1枚の写真

Sigre

文字の大きさ
1 / 1

一目惚れ

しおりを挟む

カシャ

僕はここから見る空が1番好きだ。空を遮る建物もないし、人工的な灯りも少ない。学校帰りに1枚、ここで必ず写真撮っていた。

「…綺麗。お上手に撮りますね。」

「え?」

突然話しかけられた。女性は後ろから僕の携帯の画面を見ていた。

「ありがとうございます。ここから見える空が1番好きで…」

「そうなんですね。だからお上手なんですね。」

「そんなことないっすよ!…強いて言うなら毎日撮ってるからですかね。」

「毎日?そんなに?」

「はい!空は毎日違う顔をしてますから!撮っていて飽きません!」

「毎日違う顔…。面白い考え方ですね。」

「あ、いや、そんな…」

つい好きな話をしていたら気分が上がってしまい急に自分の発言に恥ずかしくなる。

「そ、それじゃ、もう行きますね…」

「あ、すみません。引き止めてしまって。」

「いえ、大丈夫です。では。」

「はい。」


カシャ

僕が女性に挨拶をして背中を向けた時にシャッター音がした。その時はてっきり空の写真でも撮っているのだろうと思い気にせずに帰路についた。


あれから5年後、僕はフォトグラファーになり、SNSに上げたとある写真がきっかけで人気を得て個展を開くことになった。初日は大勢の人が見に来てくれていたが、日が経つにつれて来場者数が減っていた。
そんな中会場スタッフから毎日見に来ている人がいると聞いた。しかも決まった時間に来て、1つの写真をじっくり見て、決まった時間に帰る人だと。毎日来てくれているというのを知ってからお礼が言いたくなり話しかけてみた。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

突然話しかけたら驚くかなと思ったがその女性は驚くことなく返事をした。

「毎日その写真を見に来てくださってると伺いました。お気に召していただけましたか?」

「ええ。とても。私はここにある写真の中でこの写真が1番好きです。」

「そうですか。ありがとうございます。」

「やっぱり、お上手ですね。確かにこう見比べるとそれぞれ違う顔をしていますね。」

「え?」

一瞬、女性が何の話しをしているか分からなかった。
あの写真を見せられるまでは。


「突然ですけど、私の撮った写真も見ていただけますか?」

「…はい?」

驚いた。女性がみせてきた写真に写っているのは自分だったからだ。

「もしかして、あの時の…」

「はい。
でもこの写真の撮り方はストーカーみたいで気持ち悪いですよね。ごめんなさい。消しますね。」

「あ、いや、その…それはお互い様なので…」

「え?」

女性が空を見上げている写真を見せた。

「ごめんなさい。あの時僕もこっそり撮ってました。その…あまりにも美しかったので…」

「…うふふ。」

女性は笑った。そして、あの時から今に至るまでの経緯を話してくれた。もう一度会いたいと思っていた時、あの写真を見つけたと。個展に行けば会えるかもしれないと。

「会えましたね。」

「はい。会えちゃいましたね。」

名前すら知らない相手と少ししか話さなかったのに互いに惹かれ合うなんてことがあるのだろうか。そんなことを思った。でもそれはどうでもいいことで。実際、僕らはまたこうして会えたのだから…。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

姉の引き立て役の私は

ぴぴみ
恋愛
 アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。 「どうしたら、お姉様のようになれるの?」 「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」  姉は優しい。でもあるとき気づいて─

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

この離婚は契約違反です【一話完結】

鏑木 うりこ
恋愛
突然離婚を言い渡されたディーネは静かに消えるのでした。

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

完結 彼女の正体を知った時

音爽(ネソウ)
恋愛
久しぶりに会った友人同士、だが互いの恰好を見て彼女は……

元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら

つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。 すきま時間でお読みいただける長さです!

婚約者を寝取った妹に……

tartan321
恋愛
タイトル通りです。復讐劇です。明日完結します。

悪夢がやっと覚めた

下菊みこと
恋愛
毎晩見る悪夢に、精神を本気で病んでしまって逃げることを選んだお嬢様のお話。 最後はハッピーエンド、ご都合主義のSS。 主人公がいわゆるドアマット系ヒロイン。とても可哀想。 主人公の周りは婚約者以外総じてゴミクズ。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...