを羽織り、静かに扉を開ける。
温室へ向かう廊下は、夜の間に冷えて、音を吸っている。
足音が小さく、息の音が大きい。
扉の前で一度だけ深呼吸をして、取っ手を回した。
湿った空気。匂い。土。
ガラス越しの夜明け前の光が、薄くものの輪郭を塗っていく。
昨日、銀の種を埋めた場所に歩み寄る。
膝をつく。暗がりに目が慣れるのを待つ。
何度か瞬きすると、土の表面に、とても小さな、細い線が立っているのが見えた。
最初は気のせいだと思った。
指で土を少し払う。やっぱり、ある。
薄い、ほんの少しだけ色を帯びた芽。
銀というにはあまりにか細いけれど、確かに光を持っている。
「……咲くの?」
自分の声が小さく響いた。
そのとき、背後で衣擦れの音がした。
振り返ると、エミリアがランプを掲げていた。
彼女の目が、夜目みたいに大きく見える。
「起きちゃいました?」
「眠れなくて」
「私もです」
二人で芽を見下ろす。
風もないのに、芽は微かに震え、そこだけ世界が違う速度で動いているみたいだった。
ランプの火がわずかにゆらいで、芽の先に光の点が生まれる。
ほんの一瞬、銀だった。
「見ました?」
「見た」
エミリアが小さく息を吐いた。
「ね、咲きます。きっと」
東の空が白んでいく。
夜がほどけ、世界の輪郭が戻る。
ローザは立ち上がった。
胸の中の不安は消えていない。
明日の晩餐のことを考えると、お腹のあたりが冷たくなる。
でも、温室の土が確かに温かい。芽が確かにそこにある。
見失わなければ、きっと立っていられる。
扉に手をかけたとき、屋敷の方から鐘が鳴った。朝を告げる鐘。
彼女は振り返り、もう一度だけ芽を見た。
芽はじっとしていた。じっとして、しかし前に向かっている。
ローザは頷いた。
「行こう。今日を、ちゃんと知るために」
彼女は温室を後にし、朝の光の中へ歩き出した。
晩餐の席が彼女に何を告げるのか、まだ知らない。
でも、知らないから怖い。知れば、少しは違う。
そうエミリアが言った。だから、行くのだ。
彼女は背筋を伸ばし、ため息を一度だけ飲み込んで、長い廊下を進んだ。
屋敷は、眠りから覚める巨大な獣みたいに、ゆっくりと目を開けつつあった。
彼女の一歩ごとに、床が微かに鳴る。
鳴るたびに、彼女は生きていると確認できた。
そして、その音は、遠いどこか—霧の向こうで、何かの心臓にも届いていた。
銀の瞳が、同じ朝を見ていた。
どちらもまだ、相手の名を知らない。
けれど、互いのほうへ、確かに歩き始めていた。
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