天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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気づき

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「そ、それはどういう……。」

「私がフィラルと結婚する前に、君たちには婚約の儀を執り行いたい。だから時間がないんだ。」

「待ってください!」

アレンシカはあまりの急展開に思わず立ち上がってしまった。目の前に置かれたカップの紅茶がユラユラと揺れた。

「……失礼しました。」

「いや、いい。アレンシカにも急な話で戸惑っただろう。今はブライベートな場だ。礼儀など気にせず話せばいい。むしろ礼儀正しすぎて、昔から心配なくらいだ。」

「……ありがとうございます……。ですが。」

手が震える。抑えようと思っても抑えられず、心を落ち着けようとお茶を飲もうと思っても今はカップすら持てそうになかった。
なんとか動揺を静めようと、気づかれない程度の深呼吸をしてなんとか気力を保った。

「……本当に、急で戸惑っています。今まで僕達は婚約者の身でありながら、あまり社交の場に伴なったことも多くありません。そこに急に……と。」

「確かに急ぎすぎたところはあるが、せっかくならめでたいことは重なったことがいいと思った次第だ。ウィンノルにも早く地盤を強化してもらいたいし、結婚する私たちを支える役を担ってもらいたいのもあるからな。」

「ですが、僕達の仲を何度もご覧いただいたとおり、お二人を支えられる円滑な関係が築けてはいないのです。とてもお支え出来るとは。」

不安そうにしているのが伝わったのだろう、フィラルが隣りに移動して肩を抱いた。信頼しているフィラルの慰めはいつもだったら安心して落ち着くことができるというのに、今日に限っては少しも安心することができなかった。

「大丈夫だ、この苦難を乗り越えたら二人は仲良くなれる。良好な関係が築けると約束するよ。」

「ユースだって大丈夫だったんだから、ウィンノルが駄目なはずはないよ。だから信じて大丈夫だからね。」

大丈夫。何度も二人にそう言われてきた。こちら側から今までやんわりと訴えてもまるで煙に巻くように大丈夫とずっと。
そして今日、今まで以上にハッキリと進言しても同じだった。
これまではふわっと進言しているだけだから、安心させる為に慰めてくれているのだと思っていた。具体的に提示しても同じだというとどこか違和感を覚える。
でもただ心なく言っているのではなく、本当に大丈夫だと信じているようだ。


なぜそこまで結婚を早めるのか。
大丈夫ではないことばかりなのに、大丈夫の根拠があるのは何故なのか。


まさか。

「アレンシカちゃん?」

「どうした、アレンシカ。」

「……いえ、なんでもありません。」

思わずパッと顔を上げた先にユースの目が写った。ウィンノルとは似ているが、いつも優しげに見つめる視線が一瞬だけ剣呑になった気がして思わずまた少し目をそらしてしまった。

アレンシカは気づいたのだ。
いや、まだ確証には至っていない。ただ気づいたとしても口に出来ることではなかった。
それを問うことはいけないことであり、また探ることもよくないことだ。
王族相手なら尚更のことだった。

今はただ憶測でしかない。
でも。

(この結婚は、大きな制約--たとえば王族のどなたかの【天啓】に関わることだとしたら。)
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