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第56話 アイラSIDE 自分の気持ちがわからない

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「アウラ、本当にこれが奴隷の生活? どう考えてもおかしいわ」

「アイラ、絶対に違う! もしこれが奴隷の生活なら誰もが喜んで奴隷になる。農民や冒険者にならないで奴隷になりたがるはずだ!」

今、私は街で買い食いをしながらアウラと歩いています。

串焼きを片手にしながら。

「そうよね……おかしいのよ! 宿屋はアウラと私の二人部屋。しかもベッドが1人に1つ。部屋のグレードだってなかなかのものだわ。しかも……家事は全部ツバサ様がしているの! こんなの絶対におかしいわ!」

「それだけじゃないぞ! 討伐や仕事は全部ツバサ様がしている! 稀に皆でついて行く事があるが、後ろから応援しているだけだ! エナはまぁ食事の為に狩っているが食い散らかしているだけだしな」

我々エルフは本来は貸し借りを気にする民族です。

それが、毎日どんどん借りが増えていきます。

「いっそうの事、夜伽の相手にでもしてくれればまだよかったわ」

「あれはもう駄目だな。気が引けるから二人で夜押しかけたら『見た目は若いけどお婆ちゃんなんでしょう? 無理しないで良いですから。それにそう言うのは好きな相手とだけすれば良いんですよ。無理はしないで下さい』と断られたじゃないか」

「言ってくれている事はわかるし、それは私もそうなんだけど……」

「いやな、いつもしてくれる髪のケアやマッサージ、どう考えてもあれは、相手を思いやらないと出来ないと思うな」

その通りなのよね。

実質私達は『養われて』しまっている。

しかも、貴重な洗髪料からシャボンに化粧水まで用意されお小遣いまで貰っている。

これには本当に困った。

だいたい、アウラも私も300歳を超えている。

もう既に沢山の子供を産んで、孫どころかひ孫ですら沢山いる。

それがまだ10代の男の子に養われる。

これがどうしてムズムズして困ってしまう。

しかも、落ち着いた状態でしっかりと見れば、なかなかの美形なのだから余計困る。

酷い目には勿論あいたくはないけど、待遇が良すぎるのもどうして良いかわからない。

屋台でお茶を二つ買って噴水のベンチに座った。

「相手はまだ十代の子供なのよ! 300歳越えた、いい大人がまるで赤子みたいな年齢の子供に養われているのよ? アウラこれどう思う?」

「種族が違うんだから仕方ないだろう? 人族ならあの年齢で成人だし、八十歳まで生きたら長生きなんだから、気にしなくて良いんじゃないか?」

「人族って、あんなに優しい種族なの? エルフもダークエルフも多種族には相当冷たいよね?」

「アイラ、それは違う! 奴隷にされている同族を見て見ろ。皆が辱めを受け、悲惨な生き方をしている! あそこを見てみるんだ」

アウラが指さした先には首輪をつけた同族が人族に連れられて歩いていた。

「そうだよね……という事はあれはツバサ様個人の性格、そう言う事だよね」

「そうだな!」

「それだと余計に困まりるのよ。 若くて性格が良くて優しいじゃないですか……」

「そんなのこの数日でわかっているだろう?」

「そうね……あのさぁ、余りこう言う事を考えるべきじゃないのは分かるんだけど……結婚していた時でも、誰かと付き合った時でも家族で過ごした時でも、こんなに優しくして貰った事ある? 子供や孫も含んでわたし記憶にない」

「昔はあったのかも知れないが、記憶にないな」

「でしょう? それでどうする?」

「そうだな、マヤがしているみたいに……そのちょっと派手な下着でも身に着けて添い寝でもしてみるか?」

「そうね……他の子と違って子供は出来ないけど、あっちの相手は出来るからその気になったら相手してあげれば良いわね」

「それじゃ、これから買いに行くか?」

「そうね」

多分、私もアウラもツバサ様に対して男女という意味での愛情じゃないのかも知れない。

だけど奴隷なのに大切に扱って貰えて、どうして良いかわからなくなってしまったわ。

嫌っていた種族の多数いるパーティに入り『地獄が待っている』そう思っていたのに……そこで待っていたのは天国の様な暮らしだった。

お金という事なら、確かに前の方があったのだけど……此処まで献身的に誰かにして貰った記憶はもう随分前から無いわ。

大体、ツバサ様は枯れている訳じゃない。

その証拠に、偶にアレが立っている。

その状態で誰にも手を出さない。

私達が好みじゃないのか?

そう思ったが、そうでもないみたいだし……

大体、私もアウラも奴隷だから、命令されれば拒めない。

それなのに……こちらから迫っても、しない。

「ふっははははっ」

「アウラ、急に笑い出してどうしたのよ?」

「いい歳したエルフにダークエルフがまさか、セクシーな下着買いに行くなんてな、おかしいな……そう思ったんだよ! まさか、ババアになって男に抱かれるのに抵抗がある筈のアイラや私が?」

「煩いわね、ほら行くわよ」

「はいはい」

もう、自分で自分の気持ちが全く分からないわ。










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