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信じる
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遠くから見ても体格の良い男性は怒りの表情でこちらを見据えながらドカドカと一直線にこちらに向かってくる。
「な、なんかすごい大きい人が来るよ……?」
「げー!お兄様!」
「えっ……逃げてたって言ってたあの……?」
「プリム!今までどこにいたんだ!先ほどの騒ぎはお前か!」
男性は勢いは失わずプリムの目の前でピッタリ止まるとギッと鋭い眼差しでプリムを睨んだ。
近くで見るプリムの兄はさらにがっしりとした体格で柔らかい感じのプリムとはパッと見ではあまり似ていない。しかしよく見ると目元の雰囲気が似ていた。
「別に私は騒いでないです。いつもいい子ですもん。」
「お前がいい子だった時があったか……?」
「いい子です。ちゃんと帰らないでパーティーにいます。」
「いい子はそこらウロウロしたり俺を撒いたりはしないんだよ!」
「だーってお兄様大人でしょー?いい加減弟離れしてください。しつこい男は嫌われますよー?」
「何が弟離れだ!今日は大事なんだぞ!お前の将来の為にもなあ……!」
目の前でワーワー言い合いをしている二人に呆気に取られるが、横にいるアレンシカに気づいた兄は目を丸くした後、プリムに拳骨を食らわせた。
あくまで人前もあるからそこまで力は入れていなそうだが、プリムはとても痛そうだ。
「プリム!お隣にいらっしゃるのはリリーベル公爵のご子息様ではないか!何故共にいるんだ!」
「いたーい!痛いですー!アレンシカ様ー!何にも悪くないのに殴られました慰めてくださいえーん!」
「あ、うん……。」
縋りついてくるプリムに身動きが取れなくなるものの、手を動かして殴られた箇所を撫でてみる。たんこぶは無かった。音のわりに手加減はしていたらしい。
「プリム!離れなさい!申し訳ありません。私の愚弟がとんだご迷惑を。私はプリムの兄、ヴィルギス・ミラーと申します。」
「こちらこそご挨拶が遅れて申し訳ありません。アレンシカ・リリーベルと申します。プリムとは学園で出来た友人なんです。友人同士のやり取りをしているだけなので大丈夫ですよ。」
その言葉に半ば信じられないようにヴィルギスはあんぐりと口を開けた。
「そんな、まさか、冗談でしょう?リリーベル公爵の子息様が、私の弟と友人だなんて。」
「いいえ、本当です。プリムと僕はとても仲の良い友人なんです。」
「まさか、まさか……同じ学年にいることは知ってはいましたが、本当に友人なんて……プリムはバカでよく迷惑をかける奴ですよ。公爵子息様の友人としてはとても釣り合いはとれません。」
「あっち行けお兄様!」
「お前はいつまでしがみついてるつもりだ!」
「落ち着いてくださいヴィルギス様。」
「申し訳ありません。プリムからは何も聞いておらず、半ば信じられないのです。」
「プリムは今日、ヴィルギス様と来たと言っていました。聞いていたのにここまでご挨拶にも行かずにいた僕の責任でもあります。だからお気になさらないでください。」
「いいえ、どうせプリムがアレンシカ様を連れ回し、私から遠ざけていたのでしょう。手に取るように分かります。今日は後学の為にプリムを連れて来たのですが、私が手綱をしっかりと握っていなかったばっかりにアレンシカ様に多大なるご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありません。何とお詫びしたらいいか……。」
「必要ありませんよ。僕は今日友人のプリムといられてとても楽しかったのですから。」
「そーですそーです!アレンシカ様と私はお友達ですもーん!散れお兄様!」
「そもそもお前がちゃんと学園でのことは報告していればこちらからきちんと挨拶に伺えたのだぞ!」
「なんでお兄様に教える必要があるんですか?」
「私はお前の保護者でもあるからだ!」
また目の前で言い合いになってしまい置いてけぼりになってしまった。
周りの目もあることだしとアレンシカはひとつ咳払いをすると、ヴィルギスはハッとしてアレンシカの方へ向き直り頭を下げた。
「申し訳ありません。当主として保護者として、プリムの監督責任があるのに、どうにもこいつを制御できずに……。きっと学園でもアレンシカ様にとてもご迷惑をおかけしている筈です。」
「いいえ。プリムはいつも私を気にかけてくださるんですよ。とても優しくて素晴らしい友人です。」
「いや、そんな……本当のことを仰って頂いてかまいません。」
「本当です。僕は、プリムが僕の友人であることがとても誇らしいです。」
アレンシカは心からにっこりと笑ってそう言うと、ヴィルギスはぐっと出そうになった言葉を飲み込み、チラリとプリムを見てから諦めたように言った。
「……まだ信じられない部分もありますが、アレンシカ様がそう仰るのですから、信じます。こんなに子どもの態度ばかりとっているのにアレンシカ様が許してくれているのですから、本当なんでしょう。」
「はい。プリムは大切な友人です。」
「やーいやーいお兄様の負けー。」
「お前はもう少しアレンシカ様に恥をかかせない態度をしろ!」
それでもやっぱりまだ信じきることが出来ないヴィルギスはプリムを叱る。
プリムを一番知っているからこそなのだろう。しかし、アレンシカの言葉を信じることを約束したのだから信じる為の努力をしようとは思うのだ。
大切な友達だと認められたアレンシカとプリムはご機嫌だった。
「ああ、そうだ。プリム。」
「はーい。」
「ピーチのムース食べに行こうね。」
「はい!お友達の約束です!」
「ヴィルギス様も一緒にどうですか?」
「えーお兄様来ないでくださいー。」
「俺はお前の付き添いなんだが…?」
「な、なんかすごい大きい人が来るよ……?」
「げー!お兄様!」
「えっ……逃げてたって言ってたあの……?」
「プリム!今までどこにいたんだ!先ほどの騒ぎはお前か!」
男性は勢いは失わずプリムの目の前でピッタリ止まるとギッと鋭い眼差しでプリムを睨んだ。
近くで見るプリムの兄はさらにがっしりとした体格で柔らかい感じのプリムとはパッと見ではあまり似ていない。しかしよく見ると目元の雰囲気が似ていた。
「別に私は騒いでないです。いつもいい子ですもん。」
「お前がいい子だった時があったか……?」
「いい子です。ちゃんと帰らないでパーティーにいます。」
「いい子はそこらウロウロしたり俺を撒いたりはしないんだよ!」
「だーってお兄様大人でしょー?いい加減弟離れしてください。しつこい男は嫌われますよー?」
「何が弟離れだ!今日は大事なんだぞ!お前の将来の為にもなあ……!」
目の前でワーワー言い合いをしている二人に呆気に取られるが、横にいるアレンシカに気づいた兄は目を丸くした後、プリムに拳骨を食らわせた。
あくまで人前もあるからそこまで力は入れていなそうだが、プリムはとても痛そうだ。
「プリム!お隣にいらっしゃるのはリリーベル公爵のご子息様ではないか!何故共にいるんだ!」
「いたーい!痛いですー!アレンシカ様ー!何にも悪くないのに殴られました慰めてくださいえーん!」
「あ、うん……。」
縋りついてくるプリムに身動きが取れなくなるものの、手を動かして殴られた箇所を撫でてみる。たんこぶは無かった。音のわりに手加減はしていたらしい。
「プリム!離れなさい!申し訳ありません。私の愚弟がとんだご迷惑を。私はプリムの兄、ヴィルギス・ミラーと申します。」
「こちらこそご挨拶が遅れて申し訳ありません。アレンシカ・リリーベルと申します。プリムとは学園で出来た友人なんです。友人同士のやり取りをしているだけなので大丈夫ですよ。」
その言葉に半ば信じられないようにヴィルギスはあんぐりと口を開けた。
「そんな、まさか、冗談でしょう?リリーベル公爵の子息様が、私の弟と友人だなんて。」
「いいえ、本当です。プリムと僕はとても仲の良い友人なんです。」
「まさか、まさか……同じ学年にいることは知ってはいましたが、本当に友人なんて……プリムはバカでよく迷惑をかける奴ですよ。公爵子息様の友人としてはとても釣り合いはとれません。」
「あっち行けお兄様!」
「お前はいつまでしがみついてるつもりだ!」
「落ち着いてくださいヴィルギス様。」
「申し訳ありません。プリムからは何も聞いておらず、半ば信じられないのです。」
「プリムは今日、ヴィルギス様と来たと言っていました。聞いていたのにここまでご挨拶にも行かずにいた僕の責任でもあります。だからお気になさらないでください。」
「いいえ、どうせプリムがアレンシカ様を連れ回し、私から遠ざけていたのでしょう。手に取るように分かります。今日は後学の為にプリムを連れて来たのですが、私が手綱をしっかりと握っていなかったばっかりにアレンシカ様に多大なるご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありません。何とお詫びしたらいいか……。」
「必要ありませんよ。僕は今日友人のプリムといられてとても楽しかったのですから。」
「そーですそーです!アレンシカ様と私はお友達ですもーん!散れお兄様!」
「そもそもお前がちゃんと学園でのことは報告していればこちらからきちんと挨拶に伺えたのだぞ!」
「なんでお兄様に教える必要があるんですか?」
「私はお前の保護者でもあるからだ!」
また目の前で言い合いになってしまい置いてけぼりになってしまった。
周りの目もあることだしとアレンシカはひとつ咳払いをすると、ヴィルギスはハッとしてアレンシカの方へ向き直り頭を下げた。
「申し訳ありません。当主として保護者として、プリムの監督責任があるのに、どうにもこいつを制御できずに……。きっと学園でもアレンシカ様にとてもご迷惑をおかけしている筈です。」
「いいえ。プリムはいつも私を気にかけてくださるんですよ。とても優しくて素晴らしい友人です。」
「いや、そんな……本当のことを仰って頂いてかまいません。」
「本当です。僕は、プリムが僕の友人であることがとても誇らしいです。」
アレンシカは心からにっこりと笑ってそう言うと、ヴィルギスはぐっと出そうになった言葉を飲み込み、チラリとプリムを見てから諦めたように言った。
「……まだ信じられない部分もありますが、アレンシカ様がそう仰るのですから、信じます。こんなに子どもの態度ばかりとっているのにアレンシカ様が許してくれているのですから、本当なんでしょう。」
「はい。プリムは大切な友人です。」
「やーいやーいお兄様の負けー。」
「お前はもう少しアレンシカ様に恥をかかせない態度をしろ!」
それでもやっぱりまだ信じきることが出来ないヴィルギスはプリムを叱る。
プリムを一番知っているからこそなのだろう。しかし、アレンシカの言葉を信じることを約束したのだから信じる為の努力をしようとは思うのだ。
大切な友達だと認められたアレンシカとプリムはご機嫌だった。
「ああ、そうだ。プリム。」
「はーい。」
「ピーチのムース食べに行こうね。」
「はい!お友達の約束です!」
「ヴィルギス様も一緒にどうですか?」
「えーお兄様来ないでくださいー。」
「俺はお前の付き添いなんだが…?」
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