その科学は魔法をも凌駕する。

神部 大

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Carbonium

第五十二話 フレイの実家

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「凄い人ですね……王都より賑わってるんじゃないですか?」
「……そうか、ザイールトーナメント。そろそろそんな時期だったな」

 荷馬車を転がし賑わう街路を避けながら馬舎を目指す。

「で、フレイ……お前の家は分かるのか?長い事来ない間に随分と街並みも変わったんだろう?」
「ん……あぁ、だがまああれだな。傲慢さが滲み出ている」


 フレイはそう言いながら、広がる灰白色の家屋の中でも一際高さを誇る城にも似た山を指差した。
 誰がどう見てもそれがこの辺り一帯を仕切る者の居城だと良く分かる程の大きさでその存在を主張している。


「あのデカイ山か?あれはどう見ても……まさかお前の家は」
「えぇっ!?あの大きなお城みたいのがフレイさんの家なんですか!?」

「あ、ああ……何と言うか、まだ言ってなかったな。私の父はこの街の領主だ、灰地だったここを開拓した第一人者らしい」


 フレイの言葉に真とルナは一瞬絶句した。
 冒険者であり、かつては盗賊紛いな輩を纏め上げていた土竜団のリーダーでもあるフレイが実は良い所のお嬢様であった事。

 だが言われてみればその容姿、人間としての器、そして全てを自分の力で手に入れたいと言っていた多少の傲慢さも今この状況なら全て理解の溝に落とし込む事が出来た。


「別に隠すつもりは、無かったんだが……」
「道理でな……」

「凄い、凄いですフレイさん!へぇ……あれが……」


 皆、そんなフレイの実家を見上げながら一様に言葉を紡ぐ。

「ん、何だシン。道理でとはどういう意味だ?」
「いや……何でもない。通りで容姿端麗と言う意味に近いと思ってくれ」

「そうか?そんな意味には聞こえなかったがまあいい。とにかく荷馬車を置こう、この辺りはあまり変わっていない。確か馬舎があった筈だ」



 真達はなんやかんやと言いながら、フレイの先導で馬舎を目指したのだった。
 敷地があるなら自分の実家に馬位置かせて貰えばどうだとも考えた真ではあったが、これ以上ヒモ的な行動発言は本格的に止めようとフレイの生い立ちを確認し、再認識した真である。
















 荷馬車を馬舎に預け、最低限の荷だけを麻袋に入れて持った三人はフレイの実家へと向かった。


 ザイールの街でも一際権力を誇示するフレイの家へと向かうに当たって賑わう街と人垣を抜けるのは中々に難儀であった。
 走る子供達に何やら楽しそうにどの店にするか等と語らう戦士風の男達。
 商人らしき者達も露店を開き、客を引き込んでいる様子が伺えた。


「しかし凄い人だな……ザイールトーナメントだったか?それの影響なのかこれは、歩きづらくてしょうがない」
「ああ、仕方ないさ。ザイールトーナメントは年に一度行われるが毎回こんな賑わいだ、周りの奴等の話からどうやらまだ準備期間だな」


「へぁ……皆さん強そうな人ばかりです」


 フレイの話ではザイールトーナメントとは格闘技の大会の様な物であるらしい。
 ファンデル王国中から腕に覚えのある者達がその力を見せ合い、競い合うそんな催しだ。

 優賞者にはギルド員のA3階級か騎士への打診が与えられる他、莫大な賞金が支払われる。
 万が一優賞出来なくてもそこそこの成績を残すと傭兵へのお誘いもあるとの事だった。
 参加者は例年百人を越える大盛況、参加者以外にもスポンサー的な商会や薬師館も自分の補助した参加者が良い成績を残せばそれなりに名が売れ、儲けに繋がると言う素晴らしい経済効果が見込めるそんな大会である。

「私も実は過去に参加した事があるんだがな……準決勝にも行けなかった。まぁあの時はまだ十二だったから……と言うのは言い訳か」
「参加者百人からどれ位絞られるんだ?」

「ん、そうだな。初戦で半分になり、二回戦で腕の立つ者や過去参加者のシードと当たる。そこまでで大体五十人位に絞られ三回戦と敗者復活戦……準々決勝で八人、準決勝、決勝と進む」


 中々面倒な戦いであるがそんな物であろう、大勢が参加する催しとは初回でその殆どがふるい落とされるのは当然の摂理だ。


「ってことはフレイは十二にして百人中八人の強者に選ばれた訳か。良い成績じゃないか?」
「百人中……八人……十二歳で……凄いです。私なんか必死で魔力の使い方を練習していた頃です」

 真も年の頃同じ位の時に格闘技の世界大会で優賞した経験を持つだけにそれの凄さは多少なりとも分かる気がした。
 ただここは一国の中で行われる物であるし、ただの格闘とは比べられないおかしな力が蔓延る世界である。そんな中でフレイの成績はやはり目を見張る物があると真は思っていた。


「そ、そうか?まぁ……あれから出る暇も無く此処を出てしまったからな。今ならどうかな、少し気になる所ではあるが」

「まだ間に合うなら用が終った後にでも参加して見ればいいだろ?」
「あ、そ、そうです!弟さんに薬渡したら見てみましょうよ。私も少し気になります」

「……そう、だな。まだ準備期間だろうし……上手くスポンサーが見付かるかどうか、まあいい。とりあえず家に行こう、話はそれからだな」




 そんな話をしながら、三人はついに辺りを家屋と同じ灰白色の塀に囲まれたフレイの実家とやらにやって来ていた。 
 塀の切れ目には二人の門番らしき者が立っており、訝しげな目で此方を睨み付けていた。


「ん……君達は領館に何か用か?書簡等の物があるなら出してくれ」

「すまない。領主ブランタ=フォーレスにフレイ=フォーレスが来たと伝えて貰えないか?」


 フレイの言葉に門番の二人は顔を見合い何か考えている様子であった。


「……フォーレス?」
「家名が領主様と同じだぞ、まさか親族じゃ……」
「ま、待て……領主様にはご子息が一人だけだろ……あの足の悪い……」
「ば、ばか!それは口外するなと言われているだろ」


 門番は狼狽えながらも何かを話し合っている様であった。
 流石に領主の家となるとそう簡単に通しては貰えない様である。と言っても十年も間を空ければこうなる事も多少考えられる事態ではあるのだが。

「色々と迷惑をかけている様ですまないな、私はこの家に昔いた者なんだ。そうだな……クローアか、サンジはいるか?」

「へっ!?サン……サンジ警備長ですかっ!?」
「クローアって……一番長い領主様お抱えのメイド長じゃ……」

「サンジが警備長か……それはいいな、サンジ=プラハ。もしお前達の長なら呼んでほしいんだが」

「は、え、あ……ちょ、ちょっとお待ちくださいっ!」


 そう言うと一人の門番は上ずった声で敷地内へと走り出していた。

 塀の切れ目から見える庭園は周りの賑やかさとは相反し閑散としている。
 まるでここには誰も住んでいないかの様な静けさだが、その庭園が良く手入れされている事から恐らくはそれなりの人間がこの領館には詰めているだろう事が分かった。


 何処か所在なさげにする一人の門番はフレイから視線を外し、後ろに着く真とルナを何か恐ろしい物でも見るか様にチラチラと様子を伺っていた。



 やがて敷地内へ走っていった門番が一人の年いった男と再び此方へと駆けてくるのが目に入る。
 ローブを身に纏い、装飾が施された身軽そうな胸当てを付けた白髪の男はその姿から門番より立場が上であろう事が良くわかった。


「フレイお嬢っ!?」
「サンジっ、久しいな!」


 フレイがサンジと呼んだ白髪の男は口を開けたままフレイを下から舐め回すように視線を送ると、やがて身体を跳ねさせてフレイへと近づいた。

「……すっかりお淑女になられた。しかし今までどちらへ!レスタ坊っちゃんの為に家を出てからもう十年。私共がどれだけ心配したか……ブランタ殿ももうフレイお嬢は諦めて……やや、そんな事よりこの事を皆にも知らせねば。お前達、頭を下げんか!この方はこの領主館のご息女だぞ……全く最近の若い者は全く礼儀がなっておらんで困るな」

「おい、サンジ。気にするな、お前達も気にしなくて良い、私は当の昔に家を出た者だ。今はしがない冒険者さ」


 門番達は面食らった様に慌てふためきフレイに対して九十度腰を折るが、フレイは柄ではないとそれを制していた。

「……してお嬢、そちらの御二人はご友人か?」
「ああ、私の大切な仲間だ。出来ればもてなしてやってほしい」


 サンジに視線を送られた真は目礼し、ルナはその状況に緊張していたのか何故か土下座を繰り出していたのだった。
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