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第44話 立場逆転
しおりを挟む「なぜなんだぁぁぁぁーーーーーーー!」
私は今、農場の惨状を見て崩れ落ちている。
まさか…此処迄の事になっているとは思わなかった。
全ての畑に水田がイナゴに食われた後で何も残っていない。
作物が無い…
女神パストル様を信仰し、その結果いつも収穫に恵まれていた。
『豊穣の女神』というクランの名前もそこからつけた物だ。
冒険者としても有名だがそれ以上に農業に精通して大きなファームを持っている事で安定した収入がある。
それが我らの強みだった。
前回の遠征チームが赤字でも、これから作物を収穫して稼げばよい。
そう思ったのに、その予定が崩れ落ちた。
「何故だ…何故、同胞のエルフから妖精族まで居て、イナゴの動きが解らなかったのだ」
「報告によると突然現れたとの事です…ですが、もし事前に解っていても此処迄のイナゴ、誰も防ぎようは無かったと思います」
確かにその通りだ。
だが、女神パストル様の祝福を受けている我らに何故不幸が起きるのか解らない。
うん?!
「無事な畑があるでは無いか?」
「それが、あそこから先は豊穣の女神の畑じゃ無いんです!」
「馬鹿な…それじゃ突然大量のイナゴが発生して豊穣の女神の畑や田んぼだけを襲ったのか…」
「そう言う事になります」
可笑しい…可笑しすぎる。
パストル様の祝福を受けた我らにこんな事が起こるなんて…
自然を愛する我らが、こんな大量のイナゴの発生に誰も気がつかないなんてあり得ない。
もし、こんな理不尽な事が起きるとしたら、それは『神の能力』によるものに違いない。
◆◆◆
「なんで薬草もポーションも売ってくれないんだ」
「お前さん達と付き合いたくないからだ、どうしても欲しいなら5倍の価格なら売ってやるぜ」
「ふざけんな!僕はこれでも豊穣の女神のメンバーなんだぞ、こんな事してタダで済むと思っているのか!」
「豊穣の女神だからだよ…豊穣の女神と付き合うと商売が出来なくなるんだ! 悪いが、お前等には薬草1つ売る事は出来ねーんだ!」
「なんでだよ…この間までは譲ってくれたじゃねーか…」
此処迄の事はしたく無い。
流石にこんなガキにまで…
だが、俺は怖いんだ。
怒らせたが最後、客が誰も寄り付かなくなる。
スノードロップの祀る女神は恐らくは商売に関する神だ。
スノードロップを迫害し豊穣の女神についた飲食店は、その腕に関らず全てが潰れかけた。
ギルメド一の腕を持つシェフが居るレストランに誰も入らない訳がない。
だが、スノードロップと敵対したら誰も寄り付かなくなったんだ。
王族がギルメドに来た時は必ず食べる名店であり、老舗の店。
それが潰れ掛かったんだ…その恐ろしさは魔族なんか比べ物にならねー。
商売人限定なら、貴族処か王族よりこえーよ。
「お前さん達、スノードロップと揉めたろう?」
「だから、どうした! あんな嫌われ者集団、誰でも嫌うだろう! エルフにドワーフ、種族で嫌っているんだ」
「だな…だが商売人は嫌う訳にはいかなくなったんだ!寧ろ仲良くしないと店が潰れちまうんだ」
「それは豊穣の女神のメンバーがこの店で誰も買い物をしなくなっても…」
すまないな…
「可哀そうだが、それでもお前達に物は売れない!100人近いクランが買い物してくれないのは痛いが! スノードロップを怒らせるとギルメドの街の人間全員が買い物をしてくれなくなるんだ…」
あのツバサというパーティリーダーを怒らせたら商売人は終わりだ。
恐らくは商売人を加護するような女神がついている。
実際に怒らせて潰れ掛かった店が詫びを入れたら、すぐに客足が戻った。
ギルメドで商売するなら…スノードロップにすり寄るしかない。
その手っ取り早い方法が『豊穣の女神』を締め出す事だ。
「それじゃ、売ってくれないの?」
「悪いな…悪いことは言わねー! ギルメドで生活したければ豊穣の女神から抜けた方が良いぜ」
「そんな…」
「悪いがさっさと帰ってくれ」
悪いな…これも商売。
俺は家族を食わせなくちゃならないんだ…
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