42 / 104
第42話 マリン王女とフルール②
しおりを挟む「フルール、貴女やりましたわね」
廊下でマリン王女に呼び止められましたわ。
全く、王女なのですから、奴隷の私など放って置けば良いのですわ。
『無視』出来ないのが多分、彼女の弱さですわね。
「なんの事ですの? ルーラン家で何か起きましたか?」
こう言って置けば、頭の良い彼女の事です。
大体の事は察する筈ですわ。
「やはり、貴方がしたのですね!」
「なんの事ですの? 私は此処暫くお城から出てませんわ。ですが噂では聞いておりますわ。ルーラン家で何か不幸が起きたようですわね。王家としては、屋敷に領地が手に入るのですから、良い話の筈ですわ。そう言えば私『ルーラン家の娘』ですわ。姉は王家に嫁いでしまいましたから継承権はありませんわ。そう考えると公爵家の後継者は私しかおりませんわ。奴隷の物はご主人様の物ですから『公爵』を自由公爵に変えて理人様に貰えますわね?」
さぁ此処で、マリン王女はどう動くのか楽しみですわ。
目が泳ぎだして、まだまだ甘いですわね。
「全部知っているじゃない! やはり黒騎士」
「なにか証拠でもありますの? 欲をかくのは良くありませんわよ?領地と屋敷が濡れ手に粟で手に入ったのですから充分な利益の筈ですわ。揉めたらそれすら私が手にする可能性すらあるのを考えた方が良いですわよ。それは貴方達王家にお譲りしますわ。『自由公爵』の地位を理人様に貰えますわよね! そうでなければ今度は貴方の胸に『黒薔薇が咲く』かも知れませんわ」
あらあら、マリン王女も闇騎士を操り裏仕事もしている筈ですのに、こんな事位で汗だらけですわね。
「冗談は止めて下さい! お友達でしょう? ちゃんと此処に来る時に『与える』とお父様に許可を得ましたから、そんな目で私を見ないで下さい」
「そう、それなら良かったですわ、この目は生まれつきですわ」
しかし、王女の癖に、真っ青になって可笑しくて笑いたくなりますわね。
「それでフルール聞かせてくれない。何故、貴女は理人殿に肩入れするのですか」
理人様の事を解らないなんて、本当にまだまだですわね。
「惚れたからに決まっていますわ」
「惚れた?! 恐怖の象徴、黒薔薇のフルールが…冗談でしょう?」
私が誰かを好きになるのがそんなに可笑しいのでしょうか?
あれ程の人間は2人と居ませんわ。
その価値すら解らないのですわね。
「理人様は私の目を見ても恐れませんわ。それに私の話を聞いても怖がりませんわ。それがどういう事か解ります?」
「…」
「解らないのですわね。私を恐れない存在は僅かながらいますわ。例えば黒騎士の5番以内の人間は私を恐れずに普通に接してくれますわね。ですが、彼等は『こちら側の人間』だからですわ。色で言うなら『闇』に『黒』ですから当たり前といえば当たり前ですわ。ですが理人様は色で言うなら逆に『光』『白』なのですわ。それなのに私を蔑まず、怖がらず『ただ一人の少女』として見るのですわ。闇で生きてきた私にとっては最高の男性なのですわ」
なんで驚いた顔をしているのです?
本当に失礼ですわ。
「それが、原因なのですか?! その程度の事で…」
「その程度! 暗い闇の中で生きてきた私に心からの笑みを浮かべる存在はおりませんでしたわ。それはさっき言った黒騎士の5番以内も同じですわ。心の中で自分より深い闇を纏った私に恐怖、畏怖をどこかで感じでいますわ。ですが理人様にはそれがありませんわ。私はこう言う気持ちを伝えるのが不得手でして、簡単にいうなら、理人さまはそう『太陽の様な方』なのに『闇』である私に優しい笑みを下さる方なのですわ」
「それが、そんなに大切な事なのですか」
仕方ありませんわね。
少し闇を見せた方が早いですわね。
「仕方ありませんわね、解らないなら私の『見ている世界』をお見せしますわ」
私は両目でマリン王女を強く見つめました。
◆◆◆マリンSIDE◆◆◆
私はフルールの目を覗き込んだ。
一体なにがあると言うのでしょうか?
嘘…フルールの目を通して『フルールの世界が』…
「あああっあああああーーーーーーーっ、あああー-っこれは」
怖い、怖いなんて物じゃないわ。
なにこの光景…地獄の方がまだましと言える恐ろしい光景が頭に飛び込んできます。
沢山の悍ましい姿の人間が『殺せ』『殺せ』と喚いています。
『より残酷に殺せ』『殺せ』『全てを殺せ』と
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
その傍で『助けて』『助けて』と無く声も無数に聞こえてきます。
その声に混じって『娘だけは助けて』『妻だけは』『息子だけは』という声も聞こえてきます。
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
「あああっ、嫌だぁーー死にたくない、助けて殺さないでーーーっ」
『地獄に落ちろ』『許さない』『呪われて死ね』
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
「嫌ぁーーーっいやああああああーーっ」
沢山の亡者の様な存在が私を責め立ててきます。
数えきれないほどの人数が私を責めて許さないと言うのです。
地獄なんて生ぬるい…そう思える程恐ろしい世界にいきなり放り込まれました。
「あああああっあああああああーーーっああああっ、あははははははっ。いーひっひひひひひい..あはははっ…いやうあうわーーー」
『正気を保ちなさいですわ、さもないと狂いますわよ』
フルールがそう言うと、私はその世界から戻ってこれました。
「あれっ フルール?」
私は一体何を見せられたのでしょうか?
幻覚?
そんな筈はありません。
これでも王族、その手の物を防ぐ指輪は身に着けています。
「それが私の見ている世界ですわ。まぁもう慣れましたが『黒薔薇』を継いだ時から歴代黒薔薇に殺された人間の怨念や、歴代黒薔薇の意思みたいな物が常に私に纏わりついているのですわ。この地獄の様な世界を飲み込み糧に変える事が『黒薔薇』になれる最低条件なのですわ。常人なら頭が狂いますわね」
これがフルールの世界。
王家の汚れ仕事をしている私が、僅かな時間だけでも気が狂いそうな程、恐ろしい世界。
これが『黒薔薇』の世界だというのなら誰もきっと正気を保てない筈です。
一瞬見ただけの私でさえ、頭が可笑しくなりそうになりました。
「これが貴方の世界なの!」
「そうですわね、歴代黒薔薇から引き継いだ狂気と言う所ですわ。まぁ実際はこれが何かは私にも解らないのですわ」
「こんな物が貴女の世界…そう言う事なのですか」
「そうですわ!これで理人様が如何に素晴らしい人か解った筈ですわ」
「解らない…わ」
「理人様は私と話す時、覗き込む様に私の瞳を見るのです。こんな表面だけなく、もっと恐ろしい深淵まで見られるのですわ。それでも正気で居られて、それでも笑顔で話すのですわ」
「そんな、こんな恐ろしい物を見て、にこやかにいられる筈はない…」
「ええっ理人様以外では、皆さん恐ろしい物をみた顔になり、王女様みたいに失禁しますわね」
「ええっ」
そんな私が失禁するなんて。
「これが理人様を私がお慕いする理由ですわ。私を知り恐怖を一切覚えない『光の様な方』こんな方は恐らくこの世に、いえ歴代の黒薔薇の歴史にも居ませんでしたわ。解って頂けましたわね!理人様の目を覗き込むと逆に私は、そうまるで光にあふれた天国の様な世界が見えるのですわ。黒薔薇に光を見せられる唯一の人間なのですわ」
「…」
「まぁ良いですわ…理人様の敵は私の敵、今の私には一番大切な人…それだけ覚えておいてくれれば『友達』で居られますわよ」
そう言うとフルールは私を置いていってしまいました。
私は恥ずかしい水溜まりをメイドに始末させ着替えました。
まさか、あのフルールが本当に恋をするなんて思いませんでした。
『汚い部分や恐ろしい部分』を見ても怖がらないパートナーですか。
黒薔薇であるフルールが惚れる訳ですね。
今のフルールは『理人殿』の為ならなにをしでかすか解りません。
絶対に理人殿を敵にしないように気をつけないと…不味いですね。
43
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる