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向こうの世界
しおりを挟む「ここで頑張っていつか向こうの世界へ飛び出していこうとしてた」
少し高台になったここからは、下にひろがる街の明かりもよく見えた。
高い鉄塔に灯る航空規制の明かりに、街に連なっているお店の明かり、人が住んでいる家々の明かり。
どの明かりも人の存在を感じてあたたかい。
「高遠さんの世界はここからどこへでも繋がっているんですよ。芸能界に染まりきってしまったら、きっと日常のささやかな暮らしにある演技ができなくなってしまいますよ。ここは高遠さんにとって大事な場所なんですね」
「いつも迷うと考えているんだ。正しいとか間違っているとかだけじゃない基準が誰にでもある。俺の基準はきっとここから見ていた世界なんだよ」
今よりちょっとだけ若い高遠さんが見ていた景色は、今とそう変わらないはずだった。
でも、目に見えることのない価値や基準がそこには写っていたはずだ。
一度大きくこいで勢いをつけた高遠さんが、ブランコを飛び降りた。
「行こう」
振り返った高遠さんがアタシを呼んだ。
アタシも思わずブランコを飛び降りていた。
高遠さんが差し出した手に思わずつかまった。
頭の隅では、信号が点滅して危険を伝えていたのに、アタシは理性より感情に従った。
高遠さんも自分に近づいたら、危ないとあれだけ言っていたのに、手を繋いだらぎゅっと握りしめてくれた。
「俺と一緒に来て」
高遠さんがアタシを見てくれているだけで、顔がほてって熱くなってくる。アタシはただ頷いた。
高遠さんについて行くと、ごく普通のホテルの、ごくごく普通の部屋に連れていかれた。
高遠さんは部屋に入ると、繋いでいた手にキスをした。恋人つなぎにした手は互い違いに高遠さんの指がからんでいて、今までにない経験でアタシはドキドキしっぱなしだった。
手の甲にキスしながら、指の間を高遠さんの舌がなぞっただけで、きゅっと息が詰まるくらいの苦しさと甘さで胸が苦しくなる。
「……いいんですか」
「俺のこと好き?」
「……好きです」
「俺も好き。だから問題ないよね」
あんなにゴシップを嫌がっていたのに、本当にいいのだろうか。
「本当にいいの?」
一本一本指にキスしてから組んでいた手を離して、アタシの顔を両手で包みこむ。
「好きな子とこうしたくなるのは当たり前だし、それを写真に撮られるなら仕方ない」
顎のラインをなぞり耳たぶを触る。滑り落ちた片手は頭の後ろを支えて、顔が近くなる。
顔が近くなってもアタシは綺麗な顔だなぁ、肌も滑らかそうだなんて考えていた。
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