天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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それぞれの勉強

何気ない一言でしかない、だけどそれは深くエイリークの心に跡をつけるようだった。
自分は平民でしかなく、たとえ貴族の血筋であることが事実であったとしてもそれで大きく変わるかと言われれば違う。家族もいるし、貴族に利益がなければ何かをするという訳ではない。そもそも今の時点も真実かは分からない上、事実であればこちらが消される可能性だって多いにある。
そんな不確かで災いをもたらすような存在がアレンシカの友人だと言い続けられるのか。答えはいいえだ。
今は心を隠して友人としてそばにられても、学園を卒業すれば関係はなくなり道ですれ違うことすらなくなる関係だ。
それが突きつけられているかのようだった。

「今君たちには危険が迫っている。もちろん、暴走は留められてはいるが……。これは我々が早く解決しなかったことも理由だからね。そちらも君たちに危険が及ばないようにすると約束しよう。」

「はい、ありがとうございます。」

自分の心の内を隠してしっかりと礼をした。自分が想うことは公爵家にとって些末で迷惑なことだ。

「もし、何あったらすぐにこの家に来るように。屋敷の者たちにも伝えておくから。」

「でも……。」

平民のエイリークにとって貴族の家に来ることは恐れ多い。たとえ自分の身に何かあってもそう簡単に来ることは出来ない。

「礼儀を気にしているのかな?君は以前来た時にも礼儀正しかったから大丈夫。それに君がロスター伯爵家の血筋だと知れば何かをする人も出るかもしれない。これも詫びと思って受け取ってほしい。」

「でもボクには……。」

「君に何かあったらきっとアレンシカも悲しむよ。」

「分かりました。」

アレンシカを引き合いに出されれば無下にする訳にもいかない。

「さて……早速調べようか。分かり次第こまめに報告をするよ。プリムは勉強だね。」

「よろしくお願いします。」

「このお菓子を食べ終わってからですー。」

「せっかくだからエイリーク君もプリムの勉強を見ていくといいよ。」

「えっ。」

ここにいても邪魔になってしまう上平民として長居は出来ないのですぐに帰らないといけないと思っていたのだが、まさかの引き止められた。

「そうですねー。そろそろひとつ上のステージになる頃ですからー。」

「来客時の作法の勉強もしなくてはならないから、エイリーク君はぴったりだね。」

「あの……でもボクには力不足ですが……。」

侍従になる人貴族相手に平民が務まる訳がないと思った。

「プリムは将来リリーベル当主になるアレンシカの侍従になる。どんな相手でも完璧に仕事をこなしていかなくてはならないのだから、力不足ということはないよ。」

「ひとりじゃつまらないのでーエイリーク君がいてくれると嬉しいですよー。」

「私の前で勉強がつまらないと言ってはいけないよ。」

「そうでしたー。」

公爵当主に諌められてもプリムはのほほんと平然さを崩さない。そのまま勉強を促されたプリムはエイリークの手をとって楽しそうに歩いていく。

「さあ、ししょーが待ってるので行きましょー。」

「え、ちょっと!」

引きずられたエイリークは慌てて公爵に礼をした。
すぐに扉は閉じられて応接間には公爵ひとりだけになり静かな空間が広がる。

「さて……。」

リリーベル公爵はもちろんアレンシカの周りにいる人間については調べていたが、まさか平民だと思われたエイリークがあのロスター伯爵家の血筋だとは思わなかった。調べたことはどの領地に住んでいて家族はどうか、普段の生活の様子くらいだ。
人の縁がどこで繋がっているか、それは意外と分からないものだ。

「エイリーク・スプリンガード……。」

アレンシカの婚約が酷いものになり、今度こそきちんとアレンシカが幸せになれる道を探したかった。王子であるウィンノルはアレンシカに惹かれていたようだ。今もウィンノルが公爵に婚約を打診した時を思い出す。それでも結果はどうだ。

(慎重になるに決まっている。私の大切な息子なんだから。)

以前冬の長期休暇の時にプリムと共に遊びに来た平民。
アレンシカから人となりも事前に聞いていた。それでも愛する息子に近づいている人間を見極めたかった。相手が平民だからではない。ウィンノルのこともあり周りから謂れ無きことも言われるアレンシカが傷つかないようにしたかったからだ。来客用の離れもあるのでアレンシカの身辺の無事も確保出来ている。その上で見極めようと許可を出した。
結果エイリークは貴族と仲が良くとも驕ることなく謙虚で礼儀正しかった。普段も勤勉で努力家なのも間違いなく裏付けも取れた。
後はあの手紙。あの手紙は細工も何もない正真正銘の貴族の手紙だった。
きっとエイリークは貴族の血を引いていると証明される。その時に。

(エイリーク君がどう動くか……。)

自分の息子を愛する者として、どう行動するのか。確かめさせてもらおう。





「リリーベル様?どうかなさいましたか?」

「あ、ごめんなさい。少しぼんやりしてしまって……。」

「リリーベル様は頑張り屋さんですからね。休める時にはきちんと休むのも勉強のうちなんですよ。」

「メリハリこそ勉強の質を高めるのです。」

授業が終わり昼休み。テラスで食事をしながらクラスメイトと談笑する。バンビリス王立学園での授業には慣れたが、この国では特に商業を重視しているだけあり商業に特化した科目にはまだ慣れることが出来ず、テキストを持ってきているとクラスメイトに咎められた。

「やっぱりまだ慣れなくて……。」

「あの先生は早口ですからね。」

「ねー。」

「もう少しだけゆっくり話してくださるとよく聞こえるのですけどね。」

ただの授業についての会話。そのただの会話が何よりもアレンシカには楽しかった。
フィルニース王国にいた時には常にウィンノルからの重圧や評価に苛まれていた。王子の言葉に同調する者もいた。しかし王家から離れた隣国では誰の目も気にせずにしっかりと勉強に専念することが出来た。

「リリーベル様はどこまで課題進んでいますか?」

「まだニつ目までで……。」

「二つ目は長いんですよ!十分凄いです。」

「商業の課題も大変ですもの。」

同じ言葉でもフィルニースにいた時とは違う純粋な会話。アレンシカも自然に楽しく会話が出来る。

「そうそう、リリーベル様はフィルニース王立学園から来ましたよね。あの学園の感謝祭はなかなか興味深いです。」

「学園を挙げて店を擬似的に運用する、商いと同じですよね。」

「感謝の気持ちを込めるので民からお金は取らないのですが……。」

「それでもそれぞれで運営するのでしょう?ここの学園ではしませんので……。」

授業の話からフィルニースの話に以降し、そういえばそろそろ感謝祭の次期だと感慨深くなった。
昨年は園芸クラブで花束やドライフラワーを配っていた。花束を受け取って皆が喜んでくれるのが嬉しかった。

(もう感謝祭の季節かあ……。園芸クラブ、大丈夫かな……。)

代表として選ばれていたのに、夏の長期休暇から流れるように隣国に留学してしまったのでクラブ活動も中途半端なままになってしまったのが悔やまれる。貴族は家の仕事で休みがちになってしまうこともあるとはいえ、代表としての活動は少しだけで終わってしまったことが申し訳なかった。
だがきっと他に優秀の部員は多くいる。きっと滞ることはないだろう。

(あの時に殿下に責められてしまった僕よりは……。)

せっかくの感謝祭当日にウィンノルに普段の至らなさを責め立てられた。エイリークとプリムがいたから穏便に済んだものの皆に迷惑をかけてしまった。
そんな自分よりも他の人が代表の方がよほどいいと思う。

(きっと、大丈夫だよね。エイリもプリムもいるし……それに……。)

自分がいない方がウィンノルと万が一にも顔を合わせることもなく、心置きなくウィンノルも楽しめるはずだから。
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