天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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知る

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入学式の次の日。廊下を歩く生徒達の目には新入生らしい不安の様子はなく、すでにフィルニース王立学園の生徒としての自覚を持った勉強意欲溢れる光が浮かんでいる。
教室に入るとすでに何人かの生徒が座っていて勉強をする者や本を読む者、横の繋がりの為に他の貴族令息に話しかける者などがいた。
自由席なのでアレンシカは目についた後ろの方の席に座る。昔から後ろの方が黒板全体を見渡せて好きだった。
教科書と筆記用具を用意してふと視界の端に不思議な感じがして顔を上げると、前の方の席にあの彼が座っていた。
まさか同じクラスにいるなんて思わず、ついじっと見つめてしまう。
あまりにも穴が開くほど見つめていたからだろうか、彼は何か違和感を覚えた様子でアレンシカの方を振り向いた。
アレンシカの翡翠の目とバッチリと視線が合うと、彼は驚いて目を見開いた後で、まるで花が開いたように笑った。
まさかこちらを向くとは思わなかったアレンシカはどうしていいか分からずお辞儀をしてから何となく教科書に視線を落とした。




「あの、お昼を、ご一緒してよろしいですか?」

お昼を知らせる鐘の音が鳴り響いて、すぐに教科書をしまってクラスから立ち去ろうとしていたアレンシカの目の前から声がした。
顔を上げると、あの彼が目の前に立ってにっこりと笑っている。

まさか午前中ずっと休憩時間になる度にギリギリまでクラスから出ていたからだろうか。
いや、まさか彼はこのアレンシカの胸中を知る訳がない。考えすぎだろうと頭の中でかぶりを振る。

「い……いですけど……、他の……お友達とか……いいんですか……?」

「僕だけです。」

彼は明るくてきっと他に既に友人がいるのではないなと思い聞いたら有無を言わさない目で微笑まれた。
アレンシカは悟られないように心の中でガックリとしてから、仕方なくも同意をすると、彼はパッと花のような笑顔でアレンシカと連れ立ち食堂に向かうのだった。




「昨日はありがとうございました。おかげでちゃんと職員棟に行けました。」

彼は弁当を持っていたから持ってくるまで先に食べていていいと言ったのに、アレンシカが食堂でランチを頼んでランチを持ってくるまで律儀に待っていた彼は、アレンシカが席に着いてから開口一番にそう言った。
内心、何でランチに誘われたのかビクビクしていたアレンシカはその一言に虚を突かれた。

「えっ……。」

「そちらは大丈夫でしたか?急いでいたみたいで、もしかしたら僕のせいで遅れてしまったのではないかと。寮に帰ってからずっとそう思ってて。もしそうなら謝りたいと思ったんです。」

「あっ……、ああ!大丈夫!でしたよ。ちゃんと余裕の時間で間に合いましたから。」

「そうですか、よかった……。」

胸の前に手を置きホッとした様子の彼。

「それで……。」

彼のことを何て呼べばいいのか分からず言いよどむ。そういえばまだ彼の名前を知らなかった。
まさか彼を目の前にして「彼」や、ましてや「未来の殿下の恋人さん」なんて心の中で呼んでいた呼び方で声はかけられない。
休憩時間の間ずっとクラスから出ていたアレンシカは、今日はまだ彼どころか他のクラスメイトとも交流の時間を持つことはなかったからだ。

「君、は……。」

結局「君」と呼んで、次いで謝りたいからわざわざランチに誘ってくれたのか、尋ねようとすると。

「エイリ。」

「え?」

「エイリーク・スプリンガードと言います。僕の名前。どうか『エイリ』と呼んでください。そう呼んでほしいです。」

小さい花のようにふわと微笑みながら名乗った彼、もといエイリークはそう言いながら真っ直ぐにアレンシカを見つめた。

「じゃあ、……エイリ。」

「はい。」

ついそう呼ぶとエイリークは小さい花から大輪の花の笑顔に変わった。

「あ、僕の名前は……。」

「アレンシカ・リリーベル様、ですよね。クラスの子に聞いたんです。」

「そ、そうだったんですね。」

「はい。あの白銀の髪に翡翠の目の美しい人はだれですかって。」

ふふ。とエイリークは笑う。
その軽い冗談を言われたアレンシカは少し心の防御が溶けているのを感じた。
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