天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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選ぶこと

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プリムが言うことにエイリークはただ瞬いて封筒を見るしか出来ない。

「……なんで?」

「だってーフツウのお父様とお母様となら、エイリーク君が悪くなっちゃうことはさせないと思うんですよー。」

「親は平民だし知らなかっただけじゃない?」

「そうですかねえ。でもいけないことには変わんないですしー。エイリークくんのお父様とお母様はエイリーク君にいけないことをさせる人ですか?」

「……いや……。」

父親のフォルマも母親のミスミもおおらかだがしっかりとするところはしっかりと、駄目なものは駄目だと厳しく教える人だ。たとえ平民ではお咎めなしのことだとしてもエイリークさせるとは思えない。

「でも、送り主がわざと送ってたりしたら……。」

「それなら絶対にお父様とお母様は渡しませんよー。」

「……そうだよね。」

エイリークは机の上の手紙を手に取り眺めた。しっかりと閉じられた封蝋はビクともしない。でもそれだけでなくエイリークにはその封蝋がまるで錠前のように固くしっかりと重いものに見えた。

「開けられませんか?」

「……そうだね。」

「開けたら変わるって言ってましたね。」

「そう。……この手紙はボクの行く道を手助けするものになるかもしれないけど、開けらたらもう戻れないって言われてる。」

「ふーん。」

この手紙はそれ程重要なものだと分かっている。それ故に今日の今日まで先に伸ばして開けられなかったものだ。

「エイリーク君。」

「何?」

「開けても、変わりませんよ。」

「……何で?だってこんなに、……絶対何か凄い手紙だし。」

つい手に力が入り僅かに手紙が歪む。慌てて伸ばして戻した。

「中を読んでも、それでエイリーク君がどう思ってどう動くかで全部変わるんです。手紙を読んで変わる訳じゃないんです。」

プリムは真っ直ぐにエイリークを見ている。またあの時の目。不思議と何もかも見透かしている目。

「でも知ってしまったら、それだけで変わるでしょ。意識しちゃえばもう気にせずにいられた時に戻れない。」

「それでも、エイリーク君が動かなかった何も変わらないままなんです。……もしエイリーク君が嫌だなってことが書かれてたら、閉まって動かなかったらいいんです。」

「そんなことは……。」

「何を選ぶかはエイリーク君次第なんですよ。」

プリムはいつも通りの呑気な笑顔でそう言ったが、不思議とエイリークにしっかりと確かな気持ちにさせた。
プリムのことは分かっているようで実は全然知らない。貴族と平民で違う世界というだけではない。
プリムは何かを知って、何かを選んだのだろうか。

「ボク次第。」

「そうですー。」

この手紙を渡された時、両親から手助けになるかもしれないものだと言われた。だが同時に方法を手に入れられるかもしれないだけで、乗り越えられるかは分からないとも言っていた。それはつまり、両親もこの手紙だけでは変わるか変わらないかはエイリーク次第だと言っていたのかもしれない。
選ぶ、

「……そうだよね。見なかったふりくらいしちゃえばいい。」

「そうそう、エイリーク君に足りないのは自信ですよー。」

プリムはようやくといった具合に再びケーキにかぶりつく。食べながら話していても良かったのに、律儀に食べずにいたらしい。
悩んでいても仕方がなく見ないでいても分からないなら、見て決めていこう。僅かに気持ちが上がり封蝋に指をかけた。

「ここで見るんですか?」

「……こんな立派な手紙ひとりで見る自信ないから。」

「ケーキ食べてる間にお願いしますね。」




どのくらい時間が経ったのか、プリムはもうケーキを全て平らげて暇そうにしている時にやっと全てを読み終わった。
目の前には封蝋の割れた封筒。エイリークの手には三枚の手紙。紙はしっかりと厚みがあり透けることはなくプリムにも見えない。

「……そうか。」

「大丈夫ですかー?」

「大丈夫か大丈夫じゃないかって言われたら大丈夫ではないかもしれない。」

「というと?」

「……これはひとりでどうするものも出来ないし、ボクひとりで何か出来るものではなかった。」

「どうするんです?」

「どうにも……確かにボクの助けになるかもしれないけど……ここから自分で動けって言われても出来ない。」

「うーん。」

エイリークは手紙を読んでから深刻そうにしているのとは反対に空箱を片付けながら興味なさそうだった。
読んだところで、自分でもどうしていいかが分からない。

「それって私が何か出来ることあります?」

「ボクよりは出来るかもしれない、けど……。どう話したらいいか。」

「私が聞いてもいいことですか?」

「正直ボクだけじゃなんとかならない。……でもこれもう開けちゃったんだよね。」

「エイリーク君が開けちゃいましたねえ。」

「今これボクがプリムに見せたら罪?」

「いいえー。開けるのが本人なのが大事なのでその後はどうしようが自由ですけどー。もちろん人に見せたらいけない手紙もあるので、そういうのは駄目ですけどー。」

「出来れば見てほしいんだけど……。」

エイリークにとって、現在頼れる貴族の立場の人間はプリムしかいない。友人を利用するようで心苦しくもあるがこれはエイリークひとりではどうしようも出来ないものだ。

「んー、じゃあはい。」

「いいの?」

どうしようもない手紙を持ったままプリムを見ると手の平を差し出された。渡せということらしい。

「エイリーク君が見せるなら駄目な手紙じゃないんですよね。ゆーしゅーなエイリーク君が私を頼るのも珍しいですしー。」

手紙をゆっくり置くとプリムは手紙を引き取った。

「ほんとーに読みますよー。」

「……いいよ。」

「じゃあ読みます。」

それからプリムは手紙をゆっくりとエイリーク以上の時間をかけて読んでいった。エイリークはプリムが残してくれた分のケーキを食べることも出来ずにハラハラと読み終わるのを待つ。

「うーん、そうですねー。」

「……どうだった?」

「これ、エイリーク君でもどうにも出来ないですよねえ。」

「でしょ。」

「でも私だけでも出来ないですよーこれ。」

「えっ。」

「だって貴族の子ってだけですしー。」

読み終わった手紙を早々にエイリークに戻される。手紙は封筒に戻してももう封蝋は割れていてしまっている状態には戻らない。

「エイリーク君はどうしたいんですか?この手紙を読んでどうしたいと思いましたか?」

「……すぐに動くことは出来ないと思うし、まずは真偽を確かめたい。正直嘘の可能性だってゼロじゃないんだし。」

「そうですよねー。じゃあやりましょうか。」

「何?」

封筒を見たまま俯いていたエイリークが顔を上げると、自信ありげなプリムがそこにいた。

「私と一緒に本当かどうか確かめましょー。」

「え?」

「私は貴族ですからねー。エイリーク君よりは成績がバツばっかりですけど、貴族ですから信頼できる人と繋がりがあるんですよ?私を通せばいいですよー。」

「プリムを使えってこと?正気?」

「エイリーク君が自力で手に入れたお友達ですからね。使えるものは使いましょう。」

「でもさ、こんなこと言っといてなんだけど友達を使うってのはさ……。たかが平民に使われるなんていいの?」

エイリークは自分から巻き込んでおいて不安になる。本来なら必要がないことをさせようとさせてしまう。しかも友人をといっても自分よりも遥かに上の人間に。

「私だけじゃないですけどー、やるしかないですよ。それにこれは私が選んだことなんです。」

「選んだこと……。」

「だって読んじゃったけど、それでも私は無視して私の部屋に帰ることも出来るんです。でも今エイリーク君の為に手伝うって私が決めました。」

「でもさー。」

「私が、選んだんですよ。」

にっこりといつも通りののんびりした笑顔でも、その中には確かな自信と決意があることはエイリークにも伝わった。
端から見ればエイリークのほうがしっかり者だと言う人は多いだろう。でもこういうときにプリムの方がしっかりしているとエイリーク自身いつも感心している。けして本人には言わないが。

「……ありがとう。」
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みんなの感想(76件)

リコ
2025.12.19 リコ
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通りすがりの通り雨
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リコ
2025.12.12 リコ
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