その科学は魔法をも凌駕する。

神部 大

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Fluorine

第百八話 男とは

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――サトポンが城内から出て来た、恐らく屋敷ヘ戻る

「ヴィ。こっちはどうするの?ネイル=フレグランス一行、今の所危害は無さそう……って言うかお楽しみの様だけど。どこまでが護衛か判らないわ……あの仮面もいい趣味してる、最低ね」



 王都内ではルーシィとバイド、それぞれがサトポンとネイル=フレグランスの監視役を担っていた。
 アニアリトは互いにロードセルで連絡を取り合い、状況を逐一フォースへ伝えるのが現在やるべき事だ。
 サトポンから指示が下ればそれも一度フォースへ伝え、状況如何によっては一気にサトポン潰しを開始する事になるだろう。



――あいつにも連絡はしてある。今戻ってるそうだ、何か身の危険がありそうなら……余儀無しでいいだろうが

「今度は護衛、本当にあの男を信用していいのかしら」


――……フォースか、さぁな。どちらにせよ俺達じゃ勝ち目がないのは判っただろう




 ルーシィには解せなかった。
 暗殺業から足を洗う、だがもう既に自分の手は汚れきってしまった。それはもう母神マーラに許されない程に。
 それを今更嫌だから辞めると、しかもその為に暗殺対象者だった者へ助けを請う等。それでは自分の命が惜しいだけの保身国王と同じではないかと。


 かつての魔物襲来でルーシィは全てを失った。それは自分達三人には同じく言える事、教会の子供達も同じ様な境遇。
 国の対応が遅れなければウェルト地区は、母は、弟は、死ななかった。
 勇者等、いるのなら何故あの時何もしなかったのか。

 ルーシィの心は今も闇に染まったままである。
 抜けることの無い暗いトンネル、そこから出る術も、出る気すらも今は無いと言うのに。




「あの変態……」


 一際高さのある家屋、その煙突脇で闇に身を潜ませるルーシィはノルトにある高級宿屋の最上階を見ていた。その角部屋から見える二人の女と仮面を付けたおかしな恐らくは男達のやり取り。

 最も外敵から狙われやすいような場所に宿を取る辺り、恐らくはやはり素人なのだろうから心配は無いと考えているがこんな変態遊びが好きなネイルと言う女。
 今後のギルドの行方はどうなるのかと呆れるしかなかった。


 仮面はネイルともう一人、騎士の格好をした女の服を脱がせ、その身体をゆっくりと舐め回すように観察したかと思えば自らもその半身を剥き出し一人で事を為しているようだった。




「ルィ。待たせた、此方の状況はどうだ?」
「……ジィ。特に、何とも言えないわ」


 ルーシィはふと背後に気配を感じたがそれがジギルだと判断し、現在の状況を自分で確認してみろとの意味を込め端的にそう言った。


「ふむ……用心している様子はないな、ネイルが何かしらの情報を渡しているとは考え難いか。まあどちらにせよ今は監視ではなく護衛になっている訳だから関係ないが」
「清楚な顔して随分な趣味よね。それより……本当にあの、フォース。信用してるの?」

「信用か……俺達には今更そんな言葉は必要ないだろう。ただ一つ解った、フォースも化物かもしれない、今はフォースがサトポンを殺ってくれればそれでいいんだ」



 フォースは化物。
 それはどういう意味か、確かにサトポンは化物だろう。
 魔族にも引けを取らないのではないかと思う程の力がある。とても自分達が反抗してどうにかなるような相手ではない。

 だからこそ今迄は従うしかなかったのだ。
 そこへフォースをぶつける、それは確かに良い手だろう。
 万が一どちらが倒れてもどちらかにまたつけばいいのだから。
 フォースが負けたなら今迄通りまたサトポンの配下アニアリトとして、サトポンが倒れたなら暗殺者としての生を終わらせる。

 だが問題はフォースが本当に自分達に害を加えないかと言う所だ。ジギルの浅はかな考えにはいい加減嫌気が差していた。


「化物って言っても所詮は人間よ?サトポンは本当に化物、確かに私とヴィでも相手にならなかった。けどそれだけ」

「ガーゴイルを倒すのにお前はどれ位かかる?」
「は?何よ突然、ガーゴイル……魔族を倒せるなら今頃こんな所にいないわ。それにあの時だって」


 ジギルの話は先程から何処か思考が極端に飛んでいた。
 今迄共に裏で死線を潜ってきたがフォースに助けを請いてからどうにも話が噛み合わない。
 魔族を倒せる人間等この世界にどれだけ居るだろう、A階級のギルド員が数名か、S階級が数名か、優秀な軍隊が一団は必要なレベルには間違いない。
 ガーゴイルは比較的魔族種の中でも弱いと言われている筈だがそれでも魔族には変わりないのだ、危険度はS級だろう。

 ジギルはアウルムの所で一体どんな情報を買ってきたと言うのか。


「ザイールにガーゴイルが出現した。にも関わらずそんな噂が今の所王都では無い」
「何よそれ。私も聞いてないわ、ギルドに討伐依頼は?」

「必要ない、もう討たれた」
「討たれた……って、誰に」


 まただった。
 話が飛躍する、今はネイル=フレグランスの護衛とフォースと言う男の信用性について話している。なのに何故そこから魔族を倒した者がいる等と言う話になるのか……だがそれは。
 ルーシィはまさかと思いゆっくりと護衛対象者を観察しながら話すジギルの横顔を眺める。

 フードから除くその顔は何処か険しく、視線こそ宿屋の最上階へ向いているが最早思考は何処か別の所へ向いているようにも見えた。



「もしかして……それを」
「あぁ。フォースが殺ったらしい。しかも一人でだ……アウルムの奴も苦笑いさ」


 考えられない、掴まされたのではないか。
 確かにあのアウルムからもたらされる情報には間違いがない。
 だが今回はアニアリトを裏切った自分達、既にアウルムはサトポンに買われているのではないか、そう思わざるを得なかったのだ。


「でもそれってやっぱり……」
「白金貨五枚だ、買われてはいないだろう」
「白金貨五枚ですってッ!?」
「ルィ!」


 思わず大きな声を出してしまった自分を戒めるルーシィ。だがそれだけの事だったのだから仕方無い。
 ジギルはルーシィの言いたい事を察して白金貨五枚をアウルムに払ったと言った。

 そこまで行けばアニアリトを牛耳るサトポンとは言えどもおいそれと出せるような金額ではないのは確か。

 だが白金貨一枚の価値は……教会全ての子供が数年は養える。
否子供一人を大人に出来る程の価値があるのだ。それを、しかも五枚等と。

 そしてその金は……


「アンタに任せた私達が馬鹿だったわ、自分の分だけででやると言ったじゃない。多少は出すと言ったけどこれからの資金も……子供達に渡す分まで手を付けるなんて」
「すまない……だがこれ位しなければ逆に危険だった」

「バイドは知ってるの?」
「ヴィと呼べ、あいつにも……納得してもらった」


 互いに仕事の最中は呼び方を変えている。だが事ここに至ってはそんな物を気にしている余裕等ルーシィには無かったのだ。

 三人で人間を捨てた仕事をしながら貯めてきたいつかの為の資金、そして教会への恩返しとしての御布施。
 全額白金貨十枚、その半分を出したというのだ。それも訳のわからない情報を買う為に。


 それをバイドも認めたと言う。
 もう限界だった。だが逆にもう後には引けないとも思う。
 昔なら感情に任せて全てを投げ捨てただろう、たが反面で今の自分は思ってしまう。
 数年に渡る冷酷な思考がルーシィに今更止められない事をひしひしと伝えていた。



「今更失敗は許されないわよ、あのフォースがどうだか知らないけど絶対にアニアリトは壊滅して貰う」
「ああ……すまない。ん、アレは……土竜のフレイか?」

「え?」


 ふとジギルは相変わらずネイル=フレグランスの動向を観察しながらそう呟いていた。


「ネイル=フレグランス、土竜のフレイ、謎の仮面野郎か。一体……まぁいい、サトポンの事もある。一度フォースへ報告に行く、ルィはここを頼む」
「ちょ……ふぅ。ジィ」



 巷では男の金遣いは荒いと言う。
 闇に生きる自分には関係の無い話だと思っていたが、今自分に降りかかったこの事態でルーシィは男への嫌悪感を強めたのだった。
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