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どこでも成功、やってやる!
しおりを挟む「いい匂い・・」
薄暗い静かな世界に響く声。
まるで世界に私一人しかいないみたい。
毎年必ず送られてくるこの花。最初は正直嫌だった。花なんて虫が寄ってくるし、枯れると散らかるし、それに毎日水をやらないといけないから面倒だ。そう思っていた。
「さ、今日も撮影と練習頑張りますか!」
気合を入れて玄関の扉を開いた。
大学生になった頃ダンスを習っていた私はもっと本格的に勉強がしたくなり一人で海外へ行くことを決めた。当時付き合っていた彼にその話をすると、最初は驚いていたが前向きな返答が返ってきた。
「私、海外に行くことにした。」
「か、海外!?どうして?」
「もっと自分の世界を広げたい。挑戦したい。私のこれまでやってきた事が通用するかどうかも試したい。」
「そっか。僕は・・いいと思うよ!これまで何回も踊っている君を見てきたけど、いつもカッコいいなって思ってた。海外に行ってもっとカッコ良くなる姿を想像できるよ!」
「もう?まだ早くない?」
「いや!早くないよ!君は必ず成功する!」
「そう?ありがと。・・それで私たちの関係のことなんだけど・・」
「・・うん。」
それまでは明るい雰囲気だったが突然下を向く彼。
嫌いになったわけでもないし、嫌なことをされたわけでもない。でもこの関係を続けるには難しい。そう思い口にした一言。
「私たち別れよ。」
そう告げると、
「・・いやだ。別れない、絶対に別れない。」
「ダメ。別れて。お願い。私のわがままであなたの人生を縛りたくないの。」
「・・・わかったよ。」
本当は別れたくなかった。彼には私の隣にいてほしかった。でも海外に行ってもし成功しなかったら?彼の人生の時間をただ奪うだけになってしまう。それだけは嫌だった。
大学は中退することにした。親を説得するのは時間がかかったがその場に何故か彼もきて一緒に説得してくれた。
「じゃあ、行ってくるね。」
「・・うん。気をつけてね。それと頑張って!ずっと応援してるから!」
両親とその隣に立つ彼に挨拶をし背を向ける。
死にそうになっているわけでもないのに走馬灯って見れるの?ってぐらいこれまでの出来事や彼との思い出が頭の中を駆け巡った。いつから私はこんなに涙脆くなってしまったんだろう。下を向きそうになりながらも歯を食いしばり上を向き搭乗ゲートまで向かった。
飛行機に乗るとメッセージが届いてることに気づく。
『辛い事があったらいつでもいいから連絡して。僕はずっと君の味方だから。』
せっかく今まで我慢していたのに溢れ出す涙。私のわがままに振り回されたのにどうしてここまで優しいんだろう。いや、元から優しい人だってことは知っていたはずだ。
これでは別れた意味がない。彼に頼ってしまう。そう思いメッセージには返信をせずに閉じた。
あれから数年が経った。私はたくさんのダンス大会に出場した。うまくいくことなんて片手で数えれるくらいで、悔しい思いをするほうが多かった。
そんなときたまたま私のことを目に留めてくれた方がいた。有名な事務所のスタッフさんだった。
「あの、すみません。私こういうものなんですが・・」
差し出される一枚の名刺。
「はい、えっと、何でしょうか?」
「先程のパフォーマンス見させていただきました。とても素晴らしかったです。技術だけだったら負けていないと思いました。」
その言葉に泣きそうになる。
「・・っ、ありがとうございます。それで用件は何でしょうか?」
「単刀直入に申し上げます。うちの事務所へ来ませんか?」
「えっ、それってつまり、スカウトってことですか?」
「はい。一緒にお仕事がしてみたくて。どうですか?」
「ぜひ!よろしくお願いします!」
本当に嬉しかった。やっとダンスを仕事にできる。そう思った。今までのアルバイトをしながらダンスの練習していた日々から抜けだせる。
家に帰ってからも興奮がおさまらなかった。大会自体には負けたのにそれ以上にスカウトされた事への嬉しさのあまり無意識に彼に電話をかけていた。
「・・もしもし?」
「もしもし!ねえ!聞いて!スカウトされた!!」
「え?スカウト・・?」
「うん!」
「おめでとう!すごいじゃん!やったね!
ほらね、僕の言った通りだったでしょ!うまくいくって!」
「ありがとう!」
それから少し話をした。あれ以来一回も連絡を取っていなかったからかたくさん話してしまった。
「突然電話してごめんね。あまりにも興奮しちゃって・・」
「大丈夫だよ、言ったでしょ?僕は味方だって。僕も嬉しいよ。」
「ありがとう。それじゃ切るね。またね。」
「うん。わかった、またね。」
まるで自分のことのように喜んでくれた彼。本当に優しい人だ。その時改めてそう思った。
事務所に所属してからは毎日レッスンを受ける日々。
ときには厳しい言葉を掛けられることもあったが、頑張る事ができた。
この頃からだった。国際便で一つの鉢植えが届くようになったのは。
「お祝いを送りたいから住所教えてよ。」
「お祝いなんていいよ。これからの方がもっと大変だと思うし、それにスタートラインに立っただけだから。」
「僕の気持ちが抑えられないんだ、教えて、お願い。」
お願い、か・・あの時のことを思い出す。彼のおかげで今の私がある。そう思い住所を教えた。
最初は何の花かわからなかった。青い小さい花。一緒に届いたメッセージカードには一言。
『君はスターになる。』
花が届いたときに彼にお礼の電話をした。
「お花が届きましたよ!ありがとう!
でも何、このメッセ。」
「お!無事届いたみたいで何よりだよ!メッセは僕の予言だよ!前も成功するって言ったでしょ?今度はスターになるんだよ!」
「何それ、まぁ、うん。がんばります。本当にありがとう。」
「あ、ちゃんと水あげるんだよ?じゃないと枯れちゃうから!」
「やっぱりあげないとダメなの?毎日?」
「面倒だって思ったでしょ?忙しいかもしれないけど習慣にして!
じゃ、仕事に戻るね!」
「あ、ちょ・・」
はぁ、切られてしまった。仕事なら仕方ないか。明日も早いから寝なくては。そんときふと思った。この花の名前を聞き忘れてしまったことに。
彼にもう一度連絡して聞こうか、いや、後でいいか。そう思いベットに入ったが何故かどうしても気になってしまいメッセージを送ることにした。
「ん?ネモフィラ?何この一言。」
メッセージアプリの自己紹介欄。彼はいつも空欄なのにネモフィラと入力されていた。
何だろうと思いネットで検索をしてみたら見覚えのある花の画像が出てきた。
「この花って、もしかして・・」
彼から送られてきた花と一緒だった。しかも花には花言葉というものがあるらしい。この花の花言葉を知ったとき、底知れない自信が湧いてきた。本当に何でもできる、やってみせる、なってみせるそう思った。
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