平凡メイドの私が追放された結果、女神の加護を独占して国が騒然

タマ マコト

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第12話「女神の宣告と、神殿の動揺」

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 王宮と神殿の、空気がぶつかり合う場所――その日、その会議室は、いつになくきしんでいた。

 長い楕円形のテーブル。
 片側には、王宮側の人間たち。

 国王、王妃、重臣たち。
 少し離れて、騎士団長ディラン。

 反対側には、雪のように白い衣をまとった巫女たち。

 巫女長セラフィナを先頭に、年若い巫女たちが静かに座っている。
 彼女たちの目には、緊張と、いくらかの苛立ちと、分かりやすいプライドが混ざっていた。

 議題は、ただ一つ。

「――ユナ・アークレットという少女は、何者か」

 国王の言葉が、部屋の中心で重たく響く。

「神殿側の見解を聞きたい」

 視線が、巫女長セラフィナに集まった。

 セラフィナは、ゆっくりと目を閉じ、短く息を整える。

(さて……)

 昨夜の光景が、まぶたの裏に浮かぶ。

 王太子の寝室。
 病に沈んだ若き王位継承者。

 その傍らで、少女が手を握り、光が降りた。

 女神エリュシアの沈黙は、そこで初めて破られた――そう、セラフィナは感じている。

「陛下」

 静かな声で、巫女長は口を開いた。

「神殿としての正式な見解を述べます」

 王宮側の重臣が、小さく咳払いをする。
 ディランは腕を組んだまま、目だけで様子をうかがっていた。

「ユナ・アークレット――あの娘は、おそらく」

 一拍。

 関係者の心臓が、微妙に揃って跳ねた。

「女神エリュシアの“新たな器”である可能性が高いと判断しております」

 ざわっ、と空気が揺れる。

「器、だと……?」

 重臣の一人が、思わず声を上げる。

「祝福は、王家に降りるものではないのか。神殿を通じ、王位継承者に注がれるはずだろう」

「本来は、そうでした」

 セラフィナは、否定しなかった。

「ですが――女神は、“本来”に飽いておられるのかもしれません」

 その言い方は、神を知りすぎた人間特有の距離感だった。

 巫女の一人が、耐えきれずに叫ぶ。

「巫女長様!」

 若く、鋭い声。

 栗色の髪をゆるく束ねた少女巫女――リディアが立ち上がる。

「そのような言い方は、あまりにも……!

 女神の祝福は神殿のもの、巫女の祈りが導くもの。

 無名の少女ひとりに、すべてを渡すなんて――」

 その言葉には、「私たちの立場はどうなるのですか」という叫びがはっきり混ざっていた。

 湿った土の匂い。

 《真実の香》があれば、ここがどれほど濃い感情で満ちているか、すぐ分かっただろう。

「リディア」

 セラフィナは名前を呼ぶ。

「座りなさい」

「ですが――!」

「これは、あなたのプライドの話ではありません」

 静かだが、揺るぎない声。

「これは、“女神がどこを見ているか”という話です」

 リディアは、ぐっと唇を噛み、渋々椅子に腰を下ろした。

 その横で、別の若い巫女が囁く。

「でも……私たちは、ずっと祈ってきたのに。

 王太子殿下の回復を、女神にお願いし続けてきたのに……」

 悔しさと、みじめさと、どうしようもない敗北感。

 それらが、ごちゃ混ぜになっている。

(その気持ちは、分かるわ)

 セラフィナは、内心で小さくため息をついた。

 彼女たちは若い。
 信仰は真っ直ぐで、疑いを知らない。

 だからこそ、“自分たちの外側”に祝福が降りたことが許せないのだ。

 国王が、眉をひそめる。

「巫女長。

 最初に言っておく。

 王家は、女神の祝福を軽んじるつもりはない。

 だが同時に、神殿が“勝手に”新たな器を名乗り、王家の正当性を揺るがすような真似をすることも認めん」

 鋭い釘。

 セラフィナは、国王の視線を真正面から受け止めた。

「承知しております。

 ですから、私は“神殿の都合”ではなく、“見たもの”をそのままお伝えしているのです」

 昨夜の光。

 ユナの頭上に降りた、淡い光の柱。

 エリュシアの気配。

 あれは、祈祷室でどれほど祈っても得られなかった“応答”だった。

「女神エリュシアは、長らく沈黙しておられました。

 殿下が倒れてからも、私たちの祈りには、何の応えもなかった」

 その現実は、神殿側にとっても痛い。

 若い巫女たちの肩が、僅かに強張る。

「ですが、ユナ・アークレットが王太子殿下の手を握った瞬間――

 女神は、応えられたのです」

 セラフィナは、ゆっくりと拳を握った。

「祝福の光は神殿ではなく、あの娘の上に降りた。

 それが、女神の“選択”だとしか……私には思えません」

 彼女の言葉は、王宮と神殿のどちらにも甘いものではない。

 王家の“正統な器”という建前も、神殿の“祈りこそ全て”というプライドも、同時に揺さぶられる。

 ディランが、腕を組んだまま口を開いた。

「ひとつ、聞いていいか」

「……騎士団長殿」

「巫女長は、“女神は王家を見放した”と言いたいのか?

 それとも、“王家と別の場所にも、目を向けた”と言いたいのか」

 セラフィナは、ほんの少しだけ目を細める。

 この男は、言葉の選び方に厳しい。

「後者です」

 迷いなく答える。

「女神は、王家を見放してはいない。

 実際、ユナ・アークレットを通じて、殿下に祝福を届けたのですから」

「つまり」

 ディランの視線が、国王へ向く。

「殿下の命は、“王家の血筋”と“女神の新たな器”の、両方に繋がれている、ということか」

 そのまとめ方に、部屋の空気が微妙に揺れた。

 重臣の一人が顔をしかめる。

「つまり我々は、その娘に頭が上がらなくなる、と?」

「そうは言っていない」

 セラフィナは、首を振る。

「女神の祝福は、“弱き者を救う力”であって、“誰かを支配する力”ではありません。

 ユナ・アークレット自身、その意識は持っていないでしょう」

 あの娘は、きっとこう言うだろう。

 「そんなつもりはないです」と。

 「できることをやるだけです」と。

(だからこそ、器に選ばれたのかもしれない)

 セラフィナがそう思った瞬間だった。

 ――神殿の深部。

 この会議室から見えない、その場所で。

 静寂が破られた。



 エリュシア神殿の中心――大祈祷室。

 女神エリュシア像が鎮座する、最も神聖とされる空間。

 日中だというのに、室内は少し薄暗い。

 高い天井から差し込む光は細く、神秘を演出するにはちょうどいい。

 数人の巫女が、会議に呼ばれなかった者たちとして、ここに残って祈りを続けていた。

「女神エリュシアよ……」

「王太子殿下に、どうかお慈悲を……」

 静かな呟き。
 香の煙が、細い糸のように立ち上る。

 そのとき。

 像の目が――淡く光った。

「……え?」

 最初に気づいた巫女は、自分の目を疑った。

 まぶたをぎゅっと閉じ、もう一度開く。

 今度は、錯覚ではなかった。

 女神像全体が、薄い光の膜に包まれ始めていた。

 石でできた冷たいはずの女神の頬が、ほんのりと温かい色を帯びる。

 衣の皺の一つひとつが、現実の布のように見える。

「な、なに……?」

 別の巫女が声を上げる。

 次の瞬間。

 像の上から、まばゆい光が弾けた。

 祈祷室全体が、真昼のように明るくなる。

「きゃっ!」

 思わず目を閉じ、顔を覆う巫女たち。

 光は、刺すようなものではない。

 眩しいのに、目が痛くない。
 熱いのに、皮膚が焼けない。

 春の朝日を、体の内側から浴びているような感覚。

 その光の中心から――

 声がした。

『私が祝福したのは――』

 風鈴の音にも似た、澄んだ声。

 でも、同時に。

 千年分の時間を抱えたような深さと重みがある。

 祈祷室だけではない。

 その声は、神殿中のどの部屋にも、どの廊下にも、同時に響いた。

 会議室にも。

 王宮の一角にも。

 まるで世界の上から、柔らかく布を掛けるみたいに。

『ユナ・アークレット』

 名指し。

 巫女たちの膝から、一斉に力が抜けた。

『ただ一人』

 簡潔な宣告。

 疑いようもない“答え”。

 光が、すっと収束する。

 女神像は、何事もなかったかのように、再び静かに座っていた。

 だが、祈祷室にいた巫女たちの心は、何事もなかったでは済まない。

「ユナ……アークレット……」

「“ただ一人”って……」

 膝をつき、床に額を押し当てる者。

 震える手で胸を押さえる者。

 誰もが、言葉を失っていた。



 その響きは、会議室にも届いていた。

 まるで天井そのものが喋り出したかのように、柔らかく、しかし確固とした声が降りてくる。

『私が祝福したのは、ユナ・アークレット。ただ一人』

 王宮側も、神殿側も、誰一人動けなかった。

「……っ」

 セラフィナの肩が、わずかに震える。

 長く祈ってきた。
 沈黙に耐え続けてきた。

 その女神が、今、はっきりと“言葉”を選んでいる。

 誰かの祈りに答えるでもなく。
 誰かの主張を肯定するでもなく。

 ただ、“事実”を宣告した。

 ユナ・アークレット。ただ一人。

「……女神、エリュシア……」

 年若い巫女の一人が、崩れ落ちるように床に膝をつく。

 リディアも、ぎりぎりで保っていたプライドが、光の前で粉々に砕けた。

 悔しさもある。

 でも、それ以上に――

 圧倒的な“畏れ”が、全身を支配していく。

「……疑って、すみませんでした……」

 呟きは、誰に聞かれることもなく、床へと落ちた。

 セラフィナは、目を閉じ、ゆっくりと頷く。

「……これで、はっきりしましたね」

 彼女の声は震えていない。

 最年長の巫女として、最初に受け止めるべき現実を、しっかり抱きしめるように。

「私が祝福したのは、ユナ・アークレット。ただ一人――」

 その言葉を、繰り返す。

「女神エリュシアは、ご自分でお決めになった。

 “祝福の器”がどこにあるのかを」

 国王は、しばらく何も言えなかった。

 重臣たちも、言葉を失っている。

 ただ、全員が悟った。

 これはもう、誰かの“意見”や“解釈”の段階ではない。

 神殿の序列も、王宮の体面も、全部まとめて超えたところから、“上書き”された事実。

 ディランだけが、ほんの少しだけ口元を緩めた。

(エリュシア様も、だいぶ容赦ねえな……)

 こんなやり方をするあたり、本当にユナの“母親”らしい。

 女神エリュシアは、ちゃっかり宣言して、ちゃっかり責任を取るタイプだ。

 ――たぶん。



 その頃、ユナ本人は。

 王宮の一室で、ぽつねんと窓の外を眺めていた。

 与えられた客室は、元メイドには贅沢すぎるほど広い。

 ふかふかのベッドに、書き物机。
小さなソファとテーブル。

 窓からは、王都の屋根と、遠くの空が見える。

「……場違い感……半端ないなあ」

 ユナは、カーテンの端を指でつまみながら、ため息をついた。

 足元の絨毯は柔らかくて、歩くたびにくすぐったい。

(私が、ここにいていいのかな)

 王太子の命を繋ぎ止めた。

 そう言われた。

 実際、ルシアンの容態はあの時より安定しているらしい。
 侍医も、王妃も、少しだけ顔色が明るくなった。

 でも――

(だからって、“この部屋にいてください”って言われるの、なんか変な感じ)

 自分だけ、別世界に放り込まれたみたいだ。

 王宮の部屋。
 柔らかいベッド。
 豪華な食事。

 そして、外では。

 王宮と神殿が、「ユナ・アークレットとは何者か」で会議をしている。

 ディランが出て行く前に、軽く教えてくれた。

「王家と神殿で話し合いだ。“光の娘”をどう扱うかってな」

 その言い方が優しすぎて、逆に怖かった。

(私が、国全体の“争点”になってるってこと……?)

 想像すると、胃が痛くなる。

「女神エリュシアの祝福を宿す娘」とか。
「王太子の命を握る存在」とか。

 そんな肩書き、どれもこれも、自分の体には大きすぎる。

「私、ただのメイドだったのに……」

 ぽつりと呟いて、首を振る。

(いや、“だった”じゃない。

 今も、やれることはあんまり変わってない)

 誰かの手を握って、痛みを少し軽くする。

 それだけ。

 変わったのは、“その手の先にいる人間”が、王太子とか国とか、やたらスケールが大きくなっただけ。

(大丈夫かな……やらかさないかな、私)

 不安は、静かに膨らんでいく。

 その時。

 ノックの音がした。

「ユナ・アークレット」

 聞き覚えのある声。

 ユナは慌てて姿勢を正し、扉の方へ向かう。

「はい、どうぞ」

 扉が開いた。

 そこに立っていたのは――

「ルシアン殿下」

 王太子ルシアンだった。

 まだ歩くのは辛そうだ。

 侍従に肩を貸されながら、それでも自分の足で立っている。

 頬のこけは少しだけマシになり、目の下の隈も、昨夜より薄く見えた。

「訪問を許可してもらえますか、ユナ」

 口調は丁寧なのに、どこか柔らかい。

 彼なりの礼儀なのだろう。

「もちろんです! 中へどうぞ」

 ユナは慌てて道を開ける。

 ルシアンはゆっくりと部屋に入り、窓の近くの椅子に腰を下ろした。

 侍従は、少し離れたところで控えている。

「お加減は……いかがですか?」

 ユナが恐る恐る尋ねると、ルシアンは苦笑を浮かべた。

「正直に言うと、最悪から“ちょっとマシ”くらいですね」

「“ちょっとマシ”……」

「でも、その“ちょっと”が、本当に大きい」

 ルシアンは、自分の胸に手を当てる。

「あなたが手を握ってくれたあと……

 体の奥で、ぐちゃぐちゃに絡まっていた何かが、少しほどけた気がしたんです」

 その言い方が妙に具体的で、ユナはドキッとする。

(私がさっき見た“黒い靄”のこと、殿下も感じてたんだ……)

 ルシアンは、窓の外に目をやった。

 王宮の庭が見える。

 整えられた芝生と花壇。
 噴水の水がきらきら光っている。

「ここからの景色、昔は好きだったんですよ」

「昔は、って……」

「王子なんてものをやっていると、いつの間にか“外”を見る余裕がなくなる。

 見えるのは、視線と期待と責任ばかりで」

 淡々とした口調。

 でも、その中には、年齢よりずっと重い疲労が滲んでいた。

「だから、あなたが来る前は――正直、もう終わりかなと思っていました」

 さらっと、とんでもないことを言う。

「……っ」

 ユナは言葉を失った。

 ルシアンは、ゆっくりこちらを向く。

「でも、まだこうして喋っている。

 “ちょっとマシ”な状態で、外の景色を見ている。

 それは、紛れもなく……あなたのおかげですよ、ユナ・アークレット」

 真正面からそう言われると、逃げ場がない。

 ユナの頬が、一気に熱くなった。

「わ、私なんて……」

「またそれですか」

 ルシアンが、半分呆れた声を出す。

「“私なんて”って、何回言えば気が済むんです?」

「え、いや、その……」

 どこかで同じことを言われた気がする――そう思い出した瞬間、エリュシアの顔が頭をよぎった。

 《私なんて》という言葉は、女神の地雷でもある。

「自分を小さく見積もるのは、謙虚とは言いませんよ」

 ルシアンは、少しだけ目を細める。

「僕は、僕の命の恩人を、“私なんて”なんて言葉で安く扱われるのが嫌です」

 その一言が、胸にぐさりと刺さった。

 花の香りが、ふわりと広がる。

 ユナ自身から。
 ルシアンから。

 《真実の香》が、二人の間の空気を静かに染めていく。

(この人、本気でそう思ってる……)

 信じたくなくても、信じざるを得ない。

 匂いは、嘘をつけないから。

「……でも、私」

 ユナは、カーテンの端をぎゅっとつまむ。

「今、王宮と神殿の人たちが、私のことで話し合ってるんですよね。

 “女神の器がどうの”“祝福がどうの”って」

 想像するだけで、胃がきゅっと縮む。

「私、誰かと争うためにここに来たわけじゃないです。

 ただ、殿下が苦しいのが少しでも楽になったらいいなって……それだけで」

 その本音に、ルシアンの顔が少しだけ和らいだ。

「でしょうね」

「でしょうね、って」

「あなた、そういう顔してます」

 ルシアンは、ユナの目をまっすぐ見つめる。

「“私がここにいていいのかな”って、不安でいっぱいの顔」

 図星すぎて、言葉を失う。

 ユナは、視線を逸らそうとしたが――

「逸らさないでください」

 そう言われてしまった。

「僕は、ここで、きちんと伝えておきたいことがある」

 声が、少しだけ強くなる。

 王太子としてではなく、一人の青年としての声。

「ユナ・アークレット」

 名前を呼ぶ。

「あなたのおかげで、僕は今、こうしてまだ生きている」

 一語一語を、丁寧に。

「それだけで――

 あなたがここにいる理由は、もう十分です」

 胸の奥に、柔らかい何かがじゅわっと広がる。

 王太子の言葉は、重い。

 でも今のそれは、“責任”としてではなく、“感謝”として降りてきた。

「国がどう思おうが、神殿がどう言おうが。

 少なくとも、僕個人は、あなたがここにいてくれないと困る」

 彼は、照れもなく言う。

「僕は、まだ死にたくないので」

「……っ」

 泣き笑いみたいな感情が胸に込み上げてくる。

 涙は、勝手に眼のふちまでせり上がっていた。

「それに」

 ルシアンは、少しだけいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「“女神エリュシアの娘”が、自分の城の中を歩いていると思うと……

 正直、楽しくなりませんか?」

「た、楽しいものなんですか、それ」

「少なくとも、退屈ではない」

 軽く肩をすくめる。

「僕は、王太子として生きる中で、退屈と絶望には飽き飽きしていましたから。

 あなたみたいな存在が現れてくれたことに、結構本気で感謝してるんですよ」

 花の香りが、また強くなる。

 ユナは、思わず笑ってしまった。

「殿下って……意外と、変わってますよね」

「褒め言葉として受け取っておきましょう」

 笑い合う。

 その瞬間だけ、王宮の重たい空気が、ほんの少し軽くなった。

 ユナの不安は、完全には消えていない。

 王宮と神殿の思惑。
 女神の宣告。

 これから、自分がどんな立場に置かれるのかも分からない。

 でも――

 目の前で笑っている王太子が、たしかに「まだ生きたい」と言っている。

 その命に、自分の手が触れている。

(それなら、私は……ここにいてもいいのかな)

 そう思えるだけで、胸がじんわりと温かくなった。

 窓の外の空は、ゆっくりと夕方へと傾き始めている。

 沈みかけた太陽の光と、女神の祝福の余韻と。

 その真ん中で、ユナの存在は、もう“ただの追放されたメイド”ではなくなっていた。
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