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どうしてでしょう
しおりを挟む「……どうしてって、どうしてでしょう?」
苦し紛れのごまかしに、聞き返してみる。店長は、笑いを大きくして体を揺らす。
「それは惚れてんだよ」
「そうかも…しれません」
ああ、もう本当に恥ずかしい。でも、有り得ないって否定されて、馬鹿にされてる訳じゃない。
アタシの反応が面白くて、からかっているだけな気がした。
「そうだよ。間違いない」
「……おかしくないですか。芸能人が好きだとか。気になって話を聞きに来ちゃうとか……」
店長は、優しい笑い顔のまま頭を振る。
「それが惚れてるってことさ。全然可笑しかないね。未也ちゃんは、裕也を一人の人間として好いてくれてるんだろ。芸能人とかって肩書でなくさ
だからね、俺は嬉しいんだよ。裕也をそんなふうに想ってくれる子がいるなんてねぇ」
アタシは嬉しくて、涙がにじんできた。
「落ち着くから飲みな」
アタシの目の前に湯気をたてた湯呑みが置かれる。
ひどい声になりそうで、こくこくと頷いてお茶をいただく。
そういえば、貸し切りにしたお客様はどうしたんだろう。食事の支度をする時間は大丈夫なんだろうか。
アタシが来てからも、料理の下拵えさえする気配がない。
「……店長、あのアタシそろそろ…」
すると店長はしいっと言って階段の方を見上げた。
今まで気がつかなかったけれど、上の階から話し声がする。
お客様は、もう来ていたらしい。
それなのに、店長さんは慌てずに小鉢をお盆に並べていた。
「すみません、アタシもう帰ります」
「いいよ。ちっとばかり待ってな。面白いもんが見れるから」
並べた小鉢には、冷蔵庫から塩辛が出されてきて盛られる。最後に柚子の皮をそいで沿えると、青い瓶が綺麗な冷酒と、色を合わせた切子のグラスを並べた。
「今回ばかりは店を替えればよかったのに、頭が堅えや。今までがそうだからって、同じにするこたぁない」
激しい口調でまくしたてる声がして、ばん と二階の襖が音をたてる。
物が落ちるように階段が音をたて、人が降りてきた。
びっくりして目を見開いていたら、波を蹴立てるように暖簾が膨らみ、高遠さんが現れた。
「帰るのか、裕也」
店長が声をかけたことで、高遠さんの視線がこちらに向く。
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