友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん

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これならどうだ。

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「此処には口を割る様な者はいない、セレス殿由々しきことになった。ブラックウイング、勇者パーティは全滅した」

嘘だろう俺が見た手紙では『敗北』『行方不明』とだけしか書いて無かった。

『行方不明』と『全滅』では意味が違う。

「それではまさか..リヒト達は…」

「残酷な事を言う、だがこれは真実である、全員死んだ」

「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だーーーっ」

心は体に引きずられるのか、涙が止まらない。

確かに女癖は最悪だが、俺には唯一の親友だったリヒト。

そして幼馴染の三人。

友情から泣いたのではない、多分友を失った事への涙じゃない。

自分の子供、もしくは甥っ子、姪っ子を失ったような『身内を失った』涙だ。

俺が傍に居たら…いや無駄だ。

あの四人に俺が加わっても無駄だ。

一緒に殺されただけだ。

「悲しいのは解るが此処は王の御前である、取り乱されるな」

「良い、セレス殿の気持ちは解る、今は好きなようにさせて置け」

どれ位、俺は泣いたのだろうか?

自分でも解らない。

ようやく俺は正気を取り戻した。

目の前の状況は変わらない。

王はそばに立ち周りには宰相から貴族も居る。

「少しは落ち着いた様なので、話を続けさせて貰うぞ、済まないな?」

「お恥ずかしい所をお見せしました」

「親友に幼馴染、セレス殿にとっては勇者パーティが無くなった、それだけでは無い、気にする必要が無い…それでだ」

「何でしょう?」

悲しみを今は忘れろ、貴族や王は巧みに言い寄る。

そうしないと困る事になる。

冷静に聞け。

これだけの貴族、宰相、大臣の前で王だけが話す。

巧妙な罠が来る筈だ。

「勇者が死んだとなると『希望が無くなる』だから、深手を負って休養中と発表する事に決めた、これは教皇様も知っている事だ」

「リヒト達が生きている事にする…確かに必要な事かも知れません」

此処は問題無い。

だが、何故俺にそれを言う必要があるんだ。

「だが、居ない以上は『誰も魔王を討伐する存在が居ない』、だが勇者が表舞台に立たない以上、誰かが表舞台に立つ必要がある」

まさかな…

「王よ何を言っているのか解りません」

「簡単な事じゃよ! セレス殿、貴公を『準勇者』と国が余が認め、正式に『魔王討伐』を任ずる」

やはり、此奴は狸だ。

俺が心を痛めていた隙をついてきた。

これを受けたら確実に死ぬ。

「王よ何をおっしゃるのです! 私の剣は剣聖にとうてい及ばなく、魔法の腕は賢者に及ばない、そんな私に『魔王討伐』等無理に決まっています。この国には屈強な騎士団がおります、素晴らしい宮廷魔法術師もおります。そちらを中心に軍を組み対処するべきではありませんか?」

騎士団長と宮廷魔術師団長が俺を睨みつけてきた。

幾ら睨んでも『自分の命』や『仲間の命』にはかえられない。

俺は全力で逃げる。

「こう申しておるが、2人は何か言う事があるか?」

「御恐れながら、我が騎士団にはセレス殿を越える人物は私を含めおりません」

「宮廷魔術師団も同じでございます」

そんな訳は無いだろう。

駄目だ、完全に俺を嵌めに来ている。

糞…

「こう申しておる、しかもセレス殿は『英雄』と名高い、民に希望を与える役は他に適任はおらんよ」

駄目だ…

「確かに私は此処にいる誰よりも強いのかも知れません」

お前等が言ったんだろうが..何故騎士や魔術師が俺を睨むんだ。

「だが、命懸けなのは変わりない。いや戦いの末に俺には『死の運命』しかない、俺はおろさせて貰う」

「待って下されセレス殿」

「ローマ宰相様、私は勇者パーティに居ながら、この国から支援金を貰った事は無い。自分で冒険者として生活費を稼ぎながら、旅についていった。しいて言うならパーティメンバーからは小遣い銭位は貰ったがそれだけだ。『英雄』という字だけで、この国は俺に死を覚悟して戦えと言うのですか?」

「それは..」

ローマ宰相の言葉を遮りゼルド王はローマ宰相を殴りつけた。

「お前等はまたその様な事をしていたのか? 恥知らずめ」

「王よ!お許し下され」

茶番だ。

支援金を払わない様に指示したのはゼルド王だ。

勇者パーティ絡みの事を宰相に決定権があるとは思えない。

「セレス殿、これからは、余が責任をもって何でも欲しい物を与えよう、それで許してくれぬか」

王が頭を下げた。

これでもう普通は終わりだ。

だがこれで認めたら、俺は魔王軍と戦わないとならない。

これはどうしても避けたい。

ならばどうするか?

『相手にお前など要らん』そう言わせればよい。

「ほう、何でもですか? ならば国を譲って俺を王にしろ。そして『宝石姉妹』を俺にくれるなら考えよう」

「貴様無礼だろうがーーっ」

「宝石姉妹が誰か知っておるのかーーっ」

「たかが平民の癖に『宝石姉妹』が欲しいだと? それは王と貴族に対する侮辱だ…増長するでないわ」

「それを渡せば、セレス殿は戦う、そう申すのだな? 暫しバラドール公爵と話す、席を外して暫し客室を用意するから休むが良いぞ」

これで良い。

これで俺の評価は格段と下がる。

だが『宝石姉妹』は絶対に渡せないだろうから安心だ。

国と国王の座は普通に考えて渡せるわけが無い。

そして宝石姉妹も無理だろう。

『宝石姉妹』はこの国を代表する美人であった。

只の美人なら、王がどうにかするかも知れない。

だが宝石姉妹は無理だ。

姉は何を隠そう『この国の王妃』つまりゼルド王の妻だ。

そして妹はバラドール公爵の妻だ。

つまりは絶対に飲めない無理難題を吹っ掛けた。

不敬だと罵られるかもしれない。

だが、どれ程評価が下がろうが、命あってのものだねだ。










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