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微妙な距離
しおりを挟む「いや…いい。まだ早いみたいだ」
尾上さんは、すっと唇を撫でて目を細めた。細くなって鋭くなった目には妖しい光があった。
それも見間違いかと思うような一瞬で、また大型犬のような風貌になる。
「もうお代わりのことを考えてますね」
「そんなことはないよ。乾杯しようか」
「はい。乾杯~お疲れ様でした~」
グラスを合わせるとお互いに飲み物を口にした。
「今日は誘ってもらって嬉しかったのですが、女の人の視線が痛かったですよ。尾上さんと一緒にいたら恨まれそうです」
「渡辺さんが気にすることないよ」
「アタシは気になりますよ。死活問題です」
「なにそれ近づくと消されるの」
「だって普通に生活できなくなりますからね」
「俺は殺したりなんかしないけどね」
「そうですね。まわりの方々が黙ってませんからね」
会社のロビーで睨まれたことが蘇る。
あつあつのチーズフライの真ん中にあったのは、ブルーベリーソースだった。
残念ながら食べたことのない組み合わせで挑戦するのは止めておく。フライでなかったら、好きな組み合わせでも揚げたとたんに微妙になる
状況が変わると微妙になるのは人間関係もそうだしね。
「変わった味…。フルーツソースだったなんて気づかなかった」
「斬新ですよね。海外ならポピュラーかもしれませんけれどね」
肩をすくめてみせる。
注意が遅かったのは仕方ない。ただのチーズフライとしてなら十分おいしい。
尾上さんは口直しにビールを煽って、アタシにきりっとした横顔と喉仏をさらした。
「そうそうCMについての日程が決まったから伝えておくよ。撮影日は来週の金曜日、撮影場所は滝瀬川の上流。当日は撮影隊のバスと現地で合流することになっているんだ」
滝瀬川の上流なんて電車もバスもない秘境なはず。ついて行くと言いながら足がないと行けない場所だ。
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