天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

文字の大きさ
47 / 139

隠し部屋

しおりを挟む
王立学園には誰にも気づきにくい場所に隠された部屋がある。
刺客から逃れる為や密談の為に使うその部屋は、壁に紛れ扉は一見では見えず、奥まった場所にあるせいでそこに部屋があることは選ばれた教師陣や学園長を除けば生徒では誰も知らないだろう。
その部屋は王族だけが使える部屋だからだ。
だからこうして王族が一人で部屋に篭り、くつろいでいる時に誰かが入ってくることはない。必ず王族が招待し伴わないと入ることは許されない部屋なのだ。
それなのに何故、目の前に一人いるのか。

「……ユース王子から権限を貰ったからな、王子が一人でいる時は入ってもいいと。」

「……兄上は王族の警備について軽視しているのか。」

「ユース王子は心配したようだ。王子が特権を利用して誰彼構わずこの部屋に入れることを。その為にこの部屋を開けるカラクリまで教えてくれたんだから。」

「仮にルジェが謀反まで起こしたらどう責任を取るつもりだろう。」

「別に俺、大事な存在ではないからな。俺を監視している人間にすぐに殺されでもするんじゃないか?」

なんでもないというようにソファで座るルジェは、王子に対面する態度には見えない。

「ユース様に頂いている権限は、ある程度の王子の行動への干渉。おおよそ王子には使わない言葉遣いが使えること。それから追加されたのは、この部屋に入ること。これからの王子の態度次第で権限が増えるか減るかは決まるが、一介の男爵家の子には見に余るほどの権限だな。」

「ふん。」

ウィンノルは聞いているのかいないのか、ただ対面のソファに座り寛いでいるように見える。

「もちろん誰かがいる外ではこんな態度とらない。男爵家の人間が王族にナメた言葉遣いをするなんて、いくらユース様に許されていようが周りは許さないからな。俺はどこぞの誰かと違って分別はついているんでね。ただまあここでくらい『友人』として許してくださいよ、王子様?」

ウィンノルの眉毛が一瞬だけ釣り上がった気がしたがそれも気がしただけで平然と座っている。

「……で?いつからこの部屋に入る権限が与えられたのかは知らないが、今まで一度もここには来たことがないお前がわざわざここに来るのは一体何の用だ。」

その言葉にルジェは緩慢にポケットから一枚の紙を取り出した。

「……アレンシカ様が持ってたぞ、これ。どうせ知ってるだろうが見せておく。」

机の上に置いた紙を滑らすようにウィンノルが手にすると静かに開いた。一瞬だけ目を通すとまたもとの状態に戻す。

「……くだらないな。」

「そのくだらないことは王子が引き起こしてるんだろ。どうやらあの様子だと他にも大量に届いてるみたいだ。ユース様を通じてな。」

「そうだね。」

「で、この招待状に答えるのか?」

「このふざけた招待状に?こんな格下家門のことなんていちいち構ってやる暇はない。」

「だけどアレンシカ様は拒否できませんよね。他でもない王族からの要請なんですから。」

ウィンノルはその返答に本当に小さくため息をついた。

「……王子、アレンシカ様をどうするつもりだ?」

「どうする、とは?」

「……どう見てもお互いに円滑な婚約関係ではない。王子は浮気ばっかりしているし、アレンシカ様がいくら歩み寄ってもちっとも責務すら果たそうとしない。」

「……。」

「この学園に進学してからずっと監視しているが、お前のアレンシカ様への態度が酷いこともはちっとも変わらない。」

「……しょうがないんだよ。それは。」

「しょうがないとは?あんな態度をしておいてイタズラに婚約期間を増やすことか?アレンシカ様は公爵の人間なんだぞ。ずっと酷い態度をしておいて、正常な婚約関係すら結ぶ気がないのにこのままでいて、向こうが他と婚姻する機会を奪いたいのか?何か気に入らないならお前側から破棄の話し合いを設けるしかないだろう?」

ルジェはダンッと両の手の平で机を叩いた。机の上に置いたままだった招待状が少しだけ歪む。

「それとも向こうから破棄してほしいのか?家格が下の者からの申し出は出来ないが、相手側に重大な過失があれば出来るもんな。でも相手は王族なんだぞ、よっぽどのことがなきゃ申し出られる訳ないだろ。それどころか王族なら簡単に揉み消せる。過失を証明したところで周りは認めないだろうな。むしろリリーベル家に過失があると思われる。」

「……別にアレンシカが申し出たいならすればいいだろうに。」

「それが出来ないからこうなっているんだろ。俺は今までのことを全てユース様に報告しているぞ、だが一向に改善する様子もない。どう見てもお前に話が行ってる様子もないよな。……なあ、お前は、お前とユース様は何が目的なんだ?」

「とりあえず少し落ち着きなさい。」

ヒートアップしたルジェに座り直すように促した後、再度机の上の招待状を手にしたウィンノルは今度はそれを開かずに自分のポケットにしまった。

「とりあえず、兄上には話すつもりではある。さすがに連日のパーティーは無理だからね。その後のことは俺の一存だけでは決められないが。またうちでも話し合うよ。」

「その話し合いをしてないんだろ……。」

ウィンノルはただにこりと笑った。そしてそのまま立ち上がる。

「そうと決まれば帰らなければ。さあルジェも行きなさい。この部屋を最後に出るのが王族以外ではいけないからね。」

そして内側からは見える出口へ促した。

「……ウィンノル王子、お前は一体何を考えているんだ……?」

これ以上話し合いが見込めないと踏んだルジェは項垂れつつも促されたまま出口に向かったが、部屋を出る前に振り返り問うた。

しかし返ってきたのはただただ穏やかな微笑みだけだった。
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

徒花伐採 ~巻き戻りΩ、二度目の人生は復讐から始めます~

めがねあざらし
BL
【🕊更新予定/毎日更新(夜21〜22時)】 ※投稿時間は多少前後する場合があります 火刑台の上で、すべてを失った。 愛も、家も、生まれてくるはずだった命さえも。 王太子の婚約者として生きたセラは、裏切りと冤罪の果てに炎へと沈んだΩ。 だが――目を覚ましたとき、時間は巻き戻っていた。 この世界はもう信じない。 この命は、復讐のために使う。 かつて愛した男を自らの手で裁き、滅んだ家を取り戻す。 裏切りの王太子、歪んだ愛、運命を覆す巻き戻りΩ。 “今度こそ、誰も信じない。  ただ、すべてを終わらせるために。”

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

処理中です...