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招待状
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「ねーねーアレンシカ様ー、今年の夏はどうします?」
いつもの通り登校するとプリムがそう尋ねてきた。
「どうって?」
「だってだってー、私がアレンシカ様にお付きの人になって初めての夏ですよ?アレンシカ様と一緒に遊びたいなーって。」
「……アンタさあ、侍従は遊びじゃないでしょ。」
すでに二人よりも早く登校していたエイリークが隣の席から少しだけトゲトゲした声で言う。
「うーん……遊びたいのも山々かもしれないけど、ディオールがプリムのお兄様と何か話していたよ?お仕事を学ばせようとしているみたい。」
「えー!」
「それに夏休みの間は、僕があまり一緒にいられないかもしれない。花壇も見に来たいし‥‥それに出なきゃいけない場がたくさんあるんだ。」
婚約の儀に向けてアレンシカはいろんな家門のパーティーの紹介状をユースを通じて受け取っていた。今までに比べて遥かに多くぎっしりとあり、いかにアレンシカをウィンノルの婚約者として多くの家門に顔見せして地盤を固めようかという気概を感じる。
今まであまりパーティーには出なかった身の上、どうにも辟易としてしまうが王族を通じての紹介状では絶対に断ることが出来ない。逃げ場のなさを感じていた。
「お兄様ったら、ひどいです。‥‥でもそっか!アレンシカ様のお家にいるならアレンシカ様のお家で遊びましょ!」
「ええ……。」
「アンタねえ……。」
少しだけ落ち込んだがそれも一瞬でご機嫌に戻ったプリムはふんふんと鼻歌を歌いながら笑っている。
そんな様子を見て、プリムなら何とかやっていけるかもしれないと思いながらアレンシカは席に座った。最初の授業の準備に取り掛かろうとカバンから教科書を出す。
「あっアレン様何か落ちましたよ。」
カバンからひらりと落ちたものを咄嗟にエイリークが掴んだ。
「これは……?」
「ああ、それは‥‥。」
今まさにアレンシカを悩ませている招待状のひとつだった。あまりに多くて勉強の時間も削って合間に目を通しているせいか、教科書に紛れて持ってきてしまったようだ。封筒がないため王家の紋のスタンプはなかったが中身は別の家門の書だ。丁寧に折り目がついていたため、広がることはなく中身が見えることはなかった。
「なんか……忙しそうですね。アレン様。」
「え?」
「疲れた顔っていうか……いつものアレン様の麗しさが陰っているというか……もちろんいつもすごく麗しいんですけど!すみません。……一介の平民がこんなこと‥‥。」
「ううん、友達として心配してくれてるんだもの。嬉しくは思っても嫌には思わないよ。ごめんね。少し最近勉強しすぎてるのかも。」
少しだけ笑って手紙を受け取ろうとしたが、その前に誰かに取られた。
「おはようございますアレンシカ様。あと二人。」
「二人ってさあ……。」
「おはよールジェ君。」
「これって……ああ。あれですか。」
中身を見ずとも何かわかったルジェは少しだけげんなりしているようだ。
「それ、何か知ってる訳?」
「まあね。」
「んー?……ああ、虫の取り扱い説明書ですかー?」
「いや?」
ルジェは紙を少しだけピラピラとさせた後、何故か自分のカバンの中にしまった。しっかりと奥底に。
「え?ルジェ?」
「それ、アレン様のものなんだけど。」
「だからだよ。」
まだ家に同じ招待状は山ほどとある。アレンシカに渡されなかった場合を想定したのだろう、全く同じ招待状が何度も届けられているからだ。だからその一枚が手元にないところでまた別のものを見れば良い訳だが、他の家からもらったものだ。別の人の手に渡るのは良くないのではないか。
「ルジェ、どうして……。」
「俺、フィラル様からもユース様からも、ささやかな権限は貰ってるんで。まあ預けてみませんか。」
「……でも。」
「いえいえ、気にしないで。」
「だけど……。」
「まあまあアレンシカ様ー。代わりに捨ててもらいましょー。」
中身は知らないはずなのに訳知り顔のプリムがアレンシカを宥めるように言う。その言葉にルジェは軽くにこりと笑うとカバンを持ったまま席についてしまう。
そのままタイミングよく教師が入ってきてしまった為、そのまま招待状を取り戻すことはできなくなってしまった。
いつもの通り登校するとプリムがそう尋ねてきた。
「どうって?」
「だってだってー、私がアレンシカ様にお付きの人になって初めての夏ですよ?アレンシカ様と一緒に遊びたいなーって。」
「……アンタさあ、侍従は遊びじゃないでしょ。」
すでに二人よりも早く登校していたエイリークが隣の席から少しだけトゲトゲした声で言う。
「うーん……遊びたいのも山々かもしれないけど、ディオールがプリムのお兄様と何か話していたよ?お仕事を学ばせようとしているみたい。」
「えー!」
「それに夏休みの間は、僕があまり一緒にいられないかもしれない。花壇も見に来たいし‥‥それに出なきゃいけない場がたくさんあるんだ。」
婚約の儀に向けてアレンシカはいろんな家門のパーティーの紹介状をユースを通じて受け取っていた。今までに比べて遥かに多くぎっしりとあり、いかにアレンシカをウィンノルの婚約者として多くの家門に顔見せして地盤を固めようかという気概を感じる。
今まであまりパーティーには出なかった身の上、どうにも辟易としてしまうが王族を通じての紹介状では絶対に断ることが出来ない。逃げ場のなさを感じていた。
「お兄様ったら、ひどいです。‥‥でもそっか!アレンシカ様のお家にいるならアレンシカ様のお家で遊びましょ!」
「ええ……。」
「アンタねえ……。」
少しだけ落ち込んだがそれも一瞬でご機嫌に戻ったプリムはふんふんと鼻歌を歌いながら笑っている。
そんな様子を見て、プリムなら何とかやっていけるかもしれないと思いながらアレンシカは席に座った。最初の授業の準備に取り掛かろうとカバンから教科書を出す。
「あっアレン様何か落ちましたよ。」
カバンからひらりと落ちたものを咄嗟にエイリークが掴んだ。
「これは……?」
「ああ、それは‥‥。」
今まさにアレンシカを悩ませている招待状のひとつだった。あまりに多くて勉強の時間も削って合間に目を通しているせいか、教科書に紛れて持ってきてしまったようだ。封筒がないため王家の紋のスタンプはなかったが中身は別の家門の書だ。丁寧に折り目がついていたため、広がることはなく中身が見えることはなかった。
「なんか……忙しそうですね。アレン様。」
「え?」
「疲れた顔っていうか……いつものアレン様の麗しさが陰っているというか……もちろんいつもすごく麗しいんですけど!すみません。……一介の平民がこんなこと‥‥。」
「ううん、友達として心配してくれてるんだもの。嬉しくは思っても嫌には思わないよ。ごめんね。少し最近勉強しすぎてるのかも。」
少しだけ笑って手紙を受け取ろうとしたが、その前に誰かに取られた。
「おはようございますアレンシカ様。あと二人。」
「二人ってさあ……。」
「おはよールジェ君。」
「これって……ああ。あれですか。」
中身を見ずとも何かわかったルジェは少しだけげんなりしているようだ。
「それ、何か知ってる訳?」
「まあね。」
「んー?……ああ、虫の取り扱い説明書ですかー?」
「いや?」
ルジェは紙を少しだけピラピラとさせた後、何故か自分のカバンの中にしまった。しっかりと奥底に。
「え?ルジェ?」
「それ、アレン様のものなんだけど。」
「だからだよ。」
まだ家に同じ招待状は山ほどとある。アレンシカに渡されなかった場合を想定したのだろう、全く同じ招待状が何度も届けられているからだ。だからその一枚が手元にないところでまた別のものを見れば良い訳だが、他の家からもらったものだ。別の人の手に渡るのは良くないのではないか。
「ルジェ、どうして……。」
「俺、フィラル様からもユース様からも、ささやかな権限は貰ってるんで。まあ預けてみませんか。」
「……でも。」
「いえいえ、気にしないで。」
「だけど……。」
「まあまあアレンシカ様ー。代わりに捨ててもらいましょー。」
中身は知らないはずなのに訳知り顔のプリムがアレンシカを宥めるように言う。その言葉にルジェは軽くにこりと笑うとカバンを持ったまま席についてしまう。
そのままタイミングよく教師が入ってきてしまった為、そのまま招待状を取り戻すことはできなくなってしまった。
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