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第34話 お城にて…聖人の場合

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「ファイヤーボール」

「お前卑怯だぞ!」

「卑怯って言うなら僕は賢者、大樹は勇者、どう考えても大樹の方がズルいよね!」

僕の名前は白鳥聖人…この世界に来て賢者になった。

4職だからかなり良いジョブ、やはり勇者になりたかった。

本当にそう思う。

勇者は大樹…まぁ何となくそうは思ったよ。

だけど、なんだこれ…

「ぐぬぬぬぬっ…聖人め」

「そう怒るなよ! 勇者の力に目覚める前なんだろう? 目覚めたら、もう二度と僕は君に勝てないんだから」

「…そうだな」

大樹の納得できなそうな顔…うんうん、初めてみたよ。

言っておくけど僕はこれでも大樹が好きだよ。

勿論友情としてね。

ただ僕は少し歪んでいるの。

親友の困った顔が大好きなだけだ。

まぁ温厚そうに見えて僕ドSだから。


この辺りは大樹以外の仲間は皆、知っているんだけどね。

しかし…楽しいな。

あの大樹が魔法一つでぶっ飛ぶんだから。

しかも、大河に剣でも負けて悔しそうに泣く大樹…うんうんご馳走様。

冗談ではなく『これでも本当に大樹は好き』なんだ。

多分、僕が女だったら奥さんになって毎日大樹の精神を削って生活したい…

不味いごはん作って、心を傷つけて…そして偶に優しい言葉を掛けてあげる…本当に楽しそうだよね。


流石に僕に負けたのがこたえたのか、ふらふらと歩いて行っちゃったよ。

最近、大河や塔子とも話すけど…僕の気持ちは決まっている。

結論…『大樹と一緒に死ぬ』それだけだよ。

うん…それだけ。

大樹が魔王に勝てるならいいけど…あれ駄目だね。

塔子の言う通りだ。

うん、絶対に勝てない。

恐らくは辿り着けず、あっさり『途中で殺される』これで決まりだ!


だって凄く弱いんだもん。

大樹だけじゃなくて僕たち全員。

もし、大樹が目覚めて『はぁぁぁぁぁー――』とか言って1000倍強くなるなら別だけど…指導魔導士に聞いたら…そんなことは無い。

恐らく精々が今の10倍がいいところだ。

うん、死んだね。

そんな大樹で勝てるなら、この騎士団3万で戦ったほうが絶対にましだしね。

塔子や大河は恐らく最後には逃げ出すだろうから…大樹可哀そうじゃん!

だから、一緒に死んでやろうかと思って。

まぁ、泣きながら死んでいく大樹を特等席で見たい…それだけかもしれんけどね。

大体僕は本来は陰キャなんだよ。

本を読んでネットして引き篭もりたい。

それなのに…大樹の奴無理やり連れまわして…

ゲームしたい漫画したい…部屋から出たくない。

そう言ったのに『幼馴染だろう』そう言って連れ出しやがった。

おかげで…僕は『寡黙な王子様』なんて女子に言われるし…

大樹が悪い…お前が僕に優しすぎたから…僕は恋ができない。

お前より優しく一緒に居て楽しい女の子が居ないから絶望しかない。

いっそボーイズラブに走れれば良かったけど…うん僕はノーマルだった。

幾ら大樹が相手でも〇〇〇は起たない。

大樹が可愛らしい幼馴染の女の子だったらどんなに良かったか…ハァ~

もう解っている。

大樹が僕を王子様に変えてしまった。

中身は兎も角、皆が僕を王子様キャラとかいう…

これが元の人生から比べたらどれだけ楽しい人生か位、僕には解る。

これは大樹がくれた物だ。

だから僕は大樹が沈む泥船の乗っていると知っても降りない。

泣きながら死んでいく…大樹を傍で見て喜びながら一緒に死のうと思う。

うん…親友だからね。
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