君までの距離

高遠 加奈

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遥香のくれたもの

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アタシにチケットを渡した遥香は、

「…ゆっくりお茶して帰るわ…」



そう言って立ち去った。いつも綺麗でお洒落な遥香がアタシのために、朝早くから、身なりもかまわず取ってくれたチケット…。

ぎゅうっとチケットを握りしめて、また潤みはじめた目をまばたきでごまかす。
事前にされたキャンセルや、当日急遽なされたキャンセルはそう多いものではない。予定をやり繰りして、やっとの思いで手にしたチケットのはずだ。急な病気や、どうしても抜けられない用事が入ったのかもしれない。

心のなかで、ごめんねとありがとうを繰り返す。見ず知らずのあなたのおかげで、高遠さんの舞台を見ることができます……



チケットを持った人の列は、開いた扉へと飲み込まれていく。


チケットを持った最後の人が吸い込まれるように扉を潜ってから、アタシ達の列も動き出した。まわりじゅうで、伸びをしたり体をほぐすような仕種が見られる。座布団がわりにしていた雑誌を片付けたり、待ち時間に散らかした荷物をまとめたり。

プラチナチケットを手に入れるために努力した人達がいる。



これだけの人数の公演を完売させる劇団の実力…どれ程凄いものなんだろう。

入口で発行されたチケットを確認すると、「E-20ですね。御席前例中央になります。足元の表示を参考にお進みください」と返ってきた。遥香の言ったように、かなりいい席が空いたようだった。始発前から並んだ遥香はキャンセル待ちの五番目だったからだ。



ほぼ埋まった席を中央まで、すみませんを繰り返して進み、席に着いただけで達成感がある。息を吐いて席に身を預けた。




照明が絞られて、かわりに音楽が響いてくる。体にズシンと響く重低音のロックだった。何が始まるのかと落ちつきなくキョロキョロと見回していたアタシの視界に、一列前の右端にすっと女性が座ったのが見えた。遥香のような、スマートな身のこなし。さらりとした髪とスタイルのいいモデルのような長身。

わぁ…キレイな人

彼女は暗くなる寸前にサングラスを外したけれど、舞台の幕があがったのでアタシの注意はそちらに流れた。

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