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第33話 運命から逃げ出す方法

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「という事で教会側と話がついて、正式に別動隊として動く事が決まったよ!」

「ガイアと離れて動けるのは良い事だわ」

「まぁな、後ろから斬りたくなる衝動が起きるかもしれないから、その方が良い」

「仲間にあんな事する奴、嫌いだから丁度良いよ」


さて此処からだ。

「それで、魔族、それの幹部クラスと遭遇したら、そこでマリアとエルザは怪我を報告して実質的に戦いからリタイアさせようと思う」

「待って、まさかそこで私を捨てる気なの?」

「リタイアって事は戦力外という事だよな…戦えない私達は要らない…そういうことだよな…あははっ役立たずだもんな」

「否定はしない!だが、なんで俺が二人を捨てないとならないんだよ!大切な存在なのに…戦力外になれば戦わなくて良いだろう?思い切って話すが…今の俺の目標は三人全員を戦いから抜け出させる事だよ」

そろそろ話さなくちゃならない。

そう思っていた。

だが、この話は諸刃の剣だ。

もし誰かが裏切って教会に話をしたら俺は終わりだ。

上手くいかなかったら全てを失うかも知れない。

「あの…リヒト今のって…私やエルザは解るけど、リタは、賢者で、何処も負傷してないんだから不味いんじゃないの?」

「勇者が戦わないと世界が不味い事になるんじゃないのか?」

「リヒト…戦わないなんて選択は出来ない、これは運命なんだよ」

確かにそうだ…

だが、それは『自分以外の人の事』を考えた場合だ。

例えば、魔国の近くに住む人間や、前線で戦っている人間は確かにそうだ。

だが、彼等を見捨てれば問題ない。

勇者パーティが戦闘を放棄しても恐らくは前線がかなり後退し、万単位の人が死ぬだけだ。


「俺にとって大切なのはマリア、リタ、エルザの3人だ…それ以外はどうでも良い」

俺は思っている事をそのまま伝えた。

前世の記憶が蘇った時から本当に『馬鹿らしい』そう思うようになった。

『本当に馬鹿らしい』

なんで赤の他人の為に『おれの幼馴染が辛い思い』しなくちゃいけないんだ。

戦いたいなら『そいつらが頑張れば良い』

この世界の人間じゃ『こういう考え』には恐らくならない。

だが、前世の記憶を取り戻した俺は本当にそう思う。

異世界は前世の記憶で言うと独裁国ばかりだ。

王族や貴族は莫大な財産を持っていて一般人は前世とは比べられない位の税金を取られている。

『税金を納めているなら、軍が責任をもって国防をするべきだ』

そう俺は思うようになった。

少なくとも前世の俺が居た世界、国では政治家や自衛隊が守ってくれる。

上手く言えないが…

『お前等、金を独占しているなら…自分で戦え…税金泥棒』

守れずに死人が出るのは俺達じゃなく国が、更に言うなら国王や騎士が悪い。

そう言いたいのだ。

少なくともガイア以外、俺達はそんな贅沢はしていない。

それに、戦力としては、もうマリアもエルザも『使えない』しいていうならリタはまだ無傷だが…それだけだ。

どう考えても 聖女と剣聖が真面に戦えないならほぼ『敗北』は確定だ。

態々俺達が無駄死にする必要は無い。

「「「リヒト…」」」

「もうマリアもエルザも戦えない!4職のうち2職が戦えない今、勝利は無い。なら逃げだしても良い筈だ…戦っても死ぬだけだ」

「確かにそうかも知れない、だけど逃げ出す事なんて出来ないわ」

「怪我して戦えないのは確かだ、だが自分から辞める事は出来ない…」

「そうだよ…」

「確かに普通はそうだよな? だが、現実問題としてもうマリアとエルザは戦えない。だから考えていたんだ」

俺は考えている事について話した。

『秘策』だ。

三人が無事に『逃げ出せる方法』は3つだ。

1. 勇者であるガイアが死ぬ
勇者が死ねば、他の三職のジョブも消えて次世代に引き継がれるから、自動的に三職じゃなくなるから、解放される

2. 大きな負傷で戦えなくなる
 今現在、マリアとエルザは大きな怪我をしており、実質戦えない。
 戦えない体になれば無理強いはされない筈だ。
 次の戦闘が終わった後に2人は怪我を理由に上手く引退させる事を話した。
 この方法での問題はリタをどうするかだ。

3. 替え玉を作り別人として暮らす
この世界、良く人は死ぬ。
だったら、自分達が死んだことにして別人として生活すれば良い。
死体に装備を着せて放置して連絡しなければバレる可能性は少ない。 そのまま他国に行き冒険者をすれば良い。
※冒険者は個人情報の提出はこの世界には無い

「こんな感じだ…1はガイアを殺すのがてっり早い、戦闘中に4人して後ろから攻撃すれば案外簡単かも知れないが、幼馴染を流石に俺は殺したくないし、今のガイアは俺達と共闘は暫くしないだろう。
3はある意味騙しだし、発覚しない可能性は高いが生涯偽って生活する事になる」

「それなら2番、そう言ういう事ね」

「確かに2番なら仕方が無いで済みそうだ。だがリタは逃げられないんじゃないか?」

「そんな…私だけ、まさかガイアと一緒に戦い続けないといけないの…嫌だよ…そんな」

言わなければ。

流石に言いにくいが、これが一番現実的だ。

「なぁ、リタ、凄く言いづらいが『戦えない位の大怪我』をしてくれないか? ちゃんと責任もとるし一生傍にいる…」

「確かにそれが1番かもね…戦えない体じゃ、流石に戦えとは言われないわね」

「まぁ私は既にリタイア組だから、考え方を変えれば安全だ…リタ運が良いよ!私は剣聖だから、余り痛みを感じさせない様にスパっと出来るよ!」

「あら、運がよいわね!リタは…聖女の私がいるんだから、怪我した後は問題なく最高の手当が受けられるわ」

確かに言われてみれば『怪我』をするには最高の環境だよな。

「そうだよね…これから先…辛い人生を何年も続けた挙句、最後は死ぬような生活なら…その方が良いよね?! リヒトが愛してくれるなら、うん、それで良いや! エルザ、スパッとやって」

「おい!」

こんなに簡単に決意するなんて…

「心得た!行くよーーっ」

「きゃぁぁぁぁーーーーっ」

エルザがそう言った瞬間リタの両腕が宙を舞った。

「うぐっ、ハァハァ痛い!」

「大丈夫よ! リタ、すぐに繋げるし、痛みもすぐ無くすからね!ただ、大きな傷だけは残すわ!ハイヒール! これで良いわ、どうかな?」

流石は剣聖と聖女手際が良い…いや、それよりリタだ。

「リタ大丈夫か?」

「ハァハァ…もう大丈夫だよ!うん、流石マリア、凄い!もう全然痛くないよ」

見た目には大きく凄い傷を残しているがリタの腕は問題ないようだった。

「私達みたいに『本当の怪我』じゃないわ…ちゃんと動くでしょう? ただ、動かなくても可笑しくない位の傷跡が付くように傷口を汚くしたのよ…これで普通は正常に動くとは誰も思わないわ」

「うわぁぁ、良くこんな汚く傷口をつないだもんだね!こんな大きな傷があれば誰も正常に手が動くとは思わないな」

「確かに今みると凄い傷…リヒト、これ見て嫌いになったりしないよね?大丈夫だよね…」

「前にも言っただろう? 傷位じゃ嫌いになったりしないよ、三人とも大好きだよ!」

「「「リヒト…」」」

リタが此処迄したんだ。

何としても『この運命』から逃げ出して見せる。

後は、俺達の戦いの幕引きだ。

『聖女』『賢者』『剣聖』の終わりだ…強敵に挑み華々しい終わりにしないと恥じになるし、その後の人生が生きづらくなる。

誰もが敗北しても仕方が無い…そう思える相手。

その後の大義名分の為にも『負けても仕方が無かった』そういう相手が必要だ。

ガイアは…俺達が潰れれば『勇者』としての旅も終わる。

かなり嫌な思いもするだろうが…報酬は充分貰っているし『死なない人生』が手に入るんだ…充分だろう。
 


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