4 / 139
入学式
しおりを挟む
爽やかな風が吹く、よく晴れた日。
アレンシカはフィルニース王立学園に入学した。
さすがに全国の子息達が集まる故に社交界で見知った顔は何人かいる。
友人関係ではそれほど不安なことはないだろう。
有難くも長い教師代表からの挨拶を聞きながら、アレンシカはさりげなく周囲を見回した。
平民の人間もアレンシカの見える範囲では数人はいるだろうということも分かる。
貴族の生徒と平民の生徒は制服が少し違うのでわかりやすい。
教師の話が終わった後は、ウィンノルが真っ直ぐに壇上に向かって歩いて行く姿が見える。
いつもは学園長と代表教師の挨拶で終わるらしいのだが、今回は第二王子も入学するということでウィンノルが生徒代表として挨拶をする予定に含まれていた。
深い青をなびかせながら堂々とした美しいその姿に、アレンシカはほうとため息を吐いた。
周囲の生徒達も一様にウィンノルに羨望と憧憬の眼差しを向けていた。
「偉大なる神に見守られ、今日私達は入学しました。」
凛とした深い声に熱い視線が更に増えた気がした。
ウィンノルは昔から社交界の華で、一度パーティーに赴けば一言でも言葉を交わしたいとたちまち周りに人々が集まる。
昨日アレンシカに冷たい目を向けていた婚約者はそこには居らず、皆の憧れの美しい第二王子がそこにいる。
これはウィンノルとの一方的な約束なんてなくとも、在学中にウィンノルに近づけるのは良くて数回程しかないだろうな、とアレンシカは寂しくなった。
入学式が終わった後、アレンシカはクラブ棟に行く為に中庭を進んでいた。
王立学園には創立当時からある由緒正しい園芸クラブがあり、今は亡きアレンシカの母親もかつてそのクラブに在籍していた。その為自分も学園に入学した暁には是非ともそのクラブに入りたいと思っていたからだ。
正式な加入は一週間後だが今日も活動していると教師から聞き、それなら今日のクラブ活動を見てみたいと思っていた。
アレンシカはクラブ棟に向かう間、先程の様子を思い出す。
ウィンノルは案の定、子息達に囲まれていた。
次から次へと話しかけられるというのに、嫌な顔ひとつ見せることもなくアレンシカが相手の時とは全く違う優しげな笑顔を浮かべて穏やかに会話を楽しんでいた。
自分は婚約者なのだし婚約者はこの国の第二王子なのだから、それくらいのことは大きく構えなければならない。けれどどうしてもチクチクと棘が刺さる心を気にしないようにして賑やかな声から逃げるように足早にその場を後にしたのだ。
中庭はさすが王立学園の管理に置かれているだけあって薔薇を始め色とりどりの美しい花が咲いている。
花だけでなくどの花壇も美しく整備されていて道にも少しの汚れも無い。
母が好きだったからだけではなく、花が大好きなアレンシカはその色とりどりの花が元気を与えてくれる気がして、少し歩調を緩めた。
目の前には透き通る青い花が咲いている。
その青にせっかく忘れられそうだった先程の婚約者の青を蘇りそうになってしまい、慌てて頭を軽く振ると早く行こうとその青い花から離れようとした時だった。
「…あの、あの!」
「えっ。」
涼し気だが可愛らしい声を掛けられた。
突然話しかけられ、驚いたアレンシカは反射的に振り返る。
振り返った先には。
(……あ。)
爽やかな風に輝き、花のように可愛らしい、柔らかいカシスゴールドの髪の人がいた。
アレンシカはフィルニース王立学園に入学した。
さすがに全国の子息達が集まる故に社交界で見知った顔は何人かいる。
友人関係ではそれほど不安なことはないだろう。
有難くも長い教師代表からの挨拶を聞きながら、アレンシカはさりげなく周囲を見回した。
平民の人間もアレンシカの見える範囲では数人はいるだろうということも分かる。
貴族の生徒と平民の生徒は制服が少し違うのでわかりやすい。
教師の話が終わった後は、ウィンノルが真っ直ぐに壇上に向かって歩いて行く姿が見える。
いつもは学園長と代表教師の挨拶で終わるらしいのだが、今回は第二王子も入学するということでウィンノルが生徒代表として挨拶をする予定に含まれていた。
深い青をなびかせながら堂々とした美しいその姿に、アレンシカはほうとため息を吐いた。
周囲の生徒達も一様にウィンノルに羨望と憧憬の眼差しを向けていた。
「偉大なる神に見守られ、今日私達は入学しました。」
凛とした深い声に熱い視線が更に増えた気がした。
ウィンノルは昔から社交界の華で、一度パーティーに赴けば一言でも言葉を交わしたいとたちまち周りに人々が集まる。
昨日アレンシカに冷たい目を向けていた婚約者はそこには居らず、皆の憧れの美しい第二王子がそこにいる。
これはウィンノルとの一方的な約束なんてなくとも、在学中にウィンノルに近づけるのは良くて数回程しかないだろうな、とアレンシカは寂しくなった。
入学式が終わった後、アレンシカはクラブ棟に行く為に中庭を進んでいた。
王立学園には創立当時からある由緒正しい園芸クラブがあり、今は亡きアレンシカの母親もかつてそのクラブに在籍していた。その為自分も学園に入学した暁には是非ともそのクラブに入りたいと思っていたからだ。
正式な加入は一週間後だが今日も活動していると教師から聞き、それなら今日のクラブ活動を見てみたいと思っていた。
アレンシカはクラブ棟に向かう間、先程の様子を思い出す。
ウィンノルは案の定、子息達に囲まれていた。
次から次へと話しかけられるというのに、嫌な顔ひとつ見せることもなくアレンシカが相手の時とは全く違う優しげな笑顔を浮かべて穏やかに会話を楽しんでいた。
自分は婚約者なのだし婚約者はこの国の第二王子なのだから、それくらいのことは大きく構えなければならない。けれどどうしてもチクチクと棘が刺さる心を気にしないようにして賑やかな声から逃げるように足早にその場を後にしたのだ。
中庭はさすが王立学園の管理に置かれているだけあって薔薇を始め色とりどりの美しい花が咲いている。
花だけでなくどの花壇も美しく整備されていて道にも少しの汚れも無い。
母が好きだったからだけではなく、花が大好きなアレンシカはその色とりどりの花が元気を与えてくれる気がして、少し歩調を緩めた。
目の前には透き通る青い花が咲いている。
その青にせっかく忘れられそうだった先程の婚約者の青を蘇りそうになってしまい、慌てて頭を軽く振ると早く行こうとその青い花から離れようとした時だった。
「…あの、あの!」
「えっ。」
涼し気だが可愛らしい声を掛けられた。
突然話しかけられ、驚いたアレンシカは反射的に振り返る。
振り返った先には。
(……あ。)
爽やかな風に輝き、花のように可愛らしい、柔らかいカシスゴールドの髪の人がいた。
133
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
徒花伐採 ~巻き戻りΩ、二度目の人生は復讐から始めます~
めがねあざらし
BL
【🕊更新予定/毎日更新(夜21〜22時)】
※投稿時間は多少前後する場合があります
火刑台の上で、すべてを失った。
愛も、家も、生まれてくるはずだった命さえも。
王太子の婚約者として生きたセラは、裏切りと冤罪の果てに炎へと沈んだΩ。
だが――目を覚ましたとき、時間は巻き戻っていた。
この世界はもう信じない。
この命は、復讐のために使う。
かつて愛した男を自らの手で裁き、滅んだ家を取り戻す。
裏切りの王太子、歪んだ愛、運命を覆す巻き戻りΩ。
“今度こそ、誰も信じない。
ただ、すべてを終わらせるために。”
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる