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凪 裕也SIDE 1
しおりを挟む目が覚めたら腕の中はからっぽだった。
ゆっくりと部屋を見渡すと脱ぎ散らかした服がなくなっていた。
慌ててシャワーを見ると使ったあとがあって、ほのかに温かいそこには人の姿はなかった。
書き置きもない
アドレスも知らない……
ベットに戻って座るとぎしりと軋んで沈みこむ。
普通逆だろ。
公演が掃けたあと、高ぶる気持ちのまま出待ちをしていたファンの子を抱いたことがある。
自分のことを好きで堪らない、その子はそう言った。
夢みたいだって言いながら、赤い唇を歪ませて笑った。
自分の一部分しか知らない薄っぺらい感情。壊してしまいたいほどの悪意が湧いた。
強引に服を脱がすと、戸惑いながら嫌がる姿にまた頭にきた。
俺の、何を知ってんの?
どれだけの舞台を見てくれたのかなんて知らない。
だけどそれは俺にとってほんの一部で、それ以外に俺の生活がある。
舞台の俺をそのまま求められても困る。
俺は役者で、演じる者だからだ。
急に顔も見たくなくなって、俯せにして後ろから突っ込んだ。
それでも体は劣情のままつき進んで果てるまで貪った。
ただ ただ
虚しかった
重い体を引きずって身支度を済ますと、シャワーも浴びずに部屋を後にした。
最後には「酷くしてごめんね、これは二人の秘密にしようね」なんて心にもない保身の言葉を口にして。
心を通わせたと思った相手からの仕打ちに、心の奥が痛む。
因果応報
だとしたら彼女はなんなんだ
ショックで心にひびが入っているのに、表面は凪いだ湖のように何もない。
胸の心臓のあたりにぽつりと赤い跡がある。
彼女の肌にキスマークを付けたことを面白がって、アタシもやりたいとつけたものだ。
好きだと言って
あんなに笑って…
なのに、なんで今は一人なんだろう。
携帯の番号さえ知らなくて、連絡が取れないことに焦りがつのる。
あんなに笑って
あんなに好きだって言ったのに、どうして何も言わずに消えてしまうのか。
ぼんやりした視界に、カーテンから洩れた光が部屋を横切っていた。
時間を確認して、まだ早いけれど身支度のためにシャワーを使うことにする。
ぽっかりと胸に何もなくなった穴を抱えて。
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