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第4話「騎士団長の微笑みは、火に油」
しおりを挟むその日の庭は、いつもの静かな中庭じゃなかった。
白いテントが張られ、色とりどりのリボンが風に揺れている。
芝生の上には丸テーブルが並び、テーブルクロスには淡い金の刺繍。ガラスのグラスには光が差し込み、きらきらと宝石みたいに輝いていた。
小規模とはいえ、貴族たちが集うパーティは、空気の質からして違う。
香水とワインと焼いた肉の匂いが混ざって、ちょっとくらくらするほど甘くて濃い。
「わぁ……」
ユナ・アークレットは、ほんの一瞬だけその光景に見とれた。
もちろん、すぐに我に返る。
(見とれてる場合じゃない)
両手には、料理の乗った銀のトレイ。
バターの香りをまとった小さなパイが、整列みたいに並んでいる。
「ユナ、そっちはテントの奥のテーブルね! そのあと、すぐ飲み物の補充お願い!」
クラリスの声が飛ぶ。
彼女も今日はエプロンではなく、少しだけ綺麗な黒のドレスに白いエプロンを重ねた“パーティ仕様”だ。
「はい!」
ユナは背筋を伸ばして返事をし、トレイを胸の高さに抱え直す。
庭に出ると、風がスカートの裾を撫でた。心臓も一緒にふわっと浮く。
テントの下では、貴族たちが笑っていた。
煌びやかなドレスの裾が揺れ、グラス同士が軽く触れ合う音が鈴みたいに響く。
(落としたら終わり)
足元の芝生は、普段の廊下よりずっと不安定だ。
一歩ごとに慎重に、バランスを取りながら進んでいく。
「お飲み物はいかがですか」「こちらのお料理もどうぞ」
周りでは、他のメイドたちが慣れた口調で声をかけている。
ユナはまだ、そういう“華やかな場所”に出る機会が少ない。どうしても、声が小さくなってしまう。
(大丈夫、大丈夫。笑顔、笑顔)
頬の筋肉に力を入れて、微笑みを形にする。
客の邪魔にならないように、視線は胸のあたりに落としつつ、トレイだけは真っ直ぐに。
テントの奥のテーブルに料理を置き終え、胸をなでおろしたとき。
「っと」
視界の端で、何かがひらりと動いた。
風にあおられたテーブルクロスの端が、ふわっと浮き上がり、ユナの足元に被さる。
「わっ……!」
足首に布が絡み、バランスを崩す。
体がぐらりと傾く。
(やば――)
トレイが傾き、乗っていたグラスがかたんと鳴った。
視界が斜めに滑っていく。
その瞬間――
ごつい腕が、ユナの腰をがしっと支えた。
「危ねえ」
低く短い声が、耳元で響く。
ユナの体は、あと一歩で芝生に転がるところを、空中で止められた。
見上げると、そこにいたのは――
「ディラン様……!」
騎士団長ディラン。
鎧ではなく、今日は黒の礼装に身を包んでいる。それでも、どこからどう見ても武人の風格は消えない。
「どこ見て歩いてんだ、お前は」
「す、すみませんっ……!」
ユナは慌てて体勢を立て直す。
抱え込むように支えられていた腰から手が離れ、代わりにトレイを支える手をそっと添えられた。
「グラス、無事だな」
「はい……っ」
トレイの上を見る。
さっき小さく鳴っただけで、グラスはどれも倒れていない。
中身もこぼれていない。
「……よかったぁ……」
膝から力が抜けそうになる。
そんなユナの様子を見て、ディランがふっと口元を緩めた。
「ったく。お前、やたらと他人の足元とか気にするくせに、自分の足元は見てねえよな」
「え?」
「さっきの客、皿落としそうになってただろ。お前、さりげなく支えてた」
「あ、気づいてたんですね……」
「気づかねえわけねぇだろ。こっちは客よりお前見てんだから」
「えっ」
唐突な一言に、ユナは顔が一気に熱くなるのを感じた。
ディランは何でもない風に言ったのかもしれない。
けれど、その言葉はユナの胸にまっすぐ刺さる。
「い、今のは、どういう意味で……」
「字面どおりの意味だ。変な意味はねえよ」
「へ、変な意味って……」
「顔真っ赤だぞ、お前」
「ディラン様が変なこと言うからです!」
小声で抗議したユナに、ディランが喉の奥で笑う。
「悪い悪い。……ほら、もう行け。見てみろよ」
「え?」
ディランが顎で示した先。
パーティ会場の、一角。
数人の貴族が今の一部始終を見ていたらしく、こちらをちらちらと見ている。
メイドの一人が騎士団長に支えられている図は、それなりに目立つ。
「俺が若い娘に手ぇ出してるみてえに見られたら面倒だろ」
「そ、それは……すみません」
「謝るな。危ないときに支えるのは俺の仕事だ」
ディランはそう言って、トレイから手を離した。
「……気ぃつけろよ、ユナ」
最後の一言は、さっきより少し柔らかかった。
ユナは胸の前でトレイを抱え直し、こくりと頷く。
「はい。ありがとうございます」
ディランに頭を下げて、その場を離れる。
頬の熱は、しばらく引きそうになかった。
(見てた……私のこと)
さっきの言葉が、頭の中で何度も反芻される。
(客より、私のこと見てたって……それって)
自分でもよく分からない感情が、胸の中でふわふわ浮いている。
恥ずかしいような、嬉しいような、でもどこか申し訳ないような。
とにかく今は、足元だけはしっかり見て歩こう、とユナは決意してテントの中へ戻っていった。
――そのやりとりを、少し離れた場所から見ていた視線に、まだ気づかないまま。
◆
テントの柱の陰。
白い布の影に身を寄せて、その様子をじっと見つめていたのは、エレナ・オルフェリアだった。
淡いピンクのドレス。
耳元では小さな宝石が揺れ、周囲の視線は、本来なら彼女にしか向いていないはずだ。
なのに今、彼女の視線はただ一ヶ所に固定されていた。
――ディラン様と、ユナ。
(……何、それ)
二人が離れていくのを確認してから、エレナはそっと息を吐いた。
息は甘い香水の匂いを含んでいるのに、胸の奥には全然甘さなんてなかった。
(気をつけろよ、ユナ。
客よりお前見てんだから――)
さっきのディランの言葉が、耳の中に焼き付いて離れない。
(いつから?)
いつから、あの無骨な騎士団長は、あんなふうに笑うようになった?
いつから、私の前とは違う顔を見せるようになった?
エレナの指先が、ドレスの生地をぎゅっと握りしめる。
指の関節が白くなるくらい力を込めても、胸のざわつきはおさまらない。
(私の前では、あんな顔しないくせに)
エレナにとって、ディランは「この屋敷の強さ」の象徴だった。
幼いころ、彼の剣捌きに憧れ、少し年上の兄のように感じていた時期もある。
その彼が、今――
あの平凡なメイドにだけ、柔らかい笑みを向けた。
胸の奥で、ぐつぐつと何かが煮詰まっていく。
香水の甘い香りの裏で、微かな鉄の匂いが立ちのぼる。
焼けた鉄板に水を垂らした時の、じゅっと嫌な音が、心の中で鳴る。
(私のもの――)
その言葉が、頭をよぎる。
(私の屋敷。
私の世界。
私の騎士団長。
……それなのに)
誰かが、少しずつ自分の“領土”を侵食しているような感覚。
位置を変えられていくチェスの駒みたいに、自分だけが気づかないまま、じわじわ追い詰められているような。
「お嬢様?」
後ろから遠慮がちな声がした。
振り向けば、侍女頭のミレイユが心配そうにこちらを見ていた。
「お客様が、お嬢様のお姿を探しておられましたが……お疲れでしたら、お部屋に戻られますか?」
エレナは一瞬だけ考えてから、ゆっくりと微笑んだ。
「いいえ、大丈夫よ。少し風に当たっていただけ」
完璧な令嬢の顔をかぶり直して、テントの外に一歩踏み出す。
「ミレイユ」
「はい、お嬢様」
「あとで、少し時間もらえるかしら。メイドたちにも、集まってもらいたいの」
「メイドたちに……でございますか?」
「ええ。最近、少し緩んでいるみたいだから。締め直さないと」
エレナの目が静かに細まる。
その瞳の奥には、さっきより濃い鉄色の炎が灯っていた。
「特に、ユナのこと。……あなたにも、協力してほしいの」
ミレイユは一瞬だけ戸惑った表情を見せ――そしてすぐに、笑みに変えた。
「承知いたしました、お嬢様」
◆
夕方。パーティが終わり、庭から客が引いていったあと。
使用人用の小さな談話室に、数人のメイドたちが集められていた。
それぞれのエプロンには今日一日の疲れが刻まれていて、足取りも軽くはない。
そこに、エレナが入ってくるだけで。
空気がぴん、と張り詰めた。
「皆、今日はよく働いてくれたわね」
エレナは椅子には座らず、立ったまま微笑んだ。
声は柔らかいのに、その場にいる全員の背筋を自然と伸ばしてしまう圧力がある。
「おかげで、パーティは滞りなく終えられたそうよ。父も母も満足していたわ」
ほっとした空気が流れかけて――
「……でも」
その一言で、また固まる。
「最近、少し気になることがあるの」
エレナの視線が、ゆっくりとメイドたちを撫でる。
その視線から逃れようとして、何人かが無意識に目を伏せた。
「分を、忘れかけている子がいるみたいで」
「分……、でございますか?」
ミレイユが問い返す。
彼女の顔は、完全に“エレナ側”のそれになっていた。
「そう。メイドという立場を忘れて、自分がどこにいるのか勘違いし始めている子がいるの」
さぁっと、談話室全体から血の気が引く。
エレナはわざと、誰の名前も出さない。
いやでも皆の頭の中に「誰か」の顔を思い浮かばせるために。
「例えば、騎士団長様に必要以上に馴れ馴れしくしたり。
例えば、出自を笠に着て“私はかわいそうだから許される”みたいな顔をしたり」
ささやき声が走る。
「……ユナ?」
「そういえば、最近よく見かける」
エレナは、その小さなさざ波を聞きながら、あくまで穏やかに続けた。
「私はね、努力している子は好きよ。出自がどうであれ、真面目に働いている子は応援したいと思ってる」
それは、嘘ではなかった。
少なくとも、エレナの“表層”では。
「でも、努力を評価されるうちに、自分の立場を見失うのは違うと思うの。……そう思わない?」
問いかけられたミレイユが、すぐに頷く。
「仰る通りでございます、お嬢様。身の程を弁えない真似は、屋敷の秩序を乱します」
「そうよね。……ミレイユ」
「はい」
「ユナのこと、見ていてちょうだい。あの子、最近少し“調子に乗っている”ように見えるの」
その言葉に、何人かが目を見開いた。
(やっぱり、ユナのことなんだ)
空気の中に、“あの子ならあり得るかも”という暗黙の同意が混ざっていく。
最近の小さな嫌がらせが、じわじわ効き始めている証拠だった。
「具体的に、どういうところが……?」
ミレイユが問う。
エレナは一瞬だけ考えたあと、ゆっくりと言葉を選んだ。
「今日も、騎士団長様に支えられていたでしょう?」
「それは……足を取られて倒れそうになって……」
「ええ、そう“見えた”わ。でも、客の目から見ればどうかしら。騎士団長様に気にかけてもらっているメイド、って印象になりはしない?」
メイドたちが顔を見合わせる。
「たしかに……」
「そう言われると……」
エレナは、そこに畳みかける。
「本人に悪気がなくても、周りからそう見えるなら、配慮が足りないのだと思うの。まして、私の屋敷で」
「私の屋敷」。
その言い方には、主の娘としての自負と、縄張り意識がはっきりと滲んでいた。
「ミレイユ。ユナの部屋、最近ちゃんと整理されているかしら?」
「はい、一応は。ですが……」
ミレイユは少しだけ口角を上げる。
「細かく見れば、改善の余地は多々あるかと」
「そう。……なら、あなたに任せるわ」
エレナは、笑みを深くした。
「お屋敷の“掃除”は、早めにしておいた方がいいでしょう?」
「かしこまりました、お嬢様」
その瞬間、小さないじめの核が、確かに形を持った。
◆
その日の夜。
ユナが遅い仕事から自室に戻ったとき、最初に感じたのは違和感だった。
(……なんだろ)
扉を開ける前から、空気の匂いがいつもと違う。
外廊下から自分の部屋の前に立っただけで、胸の奥がざわっとした。
ドアノブに手をかける。
深呼吸をひとつしてから、扉を開いた。
「……あ」
そこにあったのは、いつもの狭い部屋――ではあったけれど。
ベッドの位置は同じ。
棚の位置も同じ。
だけど、細かいところが違う。
棚の上に置いていたはずの小さな布の人形がなくなっている。
窓辺に吊るしていた、色褪せたリボンもない。
引き出しはきっちり閉められているけれど、その“閉まり方”がいつもと違って見えた。
(……誰かが、入った)
確信に近い感覚が、背中を冷たく撫でる。
ユナはそっと扉を閉め、部屋の中に足を踏み入れた。
床には埃ひとつ落ちていない。
むしろ、いつもより綺麗だ。
(掃除、してくれた? でも、そんなはず……)
棚の引き出しに手を伸ばす。
ゆっくりと引き出すと、中身がきちんと整列されていた。
それ自体は、ありがたいことかもしれない。
でも、その中にあるべきものがなかった。
「……ない」
ユナは、もう一つの引き出しも開ける。
そこに入れておいた、小さな箱。
孤児院時代に、子どもたちと拾ったガラスの欠片を集めた、どうでもいいようで、ユナにとっては宝物みたいな箱。
それも――消えていた。
「え……」
胸がぎゅっと掴まれたみたいに痛くなる。
「どこ、いっちゃったの……?」
慌てて他の場所も探す。
ベッドの下。棚の隙間。枕の下。
どこにもない。
代わりに見つかったのは、小さく丸められた布切れだった。
拾って広げる。
淡い青色。
端のほうがほつれていて、ところどころに小さなシミ。
(……私の、リボン)
孤児院の子どもたちがくれた、古いリボン。
髪を結ぶにはちょっと短くなってしまっていたから、最近は窓辺に飾っていた。
それが、なぜか床に丸めて落ちている。
喉の奥につかえができる。
そのとき、コン、と軽いノックの音がした。
「ユナ? いる?」
扉の向こうから、ミレイユの声。
ユナは慌ててリボンを握りしめ、扉を開けた。
「あっ、ミレイユさん。こんばんは」
「こんばんは。ちょうど良かったわ」
ミレイユは、にっこりと微笑んでいる。
その笑みは、一見するといつも通り――でも、どこかよそよそしい。
「お部屋、少し整えておいたの。気づいたかしら?」
「……整えて」
ユナは一瞬、言葉を失う。
「えっと、その……掃除、してくださったんですか?」
「ええ。お嬢様がおっしゃっていたから。“使用人の部屋も、きちんと整理整頓されているべきだ”って」
「エレナ様が……」
「そう。あなたのお部屋、少し荷物が多かったでしょう? 不要なものは処分しておいたわ。風通しも良くなったはずよ」
その一言で、ユナはだいたい理解してしまった。
(“不要なもの”って……)
胸がずきん、と痛む。
(私にとっては、大事なものだったんだけど)
でも、喉元まで出かかった言葉を、飲み込む。
ミレイユの表情に、ほんの一瞬、居心地の悪そうな影が差したのを見てしまったから。
「……そう、なんですね」
ユナは、少しだけ笑った。
「お掃除してくださったんですよね。ありがとうございます」
その言葉に、ミレイユが一瞬だけ固まる。
罪悪感のようなものが、彼女の瞳の奥をかすめた。
「いえ……私の仕事ですから」
彼女は視線を逸らし、早口で続けた。
「ただ、孤児院時代のガラクタや古い布切れなんかは、もう必要ないでしょう? 今のあなたには、もっとふさわしいものがあるはずよ」
「ガラクタ……」
胸の痛みが、少し深くなる。
でも。
「そう、ですね」
ユナは、自分の指先に視線を落とした。
「いつまでも、過去のものばかり大事にしてるのも、よくないですよね」
本当は、そんなこと思っていない。
でも、そう言った方が、ミレイユが楽になれる気がした。
「ありがとう、ミレイユさん。私、片付け苦手だから……助かりました」
「……そう言ってもらえると、助かるわ」
ミレイユは苦笑のような表情を浮かべた。
その顔には、「そこまで言われるとは思っていなかった」という戸惑いと、ほんの少しの後ろめたさが混じっていた。
「じゃあ、私はこれで。明日も早いから、早く休みなさいね」
「はい。おやすみなさい」
扉が閉まる。
ユナは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
手の中には、くしゃくしゃになった古いリボン。
指先で、そっと整えるように広げる。
ほつれた端。ところどころの小さな汚れ。
でも、ユナにとっては、寒い夜に一緒に布団にくるまった子どもたちの笑い声が詰まった大事な宝物だった。
「……ごめんね」
リボンに向かって、またその言葉を言ってしまう。
「守ってあげられなくて、ごめん」
喉の奥が熱くなる。
また唇を噛もうとして――やめた。
(私が、ちゃんと片付けてなかったのが悪い)
そう結論づける。
ミレイユのせいでも、エレナのせいでもなく。
自分が「不要なものには見えない」と伝えなかったのがいけないのだ、と。
そう思う方が、誰かを嫌いにならずに済むから。
だけど。
ユナがそうやって自分を責めれば責めるほど――
廊下の向こうでは、別の感情がどんどん煮詰まっていた。
◆
同じ頃。
エレナは、自室の前の廊下をゆっくりと歩いていた。
ミレイユと別れ、ひとりになった足取りは、普段より少しだけ重い。
「……あの子、笑ってた?」
ミレイユの報告を思い出す。
「“お掃除してくださったんですよね、ありがとうございます”って……」
エレナの口元がひきつる。
(普通、怒るところでしょう?
泣いたり、取り乱したり、せめて“やめてください”って言ってくれたらいいのに)
なのに、ユナは笑った。
「ありがとう」と言った。
それは、ミレイユの罪悪感に火をつける優しさで。
同時にエレナの苛立ちに油を注ぐ優しさでもあった。
「そうやって……」
エレナは、誰もいない廊下で呟く。
「そうやって全部、自分で抱え込んで、“いい子”でいるつもり?」
足元の絨毯が、いつもより柔らかく沈む気がした。
鼻の奥に、またあの匂いが満ちてくる。
鉄。
焼けた鉄。
錆びかけた剣を無理に研いだあとの、ざらついた金属の匂い。
それは、エレナ自身から立ちのぼる“嫉妬の香り”だった。
まだ誰も、それを言葉にすることはできない。
ユナも、ミレイユも、エレナ自身ですら。
だけど、その匂いは、確かに廊下に重く立ち込め始めていた。
甘い香水では隠しきれない、きれいじゃない感情の匂いが。
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