その科学は魔法をも凌駕する。

神部 大

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Carbonium

第四十六話 金銭苦

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「……で、そろそろ話してもいいんじゃないか?突然いなくなったかと思えば落ち込んで帰ってきて……かと思えば今度は笑っている。まさか変な薬でもやってるんじゃないだろうな、シン、本当に大丈夫か?」


 フレイの言葉に本物のハイライトと言う男から貰った薬を思い起こしたが、それが原因でおかしくなった訳では無いと言うのは明白だ。
 むしろあれから調子がいい、そう、これはまるでカプセルマシンで身体を休めていた時の感覚にも似た落ち着いた気持ち。
 真はフレイに大丈夫だと伝え、今までの経緯を簡潔に話す事にした。


「まぁちょっとした誘拐事件に巻き込まれて……ハイライト、いや、シグエーか、奴と解決した。それでフレイ、お前の弟の病気とやらも治せる目処も立った。そんな所だ」

「……なっ」


 簡単にそう言ってのける真の言葉にフレイとルナは驚き絶句していた。
 そのまま目を見開き静止するフレイの横で、ルナが真を賛嘆し激しく動き回ったのは言うまでもない事である。


「それは……一体……シン、どういう事だ……全く訳が分からない」
「シン様はやっぱり凄いって事ですよ、フレイさん!よかったですね、弟さんの病気って昼間に話してくれた事ですよね!?それが治る方法を散歩で見つけて来るなんて……やっぱり英雄です、世界を救うんですよ、シン様は!」


 何故フレイの弟の病気を治す事が世界を救う事になるのか、そもそもこの世界はそんなに大変なのかと疑問にも思う真であるがここルナの台詞とあれば深く考える必要もないだろう。
 そう自己解決させ、真は改めて事の経緯を一つづつ丁寧に説明するよう心掛けた。

 散歩からハイライト=シグエーに出会い、人探しを手伝った事。
 結果それは大した事の無い事態だったが、代わりに誘拐事件が起こりそれに巻き込まれた事。

 その後に出会ったハイライト=ソーサリーと言う男からバジリスクの眼球の使い道を教えて貰い、それがフレイの弟の病気に有効であるらしいと言う事を何とか伝えた頃にはテーブルに並べられた料理も冷めきってしまっていた。



「本当にお前って奴は……とんでもない男だな……それはまさか伝説と言われた薬師じゃないのか。ハイライト=ソーサリー……名前は聞いた事が無いがしかしあの優男と繋がっていたとはな」


 ハイライト=シグエーが何故ハイライトと名乗っているのかについては聞いていなかったが、あの二人が旧知の仲だと言うのは見てわかった。
 あの本物のハイライトと言う男が伝説の薬師とやらかどうかは真の知る所ではないが、話はなかなか信憑性に足る物であった様に感じる。

「その伝説の……何だ、腕利きの薬師かどうかは知らないがやってみる価値はあるかもしれない。ガセかどうかは何とも言えないが、知識には長けていた様に思う」


 真はソーサリーの話す言葉が地球の知識に半ば当てはまる事と、自らも処方された薬によって何らかの効果が発揮されている様な気がする事からフレイに後の決断は委ねる事にした。
 責任逃れと言われればそうかもしれないが、こればかりは真の意見のみで行動する訳にもいかないと考えたからだ。

 あくまでもフレイの弟への投薬、しかもそれは未知の世界。
 判断は親族がするべきであろう。


「そうだな……出来れば私も会っておきたい。シン、明日もう一度そこへ案内してくれるか?私もその薬師とやらをこの目で確認したいんだ。別にシンを信用していない訳じゃないんだぞ?」

「あぁ、分かってる。大丈夫だと、思う」


 真は落ち着いた心持ちでハイライト=ソーサリーのいた木造家屋までの道程を頭で反芻し、今度は大丈夫だと再確認した。


「シン様の言う事なら大丈夫だと思いますけど……フレイさんも弟さん、心配ですもんね」
「あぁ……一応だ、私の事だからな。シンばかりに助けて貰っては申し訳無い、すまないが頼む」


 ルナもまともな意見が言える物だなと内心で思いながら、真は何気無く冷めた料理に手をつけてみるのだった。


 真が料理に手をつけたのを見るや、フレイも思い出した様に冷めた料理へと手をつけていた。
 ルナはちゃっかりと温かい内に平らげていたのか、訝しげな真の食事風景を見る事にただ注視する。

 そんなルナに何だと突っ込みを入れるシン、その言葉に狼狽えるルナと女心だと横槍を入れるフレイ。
 平和な食事風景がそこにはあったのだった。












 明くる日。
 真、フレイ、ルナの三人は真の微妙に覚束無い案内によってハイライト=ソーサリーがいる古びた木造家屋に立ち寄っていた。

 フレイの話ではどうやらこの地域はファンデル王都のウェルト地区と言う場所だと言う事が判明した。
 ファンデル王都は広く、ノルト、サルト、イルト、ウェルトと区域分けされている様であった。
 因みにギルドと真達の世話になっている宿はサルト地区に位置し、王都でもノルトに次いで栄えている地区だ。
 ここのウェルト地区は逆に王都でも見捨てられたとも言える程人の入りがない、スラム的な存在との事だった。


 その後店番のイルネに軽く挨拶を交わし、ハイライト=ソーサリーにフレイとルナを紹介した。
 フレイは弟の病気についてソーサリーに尋ねていたが、どうやらソーサリーの並べる専門用語の羅列に早々から理解を諦めた様で結局は真が昨晩と同じ様な説明をするに終わった。

 弟の為に必死に薬剤への理解を深めようとしていたフレイであったが、どうやらこの世界の学識レベルはあまり高くないのだろう。
 真は内心でフレイへ同情の念を抱き、ソーサリーへ本当に大丈夫かと再三の確認を行う事でフレイを何とか安心させようとしたが、それにははっきりとした答えは出せないとの事であった。
 ただ副作用やおかしな事は起こらないとソーサリーもそこには太鼓判を押したので、フレイにはそれで納得してもらう事にしたのだった。

 途中ルナの口から真の細胞活性化酵素があるじゃないかと言う思い立ち発言にぎょっとした真、フレイ、ソーサリーはその話題で一時持ちきりとなってしまった。

 真はフレイにそれではダメだと説明し、食い付くソーサリーを何とか丸め込み、更にはルナに無言で手刀をかます事で話を終息させたのだった。





「……ふぅ、全く訳が分からない言葉ばかりだった。まるで研究者にでもなった気分だ、よくシンは理解したな……私は、やはりそう言うのは向いていないらしい」

「まぁ……俺も別に全て理解しきれている訳じゃない」


 真とフレイはソーサリーの元を後にし、人気の少ないウェルト地区をとぼとぼと歩きながらそんな会話をしていた。
 ルナはと言えば、自分の不用意な発言が真に再びの迷惑をかけてしまったと自らの頭を叩きながら一人落ち込んでいる様子である。

 真はそんなルナを一瞥し、もういいから大人しくしろと簡単に励ましておく。
 ルナのお陰でソーサリーから人体実験的な事にに協力してくれと懇願されたが、とりあえずそれは後々にと言って誤魔化せた訳で、代わりに賄賂的な意味合いで昨日飲んだラベール花の粉を幾つか貰えたので真としてはまあ良しとする所なのだ。


「それで……フレイ、ザイールだったか?弟の所、行くんだろ?」

「ん、あぁ……そうだな。あまり気は進まないが、これでレスタの病気が治るかもしれないなら私は戻る事にする」


 まるで一人で行くとでも言ってるかの様なフレイの言葉に、てっきり一緒に行くつもりだった真はふと疑問を抱いた。


「一人で行くつもりなのか?」

「え……あ、いや……その、何だお前達にこれ以上迷惑をかけるのもな。いや、シンには感謝しているんだぞ?ただな……」

「……おいフレイ、仲間なんだろ?それにお前は俺に心も体も預けるんじゃなかったのか?」



 何かを言い淀むフレイは、真のそんな言葉にはっと顔を上げてやがて笑みを浮かべた。


「……ふ、それもそうだ……な。仕方ない、シンの為なら三人分の旅銀位すぐに稼いでやるとするか!少し時間がいる、待ってくれるか?」

「…………?」



 そこで真は初めて理解した。
 迷惑をかけまいと一人で事を済まそうとするフレイに格好いい言葉をかけたつもりだった。

 だが検討違いにも程がある。
 ザイールへ行くには馬車やらを使うんだろうが、長旅となるのだろう。フレイは三人で行くには懐が心許ないと言っているのだ。
 だからこそフレイは何かを言いづらそうにしていた。

 思えばここに来てから金の工面をフレイにして貰っていた事を思い出し、真は何とも恥ずかしい気持ちで次の言葉が出なかったのであった。
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