君までの距離

高遠 加奈

文字の大きさ
13 / 80

遥香のいる場所

しおりを挟む

指先が震える。

「…ここなの?」

『……ええ…入口から入ってきて。当日券売り場にいるわ……』



ぷつりと通話が途切れて、信じられないと思いながら片手で携帯を閉じる。

劇場の規模に圧倒される。専用の劇場を持った劇団なんてそうはいない。知ってるのなんて、劇団四季とか宝塚しかないけど。

この劇場いっぱいの人が、高遠さんを見に来る。自分でチケットを買って、わざわざこの劇場まで足を運んでくるんだ。

まるで自分が舞台に立ったみたいに緊張している。足、震えてるじゃない…

大きく息を吸って、深呼吸してから、アタシは目の前の劇場に向けて足を踏み出した。


正面玄関の自動ドアを潜ると、吹き抜けの広いホールがあり、階段に続いている。赤い絨毯を敷き詰めたホールは、別世界のような華やかさがあって進もうとする足が重くなる。

階段から溢れた人の列がホールに達していた。ざわめきや、手にした紙からこの人達はチケットを持っているようで、席が決まっているのにも関わらず、会場が開くのを待っているのだとわかった。



遥香がいるなら、もっと上…。金曜の夜に知った公演のチケットを、日曜の昼に取れるとしたら、かなり早くから並ばないといけないはずだ。

ついアタシの足は早くなる。一段飛ばしをしかねない勢いで踊り場を曲がり、2階のカウンターまでを急ぐ。チケットを持った人の列とは別に、ぐねぐねと蛇行した列が目に入った。なんで蛇行しているのかといえば、フロアの床に思い思いにくつろいで座っているからで、疲れからか、体育座りの膝に頭を乗せ丸くなっている人もいる。

階段を駆け上がって、荒いままの息を落ち着けながら、遥香を捜す。ざっと一度見渡し、もう一度見はじめた所でアタシに手を振る人が目についた。


そばに行くまで、遥香だとわからなかった。いつも時間をかけて綺麗に巻いてある髪は、ラフにまとめてシュシュをつけていたし、服装も滅多に見ないジーンズに仕立てのいいシャツを合わせて、サングラスをつけていた。一見、リゾートでくつろぐ上流子女のようだ。ただ回りにいるのは疲労をあらわにした人の群れでしかなくて、青い海も白い砂浜もない。



ちらりとサングラスをずらし、

「…きちんと…メイクしてないの」

と恥じらう姿に、なんだか胸があつくなってしがみついた。

「遥香がキレイじゃないなんて有り得ないよ!今もすっごいキレイ。……ああもうバカねぇ……いつから居るのよ」

「……昨日も来てみたの…でも遅くてチケット取れなかったから……始発前に」

「タクシー?」

「……ええ」

「もうバカ、信じらんない」


ぎゅうっと遥香を抱きしめているので、ぐしゃぐしゃの泣き顔は見えないはずだ。
ぬぐいもしないで流した涙は、腕をつたい遥香のシャツにぽつぽつと跡を残す。


「……結構いい席が取れたの。並んでいたのが一人だけだから……一枚しか取れなかったけど……未也の誕生日プレゼントに貰って欲しいの……」

なんで人のためにこんなに出来るかな。アタシ、ここまでのこと遥香にしてあげたことってない……

「……気が早いよ。アタシの誕生日は、まだ1ヶ月も先」

「……未也が一番喜ぶことがしてあげたかったの……」

「あーもー…アタシ男だったら遥香と結婚するのに!…ありがとう遥香」

見えなくても遥香が笑った気がした。すがりつくように抱きついたアタシの背中を、あやすようにとんとんと叩きながら。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

閉じ込められて囲われて

なかな悠桃
恋愛
新藤菜乃は会社のエレベーターの故障で閉じ込められてしまう。しかも、同期で大嫌いな橋本翔真と一緒に・・・。

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...