公爵家を追い出された地味令嬢、辺境のドラゴンに嫁ぎます!

タマ マコト

文字の大きさ
18 / 20

第18話 静かな奇跡

しおりを挟む
戦の音が消えた朝は、耳が信じなかった。
いつものように鐘は鳴らず、叫びもなく、風の音だけが砦の骨を撫でていく。

ローザは覆い布をめくり、息を止めた。
昨夜咲いた銀花――セラフィムが、まだ息をしている。
花弁は薄く、光を吸っては返し、土の上に小さな呼吸の波を作っていた。

「おはよう」

囁くと、花は答えない。
けれど、土が柔らかく返した。
指先に伝わる脈。
胸の奥に、同じ高さの音が反響する。
〈いる〉――契印は、もう熱くはない。
ただ温かい。焚き火の熾の温度。
消えないで残る、低い灯り。

外へ出ると、砦の中庭は昨夜の光の残滓で淡く白い。
焦げた梁は落とされ、煤は片付けの半ば。
祈りの輪の灰は新しく、井戸の布は結び直されて濡れている。

ミルドが杖をつき、静かな声で合図を出す。
「水を一杯ずつ。砂を道に。火の跡は踏むな」

テオが駆けてきた。頬は赤い。
両手に石を抱え、息を切らしながら、ローザの足元でぴたりと止まる。

「ねえ、見て。歩くと、出る」

彼が指差した先――ローザがさっき踏んだ場所に、小さな銀の点が二つ、芽のように頭を出している。
彼女が半歩下がると、足の影に沿って、点は細い茎になり、星みたいな花弁へほどけた。

「……本当に、ついてくるんだ」

ローザは苦笑した。
驚きは小さく、受け入れは早い。
胸の中の灯りが、また“合図”を運んでくる。
〈驚くな。お前のせいだ〉――あのときの言葉が、音を持たずに背中を押した。

「領主様」

ゲルが井戸の縁から声をかける。
顔は疲れているが、目は澄んでいる。
「村に戻る道、花で覆われてきた。みんな、こっちへ来てる」

「来てるなら、迎えよう」

「その足で歩けば、道ができる」

道。
昨日の夜、足元で開いた花の帯は、中庭から外門へ、さらに谷の小径へ。
ローザは一度だけ深呼吸して、歩き出した。

足音がひとつ、土に落ちる。
落ちた場所から、銀が芽吹く。
やわらかい音のない音。
テオが歓声を上げ、石を抱えたまま飛び跳ねる。
ミルドは「踏むな」と言いつつ、最初の一本を杖先で愛おしそうに避けた。

外門を抜けると、谷の空気は別人のようだった。
焦げの匂いは後退し、湿った土と樹皮の甘い匂いが前に出ている。
風の触り方も違う。切るのではなく撫でる。
少しだけ、春に近い。
雪の間から顔を出した黒土は、ところどころ銀の粉で縁取られ、陽が差すたびにちりちり音を立てるみたいに光った。

「領主様だ!」

坂の下から声。
村人が列になって上がってくる。
手に鍬、背に空の袋。
焦げた布を巻いた腕、泣き腫らした目の子。
そこに、薄い笑いが混じっている。
笑いは大きくない。けれど、確かにそこにある。

「火は止まった。井戸は生きてる」

ローザが言うと、安堵が波のように広がった。
テオの母が胸に手を当て、祈りの輪の女が布をほどいて膝に巻き直す。
ゲルは仲間に合図し、男たちは足元の花を避け、でも気にし過ぎない歩幅をすぐ覚えた。
人は、覚える。

村へ降りる道すがら、ローザの足跡は細い帯を編みつづけた。
畝の端、井戸の縁、倒れた柵、焼けた屋根。
銀の花はそこに節目を作る。
節目は、目安になる。
「ここから」「ここまで」――次に手を入れる順番が浮かび上がる。

村の広場に出ると、異様な静けさが迎えた。
昨夜、火が舐めた家々は半分が黒く、半分が残っている。
祈りの輪の柱は倒れていない。
輪の灰は薄い蜂蜜の匂いをまだ持っていた。
井戸の水面には、銀の粉が一枚、皿のように浮かんでいる。

「領主様」

ミルドが杖をとん、と地についた。
「手順を」

「井戸の布は二時間ごとに替えましょう。
畝は焦げたところを浅く起こして、灰を混ぜて。
蜂蜜は薄く伸ばして、咳の子に少しずつ。
火の跡は踏まずに砂をかけて。
祈りの輪は――」

「新しい灰を、今日の手で」

祈りの輪の女が言葉を継いだ。
彼女の目の下に隈はあるが、声は強い。
彼女は蜂蜜の瓶の底を布で拭き、水に落とし、鍋を火にかけた。
火は小さい。灯りに近い火。
輪の中心に置く火は、脅しではない。
ここではそう決めた。

「領主様、見て」

テオが広場の隅で跳ねる。
ローザが行くと、焼けた柵の脇、雪の上に銀の線が一本、すでに伸びていた。
彼女が歩く前に――村人が、花を運んだのだろうか。
手の跡がついている。
増やすために折ったのではない。
落ちた花弁の粉を、指でつまんで、撒いた。
その雑な優しさが、胸に刺さる。

「ありがとう。……これ、少し濡らすと根がつく」

「どうやる?」

「踏まない。見張る。触りすぎない」

言葉を交わしているうちに、ローザの足元からも花は増えつづける。
狙って置いているわけじゃない。
歩くたび、必要そうな場所にだけ、ぽっと灯る。
まるで、土が先に考えているみたいに。

彼女は過剰に意味を探さないことにした。
ただ、現象を“手順”に変える。
手順は、恐れの隣で座りがいい。

「ローザ」

背から、ためらいがちな声。
振り向くと、フードを目深にかぶった若い女が立っていた。
護符の紐。王都の布。セシリアだ。
彼女は疲れた顔で笑い、小さく会釈した。

「無事で、よかった」

「手紙、助かったよ。楔のこと、環のこと」

「わたしは、届く場所にしか届かない言葉しか持っていない。
ここでは、あなたの声が届く。――それで十分だと思った」

セシリアの視線が、ローザの足元の花に落ちた。
「……美しい。けど、怖くもあるわね」

「怖い?」

「誰かが、これを『武器』だと言い張る日が来る。
王都は、名前を変えて奪うのが得意」

「じゃあ、先に名前を決めておこう。
『灯り』。『道標』。『挨拶』。
武器の名前じゃない」

セシリアは声を立てずに笑い、肩の力を抜いた。
「王都へ戻る。報告がある。
“魔”ではない、と。これは“呼吸”だと」

「気を付けて」

「あなたも」

彼女が去る背に、風がひとつ通り抜け、フードの端を持ち上げた。
銀の粉が、そこに一粒、光った。
王都へも、少し届くといい。
届かなくても、手順は残る。
残れば、いつか届く。

昼過ぎ、村はいつもの忙しさを取り戻した。
焚き火の上で鍋が鳴り、子どもが走り、男たちの肩が土の重みを思い出し、女たちの手が布の温度を測る。
ゲルが倒れた梁を引きずり、ミルドが杖で地を叩き、テオが小石を並べて畝の輪郭を作る。

ローザは井戸と畝と輪を往復しながら、時々立ち止まって空を見た。
雲は遅い。風は優しい。
耳の底で、低い音が続いている。
大地の音。彼の呼吸と同じ高さ。

「ローザ」

夕方、祈りの輪の火が小さくなったころ、ゲルが声をかけた。
「あの丘、見てきてくれないか。焼けたままで、誰も近寄れない」

「行く」

丘は村の外れ、木々の間から突き出た黒い背骨のような場所だ。
昨夜、火の帯がいちばん長く舐めた。
近づくと、足元から焦げ臭が立つ。
風が方向を変え、その匂いを連れてくる。

ローザは深呼吸して、ゆっくりと足を乗せた。
銀の花が、ひとつ。もうひとつ。
足跡に沿って灯る。
黒に白。焦げに呼吸。
少しずつ、丘の上まで。

頂で、彼女は立ち止まった。
遠くの山脈が、夕陽で薄い紫に沈む。
砦の屋根からは細い煙。
村の広場から子どもの笑い声。
祈りの輪の火が最後の音を鳴らし、井戸の水面がかすかに光る。
すべてが小さい。
小さいけれど、全部ある。

「――見てる?」

誰もいない空に訊ねる。
返事は、風の指先だった。
髪を撫で、頬を触り、足元の花を揺らす。
契印が、熾火みたいに一度だけ明るくなる。
〈いる〉。
言葉にならないのに、意味がはっきりしている。

「あなたの名前を呼ばない練習、始めるね」

彼女は苦笑し、指で土を撫でた。
「呼ばれなくても、いるって分かるように」

丘を降りると、夕餉の匂いが村を満たしていた。
薄いスープ、焼いた根菜、蜂蜜を少し溶かしたお茶。
ローザは鍋の蓋を取り、湯気の温度を確かめ、それからテオの皿にパンをちぎって入れた。
テオは黙って頷き、口いっぱいに頬張る。
食べる音は、平和の音だ。
平和は静かすぎると不安を呼ぶから、こういう音が必要だ。

夜、砦に戻る道も銀の花で縁取られた。
足音に合わせて、光が緩やかに揺れる。
門をくぐると、風の入口の覆い布がひとつ、寝息の音で鳴いた。
寝息。彼が教えてくれた鳴き方。
ローザは笑い、布をそっと撫でた。

部屋で灯りを落とし、机に手帳をひろげる。
ペン先が紙に触れる音が、今日の最後の鐘になる。

〈静か。火なし。風やわらか。銀花は足元に。
村の道、畝、井戸、輪に“目印”。
セシリア、王都へ。
ミルドの杖、ゲルの肩、テオの石。
丘は黒から白へ。――“いる”。
呼ばずに分かる。〉

書き終えて、窓辺の銀の粉を指で集め、掌の真ん中でそっと広げた。
粉はすぐに消えず、薄く光った。熾火みたいに。
ローザはその上に手を重ね、目を閉じた。
耳の底で、大地の音が続く。
低く、長く、やさしい。

静かな奇跡は、毎瞬起きている。
大きな光ではない。
誰かの皿に温かいスープが満ちる音。
井戸の布を絞る手の確かさ。
泣き止んだ子が蜜の甘さで笑う瞬間。
焼けた土の上に根が伸びる気配。
結界の縫い目が夜の中でゆっくり締まる感触。
そして、歩いた跡に小さな銀が灯ること。

滅びの果てに、愛が咲く。
咲いた花は、明日には少し色を変え、季節に合わせて形を変えるだろう。
それでいい。
愛は滅びず、形を変えて咲き続ける。
ローザは胸の灯りを確かめ、静かに息を吐いた。

「おやすみ。――明日も、“まし”にする」

風が窓の隙間で返事をした。
覆い布が寝息で鳴り、銀の花が影で揺れた。
夜の底は深く、しかし敵ではない。
眠りは作業の味方だ。

彼女は目を閉じ、掌の温度を胸に移した。
遠くの山の向こうへ、ひとつ、小さなありがとうを投げる。
風が拾い、見えない鱗に触れてから、そっと砦の屋根へ落ちた気がした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される

希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。 ​すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。 ​その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

追放された聖女は、辺境で狼(もふもふ)とカフェを開く

橘 あやめ
ファンタジー
――もう黙らない。追放された聖女は、もふもふの白狼と温かい居場所を見つける―― 十二年間、大聖堂で祈り続けた。 病人を癒し、呪いを祓い、飢饉のときは畑に恵みの光を降ろす。 その全てを、妹の嘘泣きひとつで奪われた。 献金横領の濡れ衣を着せられ、聖女の座を追われたアーシャ。 荷物は革鞄ひとつ。行く宛てもない。 たどり着いた辺境の町で、アーシャは小さなハーブティーのカフェを開くことに。 看板は小枝の炭で手作り。 焼き菓子は四度目でようやく成功。 常連もできて、少しずつ「自分の居場所」が生まれていく――。 そんなカフェに夜ごと現れるのは、月光のように美しい銀色の狼。 もふもふで、不愛想で、でも何かとアーシャのことを助けてくれる。 やがて、穏やかな日々を壊しに――妹が現れる。 ※追放聖女のカフェ開業もの(もふもふつき)です!ハッピーエンド!

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

役立たず聖女見習い、追放されたので森でマイホームとスローライフします ~召喚できるのは非生物だけ?いいえ、全部最強でした~

しおしお
ファンタジー
聖女見習いとして教会に仕えていた少女は、 「役立たず」と嘲笑され、ある日突然、追放された。 理由は単純。 彼女が召喚できるのは――タンスやぬいぐるみなどの非生物だけだったから。 森へ放り出され、夜を前に途方に暮れる中、 彼女は必死に召喚を行う。 呼び出されたのは、一体の熊のぬいぐるみ。 だがその瞬間、彼女のスキルは覚醒する。 【付喪神】――非生物に魂を宿らせる能力。 喋らないが最強の熊、 空を飛び無限引き出し爆撃を行うタンス、 敬語で語る伝説級聖剣、 そして四本足で歩き、すべてを自動化する“マイホーム”。 彼女自身は戦わない。 努力もしない。 頑張らない。 ただ「止まる場所が欲しかった」だけなのに、 気づけば魔物の軍勢は消え、 王城と大聖堂は跡形もなく吹き飛び、 ――しかし人々は、なぜか生きていた。 英雄になることを拒み、 責任を背負うこともせず、 彼女は再び森へ帰る。 自動調理、自動防衛、完璧な保存環境。 便利すぎる家と、喋らない仲間たちに囲まれた、 頑張らないスローライフが、今日も続いていく。 これは、 「世界を救ってしまったのに、何もしない」 追放聖女の物語。 -

処理中です...