婚約破棄された瞬間、隠していた本性が暴走しました〜悪女の逆襲〜

タマ マコト

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第11話 妹の涙

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 昼の光が廊下を細長く切っていた。別邸の玄関には、取材の人だかりが薄く残っていて、門越しのレンズがきらりと光る。インターホンは警備が切っている。私は靴を脱いで、廊下の冷たさで頭を落ち着かせた。台所から玉ねぎの匂い。西園寺の低い声。真白の笑い声が、すぐに途切れる。

「ただいま」  声をかけると、沈黙のあと、バタバタとスリッパの音が近づく。真白が角を曲がって現れた。髪は乾きかけで、うっすらと波打っている。目のふちが赤い。笑おうとして、うまく笑えないときの顔。

「お姉ちゃん」 「おかえり」  それだけ言って、彼女は私の胸に飛びついた。熱が強い。軽い身体で、体温だけが大きい。抱きしめると、肩甲骨が指に当たる。こつん、と骨に触れる音がしたような錯覚。涙の匂いって、ほんの少し金属っぽいんだ、と昔、母が言っていたのを思い出す。

「どうした」 「……だいじょうぶ。だいじょうぶなんだけど」 「大丈夫じゃないから、抱きついている」  真白は鼻をすする。「ばれた」。腕の力が抜けて、ゆっくりと離れる。頬には涙の跡。口角が頑張って上がりきれない。

 台所にはまな板が二枚。ひとつに薄切りの玉ねぎ。もうひとつに半分のりんご。西園寺が包丁を拭いて、静かに会釈する。 「りんごを切る練習を」 「食欲は?」  真白は首を横に振る。りんごの白が、水気を失って縁から薄く透けている。

「なにがあった?」 「……SNSの“親切”。“真白ちゃんは被害者”“かわいそう”“守りたい”。あの、優しい言葉、刺さることあるんだね」 「ある」 「“姉のせいだ”も、ある」 「ある」 「“悪女の演出に使われてる”って」 「それも、ある」  彼女は一気に喋って、喉がひゅっと鳴る。言葉の後ろから、別の言葉がまだ押し寄せてくる気配。私はコップに水を入れて、ストローを差す。真白は子どもみたいに一口飲んで、目を閉じる。まつげが濡れて重い。

「言葉、全部ぜんぶ、胸に入れてしまった?」 「うん……入ってきた。勝手に」 「出そう」 「どうやって」 「声で。泣くなら泣く。怒るなら怒る。どっちでも出し切る」 「出し切ったら、空っぽになる?」 「空っぽになったら、空気が入る」  真白はうつむいて、肩を小さくすくめる。その姿勢が“許可”を待っている子の形であることを、身体が先に理解する。私は軽く背中を叩く。リズムをつける。吸って、吐いて。泣くなら今だよ、という速度。

 最初の涙は、音を伴わなかった。次に、小さな嗚咽。肩が揺れて、ひゅっと喉が鳴る。涙がコップの水面に一滴落ちて、わずかに輪が広がる。泣く人のそばにいるとき、音を足さないのが私のルールだ。音を足すと、流れが変わる。流れは、いったん出たら、行き着くところまで行けばいい。

「ごめん……ごめん、ね」 「謝らない」 「でも、私、気づけなかった。夜会の前から、誰かの段取りに乗せられてたのに」 「気づけないように、作るのがプロの仕事」 「プロって、こわい」 「怖い。でも、ありがたいときもある」 「どう違うの」 「“誰のため”にプロであるか」  真白が泣きながら笑った。「むずかしい」。泣いて笑って、呼吸が少し楽になるのが分かる。目の周りの赤みが引いて、視線が私の顔にちゃんと焦点を合わせる。

「……ねえ、お姉ちゃん。私、何をすればいい?」 「しないことのリストから」 「しないこと?」 「コメント欄に潜らない。知らない番号に出ない。来客に会わない。自分を“被害者”と呼ぶ人に乗らない」 「うん」 「することは三つ。水を飲む。食べられるものを食べる。背中の真ん中に糸」 「背中の真ん中、ね。糸」  真白は胸を張り、少し笑う。「糸イメージ」。その笑いの端に、くしゃっとした影が残っているのは当然で、残っていていい。

「お嬢……莉桜」  西園寺が言い直す。まだ慣れない呼び方に、わずかな戸惑いが混じる。その戸惑いが、逆に今の私にはちょうどいい。 「来客をすべてお断りしていますが、先ほど、朝霧悠真様よりお手紙が」 「受け取って」  西園寺が白い封書を差し出す。切手はない。門で置いたのだろう。開ける。紙は薄く、字はまっすぐ。謝罪が二行、説明が三行、最後に「真白さんの安全が最優先」と一行。文字が整い過ぎていて、体温が紙に移っていない。私は封を戻して、机の端に置く。

「返事は?」 「不要。彼の“正確さ”は別の場所で使う」 「承知」

 スマホが震える。久遠。「外、動きあり。午前中に“彼ら”がもう一度来る。荷の回収か、確認か」 『西側のセンサーが死んでる。カバーにひとり』 『配置済み。——真白さんは』 『泣いた。今は呼吸が戻ってる』 『よかった』  たった三文字で、胸の奥の筋肉が一つ力を抜く。こういう短さの効果を、私は最近知った。

「玉ねぎ、切る?」  真白が目を擦りながら言う。「泣きながら切ると、泣く理由がぼやけるって、さっき思った」 「ぼやけは救いになるときがある」 「それ、メモしたい」 「しなくていい。身体が覚える」  まな板の位置を低くして、包丁の置き方を確認する。西園寺が横で見守り、指の置き方を直す。トントン。刃が木に触れる音が規則になる。規則は神経を落ち着かせる。涙はさっきより透明で、少し甘い匂いがする。鼻からりんごの匂いが混ざっているからだ。

「ねえ、お姉ちゃん」 「なに」 「“被害者”って言葉、どう扱えばいい?」 「ラベル。便利なときもある。危険なときのほうが多い」 「剥がす?」 「剥がすのに時間がかかるラベル。貼られたら、剥がす前に、貼った人の意図を見て」 「意図」 「“守るため”の顔をして、“眺めるため”だったりする」 「眺められるの、苦手」 「私も」  真白は包丁を置き、指先で涙を拭く。「じゃあ、私の名前は私が貼る」。その言い方が、少しだけ強くなっているのがわかる。強さの芽は、泣いた後に出やすい。よく知っている。

 玄関のほうでざわめき。門の外が騒がしい。警備の無線。「黒いワゴン、再び」。私は目で西園寺を見る。彼はうなずき、ドアの鍵を再確認する。真白の肩が固くなる。私は彼女の手首に触れ、脈拍を一度だけ感じる。速いけれど、暴れてはいない。

「大丈夫」 「うん」 「ここで立つ。立つと、気持ちが遅れる」 「背中の真ん中に糸」 「そう」  西園寺と警備が動線を回し、私はカーテンの隙間から外を斜めに覗く。ワゴンの助手席、昨日と同じ影。Dの横顔は今朝より白い。門越しに誰かが封筒を差し入れる気配。西園寺が受け取らず、地面に落ちたままにする。落ちた封筒は、風に煽られて裏返る。誰も拾わない。拾わないことが、時に最大の意思表示になる。

 久遠からメッセージ。“拾うな”。既にそうしている。彼は続ける。“午後、記者会見がある。朝霧側”。予想通り。私のスレッドに、公式の反応が重なるだろう。反応の温度で次の順番を決める。

 真白が台所の端で、スマホを握って固まっているのが視界の端に入る。画面が震えて、光る。彼女の手が小さく震える。

「開くな」 「……うん」 「置く」 「うん」  彼女は深呼吸して、スマホを伏せた。えらい、と言いたくなる衝動を飲み込む。えらい、は外からの評価で、今は危険だから。

「動画、撮る?」  真白がぽつりと言う。こちらを見ないで、まな板の端に視線を落としたまま。 「何の」 「“私は被害者じゃありません”って。短く。私の声で」 「……撮るなら、撮る前に決めることが三つ」 「三つ?」 「誰に向けて。何を言って。何を言わないか」 「誰に向けて……お姉ちゃんに」 「それは公開の言葉じゃなくて、手紙」 「じゃあ、女の子たちに。私のことを“かわいそう”って言いながら、自分のことも“かわいそう”って思ってる子たちに」 「いい」 「何を言って……“かわいそう”って言われると、苦しくなる。守られたいときもあるけど、選ばせてほしい」 「いい」 「何を言わないか……“謝る”。謝らない」  私は頷く。胃のあたりが、少しだけほどける。彼女の言葉がちゃんと彼女のものになってる。これは、泣いた後の力だ。

 客間を使う。自然光が斜めに入る窓辺。背景は白。余計な装飾は映さない。カメラはスマホ。横位置。三脚の代わりに本を積む。西園寺がドアの外で立つ。

「緊張する」 「しなくていい」 「震えてる」 「震えていい」 「噛むかも」 「噛んだら、噛んだ音が残る。正直な音は、だいたい強い」  真白は息を整え、背中の真ん中に見えない糸を結ぶ。髪を耳にかけ、目を開ける。録画ボタン。三、二、一。

「こんにちは。白崎真白です」  声が、思ったより低い。落ち着いている。私は頷く。自分にも聞こえるくらい、わずかに。

「いろいろ言われてます。“かわいそう”“守る”“姉のせい”“台本”。ぜんぶ、読みません。ぜんぶ、いまは持てません」  一拍。「私は被害者って言葉が苦手です。助けてほしいときもあります。でも、勝手に貼らないでほしいです。選びたいから」  もう一拍。「私は、私の生活を続けます。学校に行って、友だちとおしゃべりして、玉ねぎを切って泣いて、りんごを半分残して、眠ります」  短い息。「姉を責めたい人は、姉に直接どうぞ。私は、私のことをします」  最後に、ほんの小さな笑い。「背中の真ん中に糸、っていうのを、姉に習いました。これからは、自分で結びます」  録画を止める。部屋に静けさが戻ってくる。真白は手のひらを見て、「汗」と笑う。手のひらの汗は、少し甘い匂いがする。りんごのせいだ。

「出す?」 「出す。編集しない」 「こわい」 「こわい。でも、短いから、強い」  アップロード。数秒で再生数が跳ねる。コメント欄は閉じたまま。見ない設計。見るのは、自分の顔と、自分の声と、自分の呼吸だけ。真白は膝に手を置き、背中の糸を自分で確かめるように、ゆっくり息を吸って、吐く。

 玄関のほうで騒ぎが少し落ち着き、ワゴンが去る気配。西園寺が戻ってきて、静かに報告する。 「封筒は回収されました。触れておりません」 「よし」  久遠からも。“動画、見た。いい。やりすぎないこと”。短い助言。私は“了解”だけ返す。

 午後に入って、朝霧側の会見が始まった。テレビを小さくつける。会長が謝罪。悠真が並ぶ。言葉は整い、謝罪は薄まり、最後に「検証委員会の設置」。予想の範囲内。真白はテレビをじっと見て、遥かな距離にあるものを見る目をしている。私の膝に指先を置いて、小さく押す。「ここにいるよ」という合図。私はその指を握る。

「お姉ちゃん」 「なに」 「泣いてもいい?」 「いい」  彼女はテレビを見たまま、音を立てずに泣く。涙は静かで、頬をただ落ちる。泣いているのに、姿勢は崩れない。背中の真ん中に糸。上手になった。私は彼女の指を握ったまま、テレビの音をさらに小さくする。画面の向こうの“正確さ”は、今は要らない。ここにある体温の正確さのほうが、先。

 泣き止んだら、りんごを半分。固めのプリンをスプーンで削って、二人で分ける。甘さは規則だ。食べ物の規則は、感情の規則を少し助ける。西園寺がコーヒーを淹れて、ミルクのピッチャーを静かに置く。温度がちょうどいい。

「外に出たい」  真白が不意に言う。「ほんの五分。門まで」 「記者がいる」 「いるのは分かってる。でも、外に出ないと、外が怖いままになる気がする」  私は少し考える。久遠にメッセージ。“五分、門まで、同伴”。すぐに“OK。二歩後ろに”。私は真白を見る。 「条件、三つ」 「三つ?」 「私の二歩前を歩く。立ち止まらない。誰にも返事をしない」 「うん」  靴を履く。薄い上着を羽織る。門が開く。ざわめき。光の粒。音の洪水。真白は一歩、踏み出す。背中の真ん中に糸。私は二歩後ろ。久遠の影は、さらに二歩後ろで、空気の振れ方だけを変える。

 記者の声が飛ぶ。「一言!」「お姉さんに何か言いたいことは」「被害者だと思いますか」「朝霧さんとは」。真白は歩く。歩幅は一定。視線はまっすぐ。私は彼女の左肩の後ろで、呼吸を合わせる。門柱の陰から風が一枚飛んできて、真白の髪を少しめくる。彼女は手を上げず、顔を上げ直す。立派だ、と思う。それは外の言葉だから、口には出さない。

 門の外で五歩進み、五歩で戻る。往復十歩。十分だった。玄関が閉まる音が、今日の中でいちばん澄んでいた。真白は靴を脱ぎながら、ふっと笑う。「怖かったけど、歩けた」。私は頷く。「歩いたから、歩けた」。

 夕方、空の色が薄く変わり始める頃、再びDMの束。脅し、称賛、売り込み。真白の動画を切り取って勝手に使おうとする動きも出る。私は弁護士と自動対応を整えながら、真白の部屋のドアをノックする。「入っていい?」。“どうぞ”。部屋は薄いラベンダーの匂い。机に置かれたビューラーが、普段の定位置から少しだけずれている。彼女は窓辺に座って、外を見ていた。

「疲れた?」 「うん。でも、なんか、軽い」 「いい疲れ」 「ねえ、お姉ちゃん」 「なに」 「泣くの、嫌いじゃなくなりそう」 「それは、いい」 「泣くと、ちゃんと見える気がする。泣いてる自分のこと、泣いてる相手のこと。前は、泣くと自分が小さくなる気がしてた」 「小さくなるのは、抱えすぎてるから」 「抱えすぎてた?」 「たぶん」 「そっか」  真白は両手を膝に置き、背中の真ん中を意識して、すっと空気を吸う。「背中に糸って、便利」。私も笑う。「便利」。

 夜、窓の外に星は少ない。街の明かりが空を薄く塗っている。今日一日の終わりに、私はノートを開き、見出しを書く。“妹の涙”。箇条書きにするのはやめた。文章にする。

 ——泣くと、世界の輪郭が柔らかくなる。柔らかくなると、手で触れる。触れると、怖さは形になる。形になった怖さは、位置が決まる。位置が決まれば、避けられる。避けるか、ぶつかるか、選べる。選べることが、呼吸の余白になる。真白は泣いて、選ぶ人になった。泣けて、選べる人間は、強い。泣いて笑って、背中の真ん中に糸を結び直して、歩く。十歩の往復で十分。十分の積み重ねが、きっと明日の百歩になる——。

 ペンを置く。スマホが震える。久遠。「動画の反応、安定。君の次の“数字”は、明日、夕刻で」。私は“了解。USBは午前に解析”。彼は“守る”。短い。それだけで、今夜の体温が少し整う。

 真白の部屋のドアが、少しだけ開いて、顔がのぞく。「おやすみ」。私は椅子から立ち上がる。「おやすみ」。彼女は小走りで来て、ぎゅっと抱きしめて、すぐに離れる。「重くない?」。私は首を横に振る。「軽い」。本当に、軽い。涙を出せた身体は、軽い。軽い身体は、遠くまで歩ける。

 部屋に戻り、窓を少しだけ開ける。夜の匂い。湿った土と、車の熱と、遠い花の匂い。鍵を掌で転がして、冷たさを吸う。明日の順番を、頭の中で並べる。昼に一次の数字、夕刻にUSBの一枚目、夜に短い解説。真白の動画は一日固定。コメントは閉じたまま。荒れる場所へは行かない。来るものだけさばく。さばきながら、背中の糸を触る。切れていない。切れそうなら、結べばいい。結ぶ手は、もう二つある。西園寺と久遠。そして、たぶん、私自身。

 灯りを落として、ベッドに横になる。天井の模様はいつもと同じ。目の焦点が合っているせいで、今日は少し違って見えた。違いは、泣いたあとの透明さ。透明さは、強さの別名。強がりじゃない強さ。妹の涙が、私の中の何かも洗った。静かに目を閉じる。呼吸を一つ数える。背中の糸がまっすぐに伸びて、身体を支える。明日へ行く支え。明日が、来る。来させる。その手応えを胸のいちばん冷たい場所に置いて、私は眠りへ降りていった。

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