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裁き...なんだこれ。
しおりを挟む全然意味が解らない。
最悪暴れようと思っていたのに、何が起きたんだ?
『ブレーブキラーが完成した』というと不味いから口を噤む必要があった。
そうすると、この剣や鎧の説明がつかない。
せめて宇宙警察関係のスタイルなら問題は無いが、これはどう見ても昆虫ヒーロー。
その中でも一番、グロイ奴に近い。
いや、見方によっては怪人にさえ見える。
俺に前世の記憶が無ければ『化け物になった』と騒ぐかも知れない。
「勇者様、紅茶のお代わりは如何ですか?」
「ありがとう」
確かにこの世界の人間にとって『化け物』にも見える。
そこは認めるべきじゃないかな?
此処には聖騎士にシスターが居る。
何故か勇者のジョブがあるから、化け物扱いはしないだろう。
「あの、君達に見て貰いたい物があるんだ」
「勇者様がですか?」
「何を見せて頂けるのでしょうか?」
此処には聖騎士1人にシスターが3人居る。
聖騎士2人は廊下にいるが別に呼ぶほどの事ではないな。
『キラー発動』
俺はブレーブキラーに変わって見せた。
「この姿は怖いよな、そう考えたら」
「凄い、ああっセレス様は『虫が好き』なのですね」
「昔話しに出てくる勇者セイル様は、虫を模した剣と虫の力を使って戦ったと聞きます。その再来の様です」
「私も子供の頃、その本を読んだ事があります、ドラゴンビィを捕まえようとして刺されて泣いた思い出があります」
「そうですね、ヒロインが普通の子と言うのも良かったですね」
「怖く無いの?」
「勇者様の鎧姿、凛々しく思っても怖いなど思いません」
「そうですよ? 神聖なるお姿を何故怖がる必要があるのですか?」
「そうですよ、多分子供にも人気が出ると思います」
「その御姿、どんな騎士よりも凛々しく思います」
信仰って凄いな、この姿でも怖がらないどころか憧れの目を向けて来るんだから。
「ありがとう」
そう伝えて俺はブレーブキラーを解いた。
この一言で嬉しそうな顔をするんだから、勇者って肩書は凄い。
しかし知らなかった『虫の勇者』なんて居たんだな。
ならこの姿も抵抗は無いかも知れない。
そういえば、ドラムキングが『リヒト達が生きている』そう言っていた。
この事は今回の件が済んだら話すべきだろう。
そんな事を考えていたらドアがノックされた。
「セレス様、全て片付きましたお越しください」
聖騎士団の団長らしき人物が俺を呼びに来た。
◆◆◆
王の謁見室に入ると誰1人椅子には座っていない。
その状態で50名の騎士達が手足を縛り転がされていた。
そして、その前に痣だらけのゼルド王が転がされていた。
「さぁ、セレス様、これからこの者達の処分を行います、騎士達は死刑、国王の処分はセレス様の手で行い下さい」
ロマーニ教皇が王や騎士を睨んでいる。
恐らく『此処で手向かえば家族を殺す』とでも言われたのだろう。
そこ迄、望んじゃいない。
「教皇様、騎士の処分も俺に任せて貰って良いですか?」
「様は要りませぬぞ、貴方は『勇者』何人にも敬意を払う必要はございません、騎士の処分もご随意にどうぞ」
教皇は『勇者絶対主義』だって聞いていたが、本当にそうなんだな。
『女神が遣わした勇者は人間で一番偉い、そして二番は聖女』
それがこの主義者の考えだ。
もしかしたら、支援国家とはいえ、オーガスト王国の王のゼルド王が勇者を下に扱うのが許せなかったのかも知れない。
だから、何かするつもりだったのか。
そうで無ければ、過剰な程の聖騎士を引き連れて来る事は常識的に考えてない。
「それでは『キラー発動』」
俺はブレーブキラーになった。
信仰は凄いな…聖騎士やシスター宗教者たちは『素晴らしい者を見る目』で見てくる。
逆にゼルド王と転がされている騎士達は恐怖で震えていた。
遠巻きに見ている、今回の事件に無関係な貴族や騎士すら震えている。
「さて、ゼルド王や君達騎士は何故俺を怖がり化け物扱いしたんだ?」
誰も話さないな。
「話さなくて良い、だが聞いてくれ!俺はあの時ドラムキングと戦い、何とか追い払ったんだよな! それにこの中には勇者パーティの時に一緒に戦った奴もいた筈だ、それが何で俺の弁護をしなかったんだ? 俺が誰かを傷つけたか? ただ、この容姿になっただけで何で色眼鏡で見たんだ! ただ懸命に戦っていただけだろうが…違うか?」
「セレス様、その申し上げにくいのですが魔法で喋れなくしてあります」
そうだったのか?喋らない訳だ。
「まぁ良い、だったらこのままお前達の処罰を決める。騎士のままで居たい奴はこのまま騎士のままで良い、だが俺を罪人扱いして気まずい奴は騎士を辞めろ、その場合はこのゼルド王が金貨20枚を無条件で払うから、それで出ていくが良い」
「セレス様、それは随分と甘く思いますが」
「ロマーニ、これで充分だ。残る奴は俺を罪人扱いした騎士として汚名を返上する為に死ぬ気で頑張るしかない。 辞める奴は騎士爵を返上して平民になるんだから、金貨20枚持って人生を平民から出直さなくちゃならない、この位で丁度良い」
前世で考えたら、例え総理大臣に暴言吐いても死刑にはならない、この位で充分だ。
「さて、文句があるなら聴こう、ロマーニ悪いが騎士達を喋れるようにしてくれないか?」
「解りました、聖騎士達よ、喋れるようにしてやれ」
さて文句を言う奴が居る筈だ。
「セレス様…慈悲を有難うございます、俺は…」
「言いたい事があれば聴く約束だ」
「俺は昔、貴方に助けられた、それなのに今回俺は何も出来なかった、だから…第三の道を行く」
「なぬ!」
何を言い出すんだ、俺は二択しか認めないぞ。
「俺は生涯の忠誠をセレス様に誓う! 皆どうだ!『勇者王 セレス様』こそが真に仕える存在だと思わぬか! 騎士団中隊長のオルガはそう決めたぞ」
何を勝手に決めているんだ。
「おい…」
「俺も決めた、生涯の忠誠を」
「「「「「「「「「「生涯の忠誠を勇者王セレス様に誓う」」」」」」」」」」
「はははっ流石はセレス様、敢えて許す事で騎士の心の掌握とは素晴らしいですな、ならばこのロマーニが預かりまして『聖騎士』の指導の元性根を鍛え直しましょうぞ、お前達、勇者様に感謝するのです。命を助けて貰った恩、忘れてはなりませんぞ」
騎士達は右手を大きく挙げた。
俺の意思じゃないのに、なんでこうなるんだよ。
まぁ良いや、そう言えば俺は小さな国持っていたんだっけ?
そこに連れて行って代官に引き渡して放置で良いだろう。
「さぁ、セレス様」
「それじゃ…頼むわ」
「「「「「「「「「「オー」」」」」」」」」」
◆◆◆
欲しくないのに。
騎士は欲しく無いのに…あれじゃ断れないだろう。
さぁどうしよう?
小さい国に50人の騎士…大丈夫か…財政も知らんのに。
「セレス様、お考えの所申し訳ありませんが、ゼルドの処分を、まぁ流石にこの男は死罪..」
「いや、待って欲しい」
考えて見れば、俺ゼルド王に無茶苦茶酷い事してないか?
『美人(宝石姉妹)の王妃』をとり上げたり、『国を寄こして国王にしろ』って言ったな。
俺が同じ立場だったら…きれる。
もし『仲間の1人を嫁に差し出せ』なんて言われたら、きれる。
無茶ぶりされたが、その分以上の報酬は貰ってしまった。
この状態で殺したら…俺悪人じゃないかな?
何か貰って終わりに…居た。
あれを頂こう。
「喋れるようにしてくれ」
「解りました」
「セレス殿、いやセレス様命だけは、命だけはお助け下さい」
「そうだね、ゼルド王と俺の仲だ、まず命は保証するから、安心して良いよ、その代わりそうだ、今回の件で1つの条件を飲んでくれたら、それでおしまいで良い」
俺はゼルド王に1つの条件を突きつけた。
「それで良いのですか?」
「ああっ構わない」
「それならば約束しましょう、必ずや守ります」
俺が付きつけた条件、それはローマ宰相を俺の家臣として差し出す事。
此の世界の王や貴族の仕組みは日本の武将と将軍に近い。
貴族が領地を持ち、そこを治め、その上に国王が君臨する。
まぁ法衣貴族もいるがな。
俺が貰った、ルランス王国は小さいから違う可能性もあるが、少なくともここオーガスト王国はそうだ。
その国王がゼルドだが…多分そんなに優秀じゃない。
本当に優秀なのは、ローマ宰相だ。
傍で見ても、この人が頑張っているから国が回るんだと言う事が解る。
まぁ簡単に言うなら『裏切らない明智光秀』みたいな感じだ。
この人間が居て『丸投げ』出来るなら、俺はきっと名にもしないで良い。
しかも実直だから安心だ。
確かに、今迄酷い事されたのかも知れないが…結局俺はゼルド王から最愛の妃を奪い、今度は腹心を奪ってしまった。
これは本当に本意じゃない。
恨まれたくないな…
「ゼルド王….」
「た助けてくれ、まさか気が変わったとか、余が余が悪かった」
俺はそっとゼルド王を抱きしめた。
「俺を『英雄』と呼んでくれてありがとう…あの一言で俺は救われた、だからこれで良い。これ以上の罰は望まない」
あの時の此奴の狸的な行動。
だが、あれが元で『英雄』と呼んで貰えて、リヒトに対するコンプレックスが薄まったのは事実だ。
これで良い。
「ありがとう、ありがとうセレス殿」
丸く収まった。
「セレス様、それは良いですが、貴方は勇者です…今回私は決断をしました。 やはり勇者は誰かに下に見られてはいけない…『貴方より偉い存在は居ない』これを教会で正式に世界に伝える事にします」
丸く収まって..ないな。
俺はただ静かに過ごしたいだけなんだ。
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