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露出の修正
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写真家のマコトは、古いフィルムカメラを愛用していた。デジタルでは表現できない、光の粒子が持つ不確実性が好きだった。
ある日、マコトは廃墟となった洋館で写真を撮っていた。陽の光が差し込む一室で、マコトは朽ちたピアノをフレーミングし、シャッターを切った。
現像してみると、その写真だけが、他の写真とは明らかに違っていた。
ピアノを撮ったはずなのに、そこに写っていたのは、ピアノの上に静かに座る、顔のない女性の姿だった。
そして、写真全体が、異様に明るすぎる。本来なら窓からの光でコントラストがつくはずの影の部分も、全てが均一に白飛びしかけている。
「露出オーバーだ……にしては、綺麗すぎる」
マコトはもう一度、同じ場所へ向かった。そして、露出計を使い、完璧な設定で同じピアノを撮影した。
現像すると、今度は完璧な露出でピアノが写っていた。しかし、よく見ると、ピアノの鍵盤の上に、わずかに顔のない女性の指の跡が、薄い汚れのように残っていた。
マコトは気づいた。最初に撮った写真の「顔のない女性」は、彼女自身が、強すぎる光を発していたのだ。だから、他の全てが露出オーバーになった。
彼女は、被写体として存在しているのに、同時に、その場を照らす光源でもあるという、矛盾した存在だった。
マコトは怖くなったが、その異様な存在の正体を知りたい衝動に駆られた。彼はその写真を額に入れ、自宅の暗室の隅に飾った。
それ以来、マコトは自分の写真が、少しずつおかしくなっていることに気づき始めた。
普段撮るポートレート写真の瞳の中に、いつもより強い光が宿るようになった。風景写真の空の部分が、不自然なほどに明るく、ディテールが失われるようになった。
彼のカメラが、全てを「露出オーバー」にしようとしているかのようだった。
数ヶ月後。マコトは、自分の部屋でセルフポートレートを撮ることにした。
フラッシュを焚き、シャッターを切る。
現像された自分の写真を見て、マコトは全てを理解した。
写真の中のマコトの顔は、白飛びして、ほとんど何も見えない。まるで、廃墟で見た顔のない女性のように、マコト自身が、その写真を破壊するほどの強すぎる光を発している。
そして、顔だけが白飛びしたマコトの影の部分には、顔のない女性の影が寄り添うように写っていた。
マコトは、あの廃墟の女性を撮影したとき、彼女の光をフィルムに焼き付ける代わりに、彼女の「光」を、自分の体にインストールしてしまったのだ。
彼は、鏡を見た。鏡に映る自分の顔は、まだ普通に見える。しかし、マコトは知っていた。
もし誰かが、今、自分をカメラで撮ったとしたら、自分の顔は、写真の世界から永遠に消滅したような、真っ白な光となって写るだろう。
マコトは、誰にも顔を撮られることを恐れ、窓のない暗室の隅で、二度とカメラを構えることなく、静かに座り続けた。
ある日、マコトは廃墟となった洋館で写真を撮っていた。陽の光が差し込む一室で、マコトは朽ちたピアノをフレーミングし、シャッターを切った。
現像してみると、その写真だけが、他の写真とは明らかに違っていた。
ピアノを撮ったはずなのに、そこに写っていたのは、ピアノの上に静かに座る、顔のない女性の姿だった。
そして、写真全体が、異様に明るすぎる。本来なら窓からの光でコントラストがつくはずの影の部分も、全てが均一に白飛びしかけている。
「露出オーバーだ……にしては、綺麗すぎる」
マコトはもう一度、同じ場所へ向かった。そして、露出計を使い、完璧な設定で同じピアノを撮影した。
現像すると、今度は完璧な露出でピアノが写っていた。しかし、よく見ると、ピアノの鍵盤の上に、わずかに顔のない女性の指の跡が、薄い汚れのように残っていた。
マコトは気づいた。最初に撮った写真の「顔のない女性」は、彼女自身が、強すぎる光を発していたのだ。だから、他の全てが露出オーバーになった。
彼女は、被写体として存在しているのに、同時に、その場を照らす光源でもあるという、矛盾した存在だった。
マコトは怖くなったが、その異様な存在の正体を知りたい衝動に駆られた。彼はその写真を額に入れ、自宅の暗室の隅に飾った。
それ以来、マコトは自分の写真が、少しずつおかしくなっていることに気づき始めた。
普段撮るポートレート写真の瞳の中に、いつもより強い光が宿るようになった。風景写真の空の部分が、不自然なほどに明るく、ディテールが失われるようになった。
彼のカメラが、全てを「露出オーバー」にしようとしているかのようだった。
数ヶ月後。マコトは、自分の部屋でセルフポートレートを撮ることにした。
フラッシュを焚き、シャッターを切る。
現像された自分の写真を見て、マコトは全てを理解した。
写真の中のマコトの顔は、白飛びして、ほとんど何も見えない。まるで、廃墟で見た顔のない女性のように、マコト自身が、その写真を破壊するほどの強すぎる光を発している。
そして、顔だけが白飛びしたマコトの影の部分には、顔のない女性の影が寄り添うように写っていた。
マコトは、あの廃墟の女性を撮影したとき、彼女の光をフィルムに焼き付ける代わりに、彼女の「光」を、自分の体にインストールしてしまったのだ。
彼は、鏡を見た。鏡に映る自分の顔は、まだ普通に見える。しかし、マコトは知っていた。
もし誰かが、今、自分をカメラで撮ったとしたら、自分の顔は、写真の世界から永遠に消滅したような、真っ白な光となって写るだろう。
マコトは、誰にも顔を撮られることを恐れ、窓のない暗室の隅で、二度とカメラを構えることなく、静かに座り続けた。
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