その科学は魔法をも凌駕する。

神部 大

文字の大きさ
53 / 139
Carbonium

第五十二話 フレイの実家

しおりを挟む

「凄い人ですね……王都より賑わってるんじゃないですか?」
「……そうか、ザイールトーナメント。そろそろそんな時期だったな」

 荷馬車を転がし賑わう街路を避けながら馬舎を目指す。

「で、フレイ……お前の家は分かるのか?長い事来ない間に随分と街並みも変わったんだろう?」
「ん……あぁ、だがまああれだな。傲慢さが滲み出ている」


 フレイはそう言いながら、広がる灰白色の家屋の中でも一際高さを誇る城にも似た山を指差した。
 誰がどう見てもそれがこの辺り一帯を仕切る者の居城だと良く分かる程の大きさでその存在を主張している。


「あのデカイ山か?あれはどう見ても……まさかお前の家は」
「えぇっ!?あの大きなお城みたいのがフレイさんの家なんですか!?」

「あ、ああ……何と言うか、まだ言ってなかったな。私の父はこの街の領主だ、灰地だったここを開拓した第一人者らしい」


 フレイの言葉に真とルナは一瞬絶句した。
 冒険者であり、かつては盗賊紛いな輩を纏め上げていた土竜団のリーダーでもあるフレイが実は良い所のお嬢様であった事。

 だが言われてみればその容姿、人間としての器、そして全てを自分の力で手に入れたいと言っていた多少の傲慢さも今この状況なら全て理解の溝に落とし込む事が出来た。


「別に隠すつもりは、無かったんだが……」
「道理でな……」

「凄い、凄いですフレイさん!へぇ……あれが……」


 皆、そんなフレイの実家を見上げながら一様に言葉を紡ぐ。

「ん、何だシン。道理でとはどういう意味だ?」
「いや……何でもない。通りで容姿端麗と言う意味に近いと思ってくれ」

「そうか?そんな意味には聞こえなかったがまあいい。とにかく荷馬車を置こう、この辺りはあまり変わっていない。確か馬舎があった筈だ」



 真達はなんやかんやと言いながら、フレイの先導で馬舎を目指したのだった。
 敷地があるなら自分の実家に馬位置かせて貰えばどうだとも考えた真ではあったが、これ以上ヒモ的な行動発言は本格的に止めようとフレイの生い立ちを確認し、再認識した真である。
















 荷馬車を馬舎に預け、最低限の荷だけを麻袋に入れて持った三人はフレイの実家へと向かった。


 ザイールの街でも一際権力を誇示するフレイの家へと向かうに当たって賑わう街と人垣を抜けるのは中々に難儀であった。
 走る子供達に何やら楽しそうにどの店にするか等と語らう戦士風の男達。
 商人らしき者達も露店を開き、客を引き込んでいる様子が伺えた。


「しかし凄い人だな……ザイールトーナメントだったか?それの影響なのかこれは、歩きづらくてしょうがない」
「ああ、仕方ないさ。ザイールトーナメントは年に一度行われるが毎回こんな賑わいだ、周りの奴等の話からどうやらまだ準備期間だな」


「へぁ……皆さん強そうな人ばかりです」


 フレイの話ではザイールトーナメントとは格闘技の大会の様な物であるらしい。
 ファンデル王国中から腕に覚えのある者達がその力を見せ合い、競い合うそんな催しだ。

 優賞者にはギルド員のA3階級か騎士への打診が与えられる他、莫大な賞金が支払われる。
 万が一優賞出来なくてもそこそこの成績を残すと傭兵へのお誘いもあるとの事だった。
 参加者は例年百人を越える大盛況、参加者以外にもスポンサー的な商会や薬師館も自分の補助した参加者が良い成績を残せばそれなりに名が売れ、儲けに繋がると言う素晴らしい経済効果が見込めるそんな大会である。

「私も実は過去に参加した事があるんだがな……準決勝にも行けなかった。まぁあの時はまだ十二だったから……と言うのは言い訳か」
「参加者百人からどれ位絞られるんだ?」

「ん、そうだな。初戦で半分になり、二回戦で腕の立つ者や過去参加者のシードと当たる。そこまでで大体五十人位に絞られ三回戦と敗者復活戦……準々決勝で八人、準決勝、決勝と進む」


 中々面倒な戦いであるがそんな物であろう、大勢が参加する催しとは初回でその殆どがふるい落とされるのは当然の摂理だ。


「ってことはフレイは十二にして百人中八人の強者に選ばれた訳か。良い成績じゃないか?」
「百人中……八人……十二歳で……凄いです。私なんか必死で魔力の使い方を練習していた頃です」

 真も年の頃同じ位の時に格闘技の世界大会で優賞した経験を持つだけにそれの凄さは多少なりとも分かる気がした。
 ただここは一国の中で行われる物であるし、ただの格闘とは比べられないおかしな力が蔓延る世界である。そんな中でフレイの成績はやはり目を見張る物があると真は思っていた。


「そ、そうか?まぁ……あれから出る暇も無く此処を出てしまったからな。今ならどうかな、少し気になる所ではあるが」

「まだ間に合うなら用が終った後にでも参加して見ればいいだろ?」
「あ、そ、そうです!弟さんに薬渡したら見てみましょうよ。私も少し気になります」

「……そう、だな。まだ準備期間だろうし……上手くスポンサーが見付かるかどうか、まあいい。とりあえず家に行こう、話はそれからだな」




 そんな話をしながら、三人はついに辺りを家屋と同じ灰白色の塀に囲まれたフレイの実家とやらにやって来ていた。 
 塀の切れ目には二人の門番らしき者が立っており、訝しげな目で此方を睨み付けていた。


「ん……君達は領館に何か用か?書簡等の物があるなら出してくれ」

「すまない。領主ブランタ=フォーレスにフレイ=フォーレスが来たと伝えて貰えないか?」


 フレイの言葉に門番の二人は顔を見合い何か考えている様子であった。


「……フォーレス?」
「家名が領主様と同じだぞ、まさか親族じゃ……」
「ま、待て……領主様にはご子息が一人だけだろ……あの足の悪い……」
「ば、ばか!それは口外するなと言われているだろ」


 門番は狼狽えながらも何かを話し合っている様であった。
 流石に領主の家となるとそう簡単に通しては貰えない様である。と言っても十年も間を空ければこうなる事も多少考えられる事態ではあるのだが。

「色々と迷惑をかけている様ですまないな、私はこの家に昔いた者なんだ。そうだな……クローアか、サンジはいるか?」

「へっ!?サン……サンジ警備長ですかっ!?」
「クローアって……一番長い領主様お抱えのメイド長じゃ……」

「サンジが警備長か……それはいいな、サンジ=プラハ。もしお前達の長なら呼んでほしいんだが」

「は、え、あ……ちょ、ちょっとお待ちくださいっ!」


 そう言うと一人の門番は上ずった声で敷地内へと走り出していた。

 塀の切れ目から見える庭園は周りの賑やかさとは相反し閑散としている。
 まるでここには誰も住んでいないかの様な静けさだが、その庭園が良く手入れされている事から恐らくはそれなりの人間がこの領館には詰めているだろう事が分かった。


 何処か所在なさげにする一人の門番はフレイから視線を外し、後ろに着く真とルナを何か恐ろしい物でも見るか様にチラチラと様子を伺っていた。



 やがて敷地内へ走っていった門番が一人の年いった男と再び此方へと駆けてくるのが目に入る。
 ローブを身に纏い、装飾が施された身軽そうな胸当てを付けた白髪の男はその姿から門番より立場が上であろう事が良くわかった。


「フレイお嬢っ!?」
「サンジっ、久しいな!」


 フレイがサンジと呼んだ白髪の男は口を開けたままフレイを下から舐め回すように視線を送ると、やがて身体を跳ねさせてフレイへと近づいた。

「……すっかりお淑女になられた。しかし今までどちらへ!レスタ坊っちゃんの為に家を出てからもう十年。私共がどれだけ心配したか……ブランタ殿ももうフレイお嬢は諦めて……やや、そんな事よりこの事を皆にも知らせねば。お前達、頭を下げんか!この方はこの領主館のご息女だぞ……全く最近の若い者は全く礼儀がなっておらんで困るな」

「おい、サンジ。気にするな、お前達も気にしなくて良い、私は当の昔に家を出た者だ。今はしがない冒険者さ」


 門番達は面食らった様に慌てふためきフレイに対して九十度腰を折るが、フレイは柄ではないとそれを制していた。

「……してお嬢、そちらの御二人はご友人か?」
「ああ、私の大切な仲間だ。出来ればもてなしてやってほしい」


 サンジに視線を送られた真は目礼し、ルナはその状況に緊張していたのか何故か土下座を繰り出していたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?

石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます! 主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。 黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。 そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。 全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。 その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。 この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。 貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...