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出会い
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「えっ……と。」
意志の強そうなしっかりとした目で見つめられてアレンシカはたじろぐ。
確かに天啓の儀で見た、抱き寄せられていた。殿下の未来の想い人。
顔も、カシスゴールドの髪も間違いなく寸分違わず天啓と同じ人だった。
まさか学園にいるとは思わなかった。
虚を突かれたアレンシカは彼をさり気なく頭の先からつま先まで見てしまう。
一瞬、何故ここにと思ったが彼はこの学園の制服を着ている。
あの時は婚約破棄を告げた言葉にショックで気を取られてたが、よく思い返せば確かに天啓で見た彼は今と同じ格好だった。
そして。
(彼……平民だったんだ……。)
未来の想い人の制服は自分のものと少し違った。
それはまさしく貴族出身ではなく、平民であることを表す制服だった。
(この人が、未来の殿下の……。)
そんなアレンシカの戸惑いなど知らない少し離れた場所にいた彼は、アレンシカが自分の姿を認めたことに気づき急ぎ足でアレンシカに近づいた。
動いたことでますますカシスゴールドの髪がキラキラとなびいて、彼の髪の美しさを際立たせる。
目の前まで来た彼はアレンシカの翡翠の目を真っ直ぐに見つめ返して少しだけ逡巡した様子をみせた後すぐにアレンシカに尋ねた。
「あっ……と……その……職員棟!そう!職員棟がどこか分かりますか!!」
思いの外大きい声を出した彼にアレンシカは驚いた。しかしそれは同じくらいの背丈で距離が近いからだった。
「職員棟……?」
「そう!そうなんです!職員棟です!えっと……先生に後で来るようにって言われて、行かなきゃいけないんですけど、ここ広くて、全然どこだか分からなくって!」
聞けば彼はこのとても広い学園で迷子になっているようだ。
どうやら彼はアレンシカと同じく新入生。
しかし向こうは気付いておらず、アレンシカを上級生だと思って助けを求めたのだろう。
アレンシカは入学前から何度か足を運んでいて、新入生ではあるがどの棟がどこにあるかは把握している。
「あ、ああ……、ここ広くて分かりづらいですよね。……あの屋根、見えますか?」
「どれですか?」
「あの青銅色の。青銅色の屋根が職員棟の目印なので、あの屋根を目指して行けば着きますよ。」
「ほ、本当ですか!」
不安そうだった彼はパッと花のような笑顔になった。
「ここはそれぞれの棟で屋根の色が違いますから、屋根の色で覚えればいいですよ。」
「あ、あ、ありがとうございます!」
彼は目を潤ませて何回もお礼を行ってくる。そんなに感謝されることではないのに、とアレンシカは苦笑した。
きっと素直な人なのだろう。
だけどどうしても彼が婚約破棄された隣にいた天啓の姿が重なって見えて、アレンシカの心は動揺していた。
平然と対応出来るのはもうここまでだと思ったアレンシカはこれ以上彼と話を続けることは出来そうになく、少し慌てた様子を演じた。
「ごめんなさい。僕も行かないといけないところがあって。」
「あっ……。あの、」
「それじゃ、また。」
何かまだ言いかけそうだった彼に背を向けて、アレンシカはクラブ棟への道を急いで離れる。
角を曲がる前に視界の端にちらりと彼の姿をもう一度見た。
どちらかといえば大人しいと言われるアレンシカとは違って、ハキハキとしていた。明るい太陽の下が似合いそうな元気な感じで。
殿下はああいう人がタイプだったのだろうか。だから婚約破棄をするのだろうか。それなら自分には冷たいのは少し納得するかもしれない。自分は殿下の好みではないのだから。
アレンシカは再び戻ってきた悲しさをまた押し留めながら歩みを早めた。
「あの人が……。」
アレンシカは知らなかった。婚約者の未来の想い人の彼がアレンシカの姿が見えなくなるまで、アレンシカをどんな目で見ていたか、なんて。
意志の強そうなしっかりとした目で見つめられてアレンシカはたじろぐ。
確かに天啓の儀で見た、抱き寄せられていた。殿下の未来の想い人。
顔も、カシスゴールドの髪も間違いなく寸分違わず天啓と同じ人だった。
まさか学園にいるとは思わなかった。
虚を突かれたアレンシカは彼をさり気なく頭の先からつま先まで見てしまう。
一瞬、何故ここにと思ったが彼はこの学園の制服を着ている。
あの時は婚約破棄を告げた言葉にショックで気を取られてたが、よく思い返せば確かに天啓で見た彼は今と同じ格好だった。
そして。
(彼……平民だったんだ……。)
未来の想い人の制服は自分のものと少し違った。
それはまさしく貴族出身ではなく、平民であることを表す制服だった。
(この人が、未来の殿下の……。)
そんなアレンシカの戸惑いなど知らない少し離れた場所にいた彼は、アレンシカが自分の姿を認めたことに気づき急ぎ足でアレンシカに近づいた。
動いたことでますますカシスゴールドの髪がキラキラとなびいて、彼の髪の美しさを際立たせる。
目の前まで来た彼はアレンシカの翡翠の目を真っ直ぐに見つめ返して少しだけ逡巡した様子をみせた後すぐにアレンシカに尋ねた。
「あっ……と……その……職員棟!そう!職員棟がどこか分かりますか!!」
思いの外大きい声を出した彼にアレンシカは驚いた。しかしそれは同じくらいの背丈で距離が近いからだった。
「職員棟……?」
「そう!そうなんです!職員棟です!えっと……先生に後で来るようにって言われて、行かなきゃいけないんですけど、ここ広くて、全然どこだか分からなくって!」
聞けば彼はこのとても広い学園で迷子になっているようだ。
どうやら彼はアレンシカと同じく新入生。
しかし向こうは気付いておらず、アレンシカを上級生だと思って助けを求めたのだろう。
アレンシカは入学前から何度か足を運んでいて、新入生ではあるがどの棟がどこにあるかは把握している。
「あ、ああ……、ここ広くて分かりづらいですよね。……あの屋根、見えますか?」
「どれですか?」
「あの青銅色の。青銅色の屋根が職員棟の目印なので、あの屋根を目指して行けば着きますよ。」
「ほ、本当ですか!」
不安そうだった彼はパッと花のような笑顔になった。
「ここはそれぞれの棟で屋根の色が違いますから、屋根の色で覚えればいいですよ。」
「あ、あ、ありがとうございます!」
彼は目を潤ませて何回もお礼を行ってくる。そんなに感謝されることではないのに、とアレンシカは苦笑した。
きっと素直な人なのだろう。
だけどどうしても彼が婚約破棄された隣にいた天啓の姿が重なって見えて、アレンシカの心は動揺していた。
平然と対応出来るのはもうここまでだと思ったアレンシカはこれ以上彼と話を続けることは出来そうになく、少し慌てた様子を演じた。
「ごめんなさい。僕も行かないといけないところがあって。」
「あっ……。あの、」
「それじゃ、また。」
何かまだ言いかけそうだった彼に背を向けて、アレンシカはクラブ棟への道を急いで離れる。
角を曲がる前に視界の端にちらりと彼の姿をもう一度見た。
どちらかといえば大人しいと言われるアレンシカとは違って、ハキハキとしていた。明るい太陽の下が似合いそうな元気な感じで。
殿下はああいう人がタイプだったのだろうか。だから婚約破棄をするのだろうか。それなら自分には冷たいのは少し納得するかもしれない。自分は殿下の好みではないのだから。
アレンシカは再び戻ってきた悲しさをまた押し留めながら歩みを早めた。
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アレンシカは知らなかった。婚約者の未来の想い人の彼がアレンシカの姿が見えなくなるまで、アレンシカをどんな目で見ていたか、なんて。
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